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エピローグ【解決編】

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「では、残りの【R】【U】【H】の持ち主は誰だったのか――。池田翼、水落悠斗、そして深田卓。つまり、この中に【ブービートラップ】が潜んでいることになる。そして、それぞれのヒントが指し示す条件を満たしているのは、この中でもたった一人だけだ」

 ここまでくれば、もう答えは見えているも同然だった。いいや、ここまできて誰が犯人役なのか分からないということはあり得ない。ただ、それはあくまでも実際にあの場にいた人間であることが条件となるだろう。すなわち、アガサの書いた作品を通してゲームを追っていた人から見れば、この時点で必ずしも犯人役を特定できるとは限らないのだ。

「――君が作品に何を仕掛けたのかも、すでに分かっているつもりだ。君は作品名にちなんで、読者に対して罠を仕掛けた。その罠に気づかない限り、ヒントの意図を正確に読み解いても犯人役にはたどり着けない。なんとも意地悪な罠だとは思うが、私としては嫌いではない」

 あの時その場にいた春日達にとっては、ヒントさえ解ければ誰が【ブービートラップ】なのか分かる。しかしながら、それを元にアガサが書いた小説には、ある仕掛けが施してあり、ヒントを解いただけでは犯人役が分からない仕組みになっていた。もちろん、ある事柄をあらかじめ知っている春日達からすれば、それは他愛もない仕掛けなのであるが、何も知らない人からすれば、随分と意地悪なことをされた気分になるかもしれない。

「別に意地悪ではありませんよ――。ある事柄をあえて提示していないだけですから。嘘もついてはいませんし」

 アガサがそう言うのと同じタイミングで、急に店の外が騒がしくなった。この店は半地下にあり、出入りするには数段程度の階段を下る必要があった。その階段に声が反響しているようであり、店の中まで声が聞こえてくる。

「なんと言うかなぁ。人ってのは格好だけでこうも変わるかぁ」

 その声には聞き覚えがあった。独特の関西弁と間の抜けたような能天気な喋り方。片岡を失った気持ちにどのように踏ん切りをつけたのかは分からないが、それは間違いなく深田の声だった。

「まぁ、みんなに久々の再会だから、多少はお洒落したくなるよな。大体、深田だって白のタキシードだし。なんか、茶色の水玉模様がところどころ入ってるけど」

 それに対して口を開いたのは、ある意味で春日の盟友――最初から最後まで行動を共にした水落なのであろう。まだ姿は見えていないのに、なんだか物凄く懐かしい。
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