ＢＯＯＢＹ ＴＲＡＰ 〜僕らが生きる理由〜

ダイニング イン ザ ダイ【午後８時〜午後９時】

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　現状から吟味するのであれば、有効な方法はこれしかない。ナタ女に致命傷を与えつつ、なかば不意打ちともなる手段。問題は春日の身体能力だったが、もはやそこまで考慮している暇はなかった。

｢待ってよぉ！　待って、待って、待って、待って、待って、待って、待って、待ってぇぇぇぇぇ！」

　正面玄関に向かって駆け出すと、魔物の狂気じみた声も後について来る。春日はまだ死ぬわけにはいかなかった。やるべきこともあるし、やりたいこともある。たった一度の命を、こんなわけの分からないところで散らすなんて馬鹿馬鹿しい。

　上下へと激しく揺れる視界。悲鳴を上げる心臓。日頃の運動不足か、それとも心身ともに極限状態に陥っているせいなのか。正面玄関までのわずかな距離が、永遠とも感じられた。

　ナタ女は確実に春日を追って来ていた。これは一か八かの一発勝負。ピンチにて最大のチャンス。このチャンスを活かさずして、どこで活かせというのだろうか。

　正面玄関付近まで来ると、水落の姿がはっきりと確認できた。――そう、腹ばいになって、春日のほうへと手を差し出す水落の姿が。そして、水落が落下するのを防ぐためだろう。水落と同じく腹ばいになり、水落の足首を掴む陸士長の姿も確認できた。

　簡単だ。いわゆる幅跳びと同じ要領。春日は歩数を合わせながら地面を蹴る。そのまま勢い良く正面玄関へと飛び込んだ。

｢春日さんっ！　跳べぇぇぇぇぇぇぇっ！｣

　水落の叫び声が合図であったかのように、春日は大穴に向かって踏み切った。

　ナタ女は正面玄関の大穴の存在を知らない可能性が高い。よって、大穴を飛び越えることで大穴へとナタ女を誘い込む算段だ。正直、水落達がいなければ、春日自身も大穴を飛び越えられるか怪しいところ。ただ春日を追うことだけに必死なナタ女は、大穴の存在に気づいた頃には手遅れなはず。慌ててブレーキをかけるも大穴に落ちるか、一か八かで大穴を飛ぼうとするかのいずれかだろう。

　ただ、一度だけで良い。今後の人生で、ここまで長い距離を跳ばなくて良い。だから跳べ――今は跳べ。春日は踏み切ると同時に足を屈伸させ、その反動を利用して跳んだ。

　下は鋭い刺が天を仰ぐ危険地帯。もちろん、落ちてしまえば命はない。ほんの数秒の出来事が、永遠であるかのように感じた。

　水落の差し出す手に向かって手を伸ばす春日。――届いてくれ。いいや、届いてもらわなければ困る。これが生への執念というものなのか、春日の伸ばした手は水落の手をしっかりと掴んだ。