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動き出した狂気の果てに【午後7時〜午後8時】

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 確かに、このまま休むことなく歩き続けるのは実にふざけた話だと真子は思う。けれども、境界線が遠ければ遠いほど、ある意味で他の参加者の寿命は伸びる。それに、磯部を止める方法を考える時間が増える。直接的なやり取りをしたわけではないが、村山だって現状をどうにかしようと模索しているはずだ。

「――少し休まないか? かれこれずっと歩きっぱなしだし、女の子もいるんだから」

 村山がそう言って真子のほうへと振り返る。もう辺りが真っ暗で顔は見えないが、ちょっとだけドキリとした自分に気づく真子。なんだか自分がもの凄く特別に扱ってもらえているような気がした。

「仕方がない。少し休憩だ」

 村山の提案の後、少しばかり間をおいてから、苛立った様子の磯部の声が返ってきた。きっと、境界線までの距離を短く見積もっていたのであろう。だからといって苛立たれても誰のせいでもないのであるが。

 とりあえず真っ暗闇の中で休むのは嫌だし、自然と次の街灯の下まで歩き、そこで休憩となった。磯部は自分の荷物の中からペットボトルを取り出して水を飲む。村山と真子も、自分のペットボトルを取り出して水分補給。人生の中で、これほどまでに水が美味いと思ったことはなかったかもしれない。

「あのさ、余計なお世話かもしれないけど――」

 水を飲んで一息ついたところで、村山がおもむろに片方の靴を脱いだ。そして、脱いだ靴を真子のほうへと差し出してくる。

「これ、嫌じゃなかったら使ってよ。結構前から、ずっと左足引きずってたでしょ? なんだか足底をかばうような歩き方だったし、もしかして底が抜けてるんじゃないかなって思って」

 どうやら村山はお見通しのようだった。革靴の底が抜けたからといって、どうにもできないと思っていたから我慢していたのであるが。

「え、でも――」

「大丈夫。僕はこう見えて足が小さいほうでさ、それでもちょっとサイズは大きいかもしれないけど、履けないことはないと思うから」

 そうではない。片方の靴を自分に差し出してしまったら村山の分の靴がなくなるではないか――そのようなニュアンスのつもりだったのだが、どうやらサイズを心配しているように受け取られてしまったらしい。

「そうじゃなくて、私がそれを借りるとして、村山君はどうするの?」

 真子の問いに、おそらく答えなど用意していなかったのであろう。笑ってごまかした村山は、宙に視線を充分に泳がせてから口を開いた。

「あ、僕は足の裏の皮が異常に厚いんだよ。小学生の時なんて、ずっと裸足で学校生活送ってたくらいだし、靴なんてなくてもへっちゃらなんだ」
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