132 / 231
闇の中からの強行突破【午後6時〜午後7時】
7
しおりを挟む
春日はいたって冷静だった。まず対抗し得る武器が極端に少ない。陸士長のレプリカライフル辺りが威嚇に使えそうではあるが、なんせ学校の中は真っ暗だ。相手にライフル銃を視認してもらわねば、威嚇として成立しない。確実に明かりを確保できるとは限らないことも考えると、何の策略もなしに学校に突入するのは危険だ。
「でも、人数的にはこちらが多いわけだから、力押しでどうにかなりそうにも思えるんだけど」
いつしか水落は間抜けなピエロになってしまっていた。同じ立場の参加者同士で対立するなんて信じられない――。だからこそ、一刻も早く助けに向かって事実を確認したい。そのような考えが優先してしまい、現実的に状況を見ている春日の意見に、なにかと食らいつこうとする。どう考えても春日の見解のほうが正しいのだが。
「確かに人数的にはこちらが有利だ。力押しでなんとかなるということも否定はしない。しかし、私達の中の誰かが、刃物を持った男に刺されてしまうかもしれない。致命傷を逃れられればまだしも、それが原因で死んでしまう可能性だってある。ここにいる誰かが傷つくリスクがある以上、例え力押しが有効であっても、私はそれを実行しようとは思わない。水落――君の気持ちは何となく分かるが、ミイラ取りがミイラになっては意味がない。少し冷静になれ」
学校の中で誰かが助けを求めている。しかし、明確なプランもなしに助けに向かうことは危険。仮に力押しでどうにかなる状況であっても、下手をすれば誰かが傷つく――もしくは死んでしまうリスクがある。身動きが取れないことが悔しかった。
「――言ってしまえば、明確なプランがあれば問題ないってことやろ? ちょっと耳貸せ。俺に考えがある」
周囲に漂いつつあった良からぬ空気を払拭したのは、意外なことに深田だった。何やらアイディアがあるらしく、口調が少しばかり誇らしげだ。自然と全員が深田の周りに集まるような形になった。
「ええか? まずは――」
深田の策は、実に突拍子のないものだった。思わず浜野が声を上げる。
「そんなの、リスクが高すぎる! お、俺は外で待ってるからな!」
確かに深田の策は突拍子もない。しかしながら、もしかしてうまいことやれば――と思わせる不思議な力があった。その証拠に、慎重な姿勢を見せていた春日が頷く。
「ふむ、荒削りだがプランとしては悪くない」
外で待つ――という、浜野の自分勝手な言い分には、誰も触れはしなかった。ほんの短い付き合いだが、彼の自己中心的な性格は分かっていたし、いちいち付き合っていたら疲れそうだ。
「だったら助けに行くで! 女子を――女子2人を!」
学校を取り囲む不穏な空気。それを払拭するかのごとく、下心満載の様子で鼻の下を伸ばした深田を見て、陸士長が大きく溜め息を漏らしたのであった。
夜の学校での攻防戦が始まる――。
「でも、人数的にはこちらが多いわけだから、力押しでどうにかなりそうにも思えるんだけど」
いつしか水落は間抜けなピエロになってしまっていた。同じ立場の参加者同士で対立するなんて信じられない――。だからこそ、一刻も早く助けに向かって事実を確認したい。そのような考えが優先してしまい、現実的に状況を見ている春日の意見に、なにかと食らいつこうとする。どう考えても春日の見解のほうが正しいのだが。
「確かに人数的にはこちらが有利だ。力押しでなんとかなるということも否定はしない。しかし、私達の中の誰かが、刃物を持った男に刺されてしまうかもしれない。致命傷を逃れられればまだしも、それが原因で死んでしまう可能性だってある。ここにいる誰かが傷つくリスクがある以上、例え力押しが有効であっても、私はそれを実行しようとは思わない。水落――君の気持ちは何となく分かるが、ミイラ取りがミイラになっては意味がない。少し冷静になれ」
学校の中で誰かが助けを求めている。しかし、明確なプランもなしに助けに向かうことは危険。仮に力押しでどうにかなる状況であっても、下手をすれば誰かが傷つく――もしくは死んでしまうリスクがある。身動きが取れないことが悔しかった。
「――言ってしまえば、明確なプランがあれば問題ないってことやろ? ちょっと耳貸せ。俺に考えがある」
周囲に漂いつつあった良からぬ空気を払拭したのは、意外なことに深田だった。何やらアイディアがあるらしく、口調が少しばかり誇らしげだ。自然と全員が深田の周りに集まるような形になった。
「ええか? まずは――」
深田の策は、実に突拍子のないものだった。思わず浜野が声を上げる。
「そんなの、リスクが高すぎる! お、俺は外で待ってるからな!」
確かに深田の策は突拍子もない。しかしながら、もしかしてうまいことやれば――と思わせる不思議な力があった。その証拠に、慎重な姿勢を見せていた春日が頷く。
「ふむ、荒削りだがプランとしては悪くない」
外で待つ――という、浜野の自分勝手な言い分には、誰も触れはしなかった。ほんの短い付き合いだが、彼の自己中心的な性格は分かっていたし、いちいち付き合っていたら疲れそうだ。
「だったら助けに行くで! 女子を――女子2人を!」
学校を取り囲む不穏な空気。それを払拭するかのごとく、下心満載の様子で鼻の下を伸ばした深田を見て、陸士長が大きく溜め息を漏らしたのであった。
夜の学校での攻防戦が始まる――。
0
お気に入りに追加
45
あなたにおすすめの小説
前略、僕は君を救えたか
菊
ミステリー
第4回 ホラーミステリー大賞で特別賞頂きました。
応援ありがとうございました!
画家志望のフリーター兵藤 梧は、ある日バイトの配達先で小学校の同級生と再会する。
彼は掘り返す事のなかったタイムカプセルを保管していた。
中には手紙とガラクタ。
梧は配るのを手伝うよ、と何通か手紙を受け取り帰宅した。
あの日を思い出して一通の封を切る。
それは自殺した親友の手紙。
完結投稿してます。
なろうさんにも掲載しています。
継母の心得
トール
恋愛
【本編第一部完結済、2023/10/1〜第二部スタート☆書籍化 4巻発売中☆ コミカライズ連載中、2024/08/23よりコミックシーモアにて先行販売開始】
※継母というテーマですが、ドロドロではありません。ほっこり可愛いを中心に展開されるお話ですので、ドロドロが苦手の方にもお読みいただけます。
山崎 美咲(35)は、癌治療で子供の作れない身体となった。生涯独身だと諦めていたが、やはり子供は欲しかったとじわじわ後悔が募っていく。
治療の甲斐なくこの世を去った美咲が目を覚ますと、なんと生前読んでいたマンガの世界に転生していた。
不遇な幼少期を過ごした主人公が、ライバルである皇太子とヒロインを巡り争い、最後は見事ヒロインを射止めるというテンプレもののマンガ。その不遇な幼少期で主人公を虐待する悪辣な継母がまさかの私!?
前世の記憶を取り戻したのは、主人公の父親との結婚式前日だった!
突然3才児の母親になった主人公が、良い継母になれるよう子育てに奮闘していたら、いつの間にか父子に溺愛されて……。
オタクの知識を使って、子育て頑張ります!!
子育てに関する道具が揃っていない世界で、玩具や食器、子供用品を作り出していく、オタクが行う異世界育児ファンタジー開幕です!
番外編は10/7〜別ページに移動いたしました。
満月荘殺人事件
東山圭文
ミステリー
●概要●
自分の名前は宮崎圭。日本一といっても過言ではないブラック企業に就職してしまった自分は、郷龍次社長に退職願を書くことを強要されて退職。しかしそんな社長と、先輩の経営する民宿「満月荘」でばったり鉢合わせに。そして雪の中の民宿満月荘で、六人の宿泊客と、三人の従業員のなかで、自分の予想どおりの殺人事件が起こる。果たして犯人も自分の予想どおりなのか。
本格要素を取り入れたライトミステリです。
●注意事項など●
・この作品はフィクションです。実在する団体・人物とは関係ありません。
・第8回ポプラ社賞二次選考通過作品(「満月屋殺人事件」で応募)です。
・アルファポリスのスマホアプリをご利用の方は、設定を縦書きにしていただくと、読みやすいと思います。
ツミビトタチノアシタ
板倉恭司
ミステリー
偶然の出会いは、悪魔を生み出す。罪を犯してしまい無気力に生きる小林綾人、口先だけで気楽に生きるチンピラ上田春樹、若くして裏の仕事人として生きる西村陽一、全てを失い犯罪者に身を堕とした元ボクサー坂本尚輝。架空の町に住む全く無関係だったはずの四人の人生が、ささいな出来事をきっかけに交わっていき、やがて恐ろしい事件へと発展していく……ノワール風の群像劇です。
パンアメリカン航空-914便
天の川銀河
ミステリー
ご搭乗有難うございます。こちらは機長です。
ニューヨーク発、マイアミ行。
所要時間は・・・
37年を予定しております。
世界を震撼させた、衝撃の実話。
黒獣ダンジョン殺人事件
Sora Jinnai
ミステリー
舞台は剣はあっても魔法がない中世世界。モンスターとの戦いに身をささげるフランチェスコは領主の命令で遺跡調査へと駆り出される。密室と化した暗闇の中で連続殺人の幕が切って降ろされた―――
中世+ファンタジー+本格ミステリをテーマに読者への挑戦状を交えて殺人事件を綴ります。インフェルノ(導入篇)は8/31~、プルガトリオ(事件篇)は9/3~、パラディーゾ(捜査篇)は9/7~、パラディーゾ(解決篇)は9/14~、エピローグは9/16~公開予定です。捜査篇の最後に読者への挑戦状を提示させていただきます。
ロンダリングプリンセス―事故物件住みます令嬢―
鬼霧宗作
ミステリー
窓辺野コトリは、窓辺野不動産の社長令嬢である。誰もが羨む悠々自適な生活を送っていた彼女には、ちょっとだけ――ほんのちょっとだけ、人がドン引きしてしまうような趣味があった。
事故物件に異常なほどの執着――いや、愛着をみせること。むしろ、性的興奮さえ抱いているのかもしれない。
不動産会社の令嬢という立場を利用して、事故物件を転々とする彼女は、いつしか【ロンダリングプリンセス】と呼ばれるようになり――。
これは、事故物件を心から愛する、ちょっとだけ趣味の歪んだ御令嬢と、それを取り巻く個性豊かな面々の物語。
※本作品は他作品【猫屋敷古物商店の事件台帳】の精神的続編となります。本作から読んでいただいても問題ありませんが、前作からお読みいただくとなおお楽しみいただけるかと思います。
完結 王室スキャンダル 巻き込まれた伯爵令嬢は推理するし恋もする!
音爽(ネソウ)
ミステリー
王家主催の夜会にて宴もたけなわとなった頃、一騒動が起きた。「ボニート王女が倒られた」と大騒ぎになった。控室は騒ぎを聞きつけた貴族達が群がり、騎士達と犇めきあう。現場を荒らされた騎士隊長は激怒する。
ところが肝心の姫がいないことに気が付く……
一体王女は何処へ消えたのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる