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暴走するモラルと同調圧力【午後5時〜午後6時】
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「――どうした? それは私にくれてやるものだろう? いずれは私のものになるのだから、しっかりと確認だけはしておきたい。できることならば枚数がしっかりあるのか改めたいくらいだ」
まだ磯部との距離はある。肉眼でお札が本物か否かを見抜くことは難しいと思われる。ただ、あまりにもうまい話であるため、変に勘ぐられてしまったか。それに加えてショルダーバッグの口を閉じるという行為は、さらに磯部の疑心を深めたことであろう。
すでに磯部に疑念を与えるような行動を見せてしまった村山。これ以上、彼に怪しまれてはならない。しかし――お札が偽物なのはまぎれもない事実。一歩、また一歩と歩み寄ってくる磯部に確認されたら、一発で偽物だとばれてしまうだろう。
何かうまくごまかせないか。いや、そもそもこの交渉自体、苦しまぎれに磯部に提案したものであり、欠陥があっても不思議ではない。実際、磯部にお札を確認されたらアウトという弊害が生じている。元よりじっくり吟味した策ではないため穴があり、それをごまかすということ自体が難しいのだ。
村山が頭をフル回転させる間にも、磯部はゆっくりと歩み寄ってくる。こんな時、映画とか漫画とかならば、都合よく磯部の気を引く他の事象が生じてみたり、ポンとうまい手段を思いついたり――などという展開があるのだろうが、現実はそう簡単にはいかない。とうとう、磯部は村山の目の前までやって来てしまった。
「さぁ、見せてくれ――。何もやましいことがないのであればね」
やはり、村山の行動は磯部の疑心を深めたようだ。そもそも、物資として1000万もの現金が用意されていること自体が不自然だ。それぞれの【固有ヒント】と同様に、それぞれの物資を確認し合っていないため、他の人と比較できないのだが。
「そうだ。せっかくだから、私に配布された物資を見せてあげるよ」
磯部はそう言うと、ショルダーバッグの中から棒状のものを取り出した。ボタンか何かがついていたのであろう。磯部がそれを押すと、それが一瞬で伸びた。そのシルエットを見て、磯部の物資が何であったのかを知る。
――特殊警棒。伸縮式の警戒棒だった。
「私に配布されたのが、こんなどうしようもないものなのに、君に配布されたのは現金1000万だ。どうにも不公平というか、差がありすぎると思わないか?」
だからこそお前の1000万は本物なのか疑わしい――。磯部の心の声が聞こえた気がした。
まだ磯部との距離はある。肉眼でお札が本物か否かを見抜くことは難しいと思われる。ただ、あまりにもうまい話であるため、変に勘ぐられてしまったか。それに加えてショルダーバッグの口を閉じるという行為は、さらに磯部の疑心を深めたことであろう。
すでに磯部に疑念を与えるような行動を見せてしまった村山。これ以上、彼に怪しまれてはならない。しかし――お札が偽物なのはまぎれもない事実。一歩、また一歩と歩み寄ってくる磯部に確認されたら、一発で偽物だとばれてしまうだろう。
何かうまくごまかせないか。いや、そもそもこの交渉自体、苦しまぎれに磯部に提案したものであり、欠陥があっても不思議ではない。実際、磯部にお札を確認されたらアウトという弊害が生じている。元よりじっくり吟味した策ではないため穴があり、それをごまかすということ自体が難しいのだ。
村山が頭をフル回転させる間にも、磯部はゆっくりと歩み寄ってくる。こんな時、映画とか漫画とかならば、都合よく磯部の気を引く他の事象が生じてみたり、ポンとうまい手段を思いついたり――などという展開があるのだろうが、現実はそう簡単にはいかない。とうとう、磯部は村山の目の前までやって来てしまった。
「さぁ、見せてくれ――。何もやましいことがないのであればね」
やはり、村山の行動は磯部の疑心を深めたようだ。そもそも、物資として1000万もの現金が用意されていること自体が不自然だ。それぞれの【固有ヒント】と同様に、それぞれの物資を確認し合っていないため、他の人と比較できないのだが。
「そうだ。せっかくだから、私に配布された物資を見せてあげるよ」
磯部はそう言うと、ショルダーバッグの中から棒状のものを取り出した。ボタンか何かがついていたのであろう。磯部がそれを押すと、それが一瞬で伸びた。そのシルエットを見て、磯部の物資が何であったのかを知る。
――特殊警棒。伸縮式の警戒棒だった。
「私に配布されたのが、こんなどうしようもないものなのに、君に配布されたのは現金1000万だ。どうにも不公平というか、差がありすぎると思わないか?」
だからこそお前の1000万は本物なのか疑わしい――。磯部の心の声が聞こえた気がした。
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