89 / 231
狂気には凶器を【午後4時〜午後5時】
11
しおりを挟む
【午後4時55分 水落悠斗 宮垣商業区】
周囲を調べて回った結果、この辺りは街の中心街――というにはいささか規模が小さいが、商業区であることが分かった。これまで目にする建物はほとんどが住宅だったのだが、この辺りはお店らしき建物が多い。ひと昔前の当たり付き自動販売機が置いてあるせいか、なんだか異質な空間に紛れ込んでしまったような錯覚に陥る。
かつて栄えていた――という設定なのだろうか。それとも、この街はかつて実在した街なのか。いまだにその辺りのことは良く分からないが、シャッターが閉まったままのお店も多く、ショウウインドウのある洋服店らしき店は、けれども店の中が真っ暗で、どう考えても営業しているようには思えなかった。なにも着ていないマネキンが虚しい。
時間的に日も落ち始めている。辺りを探索できる時間も残り少ないことだろう。しかしながら、これだけの商業区だ。きっと個人医院などのレベルであれば、あってもおかしくはない。
「――水落さーん! こっちに来てもらっていいですか?」
春日は一人でアーケードのほうを見に行った。そして、水落と片岡は、大きな通りを二手に分かれて探索している。感覚が麻痺してしまったわけではないが、たまに警戒心が薄れている自分に気づき、気持ちを改めることを繰り返していた。とりあえず【トラッペ君】さえなければ罠もないと分かったからなのだろうか。
「どうした?」
手を振って水落のことを呼ぶ片岡の元へと向かう。もっとも、車の通りが全くない道路を横断しただけなのであるが。
「ここなら薬とか手当てに必要なものがあると思うんですが」
片岡はそう言って、シャッターが半開きになった雑居ビルの一階を指差す。文字がかすれてしまったシャッターには【宮垣診療所】と書かれていた。二階建てや三階建ての低いビルが並ぶ場所で、診療所とはなんだかアンバランスのような気がしたが、そもそもこの街の存在自体も良く分かっていないのだ。いちいち気にしていられない。
ガラス張りの自動ドアの向こうを除くと、診療所の受付らしきものが見える。窓から入る明かりがあるおかげで真っ暗ではないが、日もかなり落ちてきており、薄暗さがなんとも不気味だ。整然としてはいるが、人の気配というか生活感がないせいで、廃病院のように見えた。
「そうみたいだな。ただ、中がどうなっているか分からない。とりあえず春日さんを呼んで来よう」
ふと片岡のほうに視線をやると、ご都合主義もびっくりといった感じで春日の姿が遠くに見えた。どうやらアーケードのほうを調べ終えて、こちらのほうにやってきたらしい。実にグッドタイミングだ。
周囲を調べて回った結果、この辺りは街の中心街――というにはいささか規模が小さいが、商業区であることが分かった。これまで目にする建物はほとんどが住宅だったのだが、この辺りはお店らしき建物が多い。ひと昔前の当たり付き自動販売機が置いてあるせいか、なんだか異質な空間に紛れ込んでしまったような錯覚に陥る。
かつて栄えていた――という設定なのだろうか。それとも、この街はかつて実在した街なのか。いまだにその辺りのことは良く分からないが、シャッターが閉まったままのお店も多く、ショウウインドウのある洋服店らしき店は、けれども店の中が真っ暗で、どう考えても営業しているようには思えなかった。なにも着ていないマネキンが虚しい。
時間的に日も落ち始めている。辺りを探索できる時間も残り少ないことだろう。しかしながら、これだけの商業区だ。きっと個人医院などのレベルであれば、あってもおかしくはない。
「――水落さーん! こっちに来てもらっていいですか?」
春日は一人でアーケードのほうを見に行った。そして、水落と片岡は、大きな通りを二手に分かれて探索している。感覚が麻痺してしまったわけではないが、たまに警戒心が薄れている自分に気づき、気持ちを改めることを繰り返していた。とりあえず【トラッペ君】さえなければ罠もないと分かったからなのだろうか。
「どうした?」
手を振って水落のことを呼ぶ片岡の元へと向かう。もっとも、車の通りが全くない道路を横断しただけなのであるが。
「ここなら薬とか手当てに必要なものがあると思うんですが」
片岡はそう言って、シャッターが半開きになった雑居ビルの一階を指差す。文字がかすれてしまったシャッターには【宮垣診療所】と書かれていた。二階建てや三階建ての低いビルが並ぶ場所で、診療所とはなんだかアンバランスのような気がしたが、そもそもこの街の存在自体も良く分かっていないのだ。いちいち気にしていられない。
ガラス張りの自動ドアの向こうを除くと、診療所の受付らしきものが見える。窓から入る明かりがあるおかげで真っ暗ではないが、日もかなり落ちてきており、薄暗さがなんとも不気味だ。整然としてはいるが、人の気配というか生活感がないせいで、廃病院のように見えた。
「そうみたいだな。ただ、中がどうなっているか分からない。とりあえず春日さんを呼んで来よう」
ふと片岡のほうに視線をやると、ご都合主義もびっくりといった感じで春日の姿が遠くに見えた。どうやらアーケードのほうを調べ終えて、こちらのほうにやってきたらしい。実にグッドタイミングだ。
0
お気に入りに追加
45
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
クイズ 誰がやったのでSHOW
鬼霧宗作
ミステリー
IT企業の経営者である司馬龍平は、見知らぬ部屋で目を覚ました。メイクをするための大きな鏡。ガラステーブルの上に置かれた差し入れらしきおにぎり。そして、番組名らしきものが書かれた台本。そこは楽屋のようだった。
司馬と同じように、それぞれの楽屋で目を覚ました8人の男女。廊下の先に見える【スタジオ】との不気味な文字列に、やはり台本のタイトルが頭をよぎる。
――クイズ 誰がやったのでSHOW。
出題される問題は、全て現実に起こった事件で、しかもその犯人は……集められた8人の中にいる。
ぶっ飛んだテンションで司会進行をする司会者と、現実離れしたルールで進行されるクイズ番組。
果たして降板と卒業の違いとは。誰が何のためにこんなことを企てたのか。そして、8人の中に人殺しがどれだけ紛れ込んでいるのか。徐々に疑心暗鬼に陥っていく出演者達。
一方、同じように部屋に監禁された刑事コンビ2人は、わけも分からないままにクイズ番組【誰がやったのでSHOW】を視聴させれることになるのだが――。
様々な思惑が飛び交うクローズドサークル&ゼロサムゲーム。
次第に明らかになっていく謎と、見えてくるミッシングリンク。
さぁ、張り切って参りましょう。第1問!
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした
葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。
でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。
本編完結済みです。時々番外編を追加します。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
ミノタウロスの森とアリアドネの嘘
鬼霧宗作
ミステリー
過去の記録、過去の記憶、過去の事実。
新聞社で働く彼女の元に、ある時8ミリのビデオテープが届いた。再生してみると、それは地元で有名なミノタウロスの森と呼ばれる場所で撮影されたものらしく――それは次第に、スプラッター映画顔負けの惨殺映像へと変貌を遂げる。
現在と過去をつなぐのは8ミリのビデオテープのみ。
過去の謎を、現代でなぞりながらたどり着く答えとは――。
――アリアドネは嘘をつく。
(過去に別サイトにて掲載していた【拝啓、15年前より】という作品を、時代背景や登場人物などを一新してフルリメイクしました)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる