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駆けよペーパードライバー【午後3時〜午後4時】

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「普通にカウントじゃ駄目ですか? いち、にの、さん――でギアチェンジをする感じで」

 あまり時間をかけていられない。次のギアに繋いでしまわないと、回転数が上がるばかりでエンジンが悲鳴を上げることになる。すぐにどうこうなるわけではないが、ギアチェンジに手間取っていては、地面陥没に巻き込まれてしまうだろう。かけ声のことでもめている場合ではない。

「――サン・ラー・タンのリズムでいこう。うん、サン・ラー・タンがしっくりくるわ!」

「なんでもいいですよ! とにかく早いところ次のギアに繋げないと地面が!」

 後ろを振り返って確認するのは怖かった。ただただギアを握り締め、悠長な様子の深田に対して声を荒げる。

「そんなん分かっとるわ! じゃあ、いいか? サン・ラー・タン!」

 かけ声に合わせてギアを入れた。思ったよりもかけ声がしっくりきたのか、うまい具合に次のギアへと繋がった――が、それと同時に軽トラックが後ろのほうへと傾いた。確認する勇気はないが、いよいよ地面陥没に片足を突っ込んでしまったらしい。

「おい! どうなってんの? うまいことギアは繋がったと思うんやけど!」

 後ろのほうへと引き込まれるかのごとく、徐々に後退を始める軽トラック。

「すぐるさん! とにかくアクセルを踏んで!」

 力が足りなければ、確実に地面ごと崩れ落ちてしまうだろう。どのような形で地面が陥没しているのかは分からないが、しかし確実に分かっていることがひとつだけある。それは――巻き込まれたら助からないであろうということだけ。

「いや踏んでるって! なんか空回りしとるもん! 新入生の交流を深める会で、司会を任されてしまった学年委員長みたいになっとるもん!」

 その、いちいちボケのようなものを挟んでくるのは、何かしらの意図があるのだろうか。それとも、体に染み付いてしまったものなのか。とにもかくにも、今は突っ込んでもいられないし、反応もしてやれない。

 軽トラックはどんどん後ろのほうへと傾いていく。このままでは――落ちる。それを覚悟し始めた片岡の視線の中に、あるボタンが飛び込んで来た。後輪が空回りしているということは、つまり――。

 片岡はギアのボタンへと手を伸ばすと、迷うことなく押した。もう迷っている時間なんてなかった。これで駄目だったら本当に駄目。諦めるしかない。

 最悪の事態は充分にあり得た。でも、最後まで希望は捨てたくなかった。
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