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第五章 時を越えた禁忌【過去 高田富臣】

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 行かないと――この先へと行かないと、いつまで経っても森の外には出れない。構造的に考えて、森の出口が他にあるとは思えない。もしあるにしても、改めて引き返すなんて真似はできないだろう。

 満身創痍だった。本当なら4人で肝試しをするはずだったのに、今はたったの1人だ。鏑木と茜はどこに行ったのかすら分からない。そして由美香は高田の目の前で殺されてしまった。ここまで森を彷徨っても鏑木達とは合流できなかった。あいつらはさっさと、森の外に出てしまったに違いない。

 意を決して森の外へと向かうしかない。ここから先は基本的に一本道で、道幅も狭くなる。その分、注意を払わねばならないのが前後だけになるため、これまでよりは戦いやすいかもしれない。ただ――それらしい武器がない。むしろ、こんな森の中で殺傷力のありそうな武器を探すことのほうが、難しいのかもしれなかった。

 戦わずに逃げる。それが最善の策なのかもしれない。だが、道幅が狭いため、もしも進行方向にミノタウロスが現れてしまったら――きっと、どうにもならないことだろう。それでも……外に出るためには前に進むしかない。

 相変わらず視界は悪いし、辺りは真っ暗闇に包まれている。それでも、高田は目を凝らし、前方が安全であることを確認しながら前へと進む。正確には森の出入り口へと戻っているわけであるが、その歩みは物凄く――本人でさえ苛々してしまうほど遅かった。

 少し進んで、じっくりと目を凝らして前方の安全を確認する。人間というものは、同じ行為を何度も繰り返すと、自然に慣れてきてしまって、その精度というものを落としてしまうものだ。この時の高田も例外ではなく、その精度がすっかりと落ちてしまっていた。それに気づいていても、前に進みたいという苛立ちが先行して、見て見ぬふりをすることになってしまっていた。――それが仇となってしまう。

 足元でバチンと音がすると同時に、右足に激痛が走った。それは、これまで経験したことのないような痛み。じんわりと右足が暖かくなってくると、痺れのようなものが全身へと広がる。

「――痛ぇ」

 辛うじて呟くと、自分の右足に起きている惨状を見て、思わず気を失いそうになってしまった。

 トラバサミ……山の中で狩猟などに使われる罠。それを踏んだ者の機動力を、その鋭い刃で、噛み付くようにして奪うものだ。あぁ、これ――あの作業小屋でも見たことがある。痛みより先に、そんな思考が巡るのは、すでに混乱している証拠かもしれない。
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