144 / 203
第五章 時を越えた禁忌【過去 高田富臣】
5
しおりを挟む
行かないと――この先へと行かないと、いつまで経っても森の外には出れない。構造的に考えて、森の出口が他にあるとは思えない。もしあるにしても、改めて引き返すなんて真似はできないだろう。
満身創痍だった。本当なら4人で肝試しをするはずだったのに、今はたったの1人だ。鏑木と茜はどこに行ったのかすら分からない。そして由美香は高田の目の前で殺されてしまった。ここまで森を彷徨っても鏑木達とは合流できなかった。あいつらはさっさと、森の外に出てしまったに違いない。
意を決して森の外へと向かうしかない。ここから先は基本的に一本道で、道幅も狭くなる。その分、注意を払わねばならないのが前後だけになるため、これまでよりは戦いやすいかもしれない。ただ――それらしい武器がない。むしろ、こんな森の中で殺傷力のありそうな武器を探すことのほうが、難しいのかもしれなかった。
戦わずに逃げる。それが最善の策なのかもしれない。だが、道幅が狭いため、もしも進行方向にミノタウロスが現れてしまったら――きっと、どうにもならないことだろう。それでも……外に出るためには前に進むしかない。
相変わらず視界は悪いし、辺りは真っ暗闇に包まれている。それでも、高田は目を凝らし、前方が安全であることを確認しながら前へと進む。正確には森の出入り口へと戻っているわけであるが、その歩みは物凄く――本人でさえ苛々してしまうほど遅かった。
少し進んで、じっくりと目を凝らして前方の安全を確認する。人間というものは、同じ行為を何度も繰り返すと、自然に慣れてきてしまって、その精度というものを落としてしまうものだ。この時の高田も例外ではなく、その精度がすっかりと落ちてしまっていた。それに気づいていても、前に進みたいという苛立ちが先行して、見て見ぬふりをすることになってしまっていた。――それが仇となってしまう。
足元でバチンと音がすると同時に、右足に激痛が走った。それは、これまで経験したことのないような痛み。じんわりと右足が暖かくなってくると、痺れのようなものが全身へと広がる。
「――痛ぇ」
辛うじて呟くと、自分の右足に起きている惨状を見て、思わず気を失いそうになってしまった。
トラバサミ……山の中で狩猟などに使われる罠。それを踏んだ者の機動力を、その鋭い刃で、噛み付くようにして奪うものだ。あぁ、これ――あの作業小屋でも見たことがある。痛みより先に、そんな思考が巡るのは、すでに混乱している証拠かもしれない。
満身創痍だった。本当なら4人で肝試しをするはずだったのに、今はたったの1人だ。鏑木と茜はどこに行ったのかすら分からない。そして由美香は高田の目の前で殺されてしまった。ここまで森を彷徨っても鏑木達とは合流できなかった。あいつらはさっさと、森の外に出てしまったに違いない。
意を決して森の外へと向かうしかない。ここから先は基本的に一本道で、道幅も狭くなる。その分、注意を払わねばならないのが前後だけになるため、これまでよりは戦いやすいかもしれない。ただ――それらしい武器がない。むしろ、こんな森の中で殺傷力のありそうな武器を探すことのほうが、難しいのかもしれなかった。
戦わずに逃げる。それが最善の策なのかもしれない。だが、道幅が狭いため、もしも進行方向にミノタウロスが現れてしまったら――きっと、どうにもならないことだろう。それでも……外に出るためには前に進むしかない。
相変わらず視界は悪いし、辺りは真っ暗闇に包まれている。それでも、高田は目を凝らし、前方が安全であることを確認しながら前へと進む。正確には森の出入り口へと戻っているわけであるが、その歩みは物凄く――本人でさえ苛々してしまうほど遅かった。
少し進んで、じっくりと目を凝らして前方の安全を確認する。人間というものは、同じ行為を何度も繰り返すと、自然に慣れてきてしまって、その精度というものを落としてしまうものだ。この時の高田も例外ではなく、その精度がすっかりと落ちてしまっていた。それに気づいていても、前に進みたいという苛立ちが先行して、見て見ぬふりをすることになってしまっていた。――それが仇となってしまう。
足元でバチンと音がすると同時に、右足に激痛が走った。それは、これまで経験したことのないような痛み。じんわりと右足が暖かくなってくると、痺れのようなものが全身へと広がる。
「――痛ぇ」
辛うじて呟くと、自分の右足に起きている惨状を見て、思わず気を失いそうになってしまった。
トラバサミ……山の中で狩猟などに使われる罠。それを踏んだ者の機動力を、その鋭い刃で、噛み付くようにして奪うものだ。あぁ、これ――あの作業小屋でも見たことがある。痛みより先に、そんな思考が巡るのは、すでに混乱している証拠かもしれない。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説
【毎日20時更新】アンメリー・オデッセイ
ユーレカ書房
ミステリー
からくり職人のドルトン氏が、何者かに殺害された。ドルトン氏の弟子のエドワードは、親方が生前大切にしていた本棚からとある本を見つける。表紙を宝石で飾り立てて中は手書きという、なにやらいわくありげなその本には、著名な作家アンソニー・ティリパットがドルトン氏とエドワードの父に宛てた中書きが記されていた。
【時と歯車の誠実な友、ウィリアム・ドルトンとアルフレッド・コーディに。 A・T】
なぜこんな本が店に置いてあったのか? 不思議に思うエドワードだったが、彼はすでにおかしな本とふたつの時計台を巡る危険な陰謀と冒険に巻き込まれていた……。
【登場人物】
エドワード・コーディ・・・・からくり職人見習い。十五歳。両親はすでに亡く、親方のドルトン氏とともに暮らしていた。ドルトン氏の死と不思議な本との関わりを探るうちに、とある陰謀の渦中に巻き込まれて町を出ることに。
ドルトン氏・・・・・・・・・エドワードの親方。優れた職人だったが、職人組合の会合に出かけた帰りに何者かによって射殺されてしまう。
マードック船長・・・・・・・商船〈アンメリー号〉の船長。町から逃げ出したエドワードを船にかくまい、船員として雇う。
アーシア・リンドローブ・・・マードック船長の親戚の少女。古書店を開くという夢を持っており、謎の本を持て余していたエドワードを助ける。
アンソニー・ティリパット・・著名な作家。エドワードが見つけた『セオとブラン・ダムのおはなし』の作者。実は、地方領主を務めてきたレイクフィールド家の元当主。故人。
クレイハー氏・・・・・・・・ティリパット氏の甥。とある目的のため、『セオとブラン・ダムのおはなし』を探している。
ロンダリングプリンセス―事故物件住みます令嬢―
鬼霧宗作
ミステリー
窓辺野コトリは、窓辺野不動産の社長令嬢である。誰もが羨む悠々自適な生活を送っていた彼女には、ちょっとだけ――ほんのちょっとだけ、人がドン引きしてしまうような趣味があった。
事故物件に異常なほどの執着――いや、愛着をみせること。むしろ、性的興奮さえ抱いているのかもしれない。
不動産会社の令嬢という立場を利用して、事故物件を転々とする彼女は、いつしか【ロンダリングプリンセス】と呼ばれるようになり――。
これは、事故物件を心から愛する、ちょっとだけ趣味の歪んだ御令嬢と、それを取り巻く個性豊かな面々の物語。
※本作品は他作品【猫屋敷古物商店の事件台帳】の精神的続編となります。本作から読んでいただいても問題ありませんが、前作からお読みいただくとなおお楽しみいただけるかと思います。
失踪した悪役令嬢の奇妙な置き土産
柚木崎 史乃
ミステリー
『探偵侯爵』の二つ名を持つギルフォードは、その優れた推理力で数々の難事件を解決してきた。
そんなギルフォードのもとに、従姉の伯爵令嬢・エルシーが失踪したという知らせが舞い込んでくる。
エルシーは、一度は婚約者に婚約を破棄されたものの、諸事情で呼び戻され復縁・結婚したという特殊な経歴を持つ女性だ。
そして、後日。彼女の夫から失踪事件についての調査依頼を受けたギルフォードは、邸の庭で謎の人形を複数発見する。
怪訝に思いつつも調査を進めた結果、ギルフォードはある『真相』にたどり着くが──。
悪役令嬢の従弟である若き侯爵ギルフォードが謎解きに奮闘する、ゴシックファンタジーミステリー。
この欠け落ちた匣庭の中で 終章―Dream of miniature garden―
至堂文斗
ミステリー
ーーこれが、匣の中だったんだ。
二〇一八年の夏。廃墟となった満生台を訪れたのは二人の若者。
彼らもまた、かつてGHOSTの研究によって運命を弄ばれた者たちだった。
信号領域の研究が展開され、そして壊れたニュータウン。終焉を迎えた現実と、終焉を拒絶する仮想。
歪なる領域に足を踏み入れる二人は、果たして何か一つでも、その世界に救いを与えることが出来るだろうか。
幻想、幻影、エンケージ。
魂魄、領域、人類の進化。
802部隊、九命会、レッドアイ・オペレーション……。
さあ、あの光の先へと進んでいこう。たとえもう二度と時計の針が巻き戻らないとしても。
私たちの駆け抜けたあの日々は確かに満ち足りていたと、懐かしめるようになるはずだから。
パラダイス・ロスト
真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。
※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。
この満ち足りた匣庭の中で 三章―Ghost of miniature garden―
至堂文斗
ミステリー
幾度繰り返そうとも、匣庭は――。
『満ち足りた暮らし』をコンセプトとして発展を遂げてきたニュータウン、満生台。
その裏では、医療センターによる謎めいた計画『WAWプログラム』が粛々と進行し、そして避け得ぬ惨劇が街を襲った。
舞台は繰り返す。
三度、二週間の物語は幕を開け、定められた終焉へと砂時計の砂は落ちていく。
変わらない世界の中で、真実を知悉する者は誰か。この世界の意図とは何か。
科学研究所、GHOST、ゴーレム計画。
人工地震、マイクロチップ、レッドアウト。
信号領域、残留思念、ブレイン・マシン・インターフェース……。
鬼の祟りに隠れ、暗躍する機関の影。
手遅れの中にある私たちの日々がほら――また、始まった。
出題篇PV:https://www.youtube.com/watch?v=1mjjf9TY6Io
恥ずかしいので観ないで下さい。
恐山にゃる
ミステリー
15秒で読める140文字以内のショートショート作品です。(夫には内緒で書いています。)
恥ずかしいので観ないで下さい。
生きる事は恥を晒す事。
作品には仕掛けを施してある物もございます。
でももし火遊び感覚で観てしまったのなら・・・感想を下さい。
それはそれで喜びます。
いや凄く嬉しい。小躍りして喜びます。
どちらかの作品が貴方の目に留まったなら幸いです。恐山にゃる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる