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第五章 時を越えた禁忌【過去 湯川智昭】
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行きに比べて帰りのほうが早かったような気がしたのは、きっと気のせいだけではないのだろう。先に渓流があるかもしれず、しかもいつ現れるのか分からない状態で進むより、一度は通った道を戻るほうが容易いのは当たり前だ。
もしかすると、湯川自身が思っているほど、遠くまで来ていなかったのかもしれない。しばらく歩くと、山小屋の明かりが見えてきた。もっとも、電気などではなく、小屋の中で見つけたランタンの明かりだ。湯川が見つけたものであるが、おそらく燃料は一晩ともたない。むしろ、ずっと放置されていたのに火が点いてくれたこと自体がラッキーだ。ミノタウロスの森を出る際には、ちょっと拝借して明かりとして利用させていただこう。
――危険な渓流はなかった。他の連中がどこまで行ったのかは気になるところではあるが、しかしこの森にずっと留まるわけにもいかない。大体、しっかり全員が揃ってから森に入ったわけではないのだ。誰がいるのか把握できないし、分かっていながら見捨てることはできないが、いるか分からない人間を探すなんてこともしたくはない。念のために、他にどんな面子がいるのか、山小屋に帰って夏帆に聞いてみるくらいはしてもいいかもしれないが、湯川の気持ちはミノタウロスの森から出ることに傾きつつあった。
足元を照らしつつ、少しずつ大きくなっていく山小屋の明かりを目指して歩き続ける。山肌の斜面に沿って続いている道は、やや反対側が傾いていて、なんだか感覚がおかしくなる。
山小屋の明かりが大きくなり、とうとう懐中電灯の明かりさえ不要なほど辺りが明るくなった頃、湯川はその異常さに気がついた。それは、本能か――直感的に気づいた異常さだった。
外から見た限り、山小屋には何の異変も見たらない。しかしながら、感じるのだ。何か良からぬことが、間違いなく中で起きているということを。
雰囲気、それとも空気なのか。何が湯川にそれを察知させたのかは分からないが、山小屋へと入る前に身構えてしまう。一体、何が起きているのか――そんなことは分からない。分からないけど、察知してしまったからこそ、なおさらに恐ろしい。
もし、山小屋の扉を開けた途端、何かに襲われたらどうしてやろうか。ふと、丸腰であることに不安を抱いた湯川は、何か手頃なものがないか山小屋の周りを歩いてみる。
山小屋の裏手には薪が詰んであった。もっとも、大分古いものらしく、一部は腐敗しているようだ。
もしかすると、湯川自身が思っているほど、遠くまで来ていなかったのかもしれない。しばらく歩くと、山小屋の明かりが見えてきた。もっとも、電気などではなく、小屋の中で見つけたランタンの明かりだ。湯川が見つけたものであるが、おそらく燃料は一晩ともたない。むしろ、ずっと放置されていたのに火が点いてくれたこと自体がラッキーだ。ミノタウロスの森を出る際には、ちょっと拝借して明かりとして利用させていただこう。
――危険な渓流はなかった。他の連中がどこまで行ったのかは気になるところではあるが、しかしこの森にずっと留まるわけにもいかない。大体、しっかり全員が揃ってから森に入ったわけではないのだ。誰がいるのか把握できないし、分かっていながら見捨てることはできないが、いるか分からない人間を探すなんてこともしたくはない。念のために、他にどんな面子がいるのか、山小屋に帰って夏帆に聞いてみるくらいはしてもいいかもしれないが、湯川の気持ちはミノタウロスの森から出ることに傾きつつあった。
足元を照らしつつ、少しずつ大きくなっていく山小屋の明かりを目指して歩き続ける。山肌の斜面に沿って続いている道は、やや反対側が傾いていて、なんだか感覚がおかしくなる。
山小屋の明かりが大きくなり、とうとう懐中電灯の明かりさえ不要なほど辺りが明るくなった頃、湯川はその異常さに気がついた。それは、本能か――直感的に気づいた異常さだった。
外から見た限り、山小屋には何の異変も見たらない。しかしながら、感じるのだ。何か良からぬことが、間違いなく中で起きているということを。
雰囲気、それとも空気なのか。何が湯川にそれを察知させたのかは分からないが、山小屋へと入る前に身構えてしまう。一体、何が起きているのか――そんなことは分からない。分からないけど、察知してしまったからこそ、なおさらに恐ろしい。
もし、山小屋の扉を開けた途端、何かに襲われたらどうしてやろうか。ふと、丸腰であることに不安を抱いた湯川は、何か手頃なものがないか山小屋の周りを歩いてみる。
山小屋の裏手には薪が詰んであった。もっとも、大分古いものらしく、一部は腐敗しているようだ。
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