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第四章 ミノタウロスはいる【過去 赤松朱里】
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「それじゃ、ちょっと行ってくるよ」
――リスクばかり考えていても意味がない。湯川の後ろ姿が、そう言っているように見えた。
他のみんながどこにいるのかは、湯川にだって分からない。もしかすると、ミノタウロスの森に入る直前になって尻込みして、さっさと家に帰ってしまったのかもしれない――その可能性だって、彼の頭の中にあるはずだ。むしろ、この辺りに人が立ち入った形跡が見当たらないのであれば、さっさと家に帰ってしまったと考えたほうがいいだろう。
――いるかも分からない人を助けるため、わざわざ自らリスクを背負う。とてもではないが、朱里には真似ができなかった。
湯川が山小屋を出て行く。夏帆が追いかけるようにして湯川のそばへと駆け寄ると「気をつけて」と一言。湯川は不敵な笑みを浮かべる。
「別に戦地に赴くわけじゃないんだ。ちょっとそこまで行って、異常がなければすぐに帰ってくる」
地図上でしか位置関係が分からないから、ここから渓流までどれだけの距離があるか分からない。そもそも、本当に渓流があるかさえ定かではないのだ。ちょっとそこまで――が、地図の書き方によっては大きく意味が変わってくることだろう。
「そうだけどさ――」
ミノタウロスの森の中。2階へと向かう階段が崩壊してしまったようなボロい山小屋で湯川のことを待つ。しかも、女2人ではいざという時に何もできないだろう。やはり、取り残されるほうが不安になるのは間違ってはいない。
「戻ってきたら、とりあえず森を出たほうがいいかもしれないな。思っていた以上に森は深いし、このまま進むと山頂まで出てしまいそうだ。残念だけど、俺達の冒険はこのくらいにしておいたほうが良さそうだ」
それは嫌だ。湯川の言葉を遮って言ってやろうかとも思ったが、辛うじて思い止まることができた。その間に湯川は山小屋を出て行ってしまう。
山小屋に取り残されるは夏帆と朱里だ。もし、これで誰かに襲撃を受けたら間違いなくまずい。その誰か――とは、もちろんこの森の主。ミノタウロスだ。
とりあえず湯川を待っている間を映していても仕方がない。動きがほとんどないだろうし、テープも無限にあるわけではない。カットできるところは自然とカットするようにしないと無駄になってしまう。
そう考えた朱里は、しばらくの間ビデオカメラを止めることになる。まさか、その間に惨劇が起きるなんて思いもせずに。
――リスクばかり考えていても意味がない。湯川の後ろ姿が、そう言っているように見えた。
他のみんながどこにいるのかは、湯川にだって分からない。もしかすると、ミノタウロスの森に入る直前になって尻込みして、さっさと家に帰ってしまったのかもしれない――その可能性だって、彼の頭の中にあるはずだ。むしろ、この辺りに人が立ち入った形跡が見当たらないのであれば、さっさと家に帰ってしまったと考えたほうがいいだろう。
――いるかも分からない人を助けるため、わざわざ自らリスクを背負う。とてもではないが、朱里には真似ができなかった。
湯川が山小屋を出て行く。夏帆が追いかけるようにして湯川のそばへと駆け寄ると「気をつけて」と一言。湯川は不敵な笑みを浮かべる。
「別に戦地に赴くわけじゃないんだ。ちょっとそこまで行って、異常がなければすぐに帰ってくる」
地図上でしか位置関係が分からないから、ここから渓流までどれだけの距離があるか分からない。そもそも、本当に渓流があるかさえ定かではないのだ。ちょっとそこまで――が、地図の書き方によっては大きく意味が変わってくることだろう。
「そうだけどさ――」
ミノタウロスの森の中。2階へと向かう階段が崩壊してしまったようなボロい山小屋で湯川のことを待つ。しかも、女2人ではいざという時に何もできないだろう。やはり、取り残されるほうが不安になるのは間違ってはいない。
「戻ってきたら、とりあえず森を出たほうがいいかもしれないな。思っていた以上に森は深いし、このまま進むと山頂まで出てしまいそうだ。残念だけど、俺達の冒険はこのくらいにしておいたほうが良さそうだ」
それは嫌だ。湯川の言葉を遮って言ってやろうかとも思ったが、辛うじて思い止まることができた。その間に湯川は山小屋を出て行ってしまう。
山小屋に取り残されるは夏帆と朱里だ。もし、これで誰かに襲撃を受けたら間違いなくまずい。その誰か――とは、もちろんこの森の主。ミノタウロスだ。
とりあえず湯川を待っている間を映していても仕方がない。動きがほとんどないだろうし、テープも無限にあるわけではない。カットできるところは自然とカットするようにしないと無駄になってしまう。
そう考えた朱里は、しばらくの間ビデオカメラを止めることになる。まさか、その間に惨劇が起きるなんて思いもせずに。
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