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第四章 ミノタウロスはいる【現在 七色七奈】

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【2】

 本当ならば、けたたましいサイレンの音を響かせながら、この田舎を走り抜けていたことであろう。しかしながら、普段の大和田の仕事は、自転車で済んでしまうことがほとんどであり、それゆえにパトカーは配備されていないらしい。

 もし、私が車を出さなかったら、自前の軽自動車で現場に向かうはめになった――とは、ハンドルを握る大和田の言葉だ。

 なんとなく見覚えのある道を進む。それが、ミノタウロスの森に向かう道であることに気づいたのは、車が山肌に沿って走るようになってからだった。

 赤色灯を光らせることもできないし、現場に向かう警察官ということもあり、律儀に制限速度を守っているのだろう。あまりにもゆっくり過ぎて、私のほうがもどかしくなってしまう。

 辺りはすっかりと暗くなり、この田舎ではヘッドライトの明かりだけが頼りになる。もちろん、住宅でもあれば、それなりに明るいのであろうが、しかしこの辺りに住宅は見当たらない。私の記憶が正しければ、山肌の反対には田畑が広がっているはずだ。

「――よりによって、ミノタウロスの森の近くか。こりゃ、近所の人達も騒ぎ出すぞ」

 車で走ることしばらく。辺りには何もない農道の途中。不自然に人だかりができているのをヘッドライトが映し出した。大和田はハザードを焚き、人だかりの少し前で車を路肩に寄せる。

 辺りが暗いせいで分からないが、どうやらミノタウロスの森の近くまでやって来たらしい。本当ならば誰も近寄らないはずの忌避されるべき土地に、人が集まっているという光景は、なんだか不気味に見えた。

「まだ、本部のやつらは到着していないか。人払いをして、現場を保全しないと――」

 普通、警察への通報は110番から行われる。しかしながら、今回は駐在所の電話が直接鳴り響いたのだ。あれはおそらく、近所の人からもらった電話だったのだ。だから、わざわざ大和田は、出る直前に本部らしき相手に連絡を入れていたのであろう。こちらのほうが到着が早くなってしまうのは、仕方ないような気がする。

 大和田が車を降りたのに続いて、私も車を降りる。こんな時間だから、みんな懐中電灯を持ってきているのであろう。それに加えて、軽トラックの明かりをそちらのほう――ミノタウロスの森の象徴とといえる、気味の悪い色をした鳥居のほうへと向けてあるせいか、その周辺だけ妙に明るかった。

 そして私は見てしまったのだ。変わり果てた湯川智昭の姿を。
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