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第四章 ミノタウロスはいる【現在 七色七奈】

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 大和田はビデオテープに出てきた登場人物の名前を挙げていく。現状でも、かなりの人数になっているが、もし瀬川先生が赤松朱里の担任だったというのであれば、他の人に関しても何か知っているかもしれない。

 淡い期待を抱いていたのであるが、しかし瀬川先生は首を横に振った。

「ごめんなさい。私が担任をしたのは、彼女が一年生の時だけで――。今おっしゃられた方々がクラスメイトにいたかと問われると、どうお答えしていいのか分かりません。私の記憶の限りでは、思い当たる名前がありませんから、もしかすると二年生や三年生の頃の話かもしれません」

 当たり前であるが、この学校ではクラス替えというものが行われるのであろう。ゆえに、瀬川先生が把握できるのは、赤松朱里が一年生の時のことだけであり、それ以外は関知していないようだ。

「そうですか――。ちなみに、二年生や三年生の頃に担任だった先生は?」

 大和田の問いかけに、宙へと視線を泳がせ、首を傾げる瀬川先生。そこまで昔の記憶でもないのだろうが、誰がどこのクラスを担任していたのかを思い出すのは、かなり難しいと思われる。しかし、記憶の掘り起こしを続けてくれた瀬川先生は、しばらくすると首を横に振った。

「どちらも転勤なされていると思います」

 瀬川先生の答えは、聞いてみれば納得できるものだった。どれくらいのスパンで教師の異動があるのかは知らないが、当時の赤松朱里のクラスを担当した先生は、すでに異動しているようだ。途中で雇用形態が変わった瀬川先生は、だから長年ここにいるのだろう。

「そうですか。ありがとうございます。他に何か聞きたいことは?」

 まだショックが抜け切らないでいた私のほうへと、その疑問が投げかけられたのだと気づくのに、少しばかりの時間がかかってしまった。突如として訪れた空白の時間に、ようやく自分に対して声がかけられていることに気づいた私は、その空白を埋めるように「いいえ」とだけ答えた。もう少し気の利いたことを言えそうなものだが、これが精一杯だった。

「それじゃあ、私達はそろそろ失礼します。こちらのほうは、預からせてもらっていいですか?」

 話を切り上げつつ、改めてビデオテープを預からせてもらう旨を口にする大和田。

「いえ、とんでもありません。差し上げますので、お返しいただかなくても結構です」

 瀬川先生からすれば、ようやく悪い憑き物を追い払うことができるのだ。ごく当たり前とばかりに返却を拒絶するような反応を見せる。
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