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第四章 ミノタウロスはいる【現在 七色七奈】
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とにかく、瀬川先生の元を訪れたのは、赤松朱里で確定のようだ。となると、私の元へとビデオテープを届けたのもまた、赤松朱里ということが確定することになる。しかし、なぜ私なのか。しかも、今さらになって。
「あ、肝心のビデオテープ……持ってきますね」
そう言うと、瀬川先生は私達のほうにむかって頭を下げ、パーテーションの向こう側に姿を消した。
赤松朱里がここを訪れ、瀬川先生にビデオテープを渡した。それすなわち、私がここまでやってくるであろうことを見越していたということだ。あの、赤松朱里が、私の先回りをしている。そう考えるとゾッとした。
あの無邪気で幼い笑顔が蘇る。彼女は何のために、わざわざこんなことをやっているのか。伝えたいことがあるのならば、私の連絡先を調べてコンタクトを試みるほうが、こんなことをするより遥かに簡単なはずだ。
「どうやら、赤松朱里が今回の一件に関与していることだけは間違いないみたいだな」
これまで疑念だったものが確信へと変わってくれたわけであるが、それで全てが解決したわけではない。相変わらず、赤松朱里の意図は全くもって不明。なんのために私にビデオテープ探しをさせるのか、そのために瀬川先生にビデオテープを渡したのであろうが、どうしてそこまで手の込んだ真似をするのか。
――遊んでいるのか。かつて、幼い頃、私と一緒にやったゲームのように。彼女にとって、これはゲームのようなものなのだろうか。
「お待たせしました」
瀬川先生が戻ってくる。その手には一回り小さいビデオテープが握られていた。間違いない。ハンディビデオカム用のビデオテープである。
「あの、中身については、観られるような環境になかったですし、なんだか不気味だったので観ていません。ただ、彼女――赤松朱里さんから、このビデオテープを探して訪ねてきた方に対して、伝言を預かっています」
戻ってきた瀬川先生は、ソファーには座らず、立ったまま私達にビデオテープを差し出してきた。少しばかり、彼女が指先が震えているように見えたのは気のせいだろうか。
「伝言……ですか?」
私が問うと、瀬川先生はこくりと頷く。そして「私の言葉ではありませんので――あの、お気を悪くなさらずに」と前置きをした。ありがたくない伝言をちょうだいしたようだ。
「――絶対に許さない」
心の準備が間に合わなかった。そのシンプルかつストレートな一言に、私はどうしていいのか分からなくなった。
「あ、肝心のビデオテープ……持ってきますね」
そう言うと、瀬川先生は私達のほうにむかって頭を下げ、パーテーションの向こう側に姿を消した。
赤松朱里がここを訪れ、瀬川先生にビデオテープを渡した。それすなわち、私がここまでやってくるであろうことを見越していたということだ。あの、赤松朱里が、私の先回りをしている。そう考えるとゾッとした。
あの無邪気で幼い笑顔が蘇る。彼女は何のために、わざわざこんなことをやっているのか。伝えたいことがあるのならば、私の連絡先を調べてコンタクトを試みるほうが、こんなことをするより遥かに簡単なはずだ。
「どうやら、赤松朱里が今回の一件に関与していることだけは間違いないみたいだな」
これまで疑念だったものが確信へと変わってくれたわけであるが、それで全てが解決したわけではない。相変わらず、赤松朱里の意図は全くもって不明。なんのために私にビデオテープ探しをさせるのか、そのために瀬川先生にビデオテープを渡したのであろうが、どうしてそこまで手の込んだ真似をするのか。
――遊んでいるのか。かつて、幼い頃、私と一緒にやったゲームのように。彼女にとって、これはゲームのようなものなのだろうか。
「お待たせしました」
瀬川先生が戻ってくる。その手には一回り小さいビデオテープが握られていた。間違いない。ハンディビデオカム用のビデオテープである。
「あの、中身については、観られるような環境になかったですし、なんだか不気味だったので観ていません。ただ、彼女――赤松朱里さんから、このビデオテープを探して訪ねてきた方に対して、伝言を預かっています」
戻ってきた瀬川先生は、ソファーには座らず、立ったまま私達にビデオテープを差し出してきた。少しばかり、彼女が指先が震えているように見えたのは気のせいだろうか。
「伝言……ですか?」
私が問うと、瀬川先生はこくりと頷く。そして「私の言葉ではありませんので――あの、お気を悪くなさらずに」と前置きをした。ありがたくない伝言をちょうだいしたようだ。
「――絶対に許さない」
心の準備が間に合わなかった。そのシンプルかつストレートな一言に、私はどうしていいのか分からなくなった。
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