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査定3 おばけマンションの人喰いエレベーター【問題編】

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 さらに情報はないのかと探してみたが、しかし所属事務所のホームページで得ることのできた情報は、どうやらラクレスの簡単なプロフィールだけのようだった。

「――お待たせしました」

 まるでタイミングを見計らったかのごとく班目が戻ってくる。

「どうでした?」

 パソコンから目を離し、班目のほうを見やる千早。そんな千早に対して、班目はリビングに戻りつつ、人差し指と中指をくっつけて輪っかを作り、それを千早達のほうへと向ける。OKサインというやつだ。

「今から管理会社の方が来ますから、1階のエレベーターホールに向かいましょう」

 問題なく管理会社の人間を呼びつけることができたようだ。この辺りは、さすが国家権力といったところか。そんなことを考えながら、パソコンの電源を落とそうとすると「あ、そのままでいいよ。僕がやっておくから」と大海。急に押し掛け、話を聞くだけ聞いた後、家にあるテレビやらパソコンを使わせてもらったのに、後片付けだけ押し付けてしまうような形になって申しわけない。

「あ、猫屋敷。気にしなくていいから。こいつ意外と世話焼きでさ」

 一里之はそれがさも当然であるかのように、ソファーから腰を上げる。そんな一里之と大海を見比べるように交互に眺めつつ愛も立ち上がる。

「なるほど。モテる男にはそれなりにモテる理由があるってことか――」

 一里之は世話焼きと表現したが、それはつまり、細かなところに気配りができる証拠だと思う。お茶を出す時の手際も良かったし、その際に身につけたエプロン姿も様になっている。千早だって、そのような男子に対して悪い印象は抱かない。

「……なんか言ったか?」

 間違いなく愛の言葉は聞こえていたのであろうが、明らかに大海と自分が比べられたことが面白くなかったのであろう。一里之はわざとらしく聞こえないふりをする。

「だから、純平にはないものを持ってるよねって話」

 愛は軽い気持ちで言ったのだろうが、なんだか言い争いが勃発しそうな空気が漂う。

「ほら、そこ。あんまりイチャイチャしない!」

 そんな険悪な空気を払拭すべく、一里之と愛のほうへと指を差して茶々を入れる辺りも、大海が気遣いできている証拠なのであろう。結果「べっ、別にイチャイチャしてねぇよ!」と一里之が少し恥ずかしそうに返し、口喧嘩は勃発せずに終わった。

「それではご協力ありがとうごさいました。お茶までご馳走になりまして恐縮です」

 班目が代表して挨拶をすると、大海はオープンキッチン越しに敬礼をしてみせる。

「いえいえ、市民の務めですから」
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