上 下
144 / 226
査定3 おばけマンションの人喰いエレベーター【問題編】

38

しおりを挟む
「管理会社に問い合わせてみましょう。警察からの要請なら嫌とは言わないでしょうし、大義名分がありますから」

 班目はそう言うとスマートフォンを取り出す。しかし画面を見て苦笑い。

「あー、本当にここ電波の入りが悪いんですねぇ。このご時世に圏外表示は久々に見ましたよ」

 班目の言葉に「たまーに電波が入ったりするから、着信とかは時間差で分かりますけどね」と、なぜだか自慢げに頷く大海。実質、自宅でスマートフォンが使えない状態なのは不便で仕方がないだろうに。

「ちょっと失礼。外で電話をしてきます」

 班目はそう言うと部屋を出て行ってしまう。なんとなく手持ち無沙汰になってしまった千早達。とりあえず、千早はハンディービデオカメラの片付けを始め、一里之達はノートパソコンを弄り出す。そんな中、さりげなくみんなの茶碗を回収し、シンクに持って行って洗い出した大海。独り暮らしをしているだけあり、その辺りの生活力というのは、他の男子に比べて高そうだ。

「純平、何してるの?」

 一里之の背後からパソコンを覗き込む愛。一里之は慣れない様子の手つきでキーボードを叩く。

「いや、ラクレスの所属事務所のホームページはどうなってんのかなって思って」

 その言葉を聞いた千早は、ハンディービデオカメラを急いで片付けると、一里之と愛の後ろに回り込んだ。ソファー越しに一里之と愛のさらに背後からパソコンを覗き込む。

「あぁ、ラクレスって確か事務所に所属してたね。やることがやることだから、いつか問題を起こす――ってネットで叩かれてたけど、まさかここまで大きなことをやるとは事務所も思っていなかっただろうね。事務所は災難だよ」

 その辺りの予備知識は、きっと日常的に動画サイトを覗いている人間からすれば常識なのであろう。今や動画配信サービスがテレビを凌駕する勢いだから、人気のある配信者が事務所と契約していても不思議ではない。まぁ、一般的な芸能事務所とはまた毛色が違うのであろうが。

「事務所のホームページには……一応、ラクレスの件についての謝罪文が掲載されているみたいだな」

 一里之がパソコンを操作すると、殺風景な白の背景に黒文字か並ぶ。太字で【当社所属グループ、ラクレスの一連の報道について】と書かれた後に細かい文章が並んでいる。無意識のうちに愛と一里之のことをかき分けるようにしてパソコンを凝視する千早。

 謝罪文は、ラクレスが殺人事件に巻き込まれたことが説明された後、現場から立ち去り、現在も連絡がとれていないことを謝罪する内容だった。事務所のスタンスとしては、今回起きたことを真摯に受け止め、警察や関係者には全面的に協力する方針とのこと。正直なところ、本人達と連絡がとれない以上、事務所としてできるのはこれくらいだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

警狼ゲーム

如月いさみ
ミステリー
東大路将はIT業界に憧れながらも警察官の道へ入ることになり、警察学校へいくことになった。しかし、現在の警察はある組織からの人間に密かに浸食されており、その歯止めとして警察学校でその組織からの人間を更迭するために人狼ゲームを通してその人物を炙り出す計画が持ち上がっており、その実行に巻き込まれる。 警察と組織からの狼とが繰り広げる人狼ゲーム。それに翻弄されながら東大路将は狼を見抜くが……。

ロンダリングプリンセス―事故物件住みます令嬢―

鬼霧宗作
ミステリー
 窓辺野コトリは、窓辺野不動産の社長令嬢である。誰もが羨む悠々自適な生活を送っていた彼女には、ちょっとだけ――ほんのちょっとだけ、人がドン引きしてしまうような趣味があった。  事故物件に異常なほどの執着――いや、愛着をみせること。むしろ、性的興奮さえ抱いているのかもしれない。  不動産会社の令嬢という立場を利用して、事故物件を転々とする彼女は、いつしか【ロンダリングプリンセス】と呼ばれるようになり――。  これは、事故物件を心から愛する、ちょっとだけ趣味の歪んだ御令嬢と、それを取り巻く個性豊かな面々の物語。  ※本作品は他作品【猫屋敷古物商店の事件台帳】の精神的続編となります。本作から読んでいただいても問題ありませんが、前作からお読みいただくとなおお楽しみいただけるかと思います。

消された過去と消えた宝石

志波 連
ミステリー
大富豪斎藤雅也のコレクション、ピンクダイヤモンドのペンダント『女神の涙』が消えた。 刑事伊藤大吉と藤田建造は、現場検証を行うが手掛かりは出てこなかった。   後妻の小夜子は、心臓病により車椅子生活となった当主をよく支え、二人の仲は良い。 宝石コレクションの隠し場所は使用人たちも知らず、知っているのは当主と妻の小夜子だけ。 しかし夫の体を慮った妻は、この一年一度も外出をしていない事は確認できている。 しかも事件当日の朝、日課だったコレクションの確認を行った雅也によって、宝石はあったと証言されている。 最後の確認から盗難までの間に人の出入りは無く、使用人たちも徹底的に調べられたが何も出てこない。  消えた宝石はどこに? 手掛かりを掴めないまま街を彷徨っていた伊藤刑事は、偶然立ち寄った画廊で衝撃的な事実を発見し、斬新な仮説を立てる。 他サイトにも掲載しています。 R15は保険です。 表紙は写真ACの作品を使用しています。

日月神示を読み解く

あつしじゅん
ミステリー
 神からの預言書、日月神示を読み解く

後宮生活困窮中

真魚
ミステリー
一、二年前に「祥雪華」名義でこちらのサイトに投降したものの、完結後に削除した『後宮生活絶賛困窮中 ―めざせ媽祖大祭』のリライト版です。ちなみに前回はジャンル「キャラ文芸」で投稿していました。 このリライト版は、「真魚」名義で「小説家になろう」にもすでに投稿してあります。 以下あらすじ 19世紀江南~ベトナムあたりをイメージした架空の王国「双樹下国」の後宮に、あるとき突然金髪の「法狼機人」の正后ジュヌヴィエーヴが嫁いできます。 一夫一妻制の文化圏からきたジュヌヴィエーヴは一夫多妻制の後宮になじめず、結局、後宮を出て新宮殿に映ってしまいます。 結果、困窮した旧後宮は、年末の祭の費用の捻出のため、経理を担う高位女官である主計判官の趙雪衣と、護衛の女性武官、武芸妓官の蕎月牙を、海辺の交易都市、海都へと派遣します。しかし、その最中に、新宮殿で正后ジュヌヴィエーヴが毒殺されかけ、月牙と雪衣に、身に覚えのない冤罪が着せられてしまいます。 逃亡女官コンビが冤罪を晴らすべく身を隠して奔走します。

悪い冗談

鷲野ユキ
ミステリー
「いい加減目を覚ませ。お前だってわかってるんだろう?」

変な屋敷 ~悪役令嬢を育てた部屋~

aihara
ミステリー
侯爵家の変わり者次女・ヴィッツ・ロードンは博物館で建築物史の学術研究院をしている。 ある日彼女のもとに、婚約者とともに王都でタウンハウスを探している妹・ヤマカ・ロードンが「この屋敷とてもいいんだけど、変な部屋があるの…」と相談を持ち掛けてきた。   とある作品リスペクトの謎解きストーリー。   本編9話(プロローグ含む)、閑話1話の全10話です。

処理中です...