73 / 226
査定2 惨殺アイちゃん参上【問題編】
42
しおりを挟む
堺先生からすれば、千早は見たこともない女子生徒である。教師が全ての生徒を把握しているとは思わないが、見ず知らずの女子生徒から、いきなり犯人扱いされるのは誰だって嫌だろう。
「しっ! 失敬な! 私が【惨殺アイちゃん】であることなんて断じてない!」
「では、どうして現場からカッターナイフを持ち去ったのですか?」
愛が強引なやり方をしたせいか、やや興奮している様子の堺先生は、千早の物言いすら面白くないらしい。
「そ、そんなこと生徒には関係ないこ――」
「ですが、事件が解決していないがゆえに、苦しんでいる生徒がいるんです。教師として、その辺りのことはどうお考えでしょうか?」
彼が喋っている最中に口を挟むものの、あえてゆっくりとした口調で話す千早。売り言葉に買い言葉ではないが、相手と同じテンションでやり取りをしても、相手が落ち着いてくれることはない。相手に落ち着いてもらうには、まずこちらが落ち着いた様子を見せることが重要である。
「そ、それは……」
徐々に堺先生は落ち着きを取り戻しつつある。愛が余計な刺激を与えないように、手招きをしてそばに引き寄せた。
「もし先生が【惨殺アイちゃん】でなければ、お話し願いませんか? 先生はどうして、カッターナイフを持ち去ったのでしょう?」
こうして先生相手に交渉することができるのも、他校の生徒という強みがあるからなのかもしれない。自分の学校の先生が相手となれば、その先の学校生活のことも考えて、強気に交渉に出るなんて真似はできないだろうから。
「実は私の妻の両親がね、文具品を作る工場をやっているんだ。大手とは違って小さな小さな工場をね。50周年記念のカッターナイフは、実は私が仲介として間に入って、妻の両親の工場に生産をお願いしたものなんだ。学校側からすれば、できるだけコストを削減できるように、妻の両親からすれば、この不況の中で少しでも仕事ができるようにと、私がとりはからったつもりだ」
堺先生はそういうと、少し嬉しそうにかすかな笑みを浮かべる。
「その甲斐もあってか、コストも低く抑えることができた上に、デザインや機能性などが、学校長をはじめとして他の先生方から高く評価されてね。まだ少し先の話だが、来年度辺りから学校で使用する文具の一部の生産、販売を妻の実家にお願いできないかという話が持ち上がっていたんだ。妻の両親もそう若くはないし、業界は大手に食いつぶされて零細企業は先細りするばかりだ。両親のことを心配していた妻にとって、そしてその妻の旦那である私にとっても、学校からの申し出はありがたかった」
「しっ! 失敬な! 私が【惨殺アイちゃん】であることなんて断じてない!」
「では、どうして現場からカッターナイフを持ち去ったのですか?」
愛が強引なやり方をしたせいか、やや興奮している様子の堺先生は、千早の物言いすら面白くないらしい。
「そ、そんなこと生徒には関係ないこ――」
「ですが、事件が解決していないがゆえに、苦しんでいる生徒がいるんです。教師として、その辺りのことはどうお考えでしょうか?」
彼が喋っている最中に口を挟むものの、あえてゆっくりとした口調で話す千早。売り言葉に買い言葉ではないが、相手と同じテンションでやり取りをしても、相手が落ち着いてくれることはない。相手に落ち着いてもらうには、まずこちらが落ち着いた様子を見せることが重要である。
「そ、それは……」
徐々に堺先生は落ち着きを取り戻しつつある。愛が余計な刺激を与えないように、手招きをしてそばに引き寄せた。
「もし先生が【惨殺アイちゃん】でなければ、お話し願いませんか? 先生はどうして、カッターナイフを持ち去ったのでしょう?」
こうして先生相手に交渉することができるのも、他校の生徒という強みがあるからなのかもしれない。自分の学校の先生が相手となれば、その先の学校生活のことも考えて、強気に交渉に出るなんて真似はできないだろうから。
「実は私の妻の両親がね、文具品を作る工場をやっているんだ。大手とは違って小さな小さな工場をね。50周年記念のカッターナイフは、実は私が仲介として間に入って、妻の両親の工場に生産をお願いしたものなんだ。学校側からすれば、できるだけコストを削減できるように、妻の両親からすれば、この不況の中で少しでも仕事ができるようにと、私がとりはからったつもりだ」
堺先生はそういうと、少し嬉しそうにかすかな笑みを浮かべる。
「その甲斐もあってか、コストも低く抑えることができた上に、デザインや機能性などが、学校長をはじめとして他の先生方から高く評価されてね。まだ少し先の話だが、来年度辺りから学校で使用する文具の一部の生産、販売を妻の実家にお願いできないかという話が持ち上がっていたんだ。妻の両親もそう若くはないし、業界は大手に食いつぶされて零細企業は先細りするばかりだ。両親のことを心配していた妻にとって、そしてその妻の旦那である私にとっても、学校からの申し出はありがたかった」
0
お気に入りに追加
180
あなたにおすすめの小説
ミノタウロスの森とアリアドネの嘘
鬼霧宗作
ミステリー
過去の記録、過去の記憶、過去の事実。
新聞社で働く彼女の元に、ある時8ミリのビデオテープが届いた。再生してみると、それは地元で有名なミノタウロスの森と呼ばれる場所で撮影されたものらしく――それは次第に、スプラッター映画顔負けの惨殺映像へと変貌を遂げる。
現在と過去をつなぐのは8ミリのビデオテープのみ。
過去の謎を、現代でなぞりながらたどり着く答えとは――。
――アリアドネは嘘をつく。
(過去に別サイトにて掲載していた【拝啓、15年前より】という作品を、時代背景や登場人物などを一新してフルリメイクしました)
【完結】Amnesia(アムネシア)~カフェ「時遊館」に現れた美しい青年は記憶を失っていた~
紫紺
ミステリー
郊外の人気カフェ、『時游館』のマスター航留は、ある日美しい青年と出会う。彼は自分が誰かも全て忘れてしまう記憶喪失を患っていた。
行きがかり上、面倒を見ることになったのが……。
※「Amnesia」は医学用語で、一般的には「記憶喪失」のことを指します。
カフェ・シュガーパインの事件簿
山いい奈
ミステリー
大阪長居の住宅街に佇むカフェ・シュガーパイン。
個性豊かな兄姉弟が営むこのカフェには穏やかな時間が流れる。
だが兄姉弟それぞれの持ち前の好奇心やちょっとした特殊能力が、巻き込まれる事件を解決に導くのだった。
鎌倉最後の日
もず りょう
歴史・時代
かつて源頼朝や北条政子・義時らが多くの血を流して築き上げた武家政権・鎌倉幕府。承久の乱や元寇など幾多の困難を乗り越えてきた幕府も、悪名高き執権北条高時の治政下で頽廃を極めていた。京では後醍醐天皇による倒幕計画が持ち上がり、世に動乱の兆しが見え始める中にあって、北条一門の武将金澤貞将は危機感を募らせていく。ふとしたきっかけで交流を深めることとなった御家人新田義貞らは、貞将にならば鎌倉の未来を託すことができると彼に「決断」を迫るが――。鎌倉幕府の最後を華々しく彩った若き名将の清冽な生きざまを活写する歴史小説、ここに開幕!
ロンダリングプリンセス―事故物件住みます令嬢―
鬼霧宗作
ミステリー
窓辺野コトリは、窓辺野不動産の社長令嬢である。誰もが羨む悠々自適な生活を送っていた彼女には、ちょっとだけ――ほんのちょっとだけ、人がドン引きしてしまうような趣味があった。
事故物件に異常なほどの執着――いや、愛着をみせること。むしろ、性的興奮さえ抱いているのかもしれない。
不動産会社の令嬢という立場を利用して、事故物件を転々とする彼女は、いつしか【ロンダリングプリンセス】と呼ばれるようになり――。
これは、事故物件を心から愛する、ちょっとだけ趣味の歪んだ御令嬢と、それを取り巻く個性豊かな面々の物語。
※本作品は他作品【猫屋敷古物商店の事件台帳】の精神的続編となります。本作から読んでいただいても問題ありませんが、前作からお読みいただくとなおお楽しみいただけるかと思います。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】共生
ひなこ
ミステリー
高校生の少女・三崎有紗(みさき・ありさ)はアナウンサーである母・優子(ゆうこ)が若い頃に歌手だったことを封印し、また歌うことも嫌うのを不審に思っていた。
ある日有紗の歌声のせいで、優子に異変が起こる。
隠された母の過去が、二十年の時を経て明らかになる?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる