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査定1 家族記念日と歪んだ愛憎【解答編】
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班目は頷くしかなかった。確認するまでもなく、外丸氏はいまだに不動産会社の社長である。ゆえに、日記の第8回が行われた年に社長の席を譲る旨が書かれているが、しかし実際にそうだったのであれば、被害者は61歳で社長の座を退陣していたはずだ。けれども、殺された64歳になっても社長であり続けた。これもまた矛盾である。
「――様々な点から考えてみましたが、矛盾が生じてしまうか、曖昧な点が出てきてしまいます。でも、もしこれらの矛盾点と曖昧な点が収束する魔法があるとしたらどうしますか?」
そんな魔法があれば、警察がさっさと使っているであろう。もちろん、彼女に直接そんなことは言えない班目は「そんなものがあればいいんですけどねぇ」と無難な返しかたをする。すると、珍しくカウンターから身を乗り出し、相も変わらず無表情――いいや、彼女の名誉のために真剣な眼差しと表現しよう。それを班目に向けながら千早は続けた。
「実はあるんです。それは……キンモクセイです」
キンモクセイ。それは、日記の中にもちょくちょく出てくるワードだった。さすがにそれが木の名前であることくらい班目も知っている。しかし、このキンモクセイが全てを収束させる魔法になるとはどういうことなのだろうか。
「キンモクセイ――樹高5メートルから8メートルになる常緑小高木。一年中緑の葉をつけ、樹高が10メートル未満のものになります。植え付け時期は3月から4月、開花期は9月から10月になります。花の色はオレンジです」
色々と聞きたいところはあるのだが、今は千早の話を聞いたほうが良さそうだ。口を挟む隙はあったものの、あえて班目はそれを逃した。
「このキンモクセイなのですが、日記帳によると友人からもらい受け、挿し木にて植樹をしたようです。あ、ちなみに挿し木というのは、簡単に言えば元気で若い枝を直接培養土に挿し、そこから根を張らせる手法です。花が咲くまで最低でも5年はかかってしまいますが、比較的キンモクセイは挿し木でも育てやすい樹木になっています」
このまま黙って聞いていようと思った班目だったが、今の一言でさすがに口を挟んでしまった。なぜなら、そこには明らかな矛盾があったからだ。
「ちょっと待ってくださいよ。それだと日記の内容がおかしくなりませんか? 家族記念日の証として、キンモクセイが植えられているんです。しかし、そのキンモクセイは【家族記念日 第3回】で去年の秋に咲いた――と記述されている。それってつまり、少なくともキンモクセイを植えてから2年目には花をつけていたということになりません? なにか勘違いをされているのでは?」
「――様々な点から考えてみましたが、矛盾が生じてしまうか、曖昧な点が出てきてしまいます。でも、もしこれらの矛盾点と曖昧な点が収束する魔法があるとしたらどうしますか?」
そんな魔法があれば、警察がさっさと使っているであろう。もちろん、彼女に直接そんなことは言えない班目は「そんなものがあればいいんですけどねぇ」と無難な返しかたをする。すると、珍しくカウンターから身を乗り出し、相も変わらず無表情――いいや、彼女の名誉のために真剣な眼差しと表現しよう。それを班目に向けながら千早は続けた。
「実はあるんです。それは……キンモクセイです」
キンモクセイ。それは、日記の中にもちょくちょく出てくるワードだった。さすがにそれが木の名前であることくらい班目も知っている。しかし、このキンモクセイが全てを収束させる魔法になるとはどういうことなのだろうか。
「キンモクセイ――樹高5メートルから8メートルになる常緑小高木。一年中緑の葉をつけ、樹高が10メートル未満のものになります。植え付け時期は3月から4月、開花期は9月から10月になります。花の色はオレンジです」
色々と聞きたいところはあるのだが、今は千早の話を聞いたほうが良さそうだ。口を挟む隙はあったものの、あえて班目はそれを逃した。
「このキンモクセイなのですが、日記帳によると友人からもらい受け、挿し木にて植樹をしたようです。あ、ちなみに挿し木というのは、簡単に言えば元気で若い枝を直接培養土に挿し、そこから根を張らせる手法です。花が咲くまで最低でも5年はかかってしまいますが、比較的キンモクセイは挿し木でも育てやすい樹木になっています」
このまま黙って聞いていようと思った班目だったが、今の一言でさすがに口を挟んでしまった。なぜなら、そこには明らかな矛盾があったからだ。
「ちょっと待ってくださいよ。それだと日記の内容がおかしくなりませんか? 家族記念日の証として、キンモクセイが植えられているんです。しかし、そのキンモクセイは【家族記念日 第3回】で去年の秋に咲いた――と記述されている。それってつまり、少なくともキンモクセイを植えてから2年目には花をつけていたということになりません? なにか勘違いをされているのでは?」
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