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査定1 家族記念日と歪んだ愛憎【問題編】

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「事件が起きたのは真っ昼間――被害者の死亡推定時刻はおおよそ正午頃になります。独身の一人暮らしのため事件の目撃者はなし。娘が3人いますが、今は離れて暮らしているみたいですね。身の回りの世話は通いの家政婦がやっていましたが、この日はたまたま暇を出されていたようです」

 無表情のまま日記帳を食い入るように観察する千早。まだ肝心の中身に目を通す様子はない。表情がなく、また本人が妙に大人びていて感情を表に出さないからなのか、なんというか――千早はまるで精巧に作られた人形のようだ。これはかねてより班目が感じていたことだった。そんな千早は、ようやく日記帳から目を離して班目のほうへと視線をくれてくる。

「その通いの家政婦さんが、被害者の遺体を発見したのですか?」

 それに対して班目は小さく首を横に振った。

「本人から警察に通報があったんです。それを受けて駆けつけた派出所の警察官が、すでに死亡していた被害者を発見した次第です」

 これは未解決の事件の情報を一般人に漏らしているわけではない。あくまでも、持ち込んだ品を査定してもらうために必要な情報を並べているだけ。そう考えると、少し罪悪感のようなものが軽くなるということは、班目は自身でやっている行為がよろしくないことを自覚しているのであろう。あぁ、もちろん自覚している。

「被害者自らの通報ですか――。一点、気になる点があるのですが、今この場でお伺いしてもよろしいでしょうか?」

 千早は日記帳を手に持ったまま、表情はまるで動かさずに問うてくる。その澄んだ瞳と透き通った声は、人形というよりも幽霊のようだ。これほど美少女で、しかも女子高生というブランドの幽霊なら、是非とも毎晩枕元に立って欲しいものだが。そんなことを考えつつ「えぇ、構いませんよ」と応じる班目。

「先ほど、被害者は独身の一人暮らしとおっしゃいましたよね? それなのに、娘が3人いるとはどういうことでしょう?」

 千早の問いかけに、班目は警察手帳を取り出した。デジタルが当たり前の世の中になったが、アナログな部分はアナログなままだったりする。手帳というアイテムがいまだに市場へと出回っているのも、アナログがアナログとしての地位を確立しているからなのであろう。

「実は被害者には三度の離婚暦があるんですよ。関係者の話によると、かなり奔放ほんぽうで女癖が悪かったらしいです。でもって、三度の結婚は全てデキ婚――子どもができてしまったがゆえにした結婚だったみたいです。勘の鋭い店主さんなら、もうお分りですよね?」
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