6 / 226
査定1 家族記念日と歪んだ愛憎【問題編】
2
しおりを挟む
「事件が起きたのは真っ昼間――被害者の死亡推定時刻はおおよそ正午頃になります。独身の一人暮らしのため事件の目撃者はなし。娘が3人いますが、今は離れて暮らしているみたいですね。身の回りの世話は通いの家政婦がやっていましたが、この日はたまたま暇を出されていたようです」
無表情のまま日記帳を食い入るように観察する千早。まだ肝心の中身に目を通す様子はない。表情がなく、また本人が妙に大人びていて感情を表に出さないからなのか、なんというか――千早はまるで精巧に作られた人形のようだ。これはかねてより班目が感じていたことだった。そんな千早は、ようやく日記帳から目を離して班目のほうへと視線をくれてくる。
「その通いの家政婦さんが、被害者の遺体を発見したのですか?」
それに対して班目は小さく首を横に振った。
「本人から警察に通報があったんです。それを受けて駆けつけた派出所の警察官が、すでに死亡していた被害者を発見した次第です」
これは未解決の事件の情報を一般人に漏らしているわけではない。あくまでも、持ち込んだ品を査定してもらうために必要な情報を並べているだけ。そう考えると、少し罪悪感のようなものが軽くなるということは、班目は自身でやっている行為がよろしくないことを自覚しているのであろう。あぁ、もちろん自覚している。
「被害者自らの通報ですか――。一点、気になる点があるのですが、今この場でお伺いしてもよろしいでしょうか?」
千早は日記帳を手に持ったまま、表情はまるで動かさずに問うてくる。その澄んだ瞳と透き通った声は、人形というよりも幽霊のようだ。これほど美少女で、しかも女子高生というブランドの幽霊なら、是非とも毎晩枕元に立って欲しいものだが。そんなことを考えつつ「えぇ、構いませんよ」と応じる班目。
「先ほど、被害者は独身の一人暮らしとおっしゃいましたよね? それなのに、娘が3人いるとはどういうことでしょう?」
千早の問いかけに、班目は警察手帳を取り出した。デジタルが当たり前の世の中になったが、アナログな部分はアナログなままだったりする。手帳というアイテムがいまだに市場へと出回っているのも、アナログがアナログとしての地位を確立しているからなのであろう。
「実は被害者には三度の離婚暦があるんですよ。関係者の話によると、かなり奔放で女癖が悪かったらしいです。でもって、三度の結婚は全てデキ婚――子どもができてしまったがゆえにした結婚だったみたいです。勘の鋭い店主さんなら、もうお分りですよね?」
無表情のまま日記帳を食い入るように観察する千早。まだ肝心の中身に目を通す様子はない。表情がなく、また本人が妙に大人びていて感情を表に出さないからなのか、なんというか――千早はまるで精巧に作られた人形のようだ。これはかねてより班目が感じていたことだった。そんな千早は、ようやく日記帳から目を離して班目のほうへと視線をくれてくる。
「その通いの家政婦さんが、被害者の遺体を発見したのですか?」
それに対して班目は小さく首を横に振った。
「本人から警察に通報があったんです。それを受けて駆けつけた派出所の警察官が、すでに死亡していた被害者を発見した次第です」
これは未解決の事件の情報を一般人に漏らしているわけではない。あくまでも、持ち込んだ品を査定してもらうために必要な情報を並べているだけ。そう考えると、少し罪悪感のようなものが軽くなるということは、班目は自身でやっている行為がよろしくないことを自覚しているのであろう。あぁ、もちろん自覚している。
「被害者自らの通報ですか――。一点、気になる点があるのですが、今この場でお伺いしてもよろしいでしょうか?」
千早は日記帳を手に持ったまま、表情はまるで動かさずに問うてくる。その澄んだ瞳と透き通った声は、人形というよりも幽霊のようだ。これほど美少女で、しかも女子高生というブランドの幽霊なら、是非とも毎晩枕元に立って欲しいものだが。そんなことを考えつつ「えぇ、構いませんよ」と応じる班目。
「先ほど、被害者は独身の一人暮らしとおっしゃいましたよね? それなのに、娘が3人いるとはどういうことでしょう?」
千早の問いかけに、班目は警察手帳を取り出した。デジタルが当たり前の世の中になったが、アナログな部分はアナログなままだったりする。手帳というアイテムがいまだに市場へと出回っているのも、アナログがアナログとしての地位を確立しているからなのであろう。
「実は被害者には三度の離婚暦があるんですよ。関係者の話によると、かなり奔放で女癖が悪かったらしいです。でもって、三度の結婚は全てデキ婚――子どもができてしまったがゆえにした結婚だったみたいです。勘の鋭い店主さんなら、もうお分りですよね?」
0
お気に入りに追加
180
あなたにおすすめの小説
ロンダリングプリンセス―事故物件住みます令嬢―
鬼霧宗作
ミステリー
窓辺野コトリは、窓辺野不動産の社長令嬢である。誰もが羨む悠々自適な生活を送っていた彼女には、ちょっとだけ――ほんのちょっとだけ、人がドン引きしてしまうような趣味があった。
事故物件に異常なほどの執着――いや、愛着をみせること。むしろ、性的興奮さえ抱いているのかもしれない。
不動産会社の令嬢という立場を利用して、事故物件を転々とする彼女は、いつしか【ロンダリングプリンセス】と呼ばれるようになり――。
これは、事故物件を心から愛する、ちょっとだけ趣味の歪んだ御令嬢と、それを取り巻く個性豊かな面々の物語。
※本作品は他作品【猫屋敷古物商店の事件台帳】の精神的続編となります。本作から読んでいただいても問題ありませんが、前作からお読みいただくとなおお楽しみいただけるかと思います。
カフェ・シュガーパインの事件簿
山いい奈
ミステリー
大阪長居の住宅街に佇むカフェ・シュガーパイン。
個性豊かな兄姉弟が営むこのカフェには穏やかな時間が流れる。
だが兄姉弟それぞれの持ち前の好奇心やちょっとした特殊能力が、巻き込まれる事件を解決に導くのだった。
ミノタウロスの森とアリアドネの嘘
鬼霧宗作
ミステリー
過去の記録、過去の記憶、過去の事実。
新聞社で働く彼女の元に、ある時8ミリのビデオテープが届いた。再生してみると、それは地元で有名なミノタウロスの森と呼ばれる場所で撮影されたものらしく――それは次第に、スプラッター映画顔負けの惨殺映像へと変貌を遂げる。
現在と過去をつなぐのは8ミリのビデオテープのみ。
過去の謎を、現代でなぞりながらたどり着く答えとは――。
――アリアドネは嘘をつく。
(過去に別サイトにて掲載していた【拝啓、15年前より】という作品を、時代背景や登場人物などを一新してフルリメイクしました)
友よ、お前は何故死んだのか?
河内三比呂
ミステリー
「僕は、近いうちに死ぬかもしれない」
幼い頃からの悪友であり親友である久川洋壱(くがわよういち)から突如告げられた不穏な言葉に、私立探偵を営む進藤識(しんどうしき)は困惑し嫌な予感を覚えつつもつい流してしまう。
だが……しばらく経った頃、仕事終わりの識のもとへ連絡が入る。
それは洋壱の死の報せであった。
朝倉康平(あさくらこうへい)刑事から事情を訊かれた識はそこで洋壱の死が不可解である事、そして自分宛の手紙が発見された事を伝えられる。
悲しみの最中、朝倉から提案をされる。
──それは、捜査協力の要請。
ただの民間人である自分に何ができるのか?悩みながらも承諾した識は、朝倉とともに洋壱の死の真相を探る事になる。
──果たして、洋壱の死の真相とは一体……?
【完結】シリアルキラーの話です。基本、この国に入ってこない情報ですから、、、
つじんし
ミステリー
僕は因が見える。
因果関係や因果応報の因だ。
そう、因だけ...
この力から逃れるために日本に来たが、やはりこの国の警察に目をつけられて金のために...
いや、正直に言うとあの日本人の女に利用され、世界中のシリアルキラーを相手にすることになってしまった...
さよならクッキー、もういない
二ノ宮明季
ミステリー
刑事の青年、阿部が出会った事件。そこには必ず鳥の姿があった。
人間のパーツが一つずつ見つかる事件の真相は――。
1話ずつの文字数は少な目。全14話ですが、総文字数は短編程度となります。
パラダイス・ロスト
真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。
※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。
ファクト ~真実~
華ノ月
ミステリー
主人公、水無月 奏(みなづき かなで)はひょんな事件から警察の特殊捜査官に任命される。
そして、同じ特殊捜査班である、透(とおる)、紅蓮(ぐれん)、槙(しん)、そして、室長の冴子(さえこ)と共に、事件の「真実」を暴き出す。
その事件がなぜ起こったのか?
本当の「悪」は誰なのか?
そして、その事件と別で最終章に繋がるある真実……。
こちらは全部で第七章で構成されています。第七章が最終章となりますので、どうぞ、最後までお読みいただけると嬉しいです!
よろしくお願いいたしますm(__)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる