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第二話 Q&A【事件編】

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 遠目で見た感じ、現れた男はいかにも好青年といった具合であり、印象としては女を金で買うような人間には見えなかった。短めに刈り上げた髪は爽やかなイメージがあり、間違っても犯罪に手を染めるようなタイプには見えない。

「おい、本当にあいつが【アキト】なのか? そんな風には見えないんだが」

 想像とはかけ離れた印象の男に、巌鉄は隣の坂田へと問う。

「まぁ、人は見た目に寄らねぇからなぁ。虫も殺しそうもねぇやつが、実は連続殺人鬼だった――なんて話はざらにある。結論を出すのは早い」

 舞香と男は何か言葉を交わしているようだった。残念ながら会話の内容までは聞き取れないが、互いに笑顔でやり取りをしている。舞香の場合は、相手が件の犯人であるかもしれないという事前情報があるから、怪しまれないように演技しているのであろう。だとすれば、中々の女優である。

「あのショルダーバック、やけに大きくねぇか? 女と会うだけで、あんな荷物いらねぇだろ」

 巌鉄もまた、あの男こそ凶悪犯なのではないかという思い込みがあるゆえか、全てが怪しく見えてしまう。捜査において思い込みほど邪魔なものはないのだが。

「まぁ、そんなに慌てんなって……。本番はあいつらがホテルに入ってからだ」

 掲示板上では、お互いにそれ目的で会うことになっている。だからこそ、会う時間を割りかしホテルに入りやすい――それこそ夕方の6時に設定したらしい。別に時間までこだわる必要はないのだろうが、確かに早朝や真っ昼間の待ち合わせは、少し違うような気もしなくもない。

 巌鉄と坂田が見守る中、2人はどこかに向かって歩き出す。

「――動くぞ。悟られないように後を尾ける。警戒されると面倒だから、途中で交代しつつ尾行を続けるぞ」

 このようなシチュエーションは、どちらかといえば巌鉄のほうが経験を積んでいるはず。しかしながら、先陣をきったのは坂田だった。巌鉄はやや坂田に遅れながらも人混みに紛れた。

 坂田を見失わぬようにするのはもちろんのこと、かなり離れた位置にいる舞香達を見失わぬようにしなければならない。この際、坂田のことは見失ってもいいことにして、とにもかくにも舞香達のほうへと意識を集中させた。

 舞香達の尾行を始めてしばらく。まだ坂田のいう交代をすることなく、舞香達はチェーンの居酒屋へと入っていく。

「俺達も入るぞ。ちなみに、たまたま俺は手持ちが無ぇからよろしくな」

 その声に振り返ると、いつの間にか坂田が巌鉄の背後のほうに回っていた。思わず驚きの声をあげてしまった。少しばかり目立ってしまったが、舞香達には気づかれなかったようだ。
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