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第二話 Q&A【事件編】
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かくして、刑事としての立場とは裏腹に、とんとん拍子に話が進んでいく。電話で全て伝えても良かったのであるが、坂田が本人と直接話したいようで、電話している最中にメモ紙を見せてくる。
――囮役のアテがあるなら、俺も本人と会わせろ。
ミミズのはったような文字を見た巌鉄は、思わず吹き出してしまいそうになったが、文字が書かれているのが、自分の警察手帳であることに気づいて我にかえった。舞香の携帯番号を確認するために取り出した警察手帳。まさか坂田の落書き帳になってしまうとは。少しは気を遣って欲しいものだ。
「ちなみに、詳しい話は会ってしたいんだが……」
巌鉄が電話をしている間に、新たなメッセージが坂田によって書き込まれた。名前では警察手帳となっているが、刑事にとって手帳は神聖なものでもある。そこまでこだわりは持っていない巌鉄ではあるが、坂田の自由帳になるのは不本意だ。
――明日。グラウンドゼロで。
その店名は記憶に新しい。雨立街にある坂田御用達の店だ。なによりもマスターの癖が強く、また【コレクター】事件の舞台にもなったから、嫌でも覚えている。しかしながら、あんな治安の悪いところに呼び出して大丈夫だろうか。巌鉄の不安を察したかのように、坂田が口を開く。メモをするのが面倒になったのか。ならば最初からそれを一貫してほしい。
「ファミレスだと誰に聞かれてるか分からねぇからな。誰にも聞かれたくねぇ話をするなら、グラウンドゼロがいい」
囮捜査はあくまでも非公式なものだし、当たり前だが法令にも抵触する。ゆえに、可能な限り秘密裏にするのが好ましい。それを考慮して言っているのであれば、巌鉄もその意見には大いに賛成だ。
「待ち合わせは雨立街にある店なんだが、不安なら近くまで迎えに行く――」
舞香との通話を終えると、巌鉄は小さく溜め息を漏らした。舞香は乗り気だし、囮役も快く引き受けてくれることだろう。しかしながら、やはり危険が伴ってしまうことが、巌鉄の中では引っかかっていた。その辺りのことも含めて、綿密に話し合いをしておいたほうがいい。
「さて、それじゃあ、ある程度の撒き餌をしておかねぇとなぁ」
坂田はそう言うと、くわえ煙草のまま立ち上がり「それじゃ、当日グラウンドゼロでな」と、少年課から姿を消した。その後ろ姿を眺めながら溜め息を漏らすも、しかし巌鉄はどこか坂田に期待を抱いていたのであった。
――囮役のアテがあるなら、俺も本人と会わせろ。
ミミズのはったような文字を見た巌鉄は、思わず吹き出してしまいそうになったが、文字が書かれているのが、自分の警察手帳であることに気づいて我にかえった。舞香の携帯番号を確認するために取り出した警察手帳。まさか坂田の落書き帳になってしまうとは。少しは気を遣って欲しいものだ。
「ちなみに、詳しい話は会ってしたいんだが……」
巌鉄が電話をしている間に、新たなメッセージが坂田によって書き込まれた。名前では警察手帳となっているが、刑事にとって手帳は神聖なものでもある。そこまでこだわりは持っていない巌鉄ではあるが、坂田の自由帳になるのは不本意だ。
――明日。グラウンドゼロで。
その店名は記憶に新しい。雨立街にある坂田御用達の店だ。なによりもマスターの癖が強く、また【コレクター】事件の舞台にもなったから、嫌でも覚えている。しかしながら、あんな治安の悪いところに呼び出して大丈夫だろうか。巌鉄の不安を察したかのように、坂田が口を開く。メモをするのが面倒になったのか。ならば最初からそれを一貫してほしい。
「ファミレスだと誰に聞かれてるか分からねぇからな。誰にも聞かれたくねぇ話をするなら、グラウンドゼロがいい」
囮捜査はあくまでも非公式なものだし、当たり前だが法令にも抵触する。ゆえに、可能な限り秘密裏にするのが好ましい。それを考慮して言っているのであれば、巌鉄もその意見には大いに賛成だ。
「待ち合わせは雨立街にある店なんだが、不安なら近くまで迎えに行く――」
舞香との通話を終えると、巌鉄は小さく溜め息を漏らした。舞香は乗り気だし、囮役も快く引き受けてくれることだろう。しかしながら、やはり危険が伴ってしまうことが、巌鉄の中では引っかかっていた。その辺りのことも含めて、綿密に話し合いをしておいたほうがいい。
「さて、それじゃあ、ある程度の撒き餌をしておかねぇとなぁ」
坂田はそう言うと、くわえ煙草のまま立ち上がり「それじゃ、当日グラウンドゼロでな」と、少年課から姿を消した。その後ろ姿を眺めながら溜め息を漏らすも、しかし巌鉄はどこか坂田に期待を抱いていたのであった。
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