上 下
60 / 133
第二話 Q&A【事件編】

5

しおりを挟む
 巌鉄は自分でもかなりいいところを突いたのではないかと思っていた。しかしながら、どうやら事情が多少異なるようだ。舞香は苦笑いを浮かべると「当たらずとも遠からずってところかな」と前置きをしてから続けた。

「あの子、実は今でも援交まがいのことをしててさ。働き始めたはいいけど、やっぱり高校の時に援交してたせいで金銭感覚がどこかおかしくて。仕事の給料じゃ全然足りなかったみたい」

 千秋の近況までは知らないが、高校時代に援交へと走ってしまった弊害が、更生されたと思われた現在まで尾を引いていたらしい。いや、同じ過ちを繰り返していたということは、更生できていなかったということか。そもそも、何をもってして更生したと言えるのか。独り立ちして、自分の力だけで生活できるようになった時だろうか。

「それで、足りない分は援交でか――もう高校生でもなんでもねぇから、売春って言ったほうがいいか。まぁ、援助交際も売春に変わりないんだが、呼び方をライトにするだけで印象が変わる。そのうち、売春までライトな呼ばれ方をしないだろうかと心配だよ」

 ようやく葬式が始まったのか、坊主の読経が聞こえ始めた。お経に合わせて叩かれる木魚の音。あれがなんだか間抜けなような聞こえるのは、多分巌鉄だけなのであろう。

「あぁ、すまん。話がそれたな」

 舞香が返答に困っているように見えた巌鉄は、ようやく自分の話が脱線しかけていることに気づき、進路の修正をした。舞香が口を開く。

「それで、最近知り合った客に気に入られちゃったみたいでさ。家の前で待ち伏せされたりしていたみたい」

 舞香の言葉に「家の前?」と、ほぼほぼ無意識に辺りを見回す。現在、巌鉄達がいるところこそ、家の前というやつだが、怪しげな人影は見当たらない。というか、葬儀が始まっても家の中に入れないでいるのは、巌鉄と舞香だけだった。

「あ、家の前っていっても、千秋が住んでたアパートの部屋の前ね。それと、職場にまで姿を現していたみたい」

 色恋沙汰からの付きまとい。それが発展して、最終的に殺人事件にまで発展したケースがある。最近になって世に認識されはじめたが、ストーカー殺人と呼ばれるものだ。

「それ、完全なストーカーってやつだな。現状、捜査が難しいケースでもある。まさか、そのストーカーが彼女を?」

 舞香はゆるく首を横に振った。

「断言はできないけど、千秋が付きまとわれていたのは事実だし、もしかすると、その男の仕業かもしれないって思って」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

病院の僧侶(プリースト) と家賃という悪夢にしばられた医者

加藤かんぬき
ミステリー
 僧侶サーキスは生き別れた師匠を探す旅の途中、足の裏に謎の奇病が出現。歩行も困難になり、旅を中断する。  そして、とある病院で不思議な医者、パディ・ライスという男と出会う。  中世時代のヨーロッパという時代背景でもありながら、その医者は数百年は先の医療知識と技術を持っていた。  医療に感銘を受けた僧侶サーキスはその病院で働いていくことを決心する。  訪れる患者もさまざま。  まぶたが伸びきって目が開かない魔女。  痔で何ものにもまたがることもできなくなったドラゴン乗りの戦士。  声帯ポリープで声が出せなくなった賢者。  脳腫瘍で記憶をなくした勇者。  果たしてそのような患者達を救うことができるのか。  間接的に世界の命運は僧侶のサーキスと医者パディの腕にかかっていた。  天才的な技術を持ちながら、今日も病院はガラガラ。閑古鳥が鳴くライス総合外科病院。  果たしてパディ・ライスは毎月の家賃を支払うことができるのか。  僧侶のサーキスが求める幸せとは。  小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。

暗闇の中の囁き

葉羽
ミステリー
名門の作家、黒崎一郎が自らの死を予感し、最後の作品『囁く影』を執筆する。その作品には、彼の過去や周囲の人間関係が暗号のように隠されている。彼の死後、古びた洋館で起きた不可解な殺人事件。被害者は、彼の作品の熱心なファンであり、館の中で自殺したかのように見せかけられていた。しかし、その背後には、作家の遺作に仕込まれた恐ろしいトリックと、館に潜む恐怖が待ち受けていた。探偵の名探偵、青木は、暗号を解読しながら事件の真相に迫っていくが、次第に彼自身も館の恐怖に飲み込まれていく。果たして、彼は真実を見つけ出し、恐怖から逃れることができるのか?

夕闇怪異物語

swimmy
ホラー
ある日、深淵を身に纏っているような真っ黒な木と出遭った。その日以来、身体に増えていく不可解な切り傷。 俺は、心霊相談を受け付けていると噂される占い部の部室のドアを叩いた。 病的なまでに白い肌。 夕焼けを宿すような鮮やかな紅い瞳。 夕闇鴉と名乗る幽霊のような出立ちの少女がそこに立っていた。 『それは幽霊ではない、恐らく怪異の仕業よ』 爛々と目を輝かせながら言い放つ彼女との出逢いから、事態は悪化の一途を辿っていく。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 学園×青春×ホラーな物語です。 章ごとに話が区切られており、1話完結なので、どこからでも気軽に読めます。

〘完〙婚約者が溺愛してきますが、わたくし悪役令嬢かもしれません

hanakuro
恋愛
魔法の王国「プロメア」 主人公のリリスはたまに夢を見ていた。彼女はその夢の光景に、どこか見覚えのあるような気もしていた。 そしてやがて悪夢に魘されるようになる。その悪夢の主人公はリリス。彼女の夢は現実となり、悪役令嬢として振る舞ってしまうのか。はたまた溺愛してくる婚約者や友人たちの手を借り、それを回避できるのか。 彼女が可愛らしい聖獣や一癖も二癖もある魔女などいろんな生き物や友人たちに出会い、成長していくそんな物語である。 ◇◇◇◇◇ 自身の想像を文字にした初の長編です。 思い付きをパッと文章にしてるので、整合性が取れない部分があるかもしれません。 それも初心者故と、温かい目で読んでいただけたら嬉しいです。

仏眼探偵II ~幽霊タクシー~

菱沼あゆ
ミステリー
「雨でもないのに、傘を差した男がタクシーに乗ってくるんです……」  ※すみません(^^;   ラストシーンで名前間違えてました。

短い怖い話 (怖い話、ホラー、短編集)

本野汐梨 Honno Siori
ホラー
 あなたの身近にも訪れるかもしれない恐怖を集めました。 全て一話完結ですのでどこから読んでもらっても構いません。 短くて詳しい概要がよくわからないと思われるかもしれません。しかし、その分、なぜ本文の様な恐怖の事象が起こったのか、あなた自身で考えてみてください。 たくさんの短いお話の中から、是非お気に入りの恐怖を見つけてください。

愛情探偵の報告書

雪月 瑠璃
ミステリー
探偵 九条創真が堂々参上! 向日葵探偵事務所の所長兼唯一の探偵 九条創真と探偵見習いにして探偵助手の逢坂はるねが解き明かす『愛』に満ちたミステリーとは? 新人作家 雪月瑠璃のデビュー作!

庭木を切った隣人が刑事訴訟を恐れて小学生の娘を謝罪に来させたアホな実話

フルーツパフェ
大衆娯楽
祝!! 慰謝料30万円獲得記念の知人の体験談! 隣人宅の植木を許可なく切ることは紛れもない犯罪です。 30万円以下の罰金・過料、もしくは3年以下の懲役に処される可能性があります。 そうとは知らずに短気を起こして家の庭木を切った隣人(40代職業不詳・男)。 刑事訴訟になることを恐れた彼が取った行動は、まだ小学生の娘達を謝りに行かせることだった!? 子供ならば許してくれるとでも思ったのか。 「ごめんなさい、お尻ぺんぺんで許してくれますか?」 大人達の事情も知らず、健気に罪滅ぼしをしようとする少女を、あなたは許せるだろうか。 余りに情けない親子の末路を描く実話。 ※一部、演出を含んでいます。

処理中です...