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第一話 コレクター【事件編】

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 腕をあらぬ方向に捻られた男は、必死になって抜け出そうとはするが、しかしびくともしないらしい。みるみるうちに顔が青ざめていく。それでも、巌鉄は手を止めない。

「簡単なことだ。日本の警察はしがらみのせいで優しすぎるんだよ。海外なんかじゃ、犯人を制圧するために最悪殺すことだってあるのに、日本じゃどんな凶悪犯相手でも、やれ人権だとか、そんなふざけたもんのせいで、殺すことはもちろん、傷つけることさえためらわれる」

 完全に変な方向へと曲がってしまった腕、ミシミシと嫌な音が聞こえるのは気のせいではない。銀山達は呆気に取られてしまっているようで、ただただ巌鉄の一人舞台が続く。いいや、呆気に取られてしまったのは楠野達も同じか。

「どんな悪いことしても、命だけは保証される国なんだよ。もし命が奪われるとしても、馬鹿みたいに長い時間かけて裁判をして、死刑判決が出て、お国のお偉さんが判子を押すまでと時間がかかる。死刑囚が獄中で老衰とか、ふざけた話だと思わないか?」

 とうとう、骨が折れるような音が辺りに響き、白目を剥いた男がその場に崩れ落ちた。

「傷つけたら傷つけられても文句は言えない。殺したら殺されても仕方がねぇんだよ。そんな等価交換さえ、この国じゃ認められてねぇ。だから、お前達みたいなのがのさばる」

 ふと視線を上げた巌鉄の表情に、銀山達は明らかに狼狽した様子だった。はたで見ていた楠野でさえ、巌鉄の鋭い視線に背筋が冷たくなった。まるで全てを見透かしているかのような眼光は、銀山達を牽制するには充分すぎたらしい。

「警察が出てくるとなると面倒だ。おい、出直すぞ」

 舌打ちをすると、銀山はぽつりと呟いて店の外へと向かう。それが合図だったかのごとく、取り巻き達も店の外へ。その光景を眺めつつ、坂田は笑みを浮かべていた。

 床に崩れ落ちて動かなくなってしまった仲間を、最後に退店することになった男が抱き上げる。巌鉄はそちらに視線は向けずに口を開いた。

「おい、そいつはただ関節が外れてるだけだからよ、病気連れて行くより、接骨院みたいなところのほうが早いぞ」

 どうやら関節を外しただけのようだったが、先ほどの音を思い出すと恐ろしい。男は小さく「はい」と漏らすと、すっかり大人しくなってしまった仲間を連れて、そそくさと店を出て行った。

「あー、やっちまったなぁ。これだけの大衆の中で、あれはまずいよなぁ」

 後悔するように呟く巌鉄。しかしながら、銀山達が店の外に出て行った直後、ファミレス内に拍手が巻き起こった。
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