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第二十四話
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「エマ、何を言っているの? 貴女死ぬ気?」
信じられない者を見るような目でアネットに見られ、即座に首を振る。護衛に徹していたウィリアムや騎士からも同じような雰囲気を感じ取って否定の言葉を口にした。
「死ぬ気はないわ。でも今の私なら出来ると思うの」
最上級治癒魔法では、『ザイル』を用いる魔法よりもさらに範囲を広くし、多くの人に治癒魔法をかけることができる。このような大規模な魔物討伐の場においてはかなり有効な手だ。しかしアネット達の反応のように、普通の人が発動できる魔法ではない。
呪文の中に『エイウス』を使用するのは難易度で表せば中級程度の治癒魔法。対象は一人だけだが、治癒魔法の才がある者ならば、練習すれば絶対に使えるようになる魔法だ。
そして『ザイル』は上級魔法だ。これは『エイウス』と違って複数人に治癒を施す魔法のため、一人一人にあった魔力操作が必要となる。そして魔力量も『ザイル』の数倍は必要となる。
最後にエマが今発言した最上級治癒魔法は『オムニア』を呪文の中に入れるものだ。己の意思で範囲を指定することができ、魔力が続く限り、癒しをその範囲にいる仲間全員に与えることができる反則的な治癒魔法だ。しかし強力な魔法にはデメリットが必ず存在する。『オムニア』の呪文の中で使用する最上級治癒魔法のデメリット。それは己の意思で範囲をしたら最後、その範囲にいる仲間全員を治癒し終わるまで魔法を止められないということだ。即ち今回の魔物討伐の場合、魔物を討伐し終わるか、もしくは一瞬でも怪我を負った者がゼロにならないと魔法は発動し続けたままとなる。そのまま魔力が枯渇してしまえば、待つのは死のみだ。
『オムニア』を用いる最上級治癒魔法は、治癒魔法師となって使い方を習いはするものの、余程のことがない限り使用することを禁じられている魔法でもある。『オムニア』を用いる治癒魔法は他の魔法と明らかに違う相違点がある。それは治癒魔法を発動させた本人が一度に出せる最大魔力量で魔法が発動するということだ。つまり人によって効果が違ってくるわけだ。エマの場合は魔力過多症になってから、魔力の放出量を出来るだけ多く出せるようにと練習を重ねてきた。今の限界はエマでもいまいち把握をしていないが、それなりに出せる自負はある。
(うん、大丈夫)
体の中で増え続ける魔力と、放出の上限を上げるためにこつこつと練習してきた日々。
魔物討伐に同行する前のエマだったら、使おうとすらしない魔法だった。
でも今は違う。魔力が増幅し続けている今なら、使えると自信を持って言えた。常に増え続ける魔力を消費でき、騎士達全員を癒すことができる一石二鳥の魔法と言える。これだけの人数に治癒魔法をかけるのは初めてだから、魔力操作に不安が残るが、その点についてはエマが頑張る部分だ。
それにもし失敗してもある程度の怪我は治し終わった後な上に、治癒魔法が使えるアネットが控えている。
「アネット、私を信じて」
魔力面については信じて、というしかない。ここでもしエマが魔力過多症の話を切り出せば、アネットやウィリアムはエマを強制送還させるだろう。
あくまでも真剣であることを伝えるために、アネットの瞳を真っすぐ見て話す。アネットも逸らさずエマを見返してきたが、本気が伝わったのか大きくため息をついた。
「エマは一度言い出したら聞かないものね」
「それが私だもの」
「……わかったわ」
「ありがとう、アネット」
アネットの了承を終え、体内にある魔力量を確認する。
(あれだけ魔力を消費したはずなのに、まだこれだけ、いえ、いつも以上の量があるわね……)
魔力を定期的に治癒魔法で使っていて良かったと内心安堵する。
(これだけある上に、ここからさらに増えていくことを想定したら……)
そこまで考えていると、ウィリアムからお嬢様、と呼ばれた。
「どうしたの?」
何かよくない事態でも起こったのか、と体に緊張を走らせる。しかしそうではなかったようで、ウィリアムは少しためらった様子を見せ、エマに耳打ちをした。
「魔力過多症、進行してはおりませんか?」
「っ……!? そんなこと、ないわ」
誰にも気づかれてはいないと思っていた。まさかの言葉をかけられ、肩をびくりと動かしてしまう。そのあとすぐに冷静な声で否定をしたが、エマの動揺を見抜けないウィリアムではなかった。
「その様子、間違いなさそうですね」
物心つく前からエマに仕えているのだ。これくらいの嘘、ウィリアムが見抜けないわけない。動揺してしまったのは、エマのミスだ。
ここで隠しても無駄な時間を過ごすだけだ。だからエマは素直にウィリアムだけに白状することにした。
「そうよ。でもどうして気づいたの?」
「治癒魔法をかけている時は普通の顔色でしたのに、ここでアネット様と足を止められてからどんどん顔色が悪くなっていることに気づきまして。お嬢様、帰りましょう?」
「嫌よ」
「我儘を言っている場合ではないとわかっているでしょう?」
「ええ、わかっているわ。それでもよ。私はここを離れるわけにはいかない」
「なぜそこまで……」
「別に意地になっているわけじゃないわ。よく考えてみてほしいの。私が今ここを去ったところで、すぐに代わりの治癒魔法師が来るわけでもない。私の魔力は減らないのよ。むしろここで使用しなければ魔力過多症によってこの体を侵されてしまうでしょうね」
「それは……っ」
エマの代わりに治癒魔法師を派遣するにも、手間と時間がかかる。命の危険がある場所に行くことへの念書を提出しなければならないし、治癒魔法師を選出する時間もいる。それに、エマ自身がここを離れたら体が魔力過多症に侵されてしまうのだ。自身にかけている治癒魔法をもっと増大させればいいだけの話かもしれないが、体にはやはりそれなりの負担がかかってしまう。そんなことをするくらいだったら、騎士たちを助けるために治癒魔法を使いたい。
ウィリアムはどうするべきかを秤にかけてため息をついた。
「危険だと思ったら、どんなことをしてでもお嬢様をお止めします」
「さすが素敵な相棒ね。ありがとう、ワトソン君」
「……こんなときだけ、その呼び方はずるいですよ、エマ様」
信じられない者を見るような目でアネットに見られ、即座に首を振る。護衛に徹していたウィリアムや騎士からも同じような雰囲気を感じ取って否定の言葉を口にした。
「死ぬ気はないわ。でも今の私なら出来ると思うの」
最上級治癒魔法では、『ザイル』を用いる魔法よりもさらに範囲を広くし、多くの人に治癒魔法をかけることができる。このような大規模な魔物討伐の場においてはかなり有効な手だ。しかしアネット達の反応のように、普通の人が発動できる魔法ではない。
呪文の中に『エイウス』を使用するのは難易度で表せば中級程度の治癒魔法。対象は一人だけだが、治癒魔法の才がある者ならば、練習すれば絶対に使えるようになる魔法だ。
そして『ザイル』は上級魔法だ。これは『エイウス』と違って複数人に治癒を施す魔法のため、一人一人にあった魔力操作が必要となる。そして魔力量も『ザイル』の数倍は必要となる。
最後にエマが今発言した最上級治癒魔法は『オムニア』を呪文の中に入れるものだ。己の意思で範囲を指定することができ、魔力が続く限り、癒しをその範囲にいる仲間全員に与えることができる反則的な治癒魔法だ。しかし強力な魔法にはデメリットが必ず存在する。『オムニア』の呪文の中で使用する最上級治癒魔法のデメリット。それは己の意思で範囲をしたら最後、その範囲にいる仲間全員を治癒し終わるまで魔法を止められないということだ。即ち今回の魔物討伐の場合、魔物を討伐し終わるか、もしくは一瞬でも怪我を負った者がゼロにならないと魔法は発動し続けたままとなる。そのまま魔力が枯渇してしまえば、待つのは死のみだ。
『オムニア』を用いる最上級治癒魔法は、治癒魔法師となって使い方を習いはするものの、余程のことがない限り使用することを禁じられている魔法でもある。『オムニア』を用いる治癒魔法は他の魔法と明らかに違う相違点がある。それは治癒魔法を発動させた本人が一度に出せる最大魔力量で魔法が発動するということだ。つまり人によって効果が違ってくるわけだ。エマの場合は魔力過多症になってから、魔力の放出量を出来るだけ多く出せるようにと練習を重ねてきた。今の限界はエマでもいまいち把握をしていないが、それなりに出せる自負はある。
(うん、大丈夫)
体の中で増え続ける魔力と、放出の上限を上げるためにこつこつと練習してきた日々。
魔物討伐に同行する前のエマだったら、使おうとすらしない魔法だった。
でも今は違う。魔力が増幅し続けている今なら、使えると自信を持って言えた。常に増え続ける魔力を消費でき、騎士達全員を癒すことができる一石二鳥の魔法と言える。これだけの人数に治癒魔法をかけるのは初めてだから、魔力操作に不安が残るが、その点についてはエマが頑張る部分だ。
それにもし失敗してもある程度の怪我は治し終わった後な上に、治癒魔法が使えるアネットが控えている。
「アネット、私を信じて」
魔力面については信じて、というしかない。ここでもしエマが魔力過多症の話を切り出せば、アネットやウィリアムはエマを強制送還させるだろう。
あくまでも真剣であることを伝えるために、アネットの瞳を真っすぐ見て話す。アネットも逸らさずエマを見返してきたが、本気が伝わったのか大きくため息をついた。
「エマは一度言い出したら聞かないものね」
「それが私だもの」
「……わかったわ」
「ありがとう、アネット」
アネットの了承を終え、体内にある魔力量を確認する。
(あれだけ魔力を消費したはずなのに、まだこれだけ、いえ、いつも以上の量があるわね……)
魔力を定期的に治癒魔法で使っていて良かったと内心安堵する。
(これだけある上に、ここからさらに増えていくことを想定したら……)
そこまで考えていると、ウィリアムからお嬢様、と呼ばれた。
「どうしたの?」
何かよくない事態でも起こったのか、と体に緊張を走らせる。しかしそうではなかったようで、ウィリアムは少しためらった様子を見せ、エマに耳打ちをした。
「魔力過多症、進行してはおりませんか?」
「っ……!? そんなこと、ないわ」
誰にも気づかれてはいないと思っていた。まさかの言葉をかけられ、肩をびくりと動かしてしまう。そのあとすぐに冷静な声で否定をしたが、エマの動揺を見抜けないウィリアムではなかった。
「その様子、間違いなさそうですね」
物心つく前からエマに仕えているのだ。これくらいの嘘、ウィリアムが見抜けないわけない。動揺してしまったのは、エマのミスだ。
ここで隠しても無駄な時間を過ごすだけだ。だからエマは素直にウィリアムだけに白状することにした。
「そうよ。でもどうして気づいたの?」
「治癒魔法をかけている時は普通の顔色でしたのに、ここでアネット様と足を止められてからどんどん顔色が悪くなっていることに気づきまして。お嬢様、帰りましょう?」
「嫌よ」
「我儘を言っている場合ではないとわかっているでしょう?」
「ええ、わかっているわ。それでもよ。私はここを離れるわけにはいかない」
「なぜそこまで……」
「別に意地になっているわけじゃないわ。よく考えてみてほしいの。私が今ここを去ったところで、すぐに代わりの治癒魔法師が来るわけでもない。私の魔力は減らないのよ。むしろここで使用しなければ魔力過多症によってこの体を侵されてしまうでしょうね」
「それは……っ」
エマの代わりに治癒魔法師を派遣するにも、手間と時間がかかる。命の危険がある場所に行くことへの念書を提出しなければならないし、治癒魔法師を選出する時間もいる。それに、エマ自身がここを離れたら体が魔力過多症に侵されてしまうのだ。自身にかけている治癒魔法をもっと増大させればいいだけの話かもしれないが、体にはやはりそれなりの負担がかかってしまう。そんなことをするくらいだったら、騎士たちを助けるために治癒魔法を使いたい。
ウィリアムはどうするべきかを秤にかけてため息をついた。
「危険だと思ったら、どんなことをしてでもお嬢様をお止めします」
「さすが素敵な相棒ね。ありがとう、ワトソン君」
「……こんなときだけ、その呼び方はずるいですよ、エマ様」
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