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第九話
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ウィルフレッドから念書をもらった後も、診療は問題なく終わった。いや、問題なく終われたという表現の方が正しいのかもしれない。診療中は雑念で失敗しないよう、とにかく魔物討伐の件を考えないようにしていた。
勤務時間外になったことをウィリアムから教えられた途端、どっと疲れが押し寄せてきた。そんなエマを見かねたのか、ウィリアムはハーブティーをすっと差し出してくれた。
「これをどうぞ。心が休まります」
「気が利くわね」
「私はお嬢様の侍従ですから」
ウィリアムからハーブティーを受け取り、口をつける。すうっとした香りが、飲むたびに体に広がっていくのを感じた。
「ねぇ、ウィリー」
「はい」
「貴方は私の決断に、反対するのかと思っていたわ」
喉が渇いていたのか、受け取ったハーブティーはすぐに飲み干してしまった。ティーカップをウィリアムに渡しながら、ウィリアムの瞳をのぞく。
「私はどんな時であっても、お嬢様の味方であり続けると心に決めていますから」
「そうなの。貴方の感情は無視をしてでも?」
ウィルフレッドと魔物討伐を話していたとき、背後からは反対だというオーラが嫌というほど伝わってきた。それを正直に伝えれば、ウィリアムは胸元から一枚の紙を出してエマに見せてくれた。
ウィリアムが持つ紙は、エマがウィルフレッドからもらった書類と同じものだった。
「……念書をなぜウィリーが?」
「なぜ、とおっしゃられましても。私はお嬢様の傍に控える存在ですから。内心を吐露するならば、お嬢様には危険がない場所でずっと幸せに過ごしてほしいです。ですがお嬢様は、この状況でそれを良しとしないでしょう? ならば少しでも私がお嬢様を守る盾になれればと思った次第です」
念書にはすでにウィリアムの署名がされている。どこでそれを入手したのかは知らないが、ウィリアムはエマが魔物討伐に行くと言葉にした時点で、ある程度覚悟を決めていたのかもしれない。それでもエマは問いたださずにはいられなかった。
「ウィリーがそこまでする必要はないのよ? 今回の魔物討伐はA級なの。命を落とすかもしれない危険な場所なのよ?」
治癒魔法師になる際についてきてくれただけでも嬉しかった。ありがたかった。ウィリアムという存在が、エマを何度も助けてくれた。
ウィリアムから念書を取り上げようとするが、その前に懐へ仕舞われてしまう。
「私はお嬢様の侍従ですから」
ハーブティーを渡してくれた時と同じ言葉を、ウィリアムはもう一度口にした。それも先程よりもうんと柔らかい口調で。
「分不相応なことを申しますと、お嬢様が物心つく前からこうして控えさせて頂いておりますが、私はお嬢様のことを妹のように可愛がっております。そのような存在であるお嬢様を一人で行かせられるわけがございません。またこう見えても、私は隊長クラスの騎士くらいには強い自負があります。それに万が一にでも怪我をしても、お嬢様が癒してくれるのでしょう?」
「もちろんよ!! それに私もウィリーのことを兄のように思っているわ」
「でしたら心配いりません。互いに互いを守りつつ、お嬢様は騎士たちを癒せばいい。簡単なことではありませんか」
エマが主人のはずなのに、いつもこうしてウィリアムに言いくるめられてしまう。思えば、治癒魔法師として働くと決めたときもそうだった。
「わかったわ。でもこれだけは約束してちょうだい。決して身を挺して私も守らないこと。守るなら自分を守った上で、私を守って」
「難しい注文ですね。ですがそれがお嬢様のお望みであるのならば」
ウィリアムは肩膝をつき、エマに忠誠の姿勢をとる。エマが手を差し出せば、まるで壊れ物を扱うかのように手を取り、その甲にキスをした。
勤務時間外になったことをウィリアムから教えられた途端、どっと疲れが押し寄せてきた。そんなエマを見かねたのか、ウィリアムはハーブティーをすっと差し出してくれた。
「これをどうぞ。心が休まります」
「気が利くわね」
「私はお嬢様の侍従ですから」
ウィリアムからハーブティーを受け取り、口をつける。すうっとした香りが、飲むたびに体に広がっていくのを感じた。
「ねぇ、ウィリー」
「はい」
「貴方は私の決断に、反対するのかと思っていたわ」
喉が渇いていたのか、受け取ったハーブティーはすぐに飲み干してしまった。ティーカップをウィリアムに渡しながら、ウィリアムの瞳をのぞく。
「私はどんな時であっても、お嬢様の味方であり続けると心に決めていますから」
「そうなの。貴方の感情は無視をしてでも?」
ウィルフレッドと魔物討伐を話していたとき、背後からは反対だというオーラが嫌というほど伝わってきた。それを正直に伝えれば、ウィリアムは胸元から一枚の紙を出してエマに見せてくれた。
ウィリアムが持つ紙は、エマがウィルフレッドからもらった書類と同じものだった。
「……念書をなぜウィリーが?」
「なぜ、とおっしゃられましても。私はお嬢様の傍に控える存在ですから。内心を吐露するならば、お嬢様には危険がない場所でずっと幸せに過ごしてほしいです。ですがお嬢様は、この状況でそれを良しとしないでしょう? ならば少しでも私がお嬢様を守る盾になれればと思った次第です」
念書にはすでにウィリアムの署名がされている。どこでそれを入手したのかは知らないが、ウィリアムはエマが魔物討伐に行くと言葉にした時点で、ある程度覚悟を決めていたのかもしれない。それでもエマは問いたださずにはいられなかった。
「ウィリーがそこまでする必要はないのよ? 今回の魔物討伐はA級なの。命を落とすかもしれない危険な場所なのよ?」
治癒魔法師になる際についてきてくれただけでも嬉しかった。ありがたかった。ウィリアムという存在が、エマを何度も助けてくれた。
ウィリアムから念書を取り上げようとするが、その前に懐へ仕舞われてしまう。
「私はお嬢様の侍従ですから」
ハーブティーを渡してくれた時と同じ言葉を、ウィリアムはもう一度口にした。それも先程よりもうんと柔らかい口調で。
「分不相応なことを申しますと、お嬢様が物心つく前からこうして控えさせて頂いておりますが、私はお嬢様のことを妹のように可愛がっております。そのような存在であるお嬢様を一人で行かせられるわけがございません。またこう見えても、私は隊長クラスの騎士くらいには強い自負があります。それに万が一にでも怪我をしても、お嬢様が癒してくれるのでしょう?」
「もちろんよ!! それに私もウィリーのことを兄のように思っているわ」
「でしたら心配いりません。互いに互いを守りつつ、お嬢様は騎士たちを癒せばいい。簡単なことではありませんか」
エマが主人のはずなのに、いつもこうしてウィリアムに言いくるめられてしまう。思えば、治癒魔法師として働くと決めたときもそうだった。
「わかったわ。でもこれだけは約束してちょうだい。決して身を挺して私も守らないこと。守るなら自分を守った上で、私を守って」
「難しい注文ですね。ですがそれがお嬢様のお望みであるのならば」
ウィリアムは肩膝をつき、エマに忠誠の姿勢をとる。エマが手を差し出せば、まるで壊れ物を扱うかのように手を取り、その甲にキスをした。
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