上 下
126 / 136
第二章

六十四話

しおりを挟む


「誰かの召喚獣か。残念、君では役不足だ!」

「どうかしら?」

 コーディリアの姿を一瞥し、興味なさげに視線を彷徨わす。ベルの姿を探しているのだろう。体はベルの召喚獣である三人の魔法で拘束されているというのに、余裕の行動だ。

(まあ本当に余裕なんだろうけど)

 クライシスはベルの知らない力をたくさん持っている。でなければヴィータもここまでやらるはずがない。

「私の力を侮らないでくださる? ベルの召喚獣たちと引けは取らないわよ」

「別に比較しているつもりではないよ。ただ、本心を呟いたまでだ」

「後で後悔しても遅いわよ」

「それはこっちの台詞、とでも言っておこうか」

 コーディリアが指をパチンと鳴らすと、光の矢が一斉にクライシスめがけて飛んでいった。一本でも当たればただでは済まない攻撃が、数十本も飛んでいく。

「そんな脆弱な光が僕に届くわけがないでしょ?」

 見下すような笑みを口元に浮かべ、魔法を詠唱する。

「『ダークアロー』」

 光に対抗できるのは闇。だからこそ闇の矢を幾つも魔法で出現させたのだろう。それぞれの闇の矢が光の矢に向かって相打ちとなる。

「なっ!!」

 コーディリアの光の矢の威力が弱かったわけではない。クライシスの魔法の使い方が、想像以上に洗練されたものだった。召喚獣が得意とする魔法攻撃に人間の魔法が相打ちになることは、余程の鍛錬を積まなきい限り難しい。

(これはちょっと計算外、かも)

 しかし戦闘中に計算が狂うことなんてよくあることだ。

「あれ、攻撃はこれだけで終わり? つまんないなあ」

 そう言いながらクライシスは自身を拘束する魔法を全て弱点を突く形で解いていった。四つの魔法に拘束されているせいで手間と時間がかかっているようだ、拘束を何重にもして良かったと内心息をつく。もちろん息をつきながら、それをぼけっとみているわけではないが。

 エリオットとラヴィックが剣を手に、それぞれ木々の繁みから飛び出した。二人が飛び出した繁みは、クライシスの背後。足音で気づかれないように、コーディリアが再び攻撃を仕掛けていた。

「だから君の攻撃は効かないってば」

「そうかしら? 何度もやってみないと分からないものよ?」

「頭の悪い召喚獣だね……ああ、もしかして、誰かの足音を消しているとかそんな感じかな?」

 全ての拘束を解いてしまったクライシスは、コーディリアと戦っている最中だと言うのに視線を後ろに向けた。

「やっぱり。召喚獣だけでいるはずがないもんね。大切な大切な召喚獣なんだから」

 大切な大切な召喚獣。

 その言葉は、どこか自身を責めているように聞こえた。

 闇の矢をさらに量産し、エリオットとラヴィックに向けて放った。

「セス!」

 これはまずいと判断し、急いでロセウスに結界を指示する。

 キン、と甲高い音を立てて結界が攻撃を凌いでくれたが、闇の矢の威力が相当高かったからなのかすぐに結界は消滅してしまった。

(危なかった)

 一秒でも遅れていたら、二人に当たっていたところだった。

「ああ、星野鈴の召喚獣の結界か」

 確実に当てたと思っていたのだろう。二人が無事な姿を見て、眉間に皺を寄せる。

「邪魔だなあ。番人との戦いで結構魔法使っちゃったから、今日はあんまり魔法使いたくないってのに」

 その呟きにふと疑問を抱く。

(確か前に戦ったとき、クライシスは言っていた。魔法を使うには代償が必要だって。その代償がどんなものか分からないけど、代償を気にしてるってことは魔法をたくさん使わせた方がいいってこと?)

 使えば使うほど代償が大きくなるのなら、クライシスは魔法を最終的には使えなくなる可能性がある。

「セス、アル、アーテ。クライシスに魔法をたくさん使わせて。手段はどういうふうでも問わない」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~

ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。 2021/3/10 しおりを挟んでくださっている皆様へ。 こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。 しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗) 楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。 申しわけありません。 新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。 修正していないのと、若かりし頃の作品のため、 甘めに見てくださいm(__)m

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

ヤンデレ騎士団の光の聖女ですが、彼らの心の闇は照らせますか?〜メリバエンド確定の乙女ゲーに転生したので全力でスキル上げて生存目指します〜

たかつじ楓*LINEマンガ連載中!
恋愛
攻略キャラが二人ともヤンデレな乙女ーゲームに転生してしまったルナ。 「……お前も俺を捨てるのか? 行かないでくれ……」 黒騎士ヴィクターは、孤児で修道院で育ち、その修道院も魔族に滅ぼされた過去を持つ闇ヤンデレ。 「ほんと君は危機感ないんだから。閉じ込めておかなきゃ駄目かな?」 大魔導師リロイは、魔法学園主席の天才だが、自分の作った毒薬が事件に使われてしまい、責任を問われ投獄された暗黒微笑ヤンデレである。 ゲームの結末は、黒騎士ヴィクターと魔導師リロイどちらと結ばれても、戦争に負け命を落とすか心中するか。 メリーバッドエンドでエモいと思っていたが、どっちと結ばれても死んでしまう自分の運命に焦るルナ。 唯一生き残る方法はただ一つ。 二人の好感度をMAXにした上で自分のステータスをMAXにする、『大戦争を勝ちに導く光の聖女』として君臨する、激ムズのトゥルーエンドのみ。 ヤンデレだらけのメリバ乙女ゲーで生存するために奔走する!? ヤンデレ溺愛三角関係ラブストーリー! ※短編です!好評でしたら長編も書きますので応援お願いします♫

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

処理中です...