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第二章
十八話
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「…………ん」
頭がぐるぐるとする。貧血に似たような症状を自覚しながら、ベルは目を覚ました。多少の気持ち悪さはあるが、大した問題ではない。
瞼を持ち上げ、少しずつ視界を広げていく。最初に視界に入ったのは召喚獣であり恋人である三人の顔だった。
「目が覚めたのかい? ベル」
「よかった、お嬢が目を開けてくれて」
「本当に、な」
「セス、アル、アーテ……、ここどこ?」
「ここは王城の一室だよ。何があったか覚えているかい?」
ベルと揃いの三対の金の瞳は、どれも心配そうにベルを見ていた。
「何があったか……、確か皆で建国祭を盛り上げたあと、出店を回ったよね。串焼きとパステルとケーキ。そうだ、その最後のケーキで……」
「ベルは毒を盛られたのよ」
「毒?」
声のする方向へ首から上を向ける。
そこにはエリオットたち四人が続きの部屋から、ベルの元まで歩いてくるところだった。
「ベル、心配したぜ。全く」
「ごめん、心配かけて」
大きな安堵の息をつくラヴィックに素直に謝った。
「ベル、顔を見せてちょうだい」
ベルはコーディリアが見やすいよう、アルブスの手を借りながら上半身を起こした。
「……うん、血を吐いてしまったせいで少し顔色は悪いけど、ある程度安静にしていればもう問題なさそうね」
コーディリアはベルの頬をその綺麗な手で包むなり、光の魔法を発動させた。コーディリアは光の魔法を得意とする。治療はもちろんのこと、原因を探ることもできるのだ。この魔法でベルを治してくれたのだろう。
「ありがとう」
「当然のことをしたまでよ。それよりも、ベルに使われていた毒だけれどね、テテケの花粉だったの」
「テテケ?」
聞いたことのない花の名前に首を傾げる。
「ベルが知らないのも無理はないわ。育成が難しいこともあってまず人間の手で育たないし、自然界でも見かけることの方が稀だもの。テテケという花自体には毒はないのだけれど、テテケが出す花粉が猛毒なのよ。その花粉は無味無臭の遅効性の毒でね、摂取して三十分ほどで効果が現れるの。普通の人間だったら、即あの世行きよ。ベルが助かったのは輝人だったから、この一点に尽きるわね」
ごくりと口内に溜まった唾を飲み込む。吐血をしたせいか、鉄の味がした。嫌な味に眉を寄せていると、ロセウスがコップを指しだしてくれた。
「飲むといい。果実水だから、少しはすっきりすると思うよ」
「ありがとう、セス」
ロセウスから受け取り、それをごくごくと飲み干す。余程喉が渇いていたからなのか、とても美味しく感じた。飲み終えた頃には口内から鉄の味は消えており、不快感がなくなる。
「それにしても、そんな猛毒の花粉をどこで手に入れたのやら……」
手を差し出してくれたロセウスにコップを渡し、ため息をつきながら出所に頭を悩ます。
「そこも疑問だけど、テテケの花粉は無味無臭ではあるけれど、それこそ転送、転移系の魔法を私たちに気づかれないように使わないと無理だわ。ベルが毒を摂取して倒れたあと、ラヴィックが気を利かせて買ってきたベルが食べたていたケーキと同じ種類のケーキや、私たちの食べていた残りのケーキも調べてみたけれど、どれにも毒の反応はなかったの。本当にベルだけを狙った犯行なのよ」
恨まれる覚えは何一つないが、住んでいた元の世界が一緒の人に恨まれている覚えは一つだけある。そう、クライシスだ。クライシスはなぜか龍脈から力を借りていたし、魔法の譲渡もしていた。
「皆に気づかれないように……」
そこまで考えてふと、クライシスが連れ去った一人の蜂蜜色の髪と瞳を持つ小柄な少女の名前を思い出す。
「ロゼリア・ラワーフ……」
この名前を良く知っているベルの召喚獣たちは、揃ってその瞳を細めて険しい表情をした。ラヴィックたちにも再会した日に、クライシスのことと合わせてロゼリアの情報は伝えている。そのため、何故その名前が出てきたのかベルに尋ねてきた。
「ケーキを注文をしている時に誰かの視線を感じたの。あとロゼリアの声がそのときに聞こえた気がして……。確証はないけどね。それにクライシスの性格や魔法の譲渡が出来ることは話したでしょ? クライシスは私たちの前から転移系の魔法を使ってロゼリアと一緒に姿を消している」
もし転移系の魔法をクライシスがロゼリアに譲渡をしていたとしたら。ロゼリアがテテケの花粉を誰にも気づかれることなく、ベルのケーキにだけ混入させることができる。
「疑う余地はありそうだな。だが、ベルはの状態は治療をしたと言っても、まだ万全ではない。体調が完全に戻るまでゆっくりしているといい。それまでは私たちの方で色々と調べてみるとしよう」
「ありがとう、エリック」
「気にするなって。ベル、俺たちだって仲間を傷つけられて、腸煮えくり返ってるんだ」
「ラヴィ……」
「そうそう。これはベルだけの問題じゃない。僕たちの問題でもあるんだから。だからベル、もっとロセウスたちだけじゃなくて、僕たちのことも頼ってね」
「そうよ。せっかく一緒にいるんだもの。具合が悪くなったらすぐに呼んでちょうだい。いいわね?」
「トトー、コーディリア……、皆、本当にありがとうっ……!!」
当たり前のように力を貸してくれる。そんな四人にベルは潤んだ瞳を人差し指で拭いながら、笑みを浮かべた。
頭がぐるぐるとする。貧血に似たような症状を自覚しながら、ベルは目を覚ました。多少の気持ち悪さはあるが、大した問題ではない。
瞼を持ち上げ、少しずつ視界を広げていく。最初に視界に入ったのは召喚獣であり恋人である三人の顔だった。
「目が覚めたのかい? ベル」
「よかった、お嬢が目を開けてくれて」
「本当に、な」
「セス、アル、アーテ……、ここどこ?」
「ここは王城の一室だよ。何があったか覚えているかい?」
ベルと揃いの三対の金の瞳は、どれも心配そうにベルを見ていた。
「何があったか……、確か皆で建国祭を盛り上げたあと、出店を回ったよね。串焼きとパステルとケーキ。そうだ、その最後のケーキで……」
「ベルは毒を盛られたのよ」
「毒?」
声のする方向へ首から上を向ける。
そこにはエリオットたち四人が続きの部屋から、ベルの元まで歩いてくるところだった。
「ベル、心配したぜ。全く」
「ごめん、心配かけて」
大きな安堵の息をつくラヴィックに素直に謝った。
「ベル、顔を見せてちょうだい」
ベルはコーディリアが見やすいよう、アルブスの手を借りながら上半身を起こした。
「……うん、血を吐いてしまったせいで少し顔色は悪いけど、ある程度安静にしていればもう問題なさそうね」
コーディリアはベルの頬をその綺麗な手で包むなり、光の魔法を発動させた。コーディリアは光の魔法を得意とする。治療はもちろんのこと、原因を探ることもできるのだ。この魔法でベルを治してくれたのだろう。
「ありがとう」
「当然のことをしたまでよ。それよりも、ベルに使われていた毒だけれどね、テテケの花粉だったの」
「テテケ?」
聞いたことのない花の名前に首を傾げる。
「ベルが知らないのも無理はないわ。育成が難しいこともあってまず人間の手で育たないし、自然界でも見かけることの方が稀だもの。テテケという花自体には毒はないのだけれど、テテケが出す花粉が猛毒なのよ。その花粉は無味無臭の遅効性の毒でね、摂取して三十分ほどで効果が現れるの。普通の人間だったら、即あの世行きよ。ベルが助かったのは輝人だったから、この一点に尽きるわね」
ごくりと口内に溜まった唾を飲み込む。吐血をしたせいか、鉄の味がした。嫌な味に眉を寄せていると、ロセウスがコップを指しだしてくれた。
「飲むといい。果実水だから、少しはすっきりすると思うよ」
「ありがとう、セス」
ロセウスから受け取り、それをごくごくと飲み干す。余程喉が渇いていたからなのか、とても美味しく感じた。飲み終えた頃には口内から鉄の味は消えており、不快感がなくなる。
「それにしても、そんな猛毒の花粉をどこで手に入れたのやら……」
手を差し出してくれたロセウスにコップを渡し、ため息をつきながら出所に頭を悩ます。
「そこも疑問だけど、テテケの花粉は無味無臭ではあるけれど、それこそ転送、転移系の魔法を私たちに気づかれないように使わないと無理だわ。ベルが毒を摂取して倒れたあと、ラヴィックが気を利かせて買ってきたベルが食べたていたケーキと同じ種類のケーキや、私たちの食べていた残りのケーキも調べてみたけれど、どれにも毒の反応はなかったの。本当にベルだけを狙った犯行なのよ」
恨まれる覚えは何一つないが、住んでいた元の世界が一緒の人に恨まれている覚えは一つだけある。そう、クライシスだ。クライシスはなぜか龍脈から力を借りていたし、魔法の譲渡もしていた。
「皆に気づかれないように……」
そこまで考えてふと、クライシスが連れ去った一人の蜂蜜色の髪と瞳を持つ小柄な少女の名前を思い出す。
「ロゼリア・ラワーフ……」
この名前を良く知っているベルの召喚獣たちは、揃ってその瞳を細めて険しい表情をした。ラヴィックたちにも再会した日に、クライシスのことと合わせてロゼリアの情報は伝えている。そのため、何故その名前が出てきたのかベルに尋ねてきた。
「ケーキを注文をしている時に誰かの視線を感じたの。あとロゼリアの声がそのときに聞こえた気がして……。確証はないけどね。それにクライシスの性格や魔法の譲渡が出来ることは話したでしょ? クライシスは私たちの前から転移系の魔法を使ってロゼリアと一緒に姿を消している」
もし転移系の魔法をクライシスがロゼリアに譲渡をしていたとしたら。ロゼリアがテテケの花粉を誰にも気づかれることなく、ベルのケーキにだけ混入させることができる。
「疑う余地はありそうだな。だが、ベルはの状態は治療をしたと言っても、まだ万全ではない。体調が完全に戻るまでゆっくりしているといい。それまでは私たちの方で色々と調べてみるとしよう」
「ありがとう、エリック」
「気にするなって。ベル、俺たちだって仲間を傷つけられて、腸煮えくり返ってるんだ」
「ラヴィ……」
「そうそう。これはベルだけの問題じゃない。僕たちの問題でもあるんだから。だからベル、もっとロセウスたちだけじゃなくて、僕たちのことも頼ってね」
「そうよ。せっかく一緒にいるんだもの。具合が悪くなったらすぐに呼んでちょうだい。いいわね?」
「トトー、コーディリア……、皆、本当にありがとうっ……!!」
当たり前のように力を貸してくれる。そんな四人にベルは潤んだ瞳を人差し指で拭いながら、笑みを浮かべた。
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