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第二章

十三話

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 十五人の騎士に囲まれながら、ベルたちは賑やかな王都に繰り出した。まだベルたちに気づいていない者たちは建国祭に頬を緩ませ、弾んだ声を誰もが出していた。

 最初の一人がベルたちに気づいたのはただの偶然だ。ナツゥーレの騎士団団長であるノーバンが、険しい顔をして辺りを見渡しているのを発見した。建国祭という楽しい祭りのはずなのに、なぜそんな顔をしているのだろうか、と気づいた者は首を傾げる。王都で行われる年に一回の大きな祭りとあってか、はしゃいで我を忘れる者もいない訳ではない。だからそんな者たちを取り締まるために目を光らせるだけなのかもしれない。

 しかしそれだけにしてはあまりにも厳しい表情をしすぎだ。それに騎士団団長という肩書きの通り、その地位は高く、その力の強さも知れ渡っている。新人たちにやらせるような街の見回りを、いくら人格が優れていて国民に人気がある団長でも、自ら率先して行うなど考えられなかった。その肩書きや地位があるのだから、国王であるエドアルドを護衛していてもおかしくはない。だから気になってまじまじと観察をしてしまった。

 ノーバンの周囲には何者かを囲うようにして、ナツゥーレの騎士の中でも精鋭中の精鋭と有名な騎士たちが十数人、誰もが厳しい表情をしていた。

 あの中に誰がいるんだと、その囲まれている者に俄然と興味が沸く。最初にノーバンに気づいた者以外にも、ノーバンたちの姿に気づき始め、ざわつきが大きくなる。そして囲っている人物がエドアルドたちではないのかとひそひそ話も聞こえ始めた。

 しかしすぐのひそひそ話は立ち消える。

 囲っている者の中から、可愛らしい女性の声が聞こえたからだ。

「ねぇ、何見る? どこに行きたい?」

 その声を辛うじて耳で拾った者は、心臓を思いっきり手で掴まれたかのような衝撃を受ける。

 その者はその声の主を知っていた。間違えるはずがなかった。先程まで王城のバルコニーに立つ人物を一目でも見ようと、遠く離れた街からわざわざ王都までやってきたのだから。

 朝から並んでその権利を獲得し、しっかりと己の両目で、建国祭を盛り上げるために素晴らしいショーを行った、ナツゥーレの輝人や他国の輝人たちを見てきたのだから。

 人垣をわけて、その姿を近くで見ようと前へと進む。もちろん騎士たちに睨まれないよう、最低限のマナーは守りつつの行動だ。ここで変に目立ってその姿を見れなくなったら意味がない。

 そして騎士と騎士の間から、その姿を拝見し、思わず涙をこぼしてしまった。

 白銀の長髪に輝人の証である金の瞳。ベル・ステライトがそこにいた。

 十年間眠り続けた自国の輝人。その輝人が目覚めたというビックニュースが国中をものすごい早さで駆け抜けたのは、数カ月前のこと。その噂を聞いた人達が一目でもその姿を見たい、と王都に人が例年の倍以上集中してしまったのも仕方がないだろう。宿泊施設を取るのも大変な有様だった。

 でもその苦労はバルコニーでベルの姿を見た途端吹き飛んでしまった。自国の輝人が目覚めた。その事実を己の両目で確かめることができたからだ。これだけで建国祭のためにはるばる王都まで来た甲斐があったというものだ。

 だというのに目と鼻の先に、その本人がいた。声を張っていないのに、その可愛らしい声が耳に届く。感動しない訳がなかった。

 その者が泣きながらベル様、と呟いていると、隣にいた者が何事だとその者の視線を辿る。次いでベルの存在に気づいてしまった者は驚きのあまり、大声でベルの名前を呼んでしまった。そこから波紋のように広がっていき、ベルたちがその場にいることが周囲の者たちに知れ渡ってしまう。一目でもその姿を見ようと、押し寄せてくるが、ノーバンや精鋭として有名な騎士たちを見た途端、引き下がっていく。

 異様な光景ではあるが、それは当たり前のような気もした。

 ノーバン・ディウドが輝人やその召喚獣を除けば、国中の誰よりも強いことはこの国の常識のようなものだった。そしてそのノーバンが輝人の大ファンであることも。そんなノーバンの怒りを買ってしまうのは誰もが避けたい道であった。

 輝人一行はノーバン率いる騎士たちに囲まれながら、歩いていく。その姿を見れたのは一瞬だけであったが、それでも人生の運を全て使い果たしたような気持ちになった。けれどそれでも悔いはなかった。
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