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第7章 ラッハザーク

82. ラッドイーパー

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 大森林で一泊したフィーネ達は次の目的地への移動のために大森林の大樹の前にいる。準備は万端だ!わくわくっと期待した眼差しで思いを馳せながらササラを見るフィーネ。
「ササラっ! ササラの故郷はどの辺りにあるの?」
「ピオリナってどこにあるんだ?」
「フィーネも皆も知らないにゃ? ピオリナは遥か南の大陸にあるのにゃ。周りが豊かな森に囲まれた自然豊かな場所なのにゃ♪」
 故郷に向かえると上機嫌のササラにシェリルが不思議に思う。なぜササラがあの大陸からこの大陸にきたのか……
【ピオリナがある大陸……『ラッハザーク』にはなかなか一般的には出入りが難しいからのぅ……簡単に行けるのか心配なのじゃが……】
「ラッハザーク? それは大陸の名前なの?」

 ラッハザーク大陸……
 古代から開拓されぬ自然豊かな大陸であり未だ未開の土地である場所。人間が立ち入ることを許さない大陸でもあり船で乗船もできないほど港もなく……ただただそこには自然が広がるだけの土地。
 ただし人間が手を入れてないからこそそこに住まう種族や精霊、生き物は未だに発見されていない者も多数存在するのだとか。そこには狐人の郷ピオリナや、流浪の民マカラーニャもいる未開の地なのだ。
「ふわぁぁステキすぎじゃない! それでこそ旅でしょ!未開の地ってどんなのかなぁ~ねぇヴァル、そこには大樹あるかなぁ?」
 わくわく心ときめかせているフィーネにヴァルが落ち着けと呆れながら肩から話しかける。
〘ヤレヤレ……ラッハザークにはニ箇所大樹がある……一つは開けた平野部の大樹と……もう一つは森の奥深くの大樹だが……今は奥深くの部分には行けそうにはないな……〙
「えっヴァル? 奥の方にはなんで行けないの? それは大樹からの移動では行けないって事?」
 行けないことに反応するフィーネだがヴァルよりもササラには行けないと指摘の大樹に思い当たることがあったのだった。
「ラッハザークの奥の森は、守神『リオル・アルシュケ』様がいらっしゃるのにゃ。そこは固く封印されて昔から誰も立ち入れない聖域なのにゃ。専属の護り手が守っている場所にゃ。だから大樹をもってしても行けない場所なのだと思うにゃ」
 どうやらササラ達でも大陸の者でもおいそれと入れない聖域が存在しているようだ。
 守神『リオル・アルシュケ』様とそれを崇め奉る種族のこの存在も気になるところだが……フィーネがムウゥと悩みつつもティレニアが本来の目的にフィーネがしっかり向き合うように軌道修正をする。
「ラッハザークは平野部から進んでいきましょう。未開の地は少しずつ調べながら進むのが鉄則です。未開の地の為いらぬ魔物や毒などを持つ厄介なものも生息してますから……気を引き締めて行きましょうね!」
「そうよね!たくさんの魔物がいるんだからしっかりしないとっ!」
 ティレニアの話はごもっともだ。よしっと気合を入れるフィーネはコツンと額を小突かれる。アルヴィスがはやるフィーネを諌めたのだ。
「イタッ! 何よアルっ」
「ばかフィーネ気合い入れ過ぎだ! それに気になることが増えたからって単独行動はナシだからな」
「えっ⁉ あぁ……うん……努力します……」
 ゔぅ……旅の醍醐味が……冒険がとしょげているフィーネにシェリルの一言も胸に刺さる。そしてはてな顔のフィーネにササラが笑っている。
【お主……未開の地をナメると痛い目を見る事になるのじゃぞ? 人が住む土地よりもそこは未開の地……何が起こるかわからぬのじゃからな!】
「シェリルまでっ! ねぇそんなに私って……危なっかしいかしら?」
「フィーネはいろんな事に興味津々にゃ。けど今は我慢するにゃ! みんなが危なくなるにゃ」
「嘘っ! ササラまで……私って一体……」
 シュンと周りの意見に反省しつつ気を取り直して大森林の大樹に力を込める。いつものように大樹に祈りを魔力を込めていざ! 出発だ!

『ラッハザーク 平野部へ』

シュンッ‼
 移動した先で目にした光景は今までにない壮大なものだった。
「うわぁ……何これすごいっ! ステキっ」
 フィーネの目の前に飛び込んできたのは、いくつもの浮遊している大陸から水が滝のように流れ落ち、そして湖に流れ込んでいる神秘的な風景。
 飛沫により虹がかかりそして青空によく映える幻想的な光景だった。
【フィーネ……浮遊島はカラニペアでも見て驚いていたのじゃが……お主の世界にはないのか?】
「ないないないっ!飛行機とかは飛んでても島が浮かぶことは絶対ないなぁ……」
【なんじゃ? その飛行機とやらは?】
「そっか……こっちの世界には空飛ぶ機械ってないのか……船はあるんだよね? 飛行機は空を飛ぶ機械だよ。沢山の人を乗せて運べて一気に国と国をつないで行き来ができて旅行ができるんだよ」
「何だそれは!」
「えっ?普通なんだよ?毎日それで移動してる人もたくさんいたしね」
 フィーネの世界の話を聞いて驚いている一同。なかなかお互いの世界にないものが多い。雑談をしながら平野部を歩いていくと空には鳥が飛んでいる。
「わぁっ鳥だぁー……ササラっ。ねぇあれ近づいてくるけど……こっちの鳥ってデカくない?」
 フィーネは指さしながらササラに問うとそれを目の当たりにしたササラが真っ青な顔をして慌ててフィーネに叫ぶ!
「フィーネ危ないにゃ! 逃げるにゃ!」
「えっ?」 
バチバチバチッ ボンッ!
「⁉」
「???」
 ササラが叫んだ瞬間、フィーネの周りにバチバチという音とともにプスプスと焼け焦げた鳥がピクピクとしながら地面に落ちている。ヒョイッと鳥をつまみ上げてジッと見つめるやいなやクルッとアルヴィスに声かける。
「何これ? おバカな鳥なのね……私に当たるなんて……ねぇこれって食べられるかしら?」
「………はぁ~……」
 はぁ~っと深いため息をつきながらアルヴィスは呆れている。魔物いわく食べられるのかを聞くフィーネにため息しか出ない。
「フィーネは食べることしか頭にないのか? 魔物=食料ってたくましすぎるから……それにそんなキラキラした目で言うんじゃない!」
「へへへっ……」
 アルヴィスの指摘に照れているフィーネに突っ込むのはシェリルだ。
【褒めとらんわ! ダーツイーグルを何もせずに仕留めるとは……何者なんじゃフィーネは?】
「こいつダーツイーグルっていうんだ……」
「そうにゃ。こいつら鳥の仲間にゃけど、気性が荒くてかなりの高度の空から急降下して獲物を狩るにゃ。けど……」
 どうやらダーツイーグルはフィーネを獲物として襲ったようだがフィーネの結界に難なく弾き飛ばされたようだ。
「まぁ! やっぱり私の結界凄いよねコレっ~ 流石だわ私の結界♪ ケガはしたくないもんね! 痛いの嫌だしっ。ねぇこのまま私が標的になってたら何もせずに狩り放題じゃない? もっとあいつらこないかなぁ~♪」
 全く規格外のフィーネの創造魔法に唖然としているのはササラとシェリルで、アルヴィスとティレニアは慣れたようだった。ダーツイーグルの話が終るとその瞬間! ボコボコボコッと地中を何かかうごめく音がする。 
ピクッ!
 フィーネはいち早く何かに反応し地面を勢いよく蹴ると宙に舞うその瞬間にペンダントに魔力を込め、地面に向かって矢を放つ!
「爆ぜろ炎の矢!」
 炎を帯びた矢は地面めがけ刺さった瞬間、凄まじい爆発音と共に一気に爆ぜる。土煙が舞い、風が煙を払うとそこには巨大な土竜もぐらのような者が目を回している。
「これは……何? 魔物なのかな……」
 フィーネが恐る恐る近寄りながら触れると、目を回していた土竜もぐらが勢いよく泣き出した。
「わぁぁぁんっ!」
ビクッ‼
 巨大な土竜もぐらは勢いよく泣く為、ギョッとしているフィーネ達。すると鳴き声を聞いた何者かがフィーネ達を取り囲む。
ボコボコボコッ‼
チャキっっ‼
 警戒しながらそれぞれが武器を構えていると囲んできた中の一人が声をかけてきた。声を聞いてピクッと反応するのはササラだった。
「おやっ! 珍しい奴が居るじゃん?」
「にゃ? その声は……モスリーンにゃ?」
「ササラ忘れた? ヒドイじゃん……ササラ友達じゃん?」
 どうやらこの巨大な土竜もぐら一族の子はササラの知り合いのようだ。
「ササラの知り合い?」
「この子はラッドイーパーのモスリーンにゃ。この平原が縄張りの……土に特化した一族にゃ。よくササラ達の郷に薬の材料卸してくれるにゃ♪」
 どうやらササラと面識もあり敵ではなさそうだ。フィーネは泣いているラッドイーパーにそっと手を触れて……お詫びをする。
「ごめんなさい。下から何か来るからてっきり魔物だと思っちゃって……あなたのケガ今から治すからね」
パァァァ……ふわっっ……
 フィーネが手を当てる場所から温かな光にそっと包まれたラッドイーパーはケガがあっという間に治り元の状態……いやもっと体が良くなっていた。
「⁉ 痛くない……スンスンっ古傷も治ってる?」
「えっ? それはそうでしょ?治したもの。痛くないのが当たり前だと思うけど……」
 ポカンとしているラッドイーパーにササラが声かけた。
「フィーネの魔法は一級品にゃ。ケガなんてすぐに治るにゃ!」
 ニンゲンにいつも怯えて逃げ惑い息を殺しながら生きていた狐人が……ニンゲンに懐いて警戒していないササラに驚きのラッドイーパー達。
「やい狐人! ニンゲン怖くないのか?」
「ササラひどい目にあってない?」
 どうやらラッドイーパー達は狐人のササラを心配しているようだ。先程のフィーネの下にラッドイーパーが潜っていたのは狐人のササラがニンゲンに囲まれて連れ去られると勘違いしたらしい。ササラが事情を説明してるとフィーネが声を上げる。
「ひどいわね……ササラにそんな事しないわ。ササラは大切な仲間なんですもの」
ザワッ!
「⁉ニンゲンが……仲間⁉……」
「みんな落ち着くにゃ!」
 ざわめくラッドイーパーの一族にササラは必死に話す。
「フィーネは悪いニンゲンと違うにゃ! いろんな悪いものから助けてくれた恩人にゃ。だからササラのピオリナに連れて行くにゃ」
ザザザザッ! チャキッ……
 ササラの言葉にモスリーンが鋭い爪をみんなに向ける。キラッと光る爪がティレニアの首元に突きつけながら話しかけてきた。
「何するのっ!私達に戦闘の意志はないわ!」
「ササラ……お前よく騙されんじゃん? お前達ササラの郷、ニンゲンは脅かす存在じゃん。危ないもの排除するラッドイーパーの役目じゃん!」
 殺気立つラッドイーパー達の目の前に割って入ってきたのは飛翼族の姫だった。
【待て待て!お主ら待つのじゃ早まるでないわ! ワシらは狐人のピオリナもそうじゃが……ピオリナに行くのが目的ではないわ! マカラーニャの一族にも会いに来ておるのじゃ!】
「……おや?懐かしいものがいるねぇ~」
 シェリルの声を聞いてモスリーン以外の一匹のラッドイーパーが反応する。年老いたラッドイーパーがシェリルを知っているようだ。どうやらこの場に話がわかる者がいたようだ。
「飛翼族の姫まで従えるとは……このニンゲンは特別なのかねぇ~ シェリルや……詳しく事情を教えておくれ~」
【おっ! 久しいなジェガル……やっと話がわかる者がおったわ……ササラもワシもフィーネに助けてもらった恩があるのじゃ……ニンゲンじゃがコヤツは危険ではない!】
「…………………」
 少し考え込むジェガルだが飛翼族は一族以外には心を開かない種族だと……他の種族には見向きもしない血統である事は心得ている。
「ふむ……このまま何も知らずにピオリナに行くのは得策ではないねぇ~。本来ニンゲンを怖がる者達ばかりだからねぇ……ひとまずは我らの里に来るがよい~ ついておいでぇ~」
【しかたないのぅ~フィーネ寄り道するがよいか?】
「私はかまわないわ。とりあえずピオリナに行くためにもラッドイーパーについて行こう」
 どうやらラッドイーパーのジェガルと呼ばれる長に連れられて一時的にラッドイーパーの里に導かれることになるのだった。
 こちらでは何が待ち受けているのだろうか……
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