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第5章 カラニペア

67. ティレニアとシェリル

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 今から六年前……
 王都魔物襲撃事件より一年前に遡る。
 その頃のグランディールは騎士団にグラン、レイン、シオン、ティレニアと四騎士隊長がおり、東西南北を四騎士団で分けそれぞれがその区域を担当し領主として治めていた。
 ティレニアは女性では異例の騎士団を任される存在だった。剣技はさることながら、魔法を剣に付与させる魔法纏いを自在に操り王都に進軍してくる魔物を討伐していたのだ。
 剣を握り人々を助けるために行脚する……女性騎士ながら男性に負けず劣らずの勇敢さと実力……そう彼女を讃えつけられた二つ名……

『銀髪の戦場戦乙女~ぎんぱつのヴァルキュリア~』

 人々にそして平民にも分け隔てなく接する器量の良さは、貴族や平民にも不思議と受け入れられ彼女の人柄を表している。
 ティレニアは数年前にグランディールに流れ着き、騎士訓練を受けていた。その中には現在の若かりし頃のシオンの姿もあった。
 剣を交え対話し、お互いに切磋琢磨していくふ二人。力で敵わないところは魔法で補い、バランス型のティレニアとパワーバランスはそこそこだが引き際をしっかり見極めて戦うシオンは、お互いに不足した分を補いながら日々鍛錬に邁進していた。
 ある日ティレニアは日々の訓練をしていると騎士が近寄り伝令が伝えられる。王城への呼び出しに応じ、向かうティレニアに国王より王命がくだる。
「ティレニアよ……そなたが治める北の地、メリルリードに魔物発生と報告をうけた。今より向かい討伐せよ」
「はっ! ティレニア、王命謹んでお受けいたします」
 ティレニアは王命を受け、すぐに騎士団を招集し、装備を整え率いてメリルリードへ向かう。

 メリルリード……
 それはティレニアが治める北の地にある湖の事。メリルリードは深い森に囲まれた中に忽然と現れる湖の名称である。
 実はメリルリードの直ぐ側には魔物の湧く歪みが度々現れ、そのたびにティレニア達が向かって討伐、歪みを打ち払っていた。今回もそう大したことはないだろうと支度をしメリルリードへ向かう。
 鬱蒼とした森を突き進み、目指すは湖ただひとつ。魔物達が溢れているがあふれる方向に歪みがあるため討伐しながら進んでいく。
「第一陣がある程度討伐したら第二陣へ交代! 剣を整え突き進むわよ!」
 そうティレニアの騎士団は剣をメインにしている。魔物を切れば切るほど魔物の血が剣に付着する。だがこの血をそのままにしていると切れ味が悪くなりかつ剣が魔物の血で腐食してしまうのだ。
 その為騎士団をふたつに分けて編成し、戦うための武器のケアや騎士達の疲労分配して戦う。このスタイルを確立したのがティレニアである。
 男性の騎士団ではまず見られない編成。実は、他の騎士団では剣は一討伐で荷馬車に予備武器としてかなりの量を持ち運び使えなるたびに使い捨てていた。
 だがそれをすると荷馬車に剣調達、そして討伐までに時間はかかりすぎるし、魔物の中には人間の武器を器用に使いこなすものもいる。
 わざわざ魔物に武器をくれてやる必要もないしやはり使い慣れた剣ほど体に馴染むものはない。武器の腐食を防ぐ手入れをすませた剣から前衛部隊に渡し、そして休んだ部隊と入れ替えながら前線で戦う。即座に入れ替え駆けつけ前線から後退させた騎士を休ませながらも魔物討伐の手をやめない、速攻突破をやってのけるこの戦法はティレニアの騎士団の特徴だ。
 この戦法を使いドンドン奥に進みそしてメリルリードにたどり着くと……

パリッ……パリパリパリッ……
「あれは! やはりメリルリードに歪みが!……」
 やはりティレニアの思ったとおり湖の近くに禍々しい歪みがパリパリと音を立てている。ティレニアがチャキッと剣をかまえていると何やら空から羽ばたきが聞こえる! 
 ティレニアが歪みから目をそらし空をみると、そこには翼を大きく広げ湖のほとりに降り立つ者が……新手の魔物かと警戒するティレニアにそっと声をかける翼を持つ女性。ティレニアの後ろを指さしながらヒィンッと音が響き渡りティレニアの頭に言葉が聞こえる。
【おい……わしに気を取られておると……おぬしらは喰われてしまうぞ?】
「えっ?喰われる?」 
 と翼の女性の言葉に反応しているとパリパリ音がしていた方の場所の歪みが少し開き中から魔物がドッと押し寄せてくる!

グルァァァァ‼
 一瞬の……気が散漫しただけで魔物が押し寄せる。チッとティレニアが自分の行動に反省しながら指示を出し立て直していく。
「第一陣は突き進め! 第二陣はサポートしながら一気に歪みを打ち破れ!」
「はいっ‼ 第一陣進めっ! 第二陣は治療に修復、そして入れ替えだ!」
「はっ!二陣はサポートだ!」
 テキパキと指示を出し少しずつ魔物を討伐していくとふいにティレニアが右側の森に何かを感じる! 
ゾワゾワっ………
何かゾワッとする嫌な感じ……
「………………」
(何かしら……とてもとても嫌な感じがする……)
 ティレニアはとっさの判断で大声で部隊に指示変更を伝達する!
「第一陣! 右翼は急ぎ下がれっ‼」
 いつも冷静なティレニアの叫びに慌てて急ぎ右翼が後方に下がると同時に、右翼の森から禍々しい狼の群れが騎士団に襲いかかる! 逃げ遅れた騎士の元にティレニアが飛び込み剣で噛みつきを防ぎいなしている。

グルルルッ!
 真っ黒な巨大な狼は周りにいる小さな狼になにやら指示を出しているようだ。おそらくこの狼がリーダーなのだろう。ジッと騎士団と狼がにらみ合いをしていると狼は翼持った女性目がけて走り出し襲い始める。
 それを見たティレニアはとっさに女性の方に走り抜け狼を払いのける。それを素知らぬ顔をして見ている女性が真顔でティレニアの方を見てつぶやいている。
【何をしておるのじゃ? なぜ他人をワシを助けるのか……ワシには理解できぬ……】
「何を言っているの! 私の目の前で人が襲われているのに助けない理由なんてないわ!」
【変なやつじゃな……】
「目覚めが悪いのは嫌いなのよ!あなたも救ってみせるわ!」
 ティレニアは目の前の人を救う、ただその一心で助けていたのだがその態度に不思議な顔をジッと見つめている翼を持つ女性。
【ワシらは別に……ニンゲンにも魔物にも興味はないのじゃ……が⁉ おい! おぬしさっきからワシの言葉がわかるのか?】
「何訳のわからないことを。話くらい喋ってるんだから分かるでしょう? 今はそれよりアイツをなんとかしないともっと被害が出る!」
 ふと普通に会話ができるティレニアに気づき驚いている翼を持つ女性。その間も狼の襲撃は止まらない!ティレニアが小物をいなしてはいるが、でかい狼は未だ傷一つない。周りには狼……正直数が数だけに正面突破は難しい……あまり長引く戦闘はこちらが不利。まわりは森か湖……湖!なにかを閃いたティレニアは目を閉じ湖を見て、湖の水に左手を触れ、そして右手を狼に向ける!

ピクッ……
(お願い……少しだけ力を貸して!)
 カッと目を開き狼めがけて念じると!

ズァァァァ‼
 湖の水が突如もり上がり一気に狼の群れに襲いかかる。湖の水に襲われた狼の群れは体制を崩し、狼達は一気に森の中へ流されかろうじて残っているのはボス狼だ。その瞬間を見逃さないティレニアは指示を出す。
「第一陣、第二陣! 一気にボスにかかれ!」
 総員ボスに斬りかかり足止めをしている。

ズバッ!
 第一陣、第二陣をボスに向かわせている間に、ティレニアは歪みに近寄り歪みに斬りかかる。
 人々を不安にさせる歪の邪悪な気の打ち払いに成功すると翼の女性が歪みに近寄り、同時に歪みに触れている。
【おぬしはコレを完全に消したいのじゃな?】
「そうよ!これをなんとかしなきゃ魔物が溢れてしまうわ!」
【じゃが……コレは斬らぬほうがよいぞ……斬ると不安定になりまた再生するのじゃから……こうするのが一番じゃ!】

カッ!……
 女性が歪みに触れるとサラサラとした光が発生し歪みが跡形もなくなる。そして光はオオカミ達をも包み込み、それは光の砂となりはてその場に邪悪なものは何もなくなった。
 動揺する騎士団とティレニアだったが被害も少なく場を収めてくれた女性に感謝する。
「私はグランディールのティレニア。あなたの名をお聞きしても? 騎士団が私も含め世話になりました」
 ジッと話を聞いている女性。女性はティレニアの姿を見つめながら不思議そうに口を開く。
【ワシは飛翼族のシェリルじゃ。ときにティレニア……おぬしは誠にワシの言葉が分かるのじゃな?】
「えっ?……シェリル様どういうことですか?」
 ティレニアがえっ? という顔をしていると、側に寄ってきた騎士達が不思議そうな顔をしている。
「隊長その……翼の女性の言葉分かるんですか? 我々には何を言っているのか分からないんですが……一体何を話されてるんです?」
「えっ? 嘘でしょ。こんなにも普通に会話してるのにわからないの?」
 不思議そうにしている騎士団とティレニアに、説明しながら話しだしたのはシェリルだ。
【ワシら飛翼族は人と相成れはせぬ。無論ワシらは人間の言葉は分からぬし、おぬしらもワシの言葉はわからぬはずじゃ。じゃがティレニア……おぬしはどこで飛翼族の言葉を習ったのじゃ? それにあの湖の力……】
 珍しく飛翼族の言葉を理解する人間に興味がわいたシェリルだが、それ以上に興味を持ったのは湖の出来事だ。
【まさか湖を利用するとはのぅ……】
「一か八か自然が味方してくれるのではないかと……たまに使わせてもらっているわ」
【おぬし……物珍しい『マカラーニャ』の使い手とはな……】
「『マカラーニャ』⁇」
 そう、シェリルが口にする『マカラーニャ』とは、自然を……精霊や魔法を使わずに、呼びかけだけで使用する自然を意のままにあやつる種族の特技なのだとか。
 『マカラーニャ』も飛翼族に似ていて、人間に力を貸すことも介入することもしない種族。であるにも関わらず、人間や飛翼族の言葉わかるティレニアに興味津々だが、ティレニアは不思議な顔をしている。
「幼い頃から自然に使えた力なので、『マカラーニャ』と言うものは知らなかったのですが、シェリル様は飛翼族という種族なのですか?」
【(飛翼族の事も……マカラーニャの事も知らずに力を使いこなし、最も難しい言語を取得する……こやつは実にオモシロイのぅ……)】
 ニヤッと笑うシェリルは不敵な笑みを浮かべている。
【のうティレニア……ワシは人間を知らぬ。いや飛翼族のサガとして知ろうとも思わぬのだが、おぬしには興味がわいた。しばらくおぬしに同行してやろう。ワシは気配も消せるゆえ勝手におぬしの側にいる……グランディールとやらを案内するのじゃ】
 そう言うとスゥゥゥっと姿を消してティレニアの後ろに控えている。
 ティレニアはクスッと笑っている。なぜならみんなには見えてはいないが、ティレニアはシェリルの姿がバッチリ見えているからだ。シェリルはティレニアにバレていることにも驚いていた。
【(不思議な目じゃのう……この状態でもワシが見えておるとはのう……。人間と違うニオイも混じっている……つまらぬ日々じゃったがこやつのおかげで楽しめそうじゃ!)】
 歪みをなくし残りの狼討伐も終了。
 ティレニア達は騎士団を引き連れグランディールに帰城する。
 帰城するティレニアを待っていたのは……
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