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第5章 カラニペア
57. 新翼の大森林 港町ガダニーニ
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グランディールを後にし北へと歩みを進め向かう一行。先を急ぐフィーネに肩にちょこんと座るヴァルが話しかけてきた。
〘フィーネ……カラニペアに向かうのであれば……『新翼の大森林』に向かえ……〙
「えっ……ヴァルなんで大森林? 向かうところ北だから全く方向が違うんだけど……」
〘前にも話したと思うが……大森林の大樹にはこの世界の至るところの大樹と繋がっている……カラニペアには大樹がある……そちらの方が移動が早い……〙
大森林に向かえというヴァルだが大森林は北ではない……ヴァルによると大樹がある大森林から、その土地の大森林へと移動が可能らしい。大森林から大森林に移動手段は安全でありかつ、この世界の人間ではフィーネしか使えない特殊な移動手段。大樹を使っての移動は皆がこれが初めての事になりそうだ。
普通にカラニペアへと向かうと陸路と海路を使って十日ほどかかる道のり。瞬時にその土地への移動が可能であれば移動に負荷がかからなくて楽になるのは助かる。リスクが少ないからだ。
みんなに話をしてルートを大森林へと変更し足早に進む。久しぶりに大森林に足を踏み入れたフィーネは懐かしみながら爽やかな森や木々に、そして自然の匂いに癒やされている。
「あぁ~これよこれ♪ マイナスイオンたっぷり……この湿った土の匂い! あぁそよ風。もぉ最高じゃない♪」
森に入るなりキャーッと自然に戯れながら上機嫌になるフィーネにフッと笑うアルヴィス。
そう……魔物あふれる大森林に向かって黄色い悲鳴を上げて喜ぶ女性はこの世界をいくら探してもフィーネくらいだろう。グランディールやバーティミアスの貴族や平民達では考えられないからだった。そんなフィーネに話しかけたアルヴィス。
「なぁフィーネ。この世界の貴族淑女の皆様は、森に入って不機嫌になり怒り散らすことはあれど、フィーネのように喜ぶものはいないんだぞ? わかってるのか?」
不思議な顔をするアルヴィスを見て笑いながら、そしてキラキラとした目をアルヴィスに向けてこれからやることを想像しながら語るフィーネ。
「えーっそうなのかなぁ? こっちの世界のことはまだわからないけれど私はここでのんびり暮らしたいくらいなのに……」
「は?この大森林で暮らす?」
「そうだよ? 魔物狩るでしょ? それにキャンプして寝泊まりに自炊! あぁやることいっぱーいなのに~いっそのこと長期滞在しようかなぁ……」
指折りやりたいことを口にしながら幸せそうなフィーネにオィオィと笑うアルヴィス。どうやらアルヴィスは半分冗談だろうなという表情をしていたが、それを見たグランが肩をポンッとたたきながら声をかける。
「アルヴィス……フィーネは実際この森で滞在してたんだ。しかも最奥の大樹のエリアで暮らしていて……一人で野営、寝泊まりしグリズリーキングに襲われた私達を救ってくれたんだよ……俺達がグランディールに招待しなければ今でも最奥でひっそりと暮らしていたはずなんだ」
「………………」
グランの話に少し呆気にとられるがクスッと笑うアルヴィス。大森林で暮らし魔物狩り……実力のあるフィーネはそんな事もいとも簡単に実行することなのかと。なんだか規格外なフィーネにフィーネらしいなと笑っている。
歩みを進めている一行の目の前に森の最奥の大森林大樹が現れる。久々の大樹との対面だったフィーネは大樹の幹に身を寄せて大樹に含まれる水の流れに安堵していた。
ポコポコッ……
大樹の中には水の流れが感じられるような不思議な感覚が今もある。
「あぁこの大樹……水を含んだ音にこの心地よさは私が向こうから来た時のままだね……」
たくさんの木々に囲まれながらも太陽の光は大森林の中央に光射し、その光指す場所に鎮座する大樹は清々しいほどの清められた空気と空間が共にある。
そう……巡り巡ってフィーネはこの大樹に導かれてこの世界に、この場所にたどり着いたのだ。フィーネは身を任せていた大樹から少し離れ大樹の幹にそっと手を触れていると、不思議な大樹のまわりをパタパタと飛びながら何やらヴァルがフィーネに指示を出す。
〘フィーネ……手のひらをそのままに大樹に触れ……『カラニペア』と頭に描くのだ……〙
フィーネはヴァルの言うとおり大樹に触れながら願う……
『カラニペア』
フォンッ!
「⁉これは……!」
「なんだ⁉ 空間が歪む!」
たちまち景色がぐにゃりと歪みその瞬間光がほとばしる! その閃光に目を背けていた皆が目をあけて次に周りを見渡すと……先程の場所にはなかった植物が多々成長している森に移動していた。どうやら先程の大森林とは全く違う景色が一面に広がるこの光景に、探究心が止まらないのはフィーネだ!
「わっ何これっ!これは? この植物食べられるかなぁ?」
フィーネは新しい植物達に興味津々だ。グランがフィーネにスッと近寄りその植物を見るがわからない。アルヴィスもジーッっと見つめているが見たことはない植物や木の実だらけだ。
「グランディールにはない植物だな。アルヴィスは知っているか?」
「いや知らぬな。バーティミアスにもないなこの植物は。これは一体何の植物だ?」
グランとアルヴィスが話しているとこの植物を知っていたのはなんとシオンだった。
「これはラダの植物ですね……薬草に用いられます。こっちはミルの実……魔力を少し回復できますよ」
「シオン⁉」
「へぇ~これはラダっていうんだ! 薬草って事はじゃあストックしとけば傷薬になるね。これはミルの実……魔力枯渇対策に使えるわ。ありがとうシオン。シオンは物知りなんだね♪」
なぜシオンがこの植物を知っているんだ? と思うグランとアルヴィス。静かに森の周りを見渡すシオンが口を開き話しだした。
「グラン様、アルヴィス様。私は元々この地……方カラニペアで育ちましたからこの地の事は私の方が詳しいかもしれませんね。おそらく察するにここはカラニペア島の南にあるラズリー大森林。ここから北に向かうと港町ガダニーニがありますから……まずはそちらへ行きましょう」
未開の地を知っているシオンに一行は驚きはするがシオンに道案内役を頼み、まずは人里のある港町ガダニーニへ向かうためラズリー大森林をあとにする。
港町ガダニーニ……
ガダニーニはカラニペアの台所。貿易が盛んで海の幸や山の幸、それにたくさんの掘り出し物に商売での活気のある場所だ。カラニペアの台所と呼ばれるゆえんは豊富な食材の取り扱いだろう。
「わぁぁぁ……これは凄いわ♡最高じゃない!」
港町に広がる海産物の面々。グランディールやバーティミアスは海が接しておらず川しかない。なかなか海産物が手に入らないのだ。だからこそこの世界で初めて生の海産物を見たフィーネの目がキラキラと輝いている。
大型魚にマグロ? みたいな魚やイカやタコまで勢ぞろいだ。また昆布やだしを取る節や素材までが揃っている。この食材の宝庫にフィーネが目を輝かせながら喜んでいるため店の店主も商売に気合が入る!
「やぁ嬢ちゃん何が好みだい? ガダニーニにゃ新鮮な海産物や食材がゴロゴロよ! しかもとれたて鮮度抜群だ!何をお求めだい?」
「わーこのイカやタコも美味しそうだなぁ! それにこの貝もっ! ねぇねぇおじさんこの中で一番、このあたりで一般的に食べられてるのって何?」
フィーネの質問に店主が取り出した魚はアジのような魚を取り出して目の前に揃えてくれた。それをみたフィーネはとっさに口走っていた。
「えっ……これってアジ?」
「いやいや嬢ちゃんこれはラジって魚だな。焼いても煮てもうまいんだ!」
フィーネはラジをみてアジに似ている為、無性に元の世界で食べていたアジフライが食べたくなる。パン粉つけてカラッと揚げると絶対に美味しいのよね……と、よし!夜はアジフライにしよう♪ 献立は決まったのでそれに必要なものをフィーネは店主に聞いてみる事にしたようだ。
「ねえこの港町にたまご屋さんとパン屋さんある? あっあと小麦粉も……」
「あぁもちろんあるさ! そこの角を曲がってまっすぐ行くと店が揃ってあるから行ってみな!」
この店ではラジとイカやタコなどたくさん食材を買い足す。そしてバッグに新鮮なまま収納していく。また店主に教えてもらったお店で卵やパン、小麦粉を買い足して……フィーネのバッグには食材が新鮮なまま収納されていく。フィーネのバッグは傷み知らずだ。だからこそ買い物に食材ストックに余念がないフィーネ。食生活は大事と気合が入る。
一通り買い足した後にこの土地に詳しいシオンに調理する場を提供できるところがあるかと聞くとなんと宿屋に備え付けの調理部屋があるらしい。フィーネの世界にあるコテージのような設備だ。
急ぎその宿を手配してもらい宿屋でさっそく調達した食材を取り出して調理に入る。まずは時間のかかるものから……と、土鍋にバーティミアスで手に入れた米をしかけていく。グランはフィーネが米を探していたのは知っていたのでそれをバーティミアスで手に入れていたことに驚いていた。
「フィーネはパンより米が好きなのか?」
「うん!もちろんお米は大好き♡元の世界ではメインの主食で食べてたんだ。それにバーティミアスにたくさんあったからありったけ買ったの! さすがにパンばかりじゃちょっと私はご飯に物足りないからね……」
「これで炊くのか?」
「ふふふっグランはこれ初めてだよね?これは土鍋っていって沢山の食材を煮炊きしたりするものなんだよ?今日はお米を炊くの」
テキパキと準備をしていくフィーネは今日の夜ご飯は期待してねと、ちゃちゃっと食材の下ごしらえを仕上げていく。
ラジの腹を割いて内蔵を処理し器用にさばいて開いていく。用意していた小麦粉と卵とパンから作った生パン粉で塩コショウで魚に下味をつけ順番にフライとして揚げていく。
その待ち時間に野菜を切り味噌味のスープを作る。きつね色のアジフライをバットにとり、油切りをして汁物やご飯を器それぞれに盛り付けていく。
「うんいい感じね♡ 出来たー! みんなできたよ」
テーブルに四人分+ヴァルの分を用意する。みたこともない料理を目の前に不思議そうにしているのだが、とても鼻をくすぐるいい香りにたまらなくお腹がすいてくる。準備が整ったのでさっそくみんなで食事だ!
「いただきま~す!」
見慣れないこちらの世界にない不思議な食べ物にフィーネ以外のみんなは恐る恐るゆっくりと口に含む。ソースのかかったサックリとしたアジフライ、ふっくらとしたご飯にお味噌。幸せそうにもぐもぐっと口に運ぶフィーネに続きみんなも意を決して口に運ぶ!
パクっ……サクッ……もぐっ!
ズズズッ……モグモグっ……ゴクンっ……
「……うまい!」
「なんだこの魚はっ! ふわふわのサクサク身がこんなにも……魚って調理するとこんなにふわふわになるのか?」
「スープも不思議な味だがこの魚料理に合う!」
「グランディールは主食はパンだが米がこんなに甘みがあってうまいとは驚きだな」
ふふふっ。みんなの反応に笑顔で満足なフィーネ。どうやら元の世界の味はみんなに受け入れられたようだ。アルヴィスの質問にふふふっと笑いながら答えるフィーネ。
「フィーネは料理人だったのか? 下処理も手際が良かったしこれだけうまいんだ。野営をした時も思ったがさぞかし有名な料理人だったのでは?」
「あははっアルヴィス。ふふふっそれはないよ! 元の世界では大体の人が家事を自分でやるんだよ? レストランや食堂ももちろんあるんだけど……私は自炊派だったから自分で作るかな? これくらいは元の世界ではみんなできるから私なんか大したことなんてないんだよ?」
「これで大したことないだと……?」
「フィーネの世界の技術は末恐ろしいですね……」
フィーネの世界の生活水準の高さと技術の高さにみんなが驚くがそれよりも妙に身体が軽い感覚になる。その感覚にグランが不思議に思う。
「フィーネの料理を食べるとなんだか力が湧いてくるな」
「グラン様まさか……気の持ちようですよ! 温かく美味しい食事は身体に力がみなぎるものですから。しかも素晴らしい料理に身体が喜んでるんですよ」
確かにこれほどの料理だからな……と二人は納得していたがフィーネは……ん?っと不思議に思った。ふいに横に振り向き隣りにいるアルヴィスもそうなの? と聞くと、あぁと言う。まさかぁっと思ったフィーネがなんとなくアルヴィスを鑑定する。
【アルヴィス】
パァァァ…………
フィーネの前にアルヴィスのステータスが羅列される。
【アルヴィス・アルローズ・バーティミアス】
【バーティミアス国皇子】【フィーネの騎士】
【フィーネの想人】
【状態:正常】
【ステータス効果:フィーネの異世界の手料理によりステータス値20%アップ】
ぶっ! ケホケホっ。水を飲みながらながら簡単に鑑定をしていたフィーネは驚きのあまり水を吹き出してしまった。
「えっー! アルヴィスステータス20%アップって何⁉ なにこれっ!」
ステータス確認したフィーネが一番驚いているがアルヴィスは動じていなかった。それには訳があったのだ。
「は? 今更だろフィーネ。今までもバーティミアスまでの道のりで商隊にふるまわれたフィーネの手料理は食べると何らかのステータスアップさせてたぞ?」
「嘘でしょ……そんな効果があるなんて……」
「だからあの商隊は軽々山岳超えが出来たんだからな。俺やラギは食べることはできなかったが一般人があんな険しい山道を軽々超えられるわけがないだろ?」
なんと……フィーネの手料理はステータス上昇させてしまうらしい。しかも一般人でも能力を上げてしまうのだ。新たなる力にビックリする。
ダンジョンや魔物がいるところに行く際には、みんなの安全のためにもぜひ手料理を食べてもらおう! と心に決めるフィーネだった。
〘フィーネ……カラニペアに向かうのであれば……『新翼の大森林』に向かえ……〙
「えっ……ヴァルなんで大森林? 向かうところ北だから全く方向が違うんだけど……」
〘前にも話したと思うが……大森林の大樹にはこの世界の至るところの大樹と繋がっている……カラニペアには大樹がある……そちらの方が移動が早い……〙
大森林に向かえというヴァルだが大森林は北ではない……ヴァルによると大樹がある大森林から、その土地の大森林へと移動が可能らしい。大森林から大森林に移動手段は安全でありかつ、この世界の人間ではフィーネしか使えない特殊な移動手段。大樹を使っての移動は皆がこれが初めての事になりそうだ。
普通にカラニペアへと向かうと陸路と海路を使って十日ほどかかる道のり。瞬時にその土地への移動が可能であれば移動に負荷がかからなくて楽になるのは助かる。リスクが少ないからだ。
みんなに話をしてルートを大森林へと変更し足早に進む。久しぶりに大森林に足を踏み入れたフィーネは懐かしみながら爽やかな森や木々に、そして自然の匂いに癒やされている。
「あぁ~これよこれ♪ マイナスイオンたっぷり……この湿った土の匂い! あぁそよ風。もぉ最高じゃない♪」
森に入るなりキャーッと自然に戯れながら上機嫌になるフィーネにフッと笑うアルヴィス。
そう……魔物あふれる大森林に向かって黄色い悲鳴を上げて喜ぶ女性はこの世界をいくら探してもフィーネくらいだろう。グランディールやバーティミアスの貴族や平民達では考えられないからだった。そんなフィーネに話しかけたアルヴィス。
「なぁフィーネ。この世界の貴族淑女の皆様は、森に入って不機嫌になり怒り散らすことはあれど、フィーネのように喜ぶものはいないんだぞ? わかってるのか?」
不思議な顔をするアルヴィスを見て笑いながら、そしてキラキラとした目をアルヴィスに向けてこれからやることを想像しながら語るフィーネ。
「えーっそうなのかなぁ? こっちの世界のことはまだわからないけれど私はここでのんびり暮らしたいくらいなのに……」
「は?この大森林で暮らす?」
「そうだよ? 魔物狩るでしょ? それにキャンプして寝泊まりに自炊! あぁやることいっぱーいなのに~いっそのこと長期滞在しようかなぁ……」
指折りやりたいことを口にしながら幸せそうなフィーネにオィオィと笑うアルヴィス。どうやらアルヴィスは半分冗談だろうなという表情をしていたが、それを見たグランが肩をポンッとたたきながら声をかける。
「アルヴィス……フィーネは実際この森で滞在してたんだ。しかも最奥の大樹のエリアで暮らしていて……一人で野営、寝泊まりしグリズリーキングに襲われた私達を救ってくれたんだよ……俺達がグランディールに招待しなければ今でも最奥でひっそりと暮らしていたはずなんだ」
「………………」
グランの話に少し呆気にとられるがクスッと笑うアルヴィス。大森林で暮らし魔物狩り……実力のあるフィーネはそんな事もいとも簡単に実行することなのかと。なんだか規格外なフィーネにフィーネらしいなと笑っている。
歩みを進めている一行の目の前に森の最奥の大森林大樹が現れる。久々の大樹との対面だったフィーネは大樹の幹に身を寄せて大樹に含まれる水の流れに安堵していた。
ポコポコッ……
大樹の中には水の流れが感じられるような不思議な感覚が今もある。
「あぁこの大樹……水を含んだ音にこの心地よさは私が向こうから来た時のままだね……」
たくさんの木々に囲まれながらも太陽の光は大森林の中央に光射し、その光指す場所に鎮座する大樹は清々しいほどの清められた空気と空間が共にある。
そう……巡り巡ってフィーネはこの大樹に導かれてこの世界に、この場所にたどり着いたのだ。フィーネは身を任せていた大樹から少し離れ大樹の幹にそっと手を触れていると、不思議な大樹のまわりをパタパタと飛びながら何やらヴァルがフィーネに指示を出す。
〘フィーネ……手のひらをそのままに大樹に触れ……『カラニペア』と頭に描くのだ……〙
フィーネはヴァルの言うとおり大樹に触れながら願う……
『カラニペア』
フォンッ!
「⁉これは……!」
「なんだ⁉ 空間が歪む!」
たちまち景色がぐにゃりと歪みその瞬間光がほとばしる! その閃光に目を背けていた皆が目をあけて次に周りを見渡すと……先程の場所にはなかった植物が多々成長している森に移動していた。どうやら先程の大森林とは全く違う景色が一面に広がるこの光景に、探究心が止まらないのはフィーネだ!
「わっ何これっ!これは? この植物食べられるかなぁ?」
フィーネは新しい植物達に興味津々だ。グランがフィーネにスッと近寄りその植物を見るがわからない。アルヴィスもジーッっと見つめているが見たことはない植物や木の実だらけだ。
「グランディールにはない植物だな。アルヴィスは知っているか?」
「いや知らぬな。バーティミアスにもないなこの植物は。これは一体何の植物だ?」
グランとアルヴィスが話しているとこの植物を知っていたのはなんとシオンだった。
「これはラダの植物ですね……薬草に用いられます。こっちはミルの実……魔力を少し回復できますよ」
「シオン⁉」
「へぇ~これはラダっていうんだ! 薬草って事はじゃあストックしとけば傷薬になるね。これはミルの実……魔力枯渇対策に使えるわ。ありがとうシオン。シオンは物知りなんだね♪」
なぜシオンがこの植物を知っているんだ? と思うグランとアルヴィス。静かに森の周りを見渡すシオンが口を開き話しだした。
「グラン様、アルヴィス様。私は元々この地……方カラニペアで育ちましたからこの地の事は私の方が詳しいかもしれませんね。おそらく察するにここはカラニペア島の南にあるラズリー大森林。ここから北に向かうと港町ガダニーニがありますから……まずはそちらへ行きましょう」
未開の地を知っているシオンに一行は驚きはするがシオンに道案内役を頼み、まずは人里のある港町ガダニーニへ向かうためラズリー大森林をあとにする。
港町ガダニーニ……
ガダニーニはカラニペアの台所。貿易が盛んで海の幸や山の幸、それにたくさんの掘り出し物に商売での活気のある場所だ。カラニペアの台所と呼ばれるゆえんは豊富な食材の取り扱いだろう。
「わぁぁぁ……これは凄いわ♡最高じゃない!」
港町に広がる海産物の面々。グランディールやバーティミアスは海が接しておらず川しかない。なかなか海産物が手に入らないのだ。だからこそこの世界で初めて生の海産物を見たフィーネの目がキラキラと輝いている。
大型魚にマグロ? みたいな魚やイカやタコまで勢ぞろいだ。また昆布やだしを取る節や素材までが揃っている。この食材の宝庫にフィーネが目を輝かせながら喜んでいるため店の店主も商売に気合が入る!
「やぁ嬢ちゃん何が好みだい? ガダニーニにゃ新鮮な海産物や食材がゴロゴロよ! しかもとれたて鮮度抜群だ!何をお求めだい?」
「わーこのイカやタコも美味しそうだなぁ! それにこの貝もっ! ねぇねぇおじさんこの中で一番、このあたりで一般的に食べられてるのって何?」
フィーネの質問に店主が取り出した魚はアジのような魚を取り出して目の前に揃えてくれた。それをみたフィーネはとっさに口走っていた。
「えっ……これってアジ?」
「いやいや嬢ちゃんこれはラジって魚だな。焼いても煮てもうまいんだ!」
フィーネはラジをみてアジに似ている為、無性に元の世界で食べていたアジフライが食べたくなる。パン粉つけてカラッと揚げると絶対に美味しいのよね……と、よし!夜はアジフライにしよう♪ 献立は決まったのでそれに必要なものをフィーネは店主に聞いてみる事にしたようだ。
「ねえこの港町にたまご屋さんとパン屋さんある? あっあと小麦粉も……」
「あぁもちろんあるさ! そこの角を曲がってまっすぐ行くと店が揃ってあるから行ってみな!」
この店ではラジとイカやタコなどたくさん食材を買い足す。そしてバッグに新鮮なまま収納していく。また店主に教えてもらったお店で卵やパン、小麦粉を買い足して……フィーネのバッグには食材が新鮮なまま収納されていく。フィーネのバッグは傷み知らずだ。だからこそ買い物に食材ストックに余念がないフィーネ。食生活は大事と気合が入る。
一通り買い足した後にこの土地に詳しいシオンに調理する場を提供できるところがあるかと聞くとなんと宿屋に備え付けの調理部屋があるらしい。フィーネの世界にあるコテージのような設備だ。
急ぎその宿を手配してもらい宿屋でさっそく調達した食材を取り出して調理に入る。まずは時間のかかるものから……と、土鍋にバーティミアスで手に入れた米をしかけていく。グランはフィーネが米を探していたのは知っていたのでそれをバーティミアスで手に入れていたことに驚いていた。
「フィーネはパンより米が好きなのか?」
「うん!もちろんお米は大好き♡元の世界ではメインの主食で食べてたんだ。それにバーティミアスにたくさんあったからありったけ買ったの! さすがにパンばかりじゃちょっと私はご飯に物足りないからね……」
「これで炊くのか?」
「ふふふっグランはこれ初めてだよね?これは土鍋っていって沢山の食材を煮炊きしたりするものなんだよ?今日はお米を炊くの」
テキパキと準備をしていくフィーネは今日の夜ご飯は期待してねと、ちゃちゃっと食材の下ごしらえを仕上げていく。
ラジの腹を割いて内蔵を処理し器用にさばいて開いていく。用意していた小麦粉と卵とパンから作った生パン粉で塩コショウで魚に下味をつけ順番にフライとして揚げていく。
その待ち時間に野菜を切り味噌味のスープを作る。きつね色のアジフライをバットにとり、油切りをして汁物やご飯を器それぞれに盛り付けていく。
「うんいい感じね♡ 出来たー! みんなできたよ」
テーブルに四人分+ヴァルの分を用意する。みたこともない料理を目の前に不思議そうにしているのだが、とても鼻をくすぐるいい香りにたまらなくお腹がすいてくる。準備が整ったのでさっそくみんなで食事だ!
「いただきま~す!」
見慣れないこちらの世界にない不思議な食べ物にフィーネ以外のみんなは恐る恐るゆっくりと口に含む。ソースのかかったサックリとしたアジフライ、ふっくらとしたご飯にお味噌。幸せそうにもぐもぐっと口に運ぶフィーネに続きみんなも意を決して口に運ぶ!
パクっ……サクッ……もぐっ!
ズズズッ……モグモグっ……ゴクンっ……
「……うまい!」
「なんだこの魚はっ! ふわふわのサクサク身がこんなにも……魚って調理するとこんなにふわふわになるのか?」
「スープも不思議な味だがこの魚料理に合う!」
「グランディールは主食はパンだが米がこんなに甘みがあってうまいとは驚きだな」
ふふふっ。みんなの反応に笑顔で満足なフィーネ。どうやら元の世界の味はみんなに受け入れられたようだ。アルヴィスの質問にふふふっと笑いながら答えるフィーネ。
「フィーネは料理人だったのか? 下処理も手際が良かったしこれだけうまいんだ。野営をした時も思ったがさぞかし有名な料理人だったのでは?」
「あははっアルヴィス。ふふふっそれはないよ! 元の世界では大体の人が家事を自分でやるんだよ? レストランや食堂ももちろんあるんだけど……私は自炊派だったから自分で作るかな? これくらいは元の世界ではみんなできるから私なんか大したことなんてないんだよ?」
「これで大したことないだと……?」
「フィーネの世界の技術は末恐ろしいですね……」
フィーネの世界の生活水準の高さと技術の高さにみんなが驚くがそれよりも妙に身体が軽い感覚になる。その感覚にグランが不思議に思う。
「フィーネの料理を食べるとなんだか力が湧いてくるな」
「グラン様まさか……気の持ちようですよ! 温かく美味しい食事は身体に力がみなぎるものですから。しかも素晴らしい料理に身体が喜んでるんですよ」
確かにこれほどの料理だからな……と二人は納得していたがフィーネは……ん?っと不思議に思った。ふいに横に振り向き隣りにいるアルヴィスもそうなの? と聞くと、あぁと言う。まさかぁっと思ったフィーネがなんとなくアルヴィスを鑑定する。
【アルヴィス】
パァァァ…………
フィーネの前にアルヴィスのステータスが羅列される。
【アルヴィス・アルローズ・バーティミアス】
【バーティミアス国皇子】【フィーネの騎士】
【フィーネの想人】
【状態:正常】
【ステータス効果:フィーネの異世界の手料理によりステータス値20%アップ】
ぶっ! ケホケホっ。水を飲みながらながら簡単に鑑定をしていたフィーネは驚きのあまり水を吹き出してしまった。
「えっー! アルヴィスステータス20%アップって何⁉ なにこれっ!」
ステータス確認したフィーネが一番驚いているがアルヴィスは動じていなかった。それには訳があったのだ。
「は? 今更だろフィーネ。今までもバーティミアスまでの道のりで商隊にふるまわれたフィーネの手料理は食べると何らかのステータスアップさせてたぞ?」
「嘘でしょ……そんな効果があるなんて……」
「だからあの商隊は軽々山岳超えが出来たんだからな。俺やラギは食べることはできなかったが一般人があんな険しい山道を軽々超えられるわけがないだろ?」
なんと……フィーネの手料理はステータス上昇させてしまうらしい。しかも一般人でも能力を上げてしまうのだ。新たなる力にビックリする。
ダンジョンや魔物がいるところに行く際には、みんなの安全のためにもぜひ手料理を食べてもらおう! と心に決めるフィーネだった。
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「くっ……!」
「なっ、譲位せよだと!?」
「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」
「おのれ、謀りおったか!」
「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」
◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。
◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。
◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった?
◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。
◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。
◆この作品は小説家になろうでも公開します。
◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!
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