上 下
62 / 108
第4章 バーティミアス

44. 精霊喰い

しおりを挟む
「なっ‼叫び声!?」

……ギャァァァ!……
……ニンゲン!……
……イヤァァァァァァ!……
……コナイデ!……

「⁉ 急にこれはなんだ! ……急に何かの叫び声が聞こえる……兄上!」
 壮絶な叫び声に過敏に反応するヴァレリーと対照的に平然としているヴァレドローズ。
「まあ……これから起こることを静かにみてな! 兵士の誕生の感動シーンだ!」
 ヴァレドローズはヴァレリーに黙って静かに見るように指示する。檻に入った兵士は光を追いかけて……なんと光を精霊を素手で捕まえたようだ!

……イヤッ! ハナシテーー!……
……イタイ!……イタイッ!……

 嫌がる精霊の声が響き渡る! 抵抗し逃げようと躍起になっているが人間の力に抗うすべがない精霊。
「うるさい! バタバタするんじゃない。チョロチョロしやがって! 静かにしないんだったら……こうしてやる!」
 檻の中の兵士が精霊を捕まえるともう片方の羽根をおもむろに鷲掴みにしている。ミシミシっと音がするそのたびに精霊は悶え苦しんでいる!

……イタイッ! ヤメテ! ヤメテ‼……

 泣きながらやめてくれと叫んでいるが兵士は精霊の声など気にもとめず鷲掴みの羽を一枚、また一枚と羽を一枚びらっとさせては一枚の羽の先をつまんでいる。
 指を根本にするりと滑らせ一気に力を入れる!
 その空気を敏感に察知するヴァレリーは嫌な予感しかしない!慌てるヴァレリーが叫ぶ。
「まさか……まさか羽を⁉ やめろっっダメだ! 精霊が死んでしまう! やめろー‼ 兄上、やめさせてくれ!」
 ヴァレリーの叫びも虚しく兵士は目を見開いて羽根の根本にグッと力を入れた次の瞬間、兵は叫びながら残虐な行為に手を染めていく。
「うるさいやつめ! チョロチョロできないようにしてやる!」
ミリミリミリッ!
 羽根の根元がきしむ音がすると同時に、涙を流しながら悲痛な痛みを!声を精霊が叫び続けている。

……イヤァ! イタイイタ‼ ヤメテヤメテ!……

 兵は無理やり引っ張り続けているがここぞとばかりに力いっぱい兵が根本から羽を引きちぎる!
ブチブチブチ!

……ギャァァァ‼……

「⁉」
「っ………」
 絶叫に近い叫びにヴァレリーが絶望に心を痛めると、兵士は無理やり引きちぎった羽根を口に入れて噛み砕き飲み込み! なんと……喰らっている!
パァァァァァァ……
 羽根を喰らった兵士の体が光だし途端に不思議な力がみなぎってくる。
「はあぁぁ……気持ちがいい。力が溢れてくる! ははははっ! ヴァレドローズ様……ゲインセイ様ありがとうございます!」
 そう言いながらむしゃむしゃと羽根を食べすすめると、欲を出した兵士は未だに手のひらに捕まえた精霊を見ながら舌なめずりをする。
「羽根を喰うだけでこれだ! こいつを喰ったらもっと強くなれるはずだ!」
 もはや兵の目が正気じゃない!手に握った精霊を美味しそうに見ている!もはや怪物……魔物だ! こんなの人間じゃない!

……イヤァァ……イタイ!……
……コナイデ!……タベナイデ!……

 にやっと笑い、舌なめずりをした兵士が次の瞬間!
バクッ! バキバキバキバキ……
ブチブチブチッ!
ゴクン……ゴクン……
 あろうことか精霊を頭からまるごとかぶりつき喰いちぎられる。そして兵の歯で噛み砕かれて飲み込まれていく。精霊に対する凄惨な現場にヴァレリーは耐えられない! 必死に兄に話すヴァレリーだが……聞く耳を持たないヴァレドローズ。
「あぁっ! こんな事今すぐやめてくれ兄上! みんなを止めてくれ! 精霊を助けてくれ……兵達もみんな正気なんかじゃない!」
「……なんだヴァレリー……精霊喰いすれば力が入るのだ! 力を手に入れ豊かな国を作って何が悪い。喰らうだけで力を手に入れられる。なんて単純で簡単じゃないか? アイツらが土地を明け渡すまではこちらは辞めるわけにはいかないんだ!」
 頑なにヴァレドローズにヴァレリーが膝まづいて懇願するが必死なヴァレリーに……冷たい口調で問う。
「精霊とは対話でなんとか和平を望めます! こんな酷いことは今すぐやめにしてくれ!」
「なぜ……対話で和平を望めると思うのだ? 対話などあちらが姿を見せぬのだ……話にもならんな! 奴らを根絶やしにし我らが国を栄えさせ、なにが悪い!」
「兄上! どうかどうか……」
 必死なヴァレリーの姿にふと……失踪前のヴァレリーの事を思い出すヴァレドローズ。あの時もヴァレリーは精霊との対話を望んでいたが、戻ってきてますます対話を望むとは……何か意図があるのか……
 しばらく沈黙していたヴァレドローズが帰城してからの様子に疑問をいだきヴァレリーに問う。
「ヴァレリー……私に何か隠していることでもあるのか?」
「⁉……兄上には……話したいことがたくさんあるが聞かれたくない人がいる。ゲインセイ殿の事はまだ私は信用できないんだ! 席を外してもらいたい!兄上と二人だけで話をさせてくれ!」
 必死な様子のヴァレリーにやれやれと思いながらもヴァレドローズはため息をつきながら要求通りゲインセイを下がらせた。
「ゲインセイ、お前はしばらく下がれ……呼ぶまで近づくな」
「………………」
 そういうとゲインセイは無言でスゥっとその場から居なくなる。すると居なくなった瞬間、フッと体が軽くなる。禍々しい空気が嘘のようにその場からなくなっていったのだった。
 居なくなったことを確認しヴァレドローズが語りかける。ヴァレリーはこれまでの事をヴァレドローズに打ち明けることにした。

「何を隠しているのだ。血分けた兄弟ではないか? 何を隠す必要がある。言えないことなのか?」
「……まだ兄上に伝えていない事があるんだが実は私には妻と子供がいるんだ……」
「なっ……なんだと!」
 それを聞いた瞬間、ヴァレドローズは衝撃が走るが……それと同時に険しかった顔が一変してほころんで喜んでくれる。
「なんだと! まさかお前が……いつの間に⁉ 喜ばしい事ではないか。お前が結婚?それに子供がいるだと……なぜ、なぜ私に帰還と同時に伝え紹介してくれないのだ!」
 驚くヴァレドローズに静かにヴァレリーが兄が思う精霊に対する疑問を投げかける。
「兄上は精霊は嫌いなのか?」
「いいや……精霊は嫌いというわけではない。我が国が広くなるために、盤石になる為に領地さえ明渡してくれさえすれば精霊には危害は加えない」
「説得さえできれば……ホントに危害は加えないと約束できるのか?」
「ああ。だからそうだと言っている。だがなぜ精霊なのだ? なぜ先程から精霊、精霊と一体何なのだヴァレリー?」
 意を決してヴァレリーがこれまでの事を打ち明ける事にした。崖から転落し、精霊達に世話になり精霊界で過ごしたこと。そしてその世界でたくさんの精霊の優しさに触れたこと。そして……
「実は……私の妻は精霊なのだ。娘と息子も私と精霊の血をひいている……」
「まさか⁉」
 ヴァレドローズはヴァレリーの話にさらに衝撃を受けて驚いている。まさか弟が精霊と結ばれ、子を成したなど……そんなことが可能だとは! それに家族までいる。この領地争いは平行線だと思っていたが精霊と対話が可能だと?
 ヴァレドローズは混乱しながらも話を整頓し冷静さを取り戻したうえで静かに口を開く。その言葉にヴァレリーはきっぱりと答える。
「ヴァレリー、お前の嫁や子供には私はすぐにでも会えないのか?」
「それは……兄上には会わせてあげたいさ! だが……今のこの精霊喰いを推奨するのであれば俺は兄上には紹介できない! 精霊は家族だ……今のこれは彼女達にはツライ悲劇だから!そんな悲しい思いを家族にさせたくない……」
 確かに……精霊側のヴァレリーからすると同胞が無差別に痛めつけられて喰われていれば、警戒心が強い精霊がことさらでてくるはずもない……
 だがヴァレドローズは自分の姪や甥に当たるヴァレリーの……いや自分の家族には会いたいと思う気持ちが勝っている。この世で肉親と呼べるヴァレリーの家族に。
「血の繋がりのある姪や甥に合わせてはもらえぬか? 危害は加えないと約束しよう。それに私がお前の大切な家族に何かする訳はないだろう……私はお前を大事に思っている。もし対話が成り立つと思うのならお前がその橋渡しをし成り立たせて国を守ってみろ!」
 ヴァレドローズの言葉を信用するかどうか悩んでいるヴァレリーだったがヴァレドローズは約束する。
「兄上……兄上にだけなら家族に合わせたい。だがそこにはたくさんの争いの嫌いな精霊が平和に暮らしてるんだ。だから絶対に手を出さないと約束してくれ!」
「あぁ……わかった! 私だけでも構わないからその場所に連れて行ってくれ」
「わかりました。では、明日兄上の部屋に迎えに行きます。特にゲインセイには知られないようにしてください。あの悲劇に家族が悲しむから……」
「ああ……約束しよう! 必ず一人で行く」
 そう話し合うと禍々しい地下から地上に上がり二人は別れる。

外に出ると風がふき雲ひとつない夜空が広がっていた。この場所の空気は地下と違って澄んでいた。

……ダイジョウブ?……
……ミンナニアウ?……

 心配そうに見つめるシルフィード達の頭を撫でながら笑うヴァレリー。 
「兄上なら大丈夫だ……ゲインセイは正直信用していないが君たちにも危害は加わらないように守るからね」
 温かい光りに包まるれるヴァレリー。だが、それを遠くからジッと視ているのは……ゲインセイだ。
「クックック……どうやら精霊の里に入るには、アイツがカギのようだな。あと少し……あと少しで、私の目的のものが手に入る! クックック……」

 不気味な笑い声がまわりに響き渡っていた……

 一方その頃…………
 ヴァレドローズは明日のヴァレリーの家族に会うのが楽しみで嬉しくてたまらない。
 なぜならヴァレドローズとヴァレリーの父は早くに亡くなり、母も病で亡くなっている。
 長いこと二人だけの血を分けた兄弟だったのだ。王の不在の玉座……その二人だけの皇族兄弟に家族ができる喜び。ヴァレドローズは結婚していない為、ヴァレリーの家族が同じ血縁になる事が何よりも喜ばしいのだ。
「我が兵以外での血の繋がった家族……早くヴァレリーの家族に会いたいな。どんな子達なんだろう……」
 ヴァレリーとヴァレドローズ……いろんな思いを馳せながら翌日を迎える……
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

【完結】公女が死んだ、その後のこと

杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】 「お母様……」 冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。 古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。 「言いつけを、守ります」 最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。 こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。 そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。 「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」 「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」 「くっ……、な、ならば蘇生させ」 「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」 「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」 「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」 「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」 「まっ、待て!話を」 「嫌ぁ〜!」 「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」 「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」 「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」 「くっ……!」 「なっ、譲位せよだと!?」 「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」 「おのれ、謀りおったか!」 「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」 ◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。 ◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。 ◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった? ◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。 ◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。 ◆この作品は小説家になろうでも公開します。 ◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!

旦那様、どうやら御子がお出来になられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉

Hinaki
ファンタジー
「初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました」  華奢で可憐な若い女性が共もつけずに一人で訪れた。  彼女の名はサブリーナ。  エアルドレッド帝国四公の一角でもある由緒正しいプレイステッド公爵夫人ヴィヴィアンは余りの事に瞠目してしまうのと同時に彼女の心の奥底で何時かは……と覚悟をしていたのだ。  そうヴィヴィアンの愛する夫は艶やかな漆黒の髪に皇族だけが持つ緋色の瞳をした帝国内でも上位に入るイケメンである。  然もである。  公爵は28歳で青年と大人の色香を併せ持つ何とも微妙なお年頃。    一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。  趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。  そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。 「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。  ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。  拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。    

とある元令嬢の選択

こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

処理中です...