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第4章 バーティミアス
39. 想いを馳せるマントピン
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バーティミアスの初日は、不測の事態に見舞われたがお城での休息となった。
翌朝、朝早くからナターシャのメイドがフィーネの部屋に訪れる。
トントントンッ……
フィーネがガチャリと扉を開ける。
「フィーネ様、本日は街のご案内です。あなた様の衣服は目立ちすぎますから、こちらで専用のものを用意をさせていただきます。何かご希望はありますか?」
フィーネは昨日のナターシャのドレスを見て、あんなゴージャスなゴテゴテした動きにくいドレスは……あれはないなと思いメイドに動きやすく走りやすいものを提案し頼むと、けげんな顔をされた。
「……なるべく努力します……」
そういうとメイドは去っていく。それと同時に代わりの他のメイド達がやってくる。
「湯浴みの時間ですから……さぁこちらへ!」
湯浴みと聞いてビクッと身構えているフィーネだったが、やはりグランディールと一緒で体をメイドに洗われてしまうようだ。
「さぁ……磨きますよ! ナターシャ様と出かけるのですからしっかり恥ずかしくないように磨き上げをしますからね」
「んっ……我慢します……」
「さぁ! みなさんやりますよ」
と、メイドの号令でさっそく泡まみれで体が隅々まで磨かれていく。メイド達はなぜかフィーネの体に興味津々だ。
「不思議な肌ですね……このように吸い付くような肌はみたことはないです! それに……ほらみてこの胸!」
メイドがフィーネの肩から胸を泡でするりとマッサージするとビクッとなるフィーネ。それをよそにそのまま腰をマッサージ続ける。。
ビクッ! たまらなくなったフィーネは声がもれ出てしまった。だがメイド達はとまらない。
「ひゃんっ! ふあっ……」
「しかし……いつもコルセットなしでこの腰の細さをキープしてるなんて……なんて羨ましい体でしょう!」
着々と洗われ、そして次は髪の毛だが髪質も体以上に驚かれている。
「まぁ! みてこれ……サラサラの白銀髪だなんて……なんてキレイな……まぁ貴重な……」
どうやらフィーネの体や髪がバーティミアスではかなり珍しいらしく、まじまじと見られるのに恥ずかしくなったフィーネは顔が真っ赤だ。
「あのっ……そろそろっ!」
そういうと自分で泡を流し、ささっと湯殿をあとにする。髪を乾かしてもらい服を用意してもらう……が、それを一目見たフィーネの顔が引きつっている。
「うわぁ……何これ服なの?」
なんとも宝石がゴテゴテと飾られたいかにもなドレスが用意されていたので、フィーネは断り手持ちの服に着替えていく。その姿に残念そうなメイド達。ただ街を観光し動き回るのには邪魔なドレスは避けたいとメイド達に話をする。
無理強いはできない、仕方ないとフィーネの希望に従うがそうこうしているとナターシャが部屋にやってきた。と同時にフィーネの服装をみて、はぁ……と深くため息をつかれる。
「フィーネ様……まさかそんな服で街を歩くつもりではないでしょうね?」
「あら? 私はドレスを着飾る姫でもなく、私は護衛のような者ですから。さっと身動きが取れない衣装は不要です。それに着飾るのは姫様だけで十分じゃないでしょうか?」
と、フィーネも負けずにスンっと言い返す。まぁ戦闘には不向きな衣装だった為、とりあえず聞き入れたナターシャ。するとラギが後ろから遅れて現れるのだった。
「ごきげんよう。ラギアルクス様」
ナターシャがドレスの裾をつまみながらカーテシーで挨拶すると……フィーネも続いて挨拶をする。
「おはよう。ラギアルクス」
「ん⁉」
愛称呼びをやめたフィーネ。今までは知らなかったとはいえ、好意をよせている相手に失礼なことをしたくはないとフィーネは呼び方を変えたのだった。その姿にナターシャはホッとしている。まったくフィーネは普段どおりでいいのだが、なんだかな……といった表情のラギ。
「まぁ……お前はラギでもいいんだがフィーネのその心遣いに感謝しよう。さぁ、まずは街に行く前に我がバーティミアスの治安や他所にあまりない特有の問題、獣人の話をしよう」
三人は椅子に腰をかけラギの説明が始まる。
「まずフィーネ、街で獣人を見ましたね。我が国では獣人が人と住まう国です。だが獣人にも近い人間と人間に近い獣人がいます。獣人は……」
と、ラギが急に言葉を選びながら少し言葉につまる様子をみて、すかさずナターシャがラギを止める。
「ラギアルクス様。獣人のお話はお兄様がするようですわ。ですので今からは逆に街での振る舞いと……特に危なそうな決闘に関してきっちり無鉄砲なフィーネ様に説明しておいてください!」
ナターシャは獣人よりも街に出かける心構えとバーティミアス特有の決闘を教えろと催促する。
確かに……ラギは獣人の話をするのを避けて街の話をフィーネに説明しはじめた。
「確かに……街は色んな意味で危険です。露店や異国の商品がたくさん売られていますが、またそれを運んでくる商隊やならず者、また奴隷や盗賊、盗人も多々いるのがバーティミアスです。治安はあまりよくなくフィーネが遭遇した盗人もたくさんいると考えてください。普段女性は護衛をつけて出歩き、一人では行動しません。それは安全であり身を守る為でもあり、巻き込まれない為です」
話を続けるラギに途中で出てきた言葉に疑問を持つ。
「巻き込まれるって何に?」
キョトンとしているフィーネに真剣な眼差しで話すラギ。
「大体襲ってくるのはならず者ですが、やっかいな事に目をつけられると、執念深い奴らはその家族や知り合いに近い者が次の標的となり、それ故に脅されたり最悪の場合、全て皆殺しにされたりします!」
「えっ⁉ 何その物騒な話……」
びっくりするフィーネ。目をつけられたら最悪殺害って……どんだけサイコパスなのよ! このバーティミアスって国……
「意味がわからないわ! 私がやり返したら私だけが狙われるんじゃないの⁉」
ラギが静かに横に首を振りながら頷く。
「今回の視察の場合、ナターシャが一緒ですからフィーネが暴れると、ナターシャが危険にさらされます! いいですか……くれぐれも問題は起こさないように。あと『決闘』に関してですが……これは自分と相手が承諾してはじめて確定します……」
「決闘⁇」
「そのフレーズがでたら、何が何でも絶対に受けないでください!」
「絶対ですからね‼」
念押しでナターシャとラギがフィーネに詰め寄る!
「いいですか? 決闘とはどちらかが死ぬまで戦う、または敗北した場合……敗北者は一生勝者の奴隷となります」
「⁉」
「そしてその先には……その敗北者の奴隷を使ってその家族や一族に近寄り中から崩し、家族を崩壊させ没落、滅亡させる強行、強奪行為が横行します」
「また決闘での裏切りは許されないため一度標的にされると……一族路頭に迷います……いいですか? 何があっても、例え脅されようが、身内が殺されようが何にせよ決闘の選択は絶対にしないでください」
「例えばあなたが強くても、市街地にでて暴れると一緒にいるナターシャも被害が出ますから、夢々お忘れにならないように!」
二人が熱弁する意図はわかる。確かに、自分だけならなんとかなるって思っていたフシがあった。何か問題があったらいけないとグランディールの後ろ盾もなくしてきた。
自分単身だから大丈夫と……だが周りが巻き込まれていくのはフィーネも望むところではない。考えた末に了承する。
「わかったわ約束する。無茶はしないわ……」
フィーネは二人に約束する。念のために釘を刺したと……この時を待ってましたと言わんばかりに笑顔のナターシャがフィーネの目の前に出したものは……
「あっ! ……さっきのゴテゴテしたドレス……」
「ではフィーネはこれに着替えてくださいますわね?」
それはフィーネが朝断ったドレス……ナターシャが出したのは先程メイドが出したごちゃっとしたドレスだった。
「闘う必要はないのだからどうぞこちらに……」
確かにそう言われると着替えるしかない。渋々ドレスを身にまとう。準備はこれで万端だ。
「さぁ準備ができましたわ! 向かいましょう」
そういうと市街地へ視察に行く。
街は賑やかで、また人間や獣人、動物など自由に行き来している。フィーネは念入りに周りには警戒を怠らないように歩いていると……なんとなく気になる商品が露店に並んでいた。それに目を奪われ触れてみたくなったようだ。
「ねぇ……ここに並んでいるのは手にとっても良いの?」
ナターシャに問う。ナターシャいわく露店主がいいのであれば触れるらしい。露店主に伺ってみると良いとのことでフィーネはあるアクセサリーを手に取って見る。
シャラッ……
フィーネが手に取ったのは、リストリングと呼ばれる手にセットするタイプの手飾りだ。紫の石がついてシャラリと動く飾りが特徴的で、ふいにフィーネは口にする言葉があった。
「……これ……『ニジュリカ』に似てるのね……」
「えっ⁉」
呟くフィーネに露店主は目を丸くしながら驚いていた。直後にフィーネに対して上機嫌になる露店主。
「やぁやぁ嬢ちゃん! 『ニジュリカ』を知ってるのかい? いやぁ~お目が高いねぇ! これがわかる人間に久しく会ってないから嬉しいねぇ」
露店主と話すフィーネにナターシャがこれは何? と聞いてくる為、フィーネが説明してあげる。
「この『ニジュリカ』は、遥か西の国レイラード国の特産品で、この装飾品は持ち主を選ぶ不思議なアクセサリーなんだよね?」
「そうさ! いやぁ~これを知ってるなんてお嬢さん流石だなぁ!」
その通りだと言いながら露店主は喜びながら上機嫌でニジュリカの事を話しだした。
「光栄だなぁ~レイラード国の特産品を若いお嬢さんが知っているとは……商人の中でも一部しか知らないレアアイテムさ! しかも嬢ちゃん! これに惹かれたのなら買ってみないかい? 『ニジュリカ』は主を選び、呼ぶアイテムでもあるんだ。確か同じ工房のシリーズは五つあるはずだよ」
「同じ工房シリーズ?」
「そうさ! それはしらないのかい? 【頭飾り】【チョーカー】【リストリング】【レッグリング】……そしてレアな【専用の服】があるようだ。このシリーズはなかなかいろんな所に散らばっているから見つけられなくて揃わなくてね……服に至っては、四つ揃わないと所在がわからないように細工されてるって話だ。揃った時にどうなるのかは集めた本人しかわからないのも神秘的なものさ! なぁどうだい買ってみないかい?」
商人の話にニジュリカにフィーネは何か縁があるような気がしてならない。フィーネは笑顔で承諾する。
「買うわ! いくらかしら?」
「気前のいい嬢ちゃんだ……だが特殊な装備は高くつくぞ! そうだな……二十金貨でどうだ?」
「いいよ二十金貨……契約成立ね!」
「なっ! これに二十金貨ですって⁉」
フィーネはパッとお金を露店主に渡してリストリングを受け取りバッグに大切にしまっていく。簡単に大金を支払うフィーネにナターシャが驚き戸惑っている。
「フィーネ! こんなに簡単に大金を払うなんて……本当に大丈夫なんですの?」
「確かに高い買い物だとは思うけど……気になるから買っておくの。なんか必要な気がするし、それにシリーズなら製作者はセットで使ってほしいんじゃないかな? 一つは縁があって持ってるし、それに旅してる私が全部集めてみるのもいいかなって……」
そのやり取りを聞いていた露店主がフィーネに声をかけてきた。どうやら耳寄り情報のようだ。
「気前のいい嬢ちゃんにおまけで情報をやろう……レイラード国には色んな意味で伝説があるようだ。旅をするなら一度足を向けてもいいかもしれない国だよ……それとレイラードの商品は安くても十五金貨以上の価値が付き、レア度も高いが特殊なものは使いこなせないとただのアクセサリーさ。作成者の意図にあったものだと理解した場合はその価値は跳ね上がる。お嬢ちゃんにいい相性だといいな……」
その言葉に笑顔で会釈し違う店に向かう。バッグに『ニジュリカ』を大切に入れて。するとナターシャが違う露店で指さしている。
「フィーネはこういうものには興味はないの?」
ナターシャが指差すのはドレスに合う髪飾りやペンダント、ブローチ……それに色とりどりのドレスの数々だ。おそらく一般的な婦人はこういったものが好きなんだろうなと言う感じだ。
「んー……私は旅がメインであまり舞踏会やお茶会には参加しないからなぁ……」
そういいながらもせっかくなので商品は一応みている。ナターシャも何かないかなと選んでいると手にとって悩んでいるのは……誰かさんの色の装飾品だった。
「ピン⁇ あぁ……」
ピンとはマントをとめる装飾品で、騎士がよく好むものだ。しかもナターシャが手に取っていたのは、深緑色に輝く小さなルビーが輝いている。
「それはナターシャがラギアルクスにプレゼントするのにピッタリじゃないかしら?」
「へっ!?」
フィーネがナターシャに声かけると顔が赤くなる!なぜバレているのと照れているナターシャがモゴモゴしながら話しかけてくる。
「よっ……喜んでくれるかしら?……」
照れているナターシャが可愛らしい。彼女から彼に渡すのにふさわしい品だ。フィーネはうんと頷き、ナターシャは上機嫌で店主に包んでもらっている。
ラギにはナターシャから、じゃあ私もアルにも何かと……フィーネはキョロっと見渡すと双剣のピンがある。片方は深紅のルビー、片方は銀色の石がはまっている。
あと隣には別の剣と盾のピン……こちらには深い黒紫のルビーと亜麻色の石がついている。剣と盾のピンを見ているとふとグランが思い浮かぶ。
「私はこれとこれを……」
そういうとプレゼント用に露店主が包んでくれそれをバックにしまう。
二人は買い物をし道を挟んだ広場に行こうとすると、急に走り出した人がナターシャに接近する。
「危ない!」
ドンッ!
「キャッ!」
ナターシャは人にぶつかってしまったようだ……
翌朝、朝早くからナターシャのメイドがフィーネの部屋に訪れる。
トントントンッ……
フィーネがガチャリと扉を開ける。
「フィーネ様、本日は街のご案内です。あなた様の衣服は目立ちすぎますから、こちらで専用のものを用意をさせていただきます。何かご希望はありますか?」
フィーネは昨日のナターシャのドレスを見て、あんなゴージャスなゴテゴテした動きにくいドレスは……あれはないなと思いメイドに動きやすく走りやすいものを提案し頼むと、けげんな顔をされた。
「……なるべく努力します……」
そういうとメイドは去っていく。それと同時に代わりの他のメイド達がやってくる。
「湯浴みの時間ですから……さぁこちらへ!」
湯浴みと聞いてビクッと身構えているフィーネだったが、やはりグランディールと一緒で体をメイドに洗われてしまうようだ。
「さぁ……磨きますよ! ナターシャ様と出かけるのですからしっかり恥ずかしくないように磨き上げをしますからね」
「んっ……我慢します……」
「さぁ! みなさんやりますよ」
と、メイドの号令でさっそく泡まみれで体が隅々まで磨かれていく。メイド達はなぜかフィーネの体に興味津々だ。
「不思議な肌ですね……このように吸い付くような肌はみたことはないです! それに……ほらみてこの胸!」
メイドがフィーネの肩から胸を泡でするりとマッサージするとビクッとなるフィーネ。それをよそにそのまま腰をマッサージ続ける。。
ビクッ! たまらなくなったフィーネは声がもれ出てしまった。だがメイド達はとまらない。
「ひゃんっ! ふあっ……」
「しかし……いつもコルセットなしでこの腰の細さをキープしてるなんて……なんて羨ましい体でしょう!」
着々と洗われ、そして次は髪の毛だが髪質も体以上に驚かれている。
「まぁ! みてこれ……サラサラの白銀髪だなんて……なんてキレイな……まぁ貴重な……」
どうやらフィーネの体や髪がバーティミアスではかなり珍しいらしく、まじまじと見られるのに恥ずかしくなったフィーネは顔が真っ赤だ。
「あのっ……そろそろっ!」
そういうと自分で泡を流し、ささっと湯殿をあとにする。髪を乾かしてもらい服を用意してもらう……が、それを一目見たフィーネの顔が引きつっている。
「うわぁ……何これ服なの?」
なんとも宝石がゴテゴテと飾られたいかにもなドレスが用意されていたので、フィーネは断り手持ちの服に着替えていく。その姿に残念そうなメイド達。ただ街を観光し動き回るのには邪魔なドレスは避けたいとメイド達に話をする。
無理強いはできない、仕方ないとフィーネの希望に従うがそうこうしているとナターシャが部屋にやってきた。と同時にフィーネの服装をみて、はぁ……と深くため息をつかれる。
「フィーネ様……まさかそんな服で街を歩くつもりではないでしょうね?」
「あら? 私はドレスを着飾る姫でもなく、私は護衛のような者ですから。さっと身動きが取れない衣装は不要です。それに着飾るのは姫様だけで十分じゃないでしょうか?」
と、フィーネも負けずにスンっと言い返す。まぁ戦闘には不向きな衣装だった為、とりあえず聞き入れたナターシャ。するとラギが後ろから遅れて現れるのだった。
「ごきげんよう。ラギアルクス様」
ナターシャがドレスの裾をつまみながらカーテシーで挨拶すると……フィーネも続いて挨拶をする。
「おはよう。ラギアルクス」
「ん⁉」
愛称呼びをやめたフィーネ。今までは知らなかったとはいえ、好意をよせている相手に失礼なことをしたくはないとフィーネは呼び方を変えたのだった。その姿にナターシャはホッとしている。まったくフィーネは普段どおりでいいのだが、なんだかな……といった表情のラギ。
「まぁ……お前はラギでもいいんだがフィーネのその心遣いに感謝しよう。さぁ、まずは街に行く前に我がバーティミアスの治安や他所にあまりない特有の問題、獣人の話をしよう」
三人は椅子に腰をかけラギの説明が始まる。
「まずフィーネ、街で獣人を見ましたね。我が国では獣人が人と住まう国です。だが獣人にも近い人間と人間に近い獣人がいます。獣人は……」
と、ラギが急に言葉を選びながら少し言葉につまる様子をみて、すかさずナターシャがラギを止める。
「ラギアルクス様。獣人のお話はお兄様がするようですわ。ですので今からは逆に街での振る舞いと……特に危なそうな決闘に関してきっちり無鉄砲なフィーネ様に説明しておいてください!」
ナターシャは獣人よりも街に出かける心構えとバーティミアス特有の決闘を教えろと催促する。
確かに……ラギは獣人の話をするのを避けて街の話をフィーネに説明しはじめた。
「確かに……街は色んな意味で危険です。露店や異国の商品がたくさん売られていますが、またそれを運んでくる商隊やならず者、また奴隷や盗賊、盗人も多々いるのがバーティミアスです。治安はあまりよくなくフィーネが遭遇した盗人もたくさんいると考えてください。普段女性は護衛をつけて出歩き、一人では行動しません。それは安全であり身を守る為でもあり、巻き込まれない為です」
話を続けるラギに途中で出てきた言葉に疑問を持つ。
「巻き込まれるって何に?」
キョトンとしているフィーネに真剣な眼差しで話すラギ。
「大体襲ってくるのはならず者ですが、やっかいな事に目をつけられると、執念深い奴らはその家族や知り合いに近い者が次の標的となり、それ故に脅されたり最悪の場合、全て皆殺しにされたりします!」
「えっ⁉ 何その物騒な話……」
びっくりするフィーネ。目をつけられたら最悪殺害って……どんだけサイコパスなのよ! このバーティミアスって国……
「意味がわからないわ! 私がやり返したら私だけが狙われるんじゃないの⁉」
ラギが静かに横に首を振りながら頷く。
「今回の視察の場合、ナターシャが一緒ですからフィーネが暴れると、ナターシャが危険にさらされます! いいですか……くれぐれも問題は起こさないように。あと『決闘』に関してですが……これは自分と相手が承諾してはじめて確定します……」
「決闘⁇」
「そのフレーズがでたら、何が何でも絶対に受けないでください!」
「絶対ですからね‼」
念押しでナターシャとラギがフィーネに詰め寄る!
「いいですか? 決闘とはどちらかが死ぬまで戦う、または敗北した場合……敗北者は一生勝者の奴隷となります」
「⁉」
「そしてその先には……その敗北者の奴隷を使ってその家族や一族に近寄り中から崩し、家族を崩壊させ没落、滅亡させる強行、強奪行為が横行します」
「また決闘での裏切りは許されないため一度標的にされると……一族路頭に迷います……いいですか? 何があっても、例え脅されようが、身内が殺されようが何にせよ決闘の選択は絶対にしないでください」
「例えばあなたが強くても、市街地にでて暴れると一緒にいるナターシャも被害が出ますから、夢々お忘れにならないように!」
二人が熱弁する意図はわかる。確かに、自分だけならなんとかなるって思っていたフシがあった。何か問題があったらいけないとグランディールの後ろ盾もなくしてきた。
自分単身だから大丈夫と……だが周りが巻き込まれていくのはフィーネも望むところではない。考えた末に了承する。
「わかったわ約束する。無茶はしないわ……」
フィーネは二人に約束する。念のために釘を刺したと……この時を待ってましたと言わんばかりに笑顔のナターシャがフィーネの目の前に出したものは……
「あっ! ……さっきのゴテゴテしたドレス……」
「ではフィーネはこれに着替えてくださいますわね?」
それはフィーネが朝断ったドレス……ナターシャが出したのは先程メイドが出したごちゃっとしたドレスだった。
「闘う必要はないのだからどうぞこちらに……」
確かにそう言われると着替えるしかない。渋々ドレスを身にまとう。準備はこれで万端だ。
「さぁ準備ができましたわ! 向かいましょう」
そういうと市街地へ視察に行く。
街は賑やかで、また人間や獣人、動物など自由に行き来している。フィーネは念入りに周りには警戒を怠らないように歩いていると……なんとなく気になる商品が露店に並んでいた。それに目を奪われ触れてみたくなったようだ。
「ねぇ……ここに並んでいるのは手にとっても良いの?」
ナターシャに問う。ナターシャいわく露店主がいいのであれば触れるらしい。露店主に伺ってみると良いとのことでフィーネはあるアクセサリーを手に取って見る。
シャラッ……
フィーネが手に取ったのは、リストリングと呼ばれる手にセットするタイプの手飾りだ。紫の石がついてシャラリと動く飾りが特徴的で、ふいにフィーネは口にする言葉があった。
「……これ……『ニジュリカ』に似てるのね……」
「えっ⁉」
呟くフィーネに露店主は目を丸くしながら驚いていた。直後にフィーネに対して上機嫌になる露店主。
「やぁやぁ嬢ちゃん! 『ニジュリカ』を知ってるのかい? いやぁ~お目が高いねぇ! これがわかる人間に久しく会ってないから嬉しいねぇ」
露店主と話すフィーネにナターシャがこれは何? と聞いてくる為、フィーネが説明してあげる。
「この『ニジュリカ』は、遥か西の国レイラード国の特産品で、この装飾品は持ち主を選ぶ不思議なアクセサリーなんだよね?」
「そうさ! いやぁ~これを知ってるなんてお嬢さん流石だなぁ!」
その通りだと言いながら露店主は喜びながら上機嫌でニジュリカの事を話しだした。
「光栄だなぁ~レイラード国の特産品を若いお嬢さんが知っているとは……商人の中でも一部しか知らないレアアイテムさ! しかも嬢ちゃん! これに惹かれたのなら買ってみないかい? 『ニジュリカ』は主を選び、呼ぶアイテムでもあるんだ。確か同じ工房のシリーズは五つあるはずだよ」
「同じ工房シリーズ?」
「そうさ! それはしらないのかい? 【頭飾り】【チョーカー】【リストリング】【レッグリング】……そしてレアな【専用の服】があるようだ。このシリーズはなかなかいろんな所に散らばっているから見つけられなくて揃わなくてね……服に至っては、四つ揃わないと所在がわからないように細工されてるって話だ。揃った時にどうなるのかは集めた本人しかわからないのも神秘的なものさ! なぁどうだい買ってみないかい?」
商人の話にニジュリカにフィーネは何か縁があるような気がしてならない。フィーネは笑顔で承諾する。
「買うわ! いくらかしら?」
「気前のいい嬢ちゃんだ……だが特殊な装備は高くつくぞ! そうだな……二十金貨でどうだ?」
「いいよ二十金貨……契約成立ね!」
「なっ! これに二十金貨ですって⁉」
フィーネはパッとお金を露店主に渡してリストリングを受け取りバッグに大切にしまっていく。簡単に大金を支払うフィーネにナターシャが驚き戸惑っている。
「フィーネ! こんなに簡単に大金を払うなんて……本当に大丈夫なんですの?」
「確かに高い買い物だとは思うけど……気になるから買っておくの。なんか必要な気がするし、それにシリーズなら製作者はセットで使ってほしいんじゃないかな? 一つは縁があって持ってるし、それに旅してる私が全部集めてみるのもいいかなって……」
そのやり取りを聞いていた露店主がフィーネに声をかけてきた。どうやら耳寄り情報のようだ。
「気前のいい嬢ちゃんにおまけで情報をやろう……レイラード国には色んな意味で伝説があるようだ。旅をするなら一度足を向けてもいいかもしれない国だよ……それとレイラードの商品は安くても十五金貨以上の価値が付き、レア度も高いが特殊なものは使いこなせないとただのアクセサリーさ。作成者の意図にあったものだと理解した場合はその価値は跳ね上がる。お嬢ちゃんにいい相性だといいな……」
その言葉に笑顔で会釈し違う店に向かう。バッグに『ニジュリカ』を大切に入れて。するとナターシャが違う露店で指さしている。
「フィーネはこういうものには興味はないの?」
ナターシャが指差すのはドレスに合う髪飾りやペンダント、ブローチ……それに色とりどりのドレスの数々だ。おそらく一般的な婦人はこういったものが好きなんだろうなと言う感じだ。
「んー……私は旅がメインであまり舞踏会やお茶会には参加しないからなぁ……」
そういいながらもせっかくなので商品は一応みている。ナターシャも何かないかなと選んでいると手にとって悩んでいるのは……誰かさんの色の装飾品だった。
「ピン⁇ あぁ……」
ピンとはマントをとめる装飾品で、騎士がよく好むものだ。しかもナターシャが手に取っていたのは、深緑色に輝く小さなルビーが輝いている。
「それはナターシャがラギアルクスにプレゼントするのにピッタリじゃないかしら?」
「へっ!?」
フィーネがナターシャに声かけると顔が赤くなる!なぜバレているのと照れているナターシャがモゴモゴしながら話しかけてくる。
「よっ……喜んでくれるかしら?……」
照れているナターシャが可愛らしい。彼女から彼に渡すのにふさわしい品だ。フィーネはうんと頷き、ナターシャは上機嫌で店主に包んでもらっている。
ラギにはナターシャから、じゃあ私もアルにも何かと……フィーネはキョロっと見渡すと双剣のピンがある。片方は深紅のルビー、片方は銀色の石がはまっている。
あと隣には別の剣と盾のピン……こちらには深い黒紫のルビーと亜麻色の石がついている。剣と盾のピンを見ているとふとグランが思い浮かぶ。
「私はこれとこれを……」
そういうとプレゼント用に露店主が包んでくれそれをバックにしまう。
二人は買い物をし道を挟んだ広場に行こうとすると、急に走り出した人がナターシャに接近する。
「危ない!」
ドンッ!
「キャッ!」
ナターシャは人にぶつかってしまったようだ……
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