47 / 108
第3章 ニルヴィアの谷と嘆きの谷
29. 家族の願い
しおりを挟むリースとサラディナーサはティアの家に急ぐ。自分の結界をすり抜けたものが彼女達に危害を加えていないことを願って……
【どうか……どうか無事でいてティア!】
慌ててかけていった二人がティアの家を訪ねた。
トントントンっ……
扉を叩くと、カチャリと中から鍵が開く。
(ガチャっ……)
【ハァハァ……ティアいる?】
家の中からはバッシュがニルヴィを連れてでてくる。バッシュはどうやらニルヴィの子守中のようだ。
【あっリース様!サラディナーサ様もこんばんわ!】
【こんばんわバッシュ……ティアはどこ?】
【姉さんはアッシュが頭痛いって言って……冷たい水で落ち着こうって裏の沢に行ってるけど……】
【⁉】
二人は慌ててバッシュに言われた裏の沢に向かう。裏の沢には滝が流れ落ちていてその水が里の川、全域にへと流れている。澄んだ清らかな水が流れ落ちていて、その滝の側の水で頭を冷やしながら苦痛に顔をゆがめたアッシュが顔を洗っている。
【クッ……】
【大丈夫? アッシュ……いつもよりツラそうね】
オロオロと心配そうにしているティアにアッシュは優しく声をかける。
【だいぶ良くなってきた……ありがとうティア……】
お互いに思いやる二人。滝の水をタオルに染み込ませ頭に当てていると二人のもとにリースとサラディナーサがたどり着く。二人の姿に気づいたティアが声に出す。
【あらっリース様にサラディナーサ様……どうしたのですかこんな夜更けに?】
夜に訪ねてきた精霊に不思議な顔をしている。普段であればこんな時間に二人はこられないからだ。リースとサラディナーサの名前をティアが呼ぶとまた不思議な音が鳴り響く。
ピンッ……
【⁉】
【ピクッ!】
【まただ……この音……】
そう……最近リースが感じている綻びの音がすぐ近くでする!嫌な予感がよぎるとその音が弾ける瞬間に急にアッシュの頭がギリギリと締め付けられていくのだった。
【ぐあぁっ!】
アッシュが苦しみだす。と、それと同時にオロオロとしているティア。だが綻びの音は頻度を増していくのだった。
ピシッ……
【ぐあぁっ! うわぁぁぁぁ!】
【‼】
【これは……】
【⁉】
【グッ……イヤなニオイがする!】
【アレは……だめね!】
軋む綻ぶ音が強くなる。そしてそのたびにアッシュの頭痛はひどくなる一方だ。心配しているティアにアッシュから離れるようにリースが強く望む!
【ティア……こっちに来なさい!】
【えっでもアッシュが……】
アッシュが気になってしょうがないティアに今まで聞いたことのないキツイ口調でリースが命令する!
【いいから今すぐこちらに来なさいティア‼】
ビクッ……!
リースが……普段から穏やかなリースが怒鳴るなんて! サラディナーサもティアも驚いていたが戸惑いながらもティアは二人のもとに歩いてきた。
【怒鳴ってごめん……でもあなただけでも間に合ってよかった!】
【えっ? どういう……】
リースの間に合ってよかったの言葉に戸惑っていると目の前でアッシュに異変が起こる。
ピシッ……ピシッ……
パキッ……
【グアアアアッ‼】
【⁉】
軋みが早くなると同時にアッシュも苦しみだす。駆け寄ろうとするティアをリースとサラディナーサがとめている。その間にも悲痛な叫びが響き渡る! それを聞くに堪えないティアが叫んでいた。
【アッシュッ! ねぇっリース様……サラディナーサ様! お願いアッシュの……アッシュの側にいかせてー!】
ティアの心配をよそに軋みとともに禍々しいニオイがアッシュと呼ばれる者から禍々しく漏れ出てくる。
【ぐっ……これはキツイ……】
【リース……これは!】
【サラディナーサ……早く気づくべきだったわ‼ マズイ! これはニンゲンの悪意の塊だわ!】
リースの言うニンゲンの悪意とは⁉ と……音が次第に加速する!
パキッ……
バキンっ!
バシュッ‼
【グアアアアアァ‼】
【……】
軋みが弾けてアッシュの叫びが響き渡る! と同時に禍々しいモヤと煙があたりに立ち込める。みんなは煙がはれるのを待っているとすくっと立っているアッシュの姿を見つけるティア。
【アッシュアッシュ‼ 体は大丈夫⁇】
心配するティアの呼び声。だがその瞬間悪意に満ちた魔法がティアを襲う!
【危ないっティア!】
サラディナーサが手を広げ結界を瞬時にティアに展開する。
シュッ‼
ドカガガガッ
パァンッ!
【きゃああっ!】
アッシュから突然禍々しい殺気と刃の魔法が放たれるが、サラディナーサの結界でみんなは無事だ。アッシュはなにやら自身の体を見て、手のひらを動かしたりしてなぜか自分を体を確かめているようにみえた。その様子をじっと見つめるリースはアッシュだったものに問いかける。
【お前何者だ! アッシュはどうした!】
【えっ? だってアッシュはそこにいるじゃない……】
ティアは何が起こっているかわかっていない。すると次第に不気味な笑い声がその場に響き渡る。
【クックック……やっと外に出られましたねぇ……】
ビリビリビリッ……
【⁉】
【なんだこの禍々しい邪気は!】
その場に緊張と悪意の気が立ち込める。あまりの禍々しさにティアが立ちすくんでいる。愛していたアッシュの変貌ぶりに顔が真っ青だ。
【お前……お前からはイヤなニオイがする! なぜこの里を狙った人間!】
リースの問いにゆらっとゆらめきながらこちらを見るアッシュ。
【あぁ……やっと外に出られましたよ……フハハハ私はゲインセイ。精霊を喰らい、人間を餌に精霊を痛ぶり食し成長する者……あぁ……やはり精霊は清い人間を好む。手頃な人間を傷めつけ体を乗っ取り、コイツの記憶を消して邪気を弾く結界をすり抜ける。そしてこちら側に来る……そして内なる場所で記憶を呼び戻しそして結界の内側から無惨に破壊する! フハハハっ! また餌がこんなに! 力を付け放題だ! あぁ今回も実に簡単でした……】
笑いながら話すゲインセイ。だが一気に豹変する。ワナワナと怒り震わせているのはどうやらアッシュに対してだった。
【こんな里に入り壊すのは簡単だったはずだった。だが……計画が狂ったのはコイツが……このポンコツが! 人を愛し私に抵抗し表に出そうとしないだと!よもや弱いニンゲンが大人しく従っていれば良いものを! こんなふざけたマネしやがって! こんな肉体はいらんなぁ……! 破壊してやる!】
そう言うと自分自身に魔法を展開し唱え始める! その様子を見てハッとリースは悟る。
【まさか……アッシュは……コイツを中から出てこられないように自分自身を封印しようと抗い抵抗していたのか?】
どうやらアッシュはティアを愛し、自分に巣食うゲインセイが出てこないように制御していたようだ! だが強大な悪意と魔法の力差では抗うことは出来ず失敗していたのだった。
自身に魔法を唱え始めるゲインセイにサラディナーサは違和感を感じる! そう……とてつもない膨大な魔力量に唱えているのは攻撃系の魔法だからだ。サラディナーサがゲインセイの異常行動に気がつく!
【あれは……自分に魔法を? いや……あれは補助じゃない! 破滅魔法だ‼】
【まさか……ダメだ! あんなの人間のアッシュには耐えられない!】
ふたりはゲインセイを止めようとするが間に合わない!
キィンッ!
【死ねぇぇ‼】
ゲインセイは術式展開し自分を……アッシュを攻撃している。攻撃し体が痛めつけられ凄惨な姿になる。
ブシュッ!
ドサッ!
アッシュは至るところから出血し瀕死の重傷だ!
【いやぁぁあ! やめて! アッシュを返して‼】
その凄惨な光景を見てティアが泣き叫ぶ。駆け寄ろうとしているティアを二人が止める。ティアの叫びを聞いてゲインセイは不気味な笑いをたたえている。
【苦しみや痛みは……わたしの栄養源! さぁ私は屈辱を散々味合わされたからね……私が憑依を解いた瞬間の……体が八つ裂きになるような痛み苦しみをその身をもって味わうがいい!】
そう言うとゲインセイはアッシュから憑依をやめて分離するがその瞬間!
ビキビキビキッ‼
想像を絶する痛みがアッシュを襲う!
【ガアァァァァっ‼】
カハッッ……
血を吐きながら苦しみのたうち回っている。
【いやっ! アッシュ‼】
苦しむアッシュにいたたまれなくなったティアは、自身の魔力を爆発させサラディナーサの結界を破る!
バッ! パンッ!
ティアは二人を振り切りアッシュのもとに駆け寄り、寄り添いながらアッシュに声をかける。
【……】
【アッシュ! アッシュ‼だめよアッシュ!】
泣きながら抱きしめ、そして涙がアッシュにこぼれ落ちる。消え入りそうな声で……アッシュがティアに声かける。今にも命つきかけそうな……そんな状態だ。震える声でティアの顔を見つめそして手を握る。
【ティ……ア。私は……キミが……大好き……だ……】
【私もよアッシュ‼ 嫌よ目を開けて!】
必死なティアに、自分の死期を悟ったアッシュが最後の言葉をかける。
【あんな……やつ……に……負けたく……なかっ……た……ニルヴィ……を……頼む……】
【……】
ティアの手からアッシュの手が力なくするりと落ち息絶える。
プツンっ……
その瞬間……何かが弾ける音がした!
0
お気に入りに追加
1,522
あなたにおすすめの小説
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
私の代わりが見つかったから契約破棄ですか……その代わりの人……私の勘が正しければ……結界詐欺師ですよ
Ryo-k
ファンタジー
「リリーナ! 貴様との契約を破棄する!」
結界魔術師リリーナにそう仰るのは、ライオネル・ウォルツ侯爵。
「彼女は結界魔術師1級を所持している。だから貴様はもう不要だ」
とシュナ・ファールと名乗る別の女性を部屋に呼んで宣言する。
リリーナは結界魔術師2級を所持している。
ライオネルの言葉が本当なら確かにすごいことだ。
……本当なら……ね。
※完結まで執筆済み
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
追放された聖女の悠々自適な側室ライフ
白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」
平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。
そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。
そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。
「王太子殿下の仰せに従います」
(やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや)
表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。
今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。
マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃
聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる