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第2章 ファブニール

19. 魔法国家ファブニール入国検査

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 朝早くに目をさまし約束の城門に、西のファブニールにつながる道に歩いて向かうフィーネ。そこには昨日約束したティレニアが静かにフィーネを待っていた。
「フィーネ様、では行きましょうか……」
 フィーネは頷きファブニールに向けて出発する。ファブニール……どんな場所なのか気にしているとそれに気づいたティレニアがファブニールについて説明しますねと教えてくれる。

 魔法国家ファブニール……

 昔より魔法に秀でた国で国自体民への魔法育成に余念がない。魔法に年齢は関係ないとどの年代でも研鑽している国。 
 だが精霊は清い魂の持ち主を好む傾向があり、若いほうが魂が清らかで邪念も少なく精霊と契約しやすく、かつ魔法の習得が早くなる。
 またファブニールでは才能のあるものは『リヴィエラ』と呼ばれる学校のような場所に通うことができ、特別な修練し己の才能をのばしてくれる魔法最優遇国……
 だからこそ、正反対の魔力を持たない人々にとっては暮らしにくい場でもあり国でもある。国の下層には魔法が使えない民が暮らしており、中層には魔法がある程度使用できるものが住み、上層には国が認定した秀でた魔術師のみが滞在を許され、最上層には国の王族が住んでいるのだ。
 魔法にはなんとも序列が厳しい国……それがファブニール。
「だからこそ対話では魔法が肝心であり、武器は論外です。だからグランディールとも仲がよろしくないのですよ」
「魔法重視で武器は全く意味をなさないのか……」
 フィーネがしょげているとティレニアに首を横に振られる。話を聞くと武器にもよるらしい。
「ただし論外と言っても、魔法剣や魔法をまとった武器での戦いは魔法纏《まほうまとい》の部類として素質があると認定します。だから認定されれば重宝されます。魔法纏は魔法では高等技術ですから……」
 剣に魔法を纏わせた魔法剣のたぐいは重宝されるようだ。グランディールとは違い、貴族や血筋ではなく身分も魔法次第という国……魔法ファースト国家ファブニール。フィーネは考えながらつぶやく。
「そんなに魔法が重視されるなんて……私の『創造』は魔法じゃないからなぁ……大丈夫かな?」
 不安なつぶやきに反応するのは、ちょこんと肩に乗っているヴァルだ。
〘ヤレヤレ……フィーネには我がいるではないか! 魔法だろうが魔法纏だろうが我がそっと使ってみせよう……ただし……〙
 ヴァルからものすごくすごんで忠告される。
〘魔法重視の国……だからこそ『召喚士』であることは伏せておくべきだな……〙
 フィーネがヴァルの提案にコテンと首を傾げる。魔法国家で『召喚士』であることを伏せる必要があるのか?
「なぜ?」
〘グランディールに無事に帰りたいのであれば……明かさぬほうがよい……伝説の『召喚士』と気づかれば……そんな貴重な存在を国外に逃がすはずがない……王城から一生出ることも叶わぬ囲われになるだろう……〙
ゾクッ……
 ヴァルの話を聞いていたフィーネの顔からサアァッっと血の気が引く。
「それは……やだ! もぉ自由に生きさせてよ! そんなことされたら全力で暴れちゃうんだからっ!」
クスクスクスッ……
 ティレニアがヴァルとフィーネのやり取りに笑っている。ティレニアには高度な魔力があるようで龍族のヴァルの会話がわかるらしい。
「フィーネ様。今回はグランディールとファブニールの和平が目的ですので……そこは穏便に」
 そう……今回の目的は両国の争いを止めること。賓客で訪れる事で収まればよいが……ティレニアはそう思いを巡らせ旅路を急ぐ。
 幾日か西へ向かうと建物が見えてくる。どうやら隣国に着いたらしい。
「さぁこちらがファブニールです……」
 目の前に広がる景色に驚きを隠せない。
「なにこれ……」

 魔法国家ファブニール……
 空には数え切れないほどの魔力宝珠が飛び交っていて夜でも昼間のような明るさを保っている。
 城壁にはいくつもの宝珠が埋め込まれており、外部からの客にはまずこちらを抜けてどこのエリアまで入れるか選別されるのが入国審査だ。魔力が高ければ高いほど上層部へといけるようだが……低ければかなり行動が制限されてしまう。
 歩いていた二人は門の前に立つ、ローブをまとった魔術師達に声をかけられ止められてしまう。
「そこ止まりなさい。あなた方は旅人か?」
 門番に問われティレニアがフィーネの前に立ち説明する。
「わたくしはグランディールのティレニア。グランディール賓客、及び渡り鳥のフィーネ様をお連れいたしました。ファブニール国王様に謁見願いたいのですが……」
「⁉」
ザワッ……
 魔術師がざわつくと同時に、フィーネとティレニアは魔術師たちにザッと囲まれる。どうやら本物かどうか疑っているようだ。
「貴方が……噂のフィーネ様?」
「おい早く上層部に通信しろ………」
 慌ただしい魔術師達と門番の一人に誘導される。誘導された場所には一つの門がある。
「まずはこちらを通過ください。魔力を持たないものは通過もできませんが……」
 第一関門である。国に入れるのかの問題。そう……この国はまずは第一関門……この入口の門を通過し入国手続きが取れる。そして選別される。フィーネは初めての事のためティレニアが率先して進み見本を見せてくれる。
「フィーネ様、まずはわたくしが通りますのでよく見ておいてくださいね」
 ティレニアが第一関門の門を通過すると、少し遅れて魔法陣が発動する。
パァァァっ……
 ティレニアが通った門の魔法陣から光が放たれた輝きは五色……光が照らされる。なんともキレイな輝き、門番たちもその情景にウットリしている。
「‼」
ザワザワ……
「ほぉ……グランディールにもこのような素晴らしい魔法の使い手が!ファブニール国の入国を大変歓迎いたします」
 急に魔術師がティレニアに丁寧な対応をする。なぜ? とはてな顔のフィーネに魔術師が説明する。
「我が国はこちらの門で識別を行います。全部で七色の光があり、色が多数あるほど上層部への入国可能となります。ティレニア様は五色……文句無しで上層部へ入国可能です。ただグランディールのように魔法に疎い国にこのような優秀な術師がいるとは……いやはや素晴らしい才能!ぜひファブニールにも気軽にお越しください」
 どうやらティレニアはかなりの魔術師であると認定されたらしい。それは特別待遇に等しかった。フィーネが私って何色なのかな? とドキドキしていると門番が緊張しているフィーネに補足する。
「ちなみに我が国では六色の一般人はおりません……六色の魔術士様は現在国王様をお見守りしておりますお一方のみ。七色は未だに私達でさえ生きてる間は見たことありませんから、実質的には六色が最高の位ですね。だから上層部には四色以上でいけますし、緊張せずにささっお入りください」
 魔術師が和ませてくれる。すーはーっ……フィーネが意を決して歩いて門をくぐる。
シーン……
(あれ? なにこれ……)
 何も起こらない⁇ あれ? っとフィーネも含むその場の者が思っている。普通はすぐに反応する魔法陣なのだが……すると、一気に光をためた魔法陣が強烈な勢いで輝き出す!
パアアァァっ‼
「⁉」
 ザワザワ! 周りが一気に慌ただしくなるその光景を見てフィーネが感動している。
「わぁ虹色だ! きれいー」
 フィーネが虹に感動していると魔術師達もその場で固まり驚き戸惑っている!
「⁉」
「まさか! まさかの七色って……ホントにこの階級が存在するのか⁉」
「初めて見た……虹色! 七色だ!」
「すっすぐに……上層部に報告しなくては!」
 光の七色は勢いよく天に向かってしばらく光を放ち、国中に光がほとばしると……遠く城から見下ろすとある魔術師が目にする事になる。
「! 門から七色……まさか! 七色魔術師が現れたのか⁉ 門へ急ぎ向かい確認するんだ!」
 城内も入口も慌ただしくなる。まさか……と恐る恐るティレニアの方を見るフィーネにニッコリ笑うティレニア。
「まさかですが……お見事です! ふぅ……ただこの国の王族には目をつけられたかもしれませんね……」
 それと同時にため息をつかれてしまうティレニアとヤレヤレ……とヴァルがフィーネの肩で丸まっている。
〘まぁわかっていたことだ……慌てても仕方あるまい……フィーネこれから起きることには気を引き締め答えるのだぞ……〙
 騒ぎからしばらく立つと入国検査門には身なりがしっかりしている綺羅びやかな出で立ちの魔術師が現れる。
「貴方様が七色の……」
 門番は頷きこちらの方が……と説明している。聞き終わった魔術師はフィーネの元に訪れたため、フィーネは相手に膝をついて挨拶をする。
「グランディールより、賓客そして渡り鳥のフィーネです。長らくこちらに伺うことができず申し訳ありません……」
 フィーネが詫びの言葉を発すると、魔術師がフィーネに対して慌てて言葉を打ち消す。
「とんでもない! こちらには約束通り今来てくださったではないですか。賓客様はやはり素晴らしい魔力の持ち主であることは間違いない。お連れ様も素晴らしい持ち主。申し遅れました……私はディリーグ。この国の六色の魔術師です。ささここは寒いですからこちらへ……国王様がお待ちです」
 ディリーグは灰色の髪を持ち少し肩にかかるぐらいの髪。180cmくらいで黒のローブを纏っている。黒のローブには金の刺繍がされており最高位の魔術師に与えられる名誉ある装いだ。
 魔術師はささっと周りに指示を出し建物の先にある部屋に通されると、魔法陣のようなものが用意されていてそこにみんなで入る。
「少し揺れますが……すぐですからね」
「えっ⁉」
 そう言われた瞬間部屋を移動していた。
 連れて行かれたその先には……
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