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第1章 グランディール
18. そして1年後……旅立ち
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一方グランディールでは…………
フィーネが新翼の大森林に旅立ち、姿を消した後……はじめはグランディールの王都で探し回るものが多数いた。国賓の失踪……国や騎士が総出で国中を探し回ったが誰もが見つけられずにいた。
あれからはや一年の時がたち、フィーネの使っていた部屋は今でも当時のそのままにしてある。
フィーネ専用に仕立てられたドレスに小物、ベッド。そして机に置かれた結界付きの小箱。
はじめこの小箱は魔術師や司祭、魔女、レベッカ等が解析しようとしたが、かなりの魔力で作成されていてこの地の者に何かができるしろものではなかった。フィーネの事だ。これにも何か意味があるのだろうと、グランの意向で今も手入れや掃除はされているが部屋はそのままの状態だ。
とある日、グランは職務の合間にフィーネの部屋に訪れていた。
(あれから一年……フィーネは今どこで何をしているのかな?)
フィーネがいなくなりグランディールは捜索していたが、急に隣国との小競り合いが勃発し捜索は困難になっており今はそちらの対処に力を注いでいる。
隣国は魔法を得意とする国……しかし反面剣技には秀でておらず剣技国家グランディールと魔法国家ファブニールとは相容れない存在。
(戦いがなければフィーネを探しに行けるのに……)
そう思いながら机に置かれた小箱を見つめていると……
パアァァァっ‼
「っ⁉」
突然小箱が光り輝き出し目を背ける。その後そろっと小箱の方をみてみると人影がありそこから懐かしい声が聞こえる!
「あっグランだ‼」
そこにはシルバーに輝く髪をなびかせ、服にはだいぶ汚れはあるもののその顔は、懐かしい探し求めていた姿の人が! 驚きながらグランは尋ねる。
「フィ……フィーネなのか⁇」
「えーっ忘れちゃったのグラン⁇」
ショックを受けるフィーネだが、ヴァルの囁きでハッとフィーネが気づく。
〘フィーネ……我と同化しているのだ……解いてやらぬと見た目では分からぬのではないか? ヤレヤレ……フィーネは……〙
「っ……あっ‼ そうか! ヴァルと同化してたんだった!」
フィーネは胸に手をあて名を呼び温かい光に全身が包まれる……と、そこには出会った頃の亜麻色の髪のフィーネと肩にちょこんと乗ったヴァルの姿が現れる。
「ごめんごめんグランっ。あれじゃ私ってわからな……」
ガバッっ‼
「⁉」
フィーネの姿を見るやいなやグランがフィーネをギュッと抱きしめる。
「グッ、グラン?」
「バカフィーネ! 一年もの間どこに行ってたんだ! みんなすごく心配してたんだぞ‼」
グランがものすごく怒っている。ただ少し震えているようにも見える。心配からの怒りだとフィーネは察した。
「……そう……あれから一年も経ってたんだ。ごめんねそんなつもりじゃなかったんだ」
フィーネがグランに声をかけていると、フィーネの部屋に来たシオンが驚いている!
「グラン殿下。そろそろ会談の時間が……⁈ フィーネ? フィーネ様!」
「ごめんねー黙ってでかけちゃって。シオンっただいまっ」
シオンの驚きの声に、メディアやメイド達がフィーネの部屋にこぞって集まり泣きじゃくる。集まり泣きじゃくる皆を慌ててフィーネがなだめている。
……少し落ち着きはじめた時に皆にわかるように説明し始めた。
「お茶会のあの後に、魔法の基礎がどうしても気になったのと精霊に会いたくて……ヴァルに相談して、移動手段のこの小箱を設置してから新翼の大森林で召喚訓練してたんだ」
「召喚訓練?」
不思議な訓練に一同が首を傾げる。
「そう魔術師とか司祭は精霊に契約してもらって魔力と魔法を交換して魔法を使うでしょ? 召喚士は精霊を取り込んで自分を強化し、精霊の力そのものを使いこなして戦うんだよ」
そう説明すると、実際に肩にちょこんと乗ったヴァルと同化してみせた。
パァァァ……
「⁉」
フィーネの髪色が白銀になり髪の長さや服装も変わったことに周りが驚いている。
「そんなことができるなんて……」
一番驚いたのはレベッカだった。召喚士というものに皆がまだ馴染んでいない。
「こんな精霊とのシンクロがあるなんてどこにも文献も……伝承にもない……あぁこんな奇跡を目の当たりにできるなんて、フィーネ様ぁ……」
キラキラした眼差しでみつめられる。魔術師であるレベッカは精霊と人間の共存に興味津々だ。
「これをまず自由自在に使いこなせるようになることが目標で、これが思ったよりかなり時間かかっちゃってっ。やっと半年くらいで使いこなせるようになったから、その後他の精霊たちと契約してみたり……」
フィーネが一年間の生活などを大森林での生活を楽しそうに話し始める。
「たくさん魔物仕留めたからね。またいっぱい買い取ってもらえる素材ばっかりだから……ベルに見てもらわないと♪約束だからね」
ワクワクしているフィーネに、神妙な面持ちでグランが話しかける。
「帰ってきてそうそう申し訳ないが……フィーネは我が国で渡り鳥認定している。他国への依頼なども受け、解決していくのもフィーネの仕事だ。戻ってきて早速行ってもらいたい国がある。旅をしながら隣国ファブニールに行って、このグランディールとの争いを解決してもらいたい」
「えっ……ファブニールって? それにグランディールとの争い?」
隣国ファブニール……
魔法が得意な国家でありとても精霊との繋がりを大事にする国。そして逆に剣技は不得意。
だからこそ剣技を重視するグランディールと魔法を重視するファブニールは長年思想が違うため犬猿の仲だ。
「実はフィーネが失踪した後にフィーネの評判を聞いたファブニール側が、腕利きの魔術師であるならばこちらの国にも賓客で訪れるべきだと」
隣国より召還命令が出されていたのだが……
ただそれから急に一年フィーネは失踪し、グランディールにいなかった為、召還命令で差し出せといわれても行かすことも出来ず……するとファブニールにはこさせないつもりかと、国同士のいざこざがさらに悪化していてた。
ふぅ……とグランは頭を抱えていた。
なにせフィーネがいればこのいざこざもなく小競り合いで騎士達が傷つくこともなかったからだ。ジッと話を聞いていたフィーネ。
「それって、私が原因だよね?」
静かに事情を聞いていたフィーネは、私が居なくならなかったら争いになってなかった……シュンとする。すかさずグランに返事をする。
「ごめんなさいっ私行くよファブニールに! 争わないように話しつけてくるよ」
フィーネはまかせてといきまいているが、心配事はそれだけではなかった。
「それが……」
えっ……他にもなにかあるの? と不思議そうにしているフィーネ。
「ファブニールは、魔法が使えない人間は入国させないんだ。だから私やシオンがついていけないから不安にさせてしまうなと……」
グランはフィーネを心配している。だがフィーネはあっけらかんとしていた。
「一人でも大丈夫だよ。魔法も剣技も戦いは一年で鍛えたから。しっかり役目を果たして帰ってくるから心配しないで。それに心配ならこれを渡しておくね」
そう言うとバッグからチャリっと赤い石の輝くイヤーカフーをグランに渡す。
「これは私が作ったもので、遠くでも会話ができるアイテムだよ。困ったときは通信するからこれでグランが助けてよ! グランからもいつでも連絡大丈夫だから」
イヤーカフーを受け取ると、グランは少しため息をつきそして声をかける。
「またこんな高等技術を……フィーネすまない。グランディールを。そしてファブニールをよろしく頼む」
グランの依頼を受けるとメディアがさっそく次の準備に取りかかる。
「さぁ話が終わったなら姫様! お召し物が随分汚れてます。きれいに磨き上げ、今日は殿下やリディリア様とお食事していただきますからっ! 殿方はささっお部屋の外へ。さぁ皆さんやっておしまいっ!」
パパンっ‼
「きゃあぁっっ」
久しぶりだが例のごとくメディアが手をたたくと、ぞろぞろ現れたメイドにフィーネは湯浴みに連れ去られてしまう。一年間大森林で暮らしていたフィーネは、水浴び程度しかしておらず、傷んだ箇所をすみずみまでキレイにされてしまうのだった。
「まぁフィーネ様っ! 何をしたらこんなに髪が傷んでしまうのですか⁉」
「あのぅ……その……」
「まぁお肌までこんなに荒れて! 悲しゅうございます。あぁたまのようなお肌が……」
「……ごめんなさいっ」
「本日は薬湯でございます。ゆっくり癒やしてから旅立ってもらいますからね」
いたたまれない言葉、そして久しぶりの湯船で疲れを癒やす。ふんわり香る薬草の匂いに体が癒やされていく。
一方その頃、心配するシオンがグランに相談している。
「一人で行かせて本当に大丈夫ですか?」
無理もない……見知らぬ国に誰もつけずに一人旅立たせるのだ。
「シオン仕方ないさ。向こうの要求をのまなければ、さらに余計な争いをしてしまう。ただフィーネはやられてしまうようなたまではない……心配ではあるが、橋渡しをしてくれるよう祈ろう」
その頃準備が終わり支度が整ったフィーネは王族との夕食に向かう。フィーネの姿を見たリディは走り出しぎゅうっと抱きしめ泣いている。
グランから必死に探し回っていた一人がリディと聞かされていたフィーネは申し訳なくなる。
「ただいまっリディ。何も言わずにいなくなってごめんね?」
涙顔のリディはフィーネの声と抱きしめた実感でフィーネの無事に安堵した様子だ。この一年の出来事を説明し、リディには二度とだまって出かけないことを誓った。久しぶりの温かな食事、温かな人達。
一時のあたたかさに触れるフィーネ。会食後に部屋に戻り窓から外を眺めているとヴァルが声をかける。
〘フィーネ……明日はファブニールにたつのだろう?……眠れぬのか……〙
ヴァルがフィーネの肩に乗ると、ジッと窓から空や景色を眺めている。
「うん……期待と不安が半々かな。魔法国みたいだからグランディールにいない精霊に逢えるかもしれないね」
〘フィーネ……わかっているとは思うが……友好的な精霊もいればそうでもないものもいる……見極めは大事だ……〙
そっとヴァルが注意する。ヴァルの注意はごもっともだ。
「わかってるヴァル。大森林でも努力しても駄目な子いたしね」
そう、大森林でも仲良くなった精霊もいたが一年かけても駄目な精霊もいた。駄目な精霊にはかなりの傷を負わされたものだ。
「闇雲に契約するのも、先に契約した精霊が嫌がることも勉強させてもらったから……みんなと仲良くは諦めるよ。人間もそうだもの……」
この世界ではまずグランディールにお世話なったからグランディールの為になりたい。グラン、シオン、リディ。大事な友達……そう思いを馳せながら月夜を眺める。
カッ‼
フィーネはヴァルを纏いテラスから庭に飛び移る。しばらく戻らないグランディールの庭を散策していると一人の女性に出逢う。月明かりに照らされ透き通るような女性が一人。
「どうしたの⁇」
銀髪で左目を前髪が隠しているスラッとした女性。騎士っぽい格好をしているが周りにはフワフワっとしている光が多数浮いており、指で触れては対話をしている。幻想的な光景に思わず口にしていた。
「魔術師様ですか?」
フィーネに気づき問いに笑みが溢れる女性はこちらを向いている。
「クスッ……これが見えるということは……精霊の加護があるということですね」
月明かりに照らされたその女性はフィーネに微笑む。178cmの高身長、月光に照らされた女性のサラッと長い銀の髪が風になびきその光景は美しかった。
「わたくしはティレニア……剣士であり魔術師です。あなたはフィーネ様とお見受けします。わたくしはシオンと知り合いですの……」
「シオン知ってるの?」
シオンの知り合いだという女性に驚くが妙に心地よい声色に安堵する。初対面にも関わらず、なぜか彼女の不思議な雰囲気に流されてしまう。
「えぇわたくし……フィーネ様がファブニールに行くと聞いて参りました。グランディールからはファブニールにお供を出せないと伺いました。シオンの代わりにどうかわたくしをお連れください」
透き通るような髪ときれいな顔立ち。でも……どこか儚げな彼女はなぜか信用できる気がする。でも、どこかシオンに似ている出で立ち。嫌な気配は一切ない。
「一人で行くつもりだったけど……魔法が使えるなら向こうもそこまで厳しく言わないと思う。でも……知ってる人がいるのは心強いし、シオンの知り合いならお願いしてもいいかな? ティレニア」
「喜んでフィーネ様の盾、剣となりお見守りいたしましょう。明日、グランディールの西……ファブニールへ向かう城門でお待ちしておりますわ」
そう告げるとティレニアはその場から立ち去る。儚げな……そして透き通るような不思議な女性からはなぜか目が離せなかった。彼女は一体何者なのか。そして次の国隣国ファブニールでは何が待ちかまえているのか。
そうして夜がふけていくのであった……
フィーネが新翼の大森林に旅立ち、姿を消した後……はじめはグランディールの王都で探し回るものが多数いた。国賓の失踪……国や騎士が総出で国中を探し回ったが誰もが見つけられずにいた。
あれからはや一年の時がたち、フィーネの使っていた部屋は今でも当時のそのままにしてある。
フィーネ専用に仕立てられたドレスに小物、ベッド。そして机に置かれた結界付きの小箱。
はじめこの小箱は魔術師や司祭、魔女、レベッカ等が解析しようとしたが、かなりの魔力で作成されていてこの地の者に何かができるしろものではなかった。フィーネの事だ。これにも何か意味があるのだろうと、グランの意向で今も手入れや掃除はされているが部屋はそのままの状態だ。
とある日、グランは職務の合間にフィーネの部屋に訪れていた。
(あれから一年……フィーネは今どこで何をしているのかな?)
フィーネがいなくなりグランディールは捜索していたが、急に隣国との小競り合いが勃発し捜索は困難になっており今はそちらの対処に力を注いでいる。
隣国は魔法を得意とする国……しかし反面剣技には秀でておらず剣技国家グランディールと魔法国家ファブニールとは相容れない存在。
(戦いがなければフィーネを探しに行けるのに……)
そう思いながら机に置かれた小箱を見つめていると……
パアァァァっ‼
「っ⁉」
突然小箱が光り輝き出し目を背ける。その後そろっと小箱の方をみてみると人影がありそこから懐かしい声が聞こえる!
「あっグランだ‼」
そこにはシルバーに輝く髪をなびかせ、服にはだいぶ汚れはあるもののその顔は、懐かしい探し求めていた姿の人が! 驚きながらグランは尋ねる。
「フィ……フィーネなのか⁇」
「えーっ忘れちゃったのグラン⁇」
ショックを受けるフィーネだが、ヴァルの囁きでハッとフィーネが気づく。
〘フィーネ……我と同化しているのだ……解いてやらぬと見た目では分からぬのではないか? ヤレヤレ……フィーネは……〙
「っ……あっ‼ そうか! ヴァルと同化してたんだった!」
フィーネは胸に手をあて名を呼び温かい光に全身が包まれる……と、そこには出会った頃の亜麻色の髪のフィーネと肩にちょこんと乗ったヴァルの姿が現れる。
「ごめんごめんグランっ。あれじゃ私ってわからな……」
ガバッっ‼
「⁉」
フィーネの姿を見るやいなやグランがフィーネをギュッと抱きしめる。
「グッ、グラン?」
「バカフィーネ! 一年もの間どこに行ってたんだ! みんなすごく心配してたんだぞ‼」
グランがものすごく怒っている。ただ少し震えているようにも見える。心配からの怒りだとフィーネは察した。
「……そう……あれから一年も経ってたんだ。ごめんねそんなつもりじゃなかったんだ」
フィーネがグランに声をかけていると、フィーネの部屋に来たシオンが驚いている!
「グラン殿下。そろそろ会談の時間が……⁈ フィーネ? フィーネ様!」
「ごめんねー黙ってでかけちゃって。シオンっただいまっ」
シオンの驚きの声に、メディアやメイド達がフィーネの部屋にこぞって集まり泣きじゃくる。集まり泣きじゃくる皆を慌ててフィーネがなだめている。
……少し落ち着きはじめた時に皆にわかるように説明し始めた。
「お茶会のあの後に、魔法の基礎がどうしても気になったのと精霊に会いたくて……ヴァルに相談して、移動手段のこの小箱を設置してから新翼の大森林で召喚訓練してたんだ」
「召喚訓練?」
不思議な訓練に一同が首を傾げる。
「そう魔術師とか司祭は精霊に契約してもらって魔力と魔法を交換して魔法を使うでしょ? 召喚士は精霊を取り込んで自分を強化し、精霊の力そのものを使いこなして戦うんだよ」
そう説明すると、実際に肩にちょこんと乗ったヴァルと同化してみせた。
パァァァ……
「⁉」
フィーネの髪色が白銀になり髪の長さや服装も変わったことに周りが驚いている。
「そんなことができるなんて……」
一番驚いたのはレベッカだった。召喚士というものに皆がまだ馴染んでいない。
「こんな精霊とのシンクロがあるなんてどこにも文献も……伝承にもない……あぁこんな奇跡を目の当たりにできるなんて、フィーネ様ぁ……」
キラキラした眼差しでみつめられる。魔術師であるレベッカは精霊と人間の共存に興味津々だ。
「これをまず自由自在に使いこなせるようになることが目標で、これが思ったよりかなり時間かかっちゃってっ。やっと半年くらいで使いこなせるようになったから、その後他の精霊たちと契約してみたり……」
フィーネが一年間の生活などを大森林での生活を楽しそうに話し始める。
「たくさん魔物仕留めたからね。またいっぱい買い取ってもらえる素材ばっかりだから……ベルに見てもらわないと♪約束だからね」
ワクワクしているフィーネに、神妙な面持ちでグランが話しかける。
「帰ってきてそうそう申し訳ないが……フィーネは我が国で渡り鳥認定している。他国への依頼なども受け、解決していくのもフィーネの仕事だ。戻ってきて早速行ってもらいたい国がある。旅をしながら隣国ファブニールに行って、このグランディールとの争いを解決してもらいたい」
「えっ……ファブニールって? それにグランディールとの争い?」
隣国ファブニール……
魔法が得意な国家でありとても精霊との繋がりを大事にする国。そして逆に剣技は不得意。
だからこそ剣技を重視するグランディールと魔法を重視するファブニールは長年思想が違うため犬猿の仲だ。
「実はフィーネが失踪した後にフィーネの評判を聞いたファブニール側が、腕利きの魔術師であるならばこちらの国にも賓客で訪れるべきだと」
隣国より召還命令が出されていたのだが……
ただそれから急に一年フィーネは失踪し、グランディールにいなかった為、召還命令で差し出せといわれても行かすことも出来ず……するとファブニールにはこさせないつもりかと、国同士のいざこざがさらに悪化していてた。
ふぅ……とグランは頭を抱えていた。
なにせフィーネがいればこのいざこざもなく小競り合いで騎士達が傷つくこともなかったからだ。ジッと話を聞いていたフィーネ。
「それって、私が原因だよね?」
静かに事情を聞いていたフィーネは、私が居なくならなかったら争いになってなかった……シュンとする。すかさずグランに返事をする。
「ごめんなさいっ私行くよファブニールに! 争わないように話しつけてくるよ」
フィーネはまかせてといきまいているが、心配事はそれだけではなかった。
「それが……」
えっ……他にもなにかあるの? と不思議そうにしているフィーネ。
「ファブニールは、魔法が使えない人間は入国させないんだ。だから私やシオンがついていけないから不安にさせてしまうなと……」
グランはフィーネを心配している。だがフィーネはあっけらかんとしていた。
「一人でも大丈夫だよ。魔法も剣技も戦いは一年で鍛えたから。しっかり役目を果たして帰ってくるから心配しないで。それに心配ならこれを渡しておくね」
そう言うとバッグからチャリっと赤い石の輝くイヤーカフーをグランに渡す。
「これは私が作ったもので、遠くでも会話ができるアイテムだよ。困ったときは通信するからこれでグランが助けてよ! グランからもいつでも連絡大丈夫だから」
イヤーカフーを受け取ると、グランは少しため息をつきそして声をかける。
「またこんな高等技術を……フィーネすまない。グランディールを。そしてファブニールをよろしく頼む」
グランの依頼を受けるとメディアがさっそく次の準備に取りかかる。
「さぁ話が終わったなら姫様! お召し物が随分汚れてます。きれいに磨き上げ、今日は殿下やリディリア様とお食事していただきますからっ! 殿方はささっお部屋の外へ。さぁ皆さんやっておしまいっ!」
パパンっ‼
「きゃあぁっっ」
久しぶりだが例のごとくメディアが手をたたくと、ぞろぞろ現れたメイドにフィーネは湯浴みに連れ去られてしまう。一年間大森林で暮らしていたフィーネは、水浴び程度しかしておらず、傷んだ箇所をすみずみまでキレイにされてしまうのだった。
「まぁフィーネ様っ! 何をしたらこんなに髪が傷んでしまうのですか⁉」
「あのぅ……その……」
「まぁお肌までこんなに荒れて! 悲しゅうございます。あぁたまのようなお肌が……」
「……ごめんなさいっ」
「本日は薬湯でございます。ゆっくり癒やしてから旅立ってもらいますからね」
いたたまれない言葉、そして久しぶりの湯船で疲れを癒やす。ふんわり香る薬草の匂いに体が癒やされていく。
一方その頃、心配するシオンがグランに相談している。
「一人で行かせて本当に大丈夫ですか?」
無理もない……見知らぬ国に誰もつけずに一人旅立たせるのだ。
「シオン仕方ないさ。向こうの要求をのまなければ、さらに余計な争いをしてしまう。ただフィーネはやられてしまうようなたまではない……心配ではあるが、橋渡しをしてくれるよう祈ろう」
その頃準備が終わり支度が整ったフィーネは王族との夕食に向かう。フィーネの姿を見たリディは走り出しぎゅうっと抱きしめ泣いている。
グランから必死に探し回っていた一人がリディと聞かされていたフィーネは申し訳なくなる。
「ただいまっリディ。何も言わずにいなくなってごめんね?」
涙顔のリディはフィーネの声と抱きしめた実感でフィーネの無事に安堵した様子だ。この一年の出来事を説明し、リディには二度とだまって出かけないことを誓った。久しぶりの温かな食事、温かな人達。
一時のあたたかさに触れるフィーネ。会食後に部屋に戻り窓から外を眺めているとヴァルが声をかける。
〘フィーネ……明日はファブニールにたつのだろう?……眠れぬのか……〙
ヴァルがフィーネの肩に乗ると、ジッと窓から空や景色を眺めている。
「うん……期待と不安が半々かな。魔法国みたいだからグランディールにいない精霊に逢えるかもしれないね」
〘フィーネ……わかっているとは思うが……友好的な精霊もいればそうでもないものもいる……見極めは大事だ……〙
そっとヴァルが注意する。ヴァルの注意はごもっともだ。
「わかってるヴァル。大森林でも努力しても駄目な子いたしね」
そう、大森林でも仲良くなった精霊もいたが一年かけても駄目な精霊もいた。駄目な精霊にはかなりの傷を負わされたものだ。
「闇雲に契約するのも、先に契約した精霊が嫌がることも勉強させてもらったから……みんなと仲良くは諦めるよ。人間もそうだもの……」
この世界ではまずグランディールにお世話なったからグランディールの為になりたい。グラン、シオン、リディ。大事な友達……そう思いを馳せながら月夜を眺める。
カッ‼
フィーネはヴァルを纏いテラスから庭に飛び移る。しばらく戻らないグランディールの庭を散策していると一人の女性に出逢う。月明かりに照らされ透き通るような女性が一人。
「どうしたの⁇」
銀髪で左目を前髪が隠しているスラッとした女性。騎士っぽい格好をしているが周りにはフワフワっとしている光が多数浮いており、指で触れては対話をしている。幻想的な光景に思わず口にしていた。
「魔術師様ですか?」
フィーネに気づき問いに笑みが溢れる女性はこちらを向いている。
「クスッ……これが見えるということは……精霊の加護があるということですね」
月明かりに照らされたその女性はフィーネに微笑む。178cmの高身長、月光に照らされた女性のサラッと長い銀の髪が風になびきその光景は美しかった。
「わたくしはティレニア……剣士であり魔術師です。あなたはフィーネ様とお見受けします。わたくしはシオンと知り合いですの……」
「シオン知ってるの?」
シオンの知り合いだという女性に驚くが妙に心地よい声色に安堵する。初対面にも関わらず、なぜか彼女の不思議な雰囲気に流されてしまう。
「えぇわたくし……フィーネ様がファブニールに行くと聞いて参りました。グランディールからはファブニールにお供を出せないと伺いました。シオンの代わりにどうかわたくしをお連れください」
透き通るような髪ときれいな顔立ち。でも……どこか儚げな彼女はなぜか信用できる気がする。でも、どこかシオンに似ている出で立ち。嫌な気配は一切ない。
「一人で行くつもりだったけど……魔法が使えるなら向こうもそこまで厳しく言わないと思う。でも……知ってる人がいるのは心強いし、シオンの知り合いならお願いしてもいいかな? ティレニア」
「喜んでフィーネ様の盾、剣となりお見守りいたしましょう。明日、グランディールの西……ファブニールへ向かう城門でお待ちしておりますわ」
そう告げるとティレニアはその場から立ち去る。儚げな……そして透き通るような不思議な女性からはなぜか目が離せなかった。彼女は一体何者なのか。そして次の国隣国ファブニールでは何が待ちかまえているのか。
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しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
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