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第1章 グランディール

14. ヴァルガルムート

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 話が弾んでいる精霊達。それを目の当たりにしたシオン。いつもは魔術に興味がないが流石にこの状況に驚きが隠せなかった。
「精霊って……いつもこんなに騒がしいものなのか?」
 目の前に繰り広げられる現実に驚いている……というより見たことのないシチュエーションに興味を持っている。ワナワナとして信じられない表情を浮かべるのは隣にいるレベッカだ。
「いや……いつもはこんなに喋らないわよ! というより精霊がこんなに饒舌に話すなんて……見たことも聞いたこともない。こんな精霊は私は知らないわ! こんなのって……」
 わちゃっとしている周りに比べ、フィーネとヴァルは冷静にお互いを見つめ合っている。するとヴァルガルムートは口を開く。
〘フィーネよ……我は色を持たぬ……〙
「えっ⁉ ウソっ!」
 衝撃の……まさかの色なし発言に泣きそうになるフィーネ。
「えっ……じゃあ私は魔法使えないの⁉」
 驚きと衝撃と同時に悲しくなりシュンとするフィーネ。その姿を見て三匹の精霊がフィーネの顔の前にひょっこり近づいてきた。
〘ねぇ……ニンゲン勘違いしてなぁい? 私達は魔法じゃないよ……ほらこうやって玉に何かしてニンゲンがやってるのは何属性か見るだけだから……こんなのには精霊は全くもって手を貸してないんだよ……〙
 精霊は魔法陣を指さしながら語る。
「じゃあ……私は魔法が使えないわけじゃないの……?」
 状況が掴めてないフィーネやその場にいる者に精霊達は語る。
〘そもそも……ニンゲンは魔法を使うために変な石に手を添えて私達の名前を呼んでるだけ……〙
〘たまたま近くにいてフィーリングが合ったニンゲンに……気まぐれで私達の魔力を分けてあげて使ってる状態……〙
〘それを体に慣らし……呪文を覚えて使っていつでも放てるのが努力したニンゲンの魔術師や司祭……〙
〘それはほんの気まぐれで……ニンゲンの持つ魔力の波長から魔力をもらう代わりに魔法を渡してるただそれだけ……〙
 精霊達が言うにはつまり……召喚玉はただのきっかけであり、精霊はニンゲンの呼び出しに応じた場合にのみ力を分けてもらう代わりに魔力を提供している。
 そして教わった呪文は習得できて、努力次第で自在に出せるようになるらしい。
「じゃあヴァルは? 何の精霊なの?」
 素朴な疑問をフィーネが投げかけるとヴァルが答える。
〘我は聖獣……の中でもニンゲンには龍属性と呼ばれるドラゴンだ……それとフィーネは魔術師ではない……我々の言葉で言うと『召喚士』という部類だ……〙
「私って『召喚士』って言うの?」
 ヴァルとフィーネのやり取りの声に周りにいた者、精霊も含み全員が驚き口に出す!
「『召喚士』⁉」
 世界から……遥か昔にいなくなった伝説の忘れ去られた職業『召喚士』……
 それは様々な精霊を使役し、自在に使いこなし世界を破滅に追いやることも、栄さすことも『召喚士』が一声かけるといかなる精霊も付き従い、命令どおり実行する精霊に愛されし者……
 それが……『召喚士』……魔女でも聖女でもなく……とんでもない職業だ!
〘フィーネ……そなたが望むのなら……どの精霊も姿を具現化し魔法に魔力を惜しまず渡し……知りたいことを教えてくれよう……精霊達が直接学ばせてくれよう……そなたは魔法が習いたいのであろう? その権利はそなたにはある……〙 
「!」
 そう……魔法が習いたい! ヴァルが出てきた時にも願った想い……それはまったく変わらない!
「そう私魔法習いたいの! 教えてくれるかなぁヴァル……」
 ヴァルに聞いたはずなのに、横からずずいっと精霊達が会話に口を挟んでよく喋る。
〘フィーネの望むことはみんな聞くよー〙
〘何したい? ヴァル様いるしーみんな望むことするよー〙
〘何にするのー何したい⁇何からする?〙
 キャッキャッ賑やかにフィーネに付き従う精霊達にレベッカがワナワナとしている。嘘だ……なぜこんな事ができることを契約精霊達は教えてくれなかったのか。レベッカは疑問をヴァルガルムートと精霊達にぶつける。
「そんな事、最初からできるなら! なぜ私達は今以上のレベルの高い魔法を教えてもらえないのよ。具現化して直接学ばせてくれるですって⁉ そんな方法あるなんて、そんなの今まで教えてくれなかったじゃない!」
 不満そうなレベッカがわめいていると、契約精霊のフレイヤがスッと……レベッカの方を向き冷たい目と口調で話し出す。
ヒヤッ……
ゾクッ……
 一瞬にしてレベッカの身体に寒気が走る。冷ややかな射殺すような目で見つめながらフレイヤが告げる。
〘ニンゲンにしては魔力が美味しいけど……でもそれ以上でもそれ以下でもないものに……なぜおいそれと私達がいろいろ教えてやらないといけないの? よもや私達を使役しているとか勘違いしてるんじゃない? 精霊は気まぐれ……怒らすと今までの魔法も使えなくなるわよ〙
「⁉」
「‼」
ゾッ!……
 身の毛のよだつような事を言う炎の精霊フレイヤ。今まで魔法を使い、才能を認められて上達したのは努力だ! 恵まれた才能だ! と思っていたレベッカからすると……たった一言でも精霊達の機嫌を損ねたら、魔法を一切使えなるという事実は……到底受け入れられない言葉であり、それがとういうことかわかるがゆえに顔が青ざめるレベッカ。
「レベッカ……」
 これにはシオンも同情する。自分が得意なものが一瞬で水の泡になって消えてしまう怖さを……レベッカと精霊のやり取りを見ながらヴァルを見つめているフィーネ。
「ヴァルはこのままずっと一緒にいてくれるの? それとも喚ばないと出てきてくれないのかな?」
 今は魔法陣の力を借りて呼び出していると思っているフィーネ。ヴァルはフルフルと首を横に振る。
〘フィーネ……我は聖獣だ……ゆえにフィーネが喚び出したのだからフィーネが望むだけ側にいる……それに我は小さくも大きくもなれる……〙
ポンッ!
 そう言うと肩にちょこんと乗れるサイズになりフィーネの顔に自身の顔をスリッーっと擦り寄せ甘えている。変化したヴァルをみて三匹の精霊達は羨望の眼差しだ。
〘ヴァル様聖獣! ずーっと実体化なんてうらやましいー……魔力たくさんフィーネすごいっ……でもこっちはもう時間切れ……フィーネ……力が欲しくなったら喚んでー〙
〘待ってるー〙
〘もっと話したいのに……契約者限界みたいー〙
 わちゃわちゃ話していた三匹は一気にスウゥッと消えていった。その側でゼェゼェいっているレベッカがいる。 
「どうしたのレベッカ⁉」
 苦しそうなレベッカの姿を見てフィーネは慌てて近寄る。その状況にヴァルが答える。
〘精霊三体を同時実体化等……ニンゲンでは魔力枯渇はすぐに訪れるものだ……だが強制的だったにしてもニンゲンにしてはよくもったものよ……しかし……〙
 ヴァルはフィーネを見つめ改めて驚いていた。
〘我の実体を維持して……ケロッとしているフィーネの魔力や氣の底がしれないな……こちらのほうが驚きであり……そしていつまでも心地よい魔力よ……〙
 フィーネの氣にあてられて機嫌がよい聖獣。肩に乗りリラックスしているヴァル。
「ヴァルがよかったらさ……ずっと側にいてよ。いくらでも魔力あげるからさ、一人にしないでほしいな。いなくならないでね?」
 平然と会話をしているフィーネだが、目の前のクタクタなレベッカの現状にフィーネも倒れてしまうのではないか⁉ と心配なシオンが口を開く。
「おい! なぁレベッカはこんななのにフィーネはそんなレアな聖獣を出しっぱなしで本当に大丈夫なのか? かなりの存在なんだろそれ? フィーネ倒れたりしないのか?」

 並大抵の魔力じゃ具現化すら維持できないレアな聖獣。精霊達に崇められるヴァルを維持できるのか……グランディールでも魔術に長けるレベッカでこの惨状、気遣うシオンに心配不要だと告げるヴァル。
〘我ほどになると自分で実体化もできる……魔力を分け合うこともできる心配はないが……〙
 ヴァルが物申すシオンをジーッとみつめ、スンスンと首を伸ばしてニオイをかいでいる。
〘お前オモシロイ……素質がなければ我の声は分からぬはず……我の言葉が分かるのなら……精霊にも好かれる要素があるのだろう……遠くない未来に魔術が使えるようになるだろうな……〙
「えっ!」
「⁉」
 ヴァルの一言は衝撃が走る。そして喜んでいるのはフィーネだ。
「シオンも使えるようになるの⁉ 同じだーすごいねー 一緒に習えるね♪」
 歓迎するフィーネに戸惑うシオン。
(いや……さすがに剣一筋の俺に魔法?素質はないものと思っていたのだが……)
 と……半信半疑でいるシオン。剣と魔法の両立なんてできるのか? と驚き戸惑っている
 クンクンっ……
 スンッ……
 ヴァルがシオンの魔力をさっきよりも深く嗅いでいる。
〘魂の匂いが……また不思議な運命のニンゲンよ……〙
 ヴァルはシオンを見つめながら何か感じるものがあるらしい。とはいえ……流石にこれ以上の長居はぐったりしているレベッカに悪いので、レベッカを部屋で寝かせ今日は撤収することに。
 シオンとは部屋で別れ、フィーネは部屋にヴァルと一緒に戻る。ちょこんとベッドにクッションを置き、そこにヴァルを乗せフィーネはヴァルに挨拶をする。
「改めて私はフィーネ。魔法もしっかり覚えるので……これからもヴァルよろしくね」
 ヴァルの頬にキスをしニッコリ笑う。
(ニンゲンは……不思議なコミュニケーションをとるものだな……)
 精霊とニンゲン、そしてはるか昔にしか存在しない伝説の『召喚士』の誕生……これからフィーネがどのように成長していくのか……
 フィーネはワクワクしながら未知の存在のヴァルと話をしたがる。
「ヴァルがいたとこの話聞かせてよ。世界が違うから聞きたい! 精霊界はどんなとこ? 温かい? いろんな精霊達がいるの?」
〘やれやれ……精霊界は……〙
 ヴァルが話し始めようとすると、慌ただしい音が響き渡る!

ドタドタドタッ!
ドンドンドンッ!
 慌てて走り回るメディアが部屋の扉をたたく。
「姫様大変です!」
 慌てるメディアが血相を変えて飛び込んでくる。
「何があったのメディア?そんなに慌てて……?」
 不思議そうに声をかけると開口一番に口にしたのは……
「お茶会にございます!」
「は?」
 お茶会って……何? ぽかんとしているフィーネに呼吸を落ち着かせたメディアが話す。
「グランディールのユディーン公爵令嬢からお茶会の招待状が届きました‼」
 なにやら何かに招待されたようだが何なのかはフィーネにはわからない。とっさにメディアに聞き返す。
「それって何なの。行かなきゃだめなの?」
 お茶会の意味がわからないフィーネ。どうやらメディアがお茶会の招待ルールを教えてくれるようだ。
「いいですか。公爵令嬢様からの招待はというより、この国では王族の次に身分の高い公爵家の招待は、王族と公爵家同等の貴族以外の身分が低いものはお断りが基本できないのがマナーです」
 メディアの話を聞いて不思議に思ったフィーネ。実はフィーネは賓客という立場で特別に城内に身を寄せており、フィーネの名前等はどこにも知られることはないはず。一部しか知られてないはずなのだ。だからこそメディアは聞かずにはいられなかった。
「……いつの間にユディーン様と会われたのですか?」
 メディアの指摘もごもっともだがまったく記憶にない。フィーネは会った事も話した事もない。心当たりのまったくない人物。
「うぅーん。私がここに来て話した女性はリディリアとレベッカとメディアくらいしか知らないしなぁ……」
 誰よその令嬢って……で、どうしたらいいのよ? んーっとどうしようか悩んでいると、扉の前にふわっとしたドレスに身を包み、護衛と侍女を数名連れたリディリアが部屋を訪れる。
「どうしたんですのメディア? ごきげんようフィーネ様。なかなか会いに来てくださらないからしびれを切らしてこちらから来てしまいましたのよ?」
 部屋に来たリディリアはなにやら困っている二人に声をかけると同時にメディアは後ろに控えるように下がる。
「入ってもよろしくて? そして何を悩んでらっしゃるの?」
 リディリアにお茶会とやらにユディーン様と言われる公爵令嬢様から招待されたのだが、知り合いでもなければ会ったこともなく見に覚えがないことを話す。心当たりがなさすぎる、と……
ふぅ~っ……
 リディリアは深いため息をつくと、ビシッっとフィーネに指摘する。
「フィーネ様は嫉妬されたのですわ!」
 は? リディリアの言葉にぽかんとするフィーネ。
「えっ? 会ったこともないのに……なんでそうなるの?」
 驚いているフィーネにリディリアは説明する。
「フィーネ様はこちらの……グランディールは初めて。ということは身分やら何やらはお分かりではない。そして国の賓客と言うことで、グラン殿下とシオン隊長とどちらかと常に一緒ですわ」
 確かにグランとシオンどちらかは毎日一緒だ。でもそれが何だというの? と思うフィーネに説明をしてあげる。
「この両名はまだ独身でかつ名家の家柄。殿下は皇子ですし……婚約者様もいらっしゃられない。女性からするとかなりの優良物件! 日頃会話するのもためらわれる殿方に、いつもチヤホヤされてるそんなフィーネ様がどうにも令嬢達は気に入らないのですわ!」
 なんだその女子の彼氏彼女の奪い合いみたいなノリは⁉ 意味がわからないとため息ものだ。
「お茶会は普通、気心知れた令嬢の皆様で行うもの。これは恥をかかそうとする皆様と一緒にフィーネ様を陥れる為だけのお茶会。ハズレ茶会ですわ!」
 といいながら……招待状をジーッと眺める。そして補足する。
「ユディーン公爵令嬢様は確か特にグラン殿下、お兄様をお慕いしてますから完全に嫉妬ですわね。でも……」
 困り顔のフィーネの手を取りぎゅっと優しく握りしめるリディ。
「大丈夫ですわフィーネ様! わたくしがついておりますもの!わたくしが友人として同席いたしますわ。そうすればフィーネ様も緊張しませんでしょ?」
 わたくしが側にいるので安心しなさいと言う、にっこり笑うリディに安心するフィーネ。 
「一緒に来てくれるのリディ? でも……これって他の人を連れて行っていいのかな?」
 心配しているフィーネにおまかせあれと言わんばかりにリディが対応する。
「わたくしは少し遅れて行くことになると思いますが……絶対に大丈夫ですからね!」
「リディ⁇」
 フィーネからみたリディは笑顔の奥に何やら企んでいるように思えた。
「ふふふっ……わたくしの友人に無礼を働く不届きな令嬢にはわたくしがきっちりマナーをイチから教えて差し上げますわ! コレは……フィーネ様はお返事の書き方わかりかねると思いますから、わたくしが預かりお返事出しておきますわね」
 不敵な笑みを浮かべながらフィーネの招待状を回収し部屋を去るリディリア。ついでにお付きの侍女になにやら指示を的確に出している様子。ヒソヒソと話をしているが、離れていても聞こえているものが一匹……
〘いつの時代も……ニンゲンはオモシロイ事を思いつくものだな……〙
 ヴァルはつぶやきながらヤレヤレ……とクッションにうずくまる。
「お茶会か……何かよくわからないけれとリディがいるなら大丈夫か……?」
 リディリアに難しいことはまかせておこうと部屋でヴァルとくつろぐフィーネだった。
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