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第1章 グランディール

9. 天使降臨

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 グランが離れ一人残されたフィーネは、騎士達の訓練をジーッと眺めている。
 たくさんの騎士達が真剣に打ち合いをしている姿は嫌いじゃない。
キキンッ! ガンッ! キィンッ!
(この世界には、誰かを守るために戦ってる人たくさんいるのね。私のいた場所は戦争なんてなかったから、ほんとに恵まれてたんだなぁ……だって剣とかなくてこんな訓練もなく平和だったから……)
 ぼんやり元の世界と比較して思いを巡らせていると、前からドシドシと歩いてくる騎士。
(⁇)
 騎士の影がフィーネの前で立ち止まる。
 顔をあげると不機嫌で睨みをきかす騎士はふてぶていしい態度でフィーネに凄む。
「姫さんがここに何のようだ? 冷やかしなら帰んな。そんななりだ、ダンスは王室の二階だが? ここは騎士が日々鍛錬する男の領域だ。それとも剣に興味があるのか姫さん?」
 大剣を肩からのぞかせる大柄の男。身長は180cmを超えている。短髪の茶髪に茶色の瞳。鍛えぬかれた体つきが、日々相当な鍛え方をしているのが見てわかるような騎士だった。
(うーん……確かに彼の言うとおり今の私の装いは場違いね…)
 女性が立ち寄らない場所に、こんなヒラヒラしたドレスを着て場違いなのはフィーネ自身もよくわかるが……
「こんな格好で来る場所ではないわね。気分を害したならお詫びするわ。ただこちらで鍛錬し妥協せず、努力しているあなた達を決して冷やしに来たわけではないのよ」
 冷ややかに答えるフィーネの態度に噛みつく騎士。
「は? ではなんだって? 模擬戦にでも参加でもするつもりか?」
 ははっと冗談交じりで挑発的に騎士が話すと食い気味に反応するフィーネ。
「えっいいの⁉ それやりたい! 模擬戦! 誰と戦うの?」
 突然キラキラした目を輝かせて騎士に返事をするフィーネに、おいおい冗談じゃないと呆れている騎士がいる。
「ケガをしたってあなたに責任はないから。で!? 相手は誰? それとも貴方?」
 指を真っ直ぐさすその方向には挑発した騎士がいる。その言動にピクッと反応し周りにいるザワザワする騎士達。ピリッとした雰囲気が漂う。
「侮辱のつもりか?」
 冷たい言葉でフィーネに問う。
「あらっ私は至ってまじめだけど……? それに先にあなたが言い出したんじゃない。……よっと」
 フィーネは履いていたヒールを脱ぎ捨て、裸足でスタスタと歩き出す。壁側にはいくつもの剣がストックされており、ジッーとみてその中から一本スーッと抜き出し、右手に持ちスッと剣を見据えている。
(ほぅ……剣選びは上出来だな)
 その光景を見ていた騎士が少し考えは改めるが、依然厳しい声でフィーネに話かけた。 
(あの数多ある剣の中から、自分の身の丈にあった剣を選ぶセンスは見事! だが……)
「おままごとじゃないんだ姫さん。やめときな!」
 その言葉に周りは笑い声に包まれる。だがそんな笑い声もまったく気に留めない彼女は、中央付近まで歩きピタッととまるとくるっと振り向き、
「あなたの名前は?」
 と騎士に名前を問う。
「俺は騎士団のグエイン! 姫さ……」
「私はフィーネ! 姫さんじゃない!」
 否定するフィーネにグエインは食い下がる。
「いーや姫さんで十分だ! 慣れない剣なんぞ置いて二階の広間で大人しくダンスでもしてな!」
 ガハハハっあははははっ
 品のない笑いが……周りから笑い声が一気にあふれる。だがまったく気にしている素振りがなくキョトンとした顔で右に首を傾げながら口にする。
「なーんで私が負けることになってるんだろ? ねぇグエインさーん! そうだ……こうしようよ! 私が勝ったらフィーネって呼んでよね!姫呼びは禁止ね!」
 あっけらかんとしているフィーネにグエインは笑いながら剣をスッとかまえる。
「試合を申し込まれたんだ……いいだろう付き合ってやる。ここで断れば男が廃るってもんよ!いつでも好きなタイミングできなっ!ハンデだ!」
 そう言うと……周りがざわつき出す。
「おいおい姫様相手に本気出すなよ!」
「遊んでやれよ!」
「泣かすなよ‼」
 にわかに騎士達は外野でガヤガヤ盛り上がる。その間にフィーネは静かに目を閉じ、集中している。私に足りないもの……スピードに力に、技術、剣術も、経験も……そう、足りないものを補って楽しめるように……
 うん! これなら……フィーネは集中して左手をそっと胸にあてる。
「(エンチャント………)強化!」
パアァッーー
 フィーネの体は温かい光に包まれだす。
「魔法か? いや……あれは」
 と……周りがフィーネの行動をみていると、突然フィーネが自分の服装をちらちらとみてなにやら思いついたようだ。
「んー……やっぱりこのヒラヒラしたの邪魔だなぁ……えいっ!」
ザクッ ザクッビリビリビリっ!!
「‼」
 フィーネは急にドレスを腰から裾まで剣で刺し裂き引きちぎり、膝丈までドレスの丈を短くし脚があらわになる。
「……」
「ヒューッ」
 いきなりの光景に驚く者、喜ぶ者、冷やかな者様々だ。何もなかったかのようにその場でピョンピョンとジャンプするフィーネ。
トンットトンッ
 現在の状況を確かめ模擬戦に挑む!
「うん動きやすくなった! さぁっいっくよー!」
 フィーネが声かけた瞬間、
ヒュンッ! キイィンッ! ブワッ!
「‼」
 疾風のように早く駆け抜けるフィーネは、あっという間にグエインの間合いまで瞬時に詰め寄り、グエインも応戦するように剣で受け止める。
 ものすごい闘気を纏っている為、ぶつかるごとに風が巻き上がる。その瞬間、闘気に耐えられない剣の風圧……剣にまとわる闘気がグエインの服やマント、フィーネのドレスをかすめ所々引き裂ける。
 その瞬間、茶化していた兵士たちの顔が一瞬にして強ばり、真剣に二人を見つめるようになる。
ゴクッ……
 互角に戦いすすめるふたりを真剣に見ている。なぜこんな姫様が剣技を習得しているんだ……と。
(ほぉー……全くのズブの素人ではなさそうだな)
 グエインはフィーネが纏う闘気にビリビリと何かを感じている。
「やるな姫さん! だが……まだまだ軽いそして甘いっ!」
キキンッ ズバッ! ヒュンッキキンッキン!
 手数もそうだがグエインの剣を上手にさばき、そしていなされいなす二人の剣のぶつかり合い。
 周りはグエインに付いていっているフィーネに驚いている。次第に加速していく激しい撃ち合い。いつの間にか周りの騎士たちも自然と二人に釘付けになっていく。激しい打ち合いにドンドン楽しくなるフィーネはワクワクしながらますます自分に負荷をかける。
「ふふっ楽しいなっ! でも……もっともっと重くなるよ! ハァっっ!」
「⁉」
ズシッ‼
 フィーネが気合を入れると共に、剣に重さが加わる。
「⁉」
 剣がやたらと重く感じ、グエイン側に剣が押し戻されていく。と……グエインが闘気を爆発させる!
「うおぉぉー!」
ゴッ!
 とっさの判断でグエインが剣を右に振り払い、剣ごとフィーネを弾き飛ばし間合いを取ると……弾き飛ばされたフィーネは地面を蹴って空中を舞い体勢を整える。

ふわっっ トットトンッ……
 体勢をととのえる姿が、また纏っているドレスがフワリとなびく。地面にふわりと着地する姿はまるで……
(ほう……)
「天使だ……」
 周りの騎士からほうぅ……と満悦なささやきが聞こえる。手合わせしているフィーネ自身は剣を交えるのが嬉しくてたまらない! 楽しくて仕方がなくなっている!
「んーふふふっ……あー楽しい! なのにっ……もー! ほんっとにこれ戦いに邪魔だなぁ……」
 バッとフィーネはグランにかけてもらったマントに手をかけて投げ捨てる。
バッ……
「‼」
「⁉」
 フィーネはグランが纏わせてくれたマントを脱ぎ捨て、そして胸元が大きく開いたドレス姿でグエインまっしぐらに、スピードをあげて剣を斬りかかる。
ガンッ! キイインッ!
ぶわっっ!
 剣と剣が激しくぶつかる! 
 と、二人の剣から放たれる闘気も凄まじく頬や腕、体に切り傷がお互いに刻まれていく‼
プッっ パシュッ!
 お互いの体に切り傷から血も流れるが、おかまいなしの二人は気にするそぶりもなく剣での語らいを続けている。
「いっくよ!」
キキンッ! スパッ! ゴッ!
 瞬間、闘気が二人を襲いかかりスパスパと服がかまいたちにあったように切り刻まれていく。
 激しい切り合い撃ち合い。二人の集中力はますます増してくる。
パラッ……
 フィーネの服もボロボロで、服の肩が片方切れて胸元がめくれそうになるが止まらないフィーネに、流石にグエインも目のやり場に困る! 周りの目がまずいとグエインが叫ぶ‼
「バカヤロウとまれ姫さん! どこの姫さんが嫁入り前にこんな露出した服で大暴れして、大勢の男どもに肌を見せてやがる! 誘ってるのか⁉ 止まれぇっ!」
 グエインの叫びに、戦闘態勢に入っていたフィーネはハッと我に返る。
 フィーネとグエイン……続きはいかに?
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