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終章
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後藤永津子(72)
私は呉松さんとリハビリの担当の先生が一緒なんです。
だから2人一緒でやることが多いです。
少し前でしょうか。恥ずかしながら、私、転んじゃって、家族を心配させました。
その日、呉松さんの部屋の近くで一緒にリハビリをしていました。
訓練中にリハビリの先生が誰かに呼ばれて、私と呉松さんだけになったんです。
先生から「ちょっと休憩していいよ」って言われたから、お言葉に甘えて、ベンチに座ってました。
そしたら、呉松さんが私の杖を貸して、どんな感じか試してみたいと言い出したんです。
私も言われるがままに、貸したんです。
呉松さんは自分の部屋まで持って行って「ここまで取りに来てよ。そしたら返してあげる」って。
私の杖は、4つ支える所があるタイプです。
それが珍しかったんでしょう。
対して、呉松さんは1本のタイプです。
取り返したいから、頑張って立ち上がって、呉松さんの杖借りて、彼女の部屋に向かおうとしたんです。
そしたら、ドアの段差にひっかかって、転んでしまいました。
その後は……気づいたら病院でした。
正直全然覚えてないんですけどね。
職員さんや他の利用者から聞いた話です。
呉松さんはベッド上に私の杖を置いた。
ナースコールで呼んで、職員さんに私が転んでることを教えてくれました。
大きな声で呼んだので、ホールに響いたのでしょう。
他の利用者さんも様子見しにきたそうです。
私の顔色が少し悪かったそうで、看護婦さんが病院に連れてって、家族に連絡してくれました。
呉松さんは職員さん達やリハビリの先生に褒められて得意げだったとか。
私としては、自分の足をいきなり取られたようなものです。
しかもベッドの上まで持って行って。
使い慣れない杖で歩くのはとても怖いです。
以前は呉松さんと同じタイプの杖を使ってたんですが、ちょっと合わないみたいで、2回ほど転んだんです。
リハビリの先生と相談して、今のタイプに変えてから、安定感があって歩きやすいし、転ぶ回数もめっきり減って安堵していました。
あと私が以前使っていた杖の話を、呉松さんにしたことがあるんです。世間話でね。
職員さん達の間では、それを分かっててやってたのかもって小耳に挟みました。
それに呉松さんは、リハビリの先生がお気に入りなんです。
背が高くって、爽やかなスポーツ刈りで、俳優さんみたいな大きな目と小さい顔だから。
確かに私もかっこいいなぁと思いますよ。
ただ、呉松さんは、先生に自分の娘の再婚相手にさせようなんていっつも言ってるんです。
先生は冷たくあしらってますが、それを楽しんでいるみたいで。
先生の口調は穏やかですが、リハビリに厳しい所があります。
自分で出来ることは甘えさせないという感じでしょうか。
呉松さんは「おにいさーん、立ち上がるのできなーい。手を貸して」って、すっごい甘えてるんです。
基本的に若い男性職員にもそんな感じです。
自分のお気に入りの職員に甘えるんです。
リハビリの先生は「ちゃんとやってください」とか「真面目にしないと、歩けなくなりますよ」って注意してます。
それに、リハビリの先生いないときは普通に杖ついて歩けてます。
リハビリの先生に冷たくあしらわれているから、褒められたいみたいな感じでしょうか。
だから、私の杖を奪って、取り返しにくい状況を作り、転ばせた。
それに”気づいた"ということで、呉松さんがナースコールで呼んで、褒められる。
確かに褒められたようですが、私としては、自分のアピールのために、こんな陰湿な真似なんてされたらたまったもんじゃありません。
しかも呉松さんが使っている杖が、私にとって使いにくいものであることを分かった上でやってるとしたら、怖いです。
そもそも私が呉松さんの杖を使って歩くなんて、おかしな話じゃないですか。
リハビリの先生が「なんで呉松さんが後藤さんの杖を持っているか」聞いたんです。
そしたら、試してみたかったって。
後藤さんは勝手に私の杖を使って、部屋に向かってきて、転んだだけ。
こっちとしては、勝手に部屋に入られて困っていたし、それで転んで死んで貰っても困るから、お兄さん達呼んだだけって。
でも近くで他の利用者さんや職員さん達が見てる人がいて、呉松さんと私に声かけようとしたけど、間に合わなかったんですって。
呉松さんとしては、私が勝手に転んだ方が都合いいんですよ。
自分も職員もお気に入りのリハビリの先生も責められないから。
呉松さんの言い分や状況など全て、夫と大磐施設長と面談しました。
夫はカンカンでした。
普段から夫には呉松さんのことお話してまして、彼女に対していい感情を持ってなかったんです。
呉松さんに、家族が面会に来ないのは嫌われてるからって言われて、その話を夫にしたんです。
夫はごめんなって申し訳なさそうに言ってましたが、本当は腹が立ったんでしょう。
勝手に他人から家族に嫌われてるだどうのこうの言われたくないんですから。
夫も娘達も最近忙しくって、なかなか面会に来れないと言っています。
だから毎日じゃないけど、定期的に、スマホでメッセージアプリでやりとりしているんです。
呉松さんのことを知ってるのか、職員さん達や施設長を強く責めなかったんです。
出るとこ出てやるなんて息巻いてます。
娘達も施設変えるか呉松さんをなんとかするかどっちかにした方がいいと言っています。
私は今の施設が気に入っています。
職員さん達やリハビリの先生も本当によくしてくださってます。
茶飲み友達も出来ましたからね。
ただ呉松さんと一緒が嫌なんです。
正直、あの人とリハビリした後、気が滅入るんです。
リハビリの先生を変えてもらうことも考えています。
私は呉松さんとリハビリの担当の先生が一緒なんです。
だから2人一緒でやることが多いです。
少し前でしょうか。恥ずかしながら、私、転んじゃって、家族を心配させました。
その日、呉松さんの部屋の近くで一緒にリハビリをしていました。
訓練中にリハビリの先生が誰かに呼ばれて、私と呉松さんだけになったんです。
先生から「ちょっと休憩していいよ」って言われたから、お言葉に甘えて、ベンチに座ってました。
そしたら、呉松さんが私の杖を貸して、どんな感じか試してみたいと言い出したんです。
私も言われるがままに、貸したんです。
呉松さんは自分の部屋まで持って行って「ここまで取りに来てよ。そしたら返してあげる」って。
私の杖は、4つ支える所があるタイプです。
それが珍しかったんでしょう。
対して、呉松さんは1本のタイプです。
取り返したいから、頑張って立ち上がって、呉松さんの杖借りて、彼女の部屋に向かおうとしたんです。
そしたら、ドアの段差にひっかかって、転んでしまいました。
その後は……気づいたら病院でした。
正直全然覚えてないんですけどね。
職員さんや他の利用者から聞いた話です。
呉松さんはベッド上に私の杖を置いた。
ナースコールで呼んで、職員さんに私が転んでることを教えてくれました。
大きな声で呼んだので、ホールに響いたのでしょう。
他の利用者さんも様子見しにきたそうです。
私の顔色が少し悪かったそうで、看護婦さんが病院に連れてって、家族に連絡してくれました。
呉松さんは職員さん達やリハビリの先生に褒められて得意げだったとか。
私としては、自分の足をいきなり取られたようなものです。
しかもベッドの上まで持って行って。
使い慣れない杖で歩くのはとても怖いです。
以前は呉松さんと同じタイプの杖を使ってたんですが、ちょっと合わないみたいで、2回ほど転んだんです。
リハビリの先生と相談して、今のタイプに変えてから、安定感があって歩きやすいし、転ぶ回数もめっきり減って安堵していました。
あと私が以前使っていた杖の話を、呉松さんにしたことがあるんです。世間話でね。
職員さん達の間では、それを分かっててやってたのかもって小耳に挟みました。
それに呉松さんは、リハビリの先生がお気に入りなんです。
背が高くって、爽やかなスポーツ刈りで、俳優さんみたいな大きな目と小さい顔だから。
確かに私もかっこいいなぁと思いますよ。
ただ、呉松さんは、先生に自分の娘の再婚相手にさせようなんていっつも言ってるんです。
先生は冷たくあしらってますが、それを楽しんでいるみたいで。
先生の口調は穏やかですが、リハビリに厳しい所があります。
自分で出来ることは甘えさせないという感じでしょうか。
呉松さんは「おにいさーん、立ち上がるのできなーい。手を貸して」って、すっごい甘えてるんです。
基本的に若い男性職員にもそんな感じです。
自分のお気に入りの職員に甘えるんです。
リハビリの先生は「ちゃんとやってください」とか「真面目にしないと、歩けなくなりますよ」って注意してます。
それに、リハビリの先生いないときは普通に杖ついて歩けてます。
リハビリの先生に冷たくあしらわれているから、褒められたいみたいな感じでしょうか。
だから、私の杖を奪って、取り返しにくい状況を作り、転ばせた。
それに”気づいた"ということで、呉松さんがナースコールで呼んで、褒められる。
確かに褒められたようですが、私としては、自分のアピールのために、こんな陰湿な真似なんてされたらたまったもんじゃありません。
しかも呉松さんが使っている杖が、私にとって使いにくいものであることを分かった上でやってるとしたら、怖いです。
そもそも私が呉松さんの杖を使って歩くなんて、おかしな話じゃないですか。
リハビリの先生が「なんで呉松さんが後藤さんの杖を持っているか」聞いたんです。
そしたら、試してみたかったって。
後藤さんは勝手に私の杖を使って、部屋に向かってきて、転んだだけ。
こっちとしては、勝手に部屋に入られて困っていたし、それで転んで死んで貰っても困るから、お兄さん達呼んだだけって。
でも近くで他の利用者さんや職員さん達が見てる人がいて、呉松さんと私に声かけようとしたけど、間に合わなかったんですって。
呉松さんとしては、私が勝手に転んだ方が都合いいんですよ。
自分も職員もお気に入りのリハビリの先生も責められないから。
呉松さんの言い分や状況など全て、夫と大磐施設長と面談しました。
夫はカンカンでした。
普段から夫には呉松さんのことお話してまして、彼女に対していい感情を持ってなかったんです。
呉松さんに、家族が面会に来ないのは嫌われてるからって言われて、その話を夫にしたんです。
夫はごめんなって申し訳なさそうに言ってましたが、本当は腹が立ったんでしょう。
勝手に他人から家族に嫌われてるだどうのこうの言われたくないんですから。
夫も娘達も最近忙しくって、なかなか面会に来れないと言っています。
だから毎日じゃないけど、定期的に、スマホでメッセージアプリでやりとりしているんです。
呉松さんのことを知ってるのか、職員さん達や施設長を強く責めなかったんです。
出るとこ出てやるなんて息巻いてます。
娘達も施設変えるか呉松さんをなんとかするかどっちかにした方がいいと言っています。
私は今の施設が気に入っています。
職員さん達やリハビリの先生も本当によくしてくださってます。
茶飲み友達も出来ましたからね。
ただ呉松さんと一緒が嫌なんです。
正直、あの人とリハビリした後、気が滅入るんです。
リハビリの先生を変えてもらうことも考えています。
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