上 下
19 / 140
3章

4

しおりを挟む

 帰り支度をした2人は、悠真のベッドのカーテンから出ると、向かいのベッドにいる患者から声をかけられた。
 痩せこけているが白髪交じりで病院用パジャマを着ている男性がスリッパを履いてカーテンから出てきた。
「あの向かいのベッドの人の家族か?」
 陽貴と陽鞠ははいと頷く。
「おたくらがいないとき、女性2人がヒステリックな声で、罵ってるの聞こえたんだ。多分、この病室の人たちみんな聞いてるよ。『うちの可愛い娘をあなたの婿にさせたのが間違いだった』とか『呉松家への金銭援助は続けなさい』とか散々だぜ?! あのベッドの人は呉松家の親族かい?」
「あぁ、そうですね。……すみません、騒がしくして……」
 陽貴と陽鞠は軽く頭を下げる。
「あぁ、いいよいいよ。俺としてはあの男性は逃げた方がいい。呉松家が名家って年配の人では通じるけど、今の若いもんには言われてもピンと来ないよ。俺も、昔さ、呉松家が経営している衣料品メーカーで働いてたけどさ、社長はすごいいい人なんだけど、いっつも疲れてるような顔してた。なんか社長の末娘がめちゃくちゃクズでさ……俺の娘が昔そいつにいじめられてたんだ。学校でな。娘は社長の末娘のお世話係みたいな扱いにされてた」
 男性の娘はいつも学校でなにかと一緒にされ、鞄持ちや宿題の手伝いなどをさせられていたという。
 少しでも断ったら、彼女から暴言や陰湿な嫌がらせが来る。
 そもそもその末娘の母親の強い意向によるものだった。
「末娘とうちの娘は親族同士なんだ。古い付き合いなんだけど、社長の娘の言うこと聞けないのかみたいな。2人共同い年なんだけど、親分と子分みたいな関係だったね。それが大学まで続いて……で、今は私とかみさんは関わってないけど、娘は責任感強いのか、良くも悪くも真面目でな、自分が結婚しても連絡取り続けているんだ」
 目の前にいる男性の娘が依田結花と親族関係。
 さっきヒステリックな声出してたの、あの末娘ですよなんて今言っていいんだろうか。
「今、社長は続けてるんかな……もう年だろうに。もう、昔みたいに名前だしても媚びへつらう人なんて少ないんじゃないか」
「ええ、社長はそのままです。あと息子さんが関わってるそうです」
「あぁ、良輔くんか。あの子はまともだから大丈夫だろう。あと、あの末娘にはお姉さんいたな……確か静華さんだったな。うちの娘や私達にはよくしてもらったよ。でも、静華さんからもう何十年も連絡来ないし、住所も分からないんだ。最後はあの末娘の結婚式で会ったぐらいか」
「静華さんと末娘はよく喧嘩してたからな。むかしっから仲悪いんだよ。静華さんは真面目で、堅実に行くタイプ。末娘がトラブルメーカーで有名だから、うんざりしてたみたいで、よくうちに話していた。大学進学する時、進路を私たちと、社長と良輔くんだけ教えてくれた。社長の奥さんはあの末娘の味方ばっかだからな。だからあえて教えてないんだろうし、私達も口止めされてる。多分あの家から縁切るつもりだったんだろう」
 男性から漏れ出るため息は今までのことを考えると重いものだろう。
 ここにも依田結花の被害者がいる。
 今さっきヒステリックな声だしてたの、社長の末娘とその奥さんですよと言いたい所だが、今言っていいんだろうか。
「……そうですか、お話ありがとうございます。不躾なお願いですが、もしその娘さんにお話できないかと思いまして……私、こういうものです」
 陽貴は名刺を男性に渡す。
「あぁ、あのスーパーの……」
「分かった。ちょっと娘に聞いてみるよ。長話すまんな!」
 男性はがははと勢いよく笑いながら「じゃぁな!」と手を振ってくれた。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ボイス~常識外れの三人~

Yamato
ライト文芸
29歳の山咲 伸一と30歳の下田 晴美と同級生の尾美 悦子 会社の社員とアルバイト。 北海道の田舎から上京した伸一。 東京生まれで中小企業の社長の娘 晴美。 同じく東京生まれで美人で、スタイルのよい悦子。 伸一は、甲斐性持ち男気溢れる凡庸な風貌。 晴美は、派手で美しい外見で勝気。 悦子はモデルのような顔とスタイルで、遊んでる男は多数いる。 伸一の勤める会社にアルバイトとして入ってきた二人。 晴美は伸一と東京駅でケンカした相手。 最悪な出会いで嫌悪感しかなかった。 しかし、友人の尾美 悦子は伸一に興味を抱く。 それまで遊んでいた悦子は、伸一によって初めて自分が求めていた男性だと知りのめり込む。 一方で、晴美は遊び人である影山 時弘に引っ掛かり、身体だけでなく心もボロボロにされた。 悦子は、晴美をなんとか救おうと試みるが時弘の巧みな話術で挫折する。 伸一の手助けを借りて、なんとか引き離したが晴美は今度は伸一に心を寄せるようになる。 それを知った悦子は晴美と敵対するようになり、伸一の傍を離れないようになった。 絶対に譲らない二人。しかし、どこかで悲しむ心もあった。 どちらかに決めてほしい二人の問い詰めに、伸一は人を愛せない過去の事情により答えられないと話す。 それを知った悦子は驚きの提案を二人にする。 三人の想いはどうなるのか?

心の落とし物

緋色刹那
ライト文芸
・完結済み(2024/10/12)。また書きたくなったら、番外編として投稿するかも ・第4回、第5回ライト文芸大賞にて奨励賞をいただきました!!✌︎('ω'✌︎ )✌︎('ω'✌︎ ) 〈本作の楽しみ方〉  本作は読む喫茶店です。順に読んでもいいし、興味を持ったタイトルや季節から読んでもオッケーです。  知らない人、知らない設定が出てきて不安になるかもしれませんが、喫茶店の常連さんのようなものなので、雰囲気を楽しんでください(一応説明↓)。 〈あらすじ〉  〈心の落とし物〉はありませんか?  どこかに失くした物、ずっと探している人、過去の後悔、忘れていた夢。  あなたは忘れているつもりでも、心があなたの代わりに探し続けているかもしれません……。  喫茶店LAMP(ランプ)の店長、添野由良(そえのゆら)は、人の未練が具現化した幻〈心の落とし物(こころのおとしもの)〉と、それを探す生き霊〈探し人(さがしびと)〉に気づきやすい体質。  ある夏の日、由良は店の前を何度も通る男性に目を止め、声をかける。男性は数年前に移転した古本屋を探していて……。  懐かしくも切ない、過去の未練に魅せられる。 〈主人公と作中用語〉 ・添野由良(そえのゆら)  洋燈町にある喫茶店LAMP(ランプ)の店長。〈心の落とし物〉や〈探し人〉に気づきやすい体質。 ・〈心の落とし物(こころのおとしもの)〉  人の未練が具現化した幻。あるいは、未練そのもの。 ・〈探し人(さがしびと)〉  〈心の落とし物〉を探す生き霊で、落とし主。当人に代わって、〈心の落とし物〉を探している。 ・〈未練溜まり(みれんだまり)〉  忘れられた〈心の落とし物〉が行き着く場所。 ・〈分け御霊(わけみたま)〉  生者の後悔や未練が物に宿り、具現化した者。込められた念が強ければ強いほど、人のように自由意志を持つ。いわゆる付喪神に近い。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

あかりの燈るハロー【完結】

虹乃ノラン
ライト文芸
 ――その観覧車が彩りゆたかにライトアップされるころ、あたしの心は眠ったまま。迷って迷って……、そしてあたしは茜色の空をみつけた。  六年生になる茜(あかね)は、五歳で母を亡くし吃音となった。思い出の早口言葉を歌い今日もひとり図書室へ向かう。特別な目で見られ、友達なんていない――吃音を母への愛の証と捉える茜は治療にも前向きになれないでいた。  ある日『ハローワールド』という件名のメールがパソコンに届く。差出人は朱里(あかり)。件名は謎のままだが二人はすぐに仲良くなった。話すことへの抵抗、思いを伝える怖さ――友だちとの付き合い方に悩みながらも、「もし、あたしが朱里だったら……」と少しずつ自分を見つめなおし、悩みながらも朱里に対する信頼を深めていく。 『ハローワールド』の謎、朱里にたずねるハローワールドはいつだって同じ。『そこはここよりもずっと離れた場所で、ものすごく近くにある場所。行きたくても行けない場所で、いつの間にかたどり着いてる場所』  そんななか、茜は父の部屋で一冊の絵本を見つける……。  誰の心にも燈る光と影――今日も頑張っているあなたへ贈る、心温まるやさしいストーリー。 ―――――《目次》―――――― ◆第一部  一章  バイバイ、お母さん。ハロー、ハンデ。  二章  ハローワールドの住人  三章  吃音という証明 ◆第二部  四章  最高の友だち  五章  うるさい! うるさい! うるさい!  六章  レインボー薬局 ◆第三部  七章  はーい! せんせー。  八章  イフ・アカリ  九章  ハウマッチ 木、木、木……。 ◆第四部  十章  未来永劫チクワ  十一章 あたしがやりました。  十二章 お父さんの恋人 ◆第五部  十三章 アカネ・ゴー・ラウンド  十四章 # to the world... ◆エピローグ  epilogue...  ♭ ◆献辞 《第7回ライト文芸大賞奨励賞》

科学チートで江戸大改革! 俺は田沼意次のブレーンで現代と江戸を行ったり来たり

中七七三
ファンタジー
■■アルファポリス 第3回歴史・時代小説大賞 読者賞受賞■■ 天明六年(1786年)五月一五日―― 失脚の瀬戸際にあった田沼意次が祈祷を行った。 その願いが「大元帥明王」に届く。 結果、21世紀の現代に住む俺は江戸時代に召喚された。 俺は、江戸時代と現代を自由に行き来できるスキルをもらった。 その力で田沼意次の政治を助けるのが俺の役目となった。 しかも、それで得た報酬は俺のモノだ。 21世紀の科学で俺は江戸時代を変える。 いや近代の歴史を変えるのである。 2017/9/19 プロ編集者の評価を自分なりに消化して、主人公の説得力強化を狙いました。 時代選定が「地味」は、これからの展開でカバーするとしてですね。 冒頭で主人公が選ばれるのが唐突なので、その辺りつながるような話を0話プロローグで追加しました。 失敗の場合、消して元に戻します。

雪町フォトグラフ

涼雨 零音(すずさめ れいん)
ライト文芸
北海道上川郡東川町で暮らす高校生の深雪(みゆき)が写真甲子園の本戦出場を目指して奮闘する物語。 メンバーを集めるのに奔走し、写真の腕を磨くのに精進し、数々の問題に直面し、そのたびに沸き上がる名前のわからない感情に翻弄されながら成長していく姿を瑞々しく描いた青春小説。 ※表紙の絵は画家の勅使河原 優さん(@M4Teshigawara)に描いていただきました。

悪役過ぎない気まぐれ財閥令嬢が野球と言うスポーツで無双します!?

俊也
ライト文芸
四菱グループを統べる総見寺家…旧華族でありこの国でもトップレベルの華麗すぎる一族。 当主の若き息子娘達も各方面で並々ならぬ才能を発揮して名家の名を辱しめぬ名声を得ていた。 ただ1人、次女の彩奈を除いては… 一応忖度推薦で入った高校でもフラフラとドラ娘振りを発揮し、当主の父親はじめ他のきょうだい達からも軽蔑されていたが…。 ある日偶然が重なりとてつもない才能が開花する!? 5月中ライト文芸大賞参戦中 清き一票、お気に入り登録頂ければ幸いです。

処理中です...