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2章
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学校帰りと思われる制服姿の学生達がいるのにも関わらず、やたら一際目立つ声がゲームセンター内に響く。
「ねっ、これ取ってよ!」
服の裾を引っ張りながら、UFOキャッチャーの中にあるアザラシのぬいぐるみを指さす。猫撫で声で。
「ゆいちゃんのためなら頑張る」
男性はUFOキャッチャーのレバーを慎重に操作していく。
その目は獲物を狙う狩人だった。
手前にお目当てのぬいぐるみを掴もうとするが、中々できない。3回ぐらいしてると思う。
男性は舌打ちしたくなる衝動に駆られた。
横ではゆいちゃんこと依田結花が、後ろでは順番待ちしているカップルや制服を着た高校生達が数人列を作ってるのが、ガラス越しに反射して見える。
残念ながら取れなかったようだ。
「あんたつまんない男ね。UFOキャッチャーで満足に1つも取れないなんて!」
子どものように駄々こねてポカポカと袖口に向かって叩いてくる結花。
「つまんない男で結構! ほら、後ろ並んでるよ」
「嫌だ。取れるまで帰らない」
「りゅうちゃんも説教?」
即答した結花にりゅうちゃんは重いため息をつく。
後ろで並んでいる人達はやべーなと言わんばかりに蜘蛛の巣散らすように逃げるか、野次馬根性で遠くから見守る。
2人は半年前にマッチングアプリで出会った。
結花としては暇潰しの相手が欲しいということで、既婚者であることを隠して、30前の日下部龍太郎とやり取りをしていた。本格的に会うようになったのが、2ヶ月前。
まだ既婚者であることはバレていない……はずだとたかをくくっている。もっというと、年齢も37なのに、28と9歳程サバを読んでいる。
会う日は娘が塾に行ってる日で尚且つ、夫の帰りが遅い日。不定期だ。
「ほら、早く出よ。美味しいもん食べて機嫌なおそ」
龍太郎はすみませんと何度も頭を下げてゲームセンターを後にした。
もうすぐしたら夜の帳が落ちる時間帯だ。
さりげなく結花は龍太郎の腕を掴んで歩く。
しめしめ赤くなってやんのと心の中でほくそ笑む。
まだ見た目でアラサーと言っても通用する。
私は世界一可愛いんだから。
老けさせないようにスキンケアに対する時間とお金を夫のお金で費やしているのだから。それがこの結果だ。
お小遣いを中学生レベルにさげてまででも得られたもの。
「ねー、りゅうちゃーん、あっちいこー」
結花が指差したのは駅前のデパートにあるレストラン街。しかも今日のお昼従姉妹と一緒に行ったデパートだ。
「ほら、ここのフレンチレストラン美味しいのよ」
強引にデパートの中に連れて行く結花は、目的の場所までエレベーターで六階に上がる。
そして問答無用でフレンチレストランの店内に入った。
ディナーを頼んだが、結花はお酒弱いアピールをしつつ、龍太郎に甘える。
「りゅーちゃんー、今度この新作バック買ってー!」
結花がスマホで見せたのは海外ブランドの小ぶりなカバン。
龍太郎は値段を見て目を丸くした。
「ち、ちょっと難しいかな……」
いち、じゅう……15まんえん……!
ぶっちゃけ、高いよー! 高い!
無理無理むり、かたつむり!
どこで使うんだ?! 普段使い? てかどこに売ってるの?
「えー、かって、かってー! この人ケチっ!」
結花は机をドンドン強く叩く。
「俺を飢え死にさせる気か! 生活出来ない」
「こんなの安いじゃん。ブランド物一つ買えない男なんてなーんも価値ないよ」
鼻で笑う結花に龍太郎は殺意が沸いた。
この人の金銭感覚おかしいと思う。そういうとこ節々に言動や態度に出てる。
同年代なのに、給与に対する考え方が変だ。
アラサーで30万は当たり前なんて言ってる。いつの時代の話だ。
今時都会の20代だって、大卒で20万届くか微妙なラインなのに。散々テレビやネットのニュースで言われている。
彼女は花嫁修行と言って、ずっとお家にいるだけで働いてないと言っていた。てか、家に行ったことがない。
多分この人働いたことないと思う。バイトをしたことがないと言っていた。
そんなセリフ同い年の友人で誰も言ってるの見たことない。
正直何度か会ってるがうんざりしている。
最初は純粋で可愛いなと思ってた。
見た目も少女のようで、まるで二次元がそのまま飛び出たような。
姉に彼女の写真を見せたら「可愛いと思う。でもこの子やめといた方がいいと思う。下手するとあんた慰謝料払う羽目になるよ」と返ってきた。
なんでか聞くと、日常の投稿や見てて痛々しい。
言われてみればそうかもしれない。
彼女のSNSはどこへ行っただ、食べに行っただ、買っただそんなのばかり。
そのお金は一体どこから出てるんだろうか。
おそらく親がお金だしてるのかもしれない。働いてないのなら、それぐらいしか思い浮かばない。
姉が言っていた。彼女既婚者だと思うと。
投稿の節々に姑の悪口が並んでいる。死んでくれと書いてあったことを思い出す。
慰謝料云々はそういうことだと思う。
姉に指摘されてから逃げることばかり考える。
断れない自分が嫌になる。正直今日のデート楽しくない。
基本的に彼女がイニシアチブ握ってるから、全部彼女の行きたいとこばっか。
前回彼女は“どこでもいいよ”というので、博物館選んだら終始不機嫌そうな顔をしていた。
兄に話したらこの場合のどこでもいいというのは“私の意図を汲んだ上で”という意味だと言われた。うちの嫁さんでもそんなこと言わないから、今のうちに逃げた方がいいと、姉と似たようなアドバイスをもらった。
今まで女性と3人ほど付き合ったが、全員彼女を紹介した時にはそこまで言われなかった。
兄と姉が口を揃えてやめとけというのは相当だと思う。
多分家族も顔を曇らせるだろう。いくら裕福なお家の女性だとはいえ。ネットで家族の悪口を書くのなら、結婚しても続くだろう。
それでもって高い金額のブランド物欲しがるとなると、浪費家の可能性が高い。
いつもやたら高そうなとこばっか行ってる気がする。しかも支払いは自分だ。
毎日家計簿アプリで記録してるけど、デートの度に金額を見るとげんなりする。楽しいというより、まるで子守りをさせられているみたいで。
「ねー、買ってくれないのー?」
結花の舌足らずな口調が感に触るのか、龍太郎ら「悪いけど、難しいんだ。もう少し……」と深い息をつく。
龍太郎の服の裾を引っ張る結花は、周りが見えていなかった。
結花の方へ突き刺すような視線とスマホが向けられてることを。
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