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6章

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 みみずくの後ろに隠れてた瑠実菜が出てきた。
「はぁ? こんなやつと? あんた未成年というでしょ?」
「私は成人してます。あなた達が私に美人局をさせようとしてること、あなたが瀬川という男性を騙したこと、他にも色々……私を犯罪者にさせるつもりですか?」
 瑠実菜は唯一持ってる身分証――運転免許証を取り出した。
 生年月日は成人している年齢だ。今年二十二歳になる。
「調子に乗んじゃねーよ! 実の母親とこの男と浮気して、捨てられたあんたを引き取ったのは私の家よ! 捨てられ子なのに随分偉そーね。この死に損ないが!」
「美人局ぐらいいいでしょ? 騙される男が悪いんだから」
 せせら笑うかのように出てくる罵倒の言葉。
 しかし瑠実菜はひるまない。
「私は日頃からあなたから『あんたはうちの家族じゃない』と言いますが、こっちから願い下げです。占部家にいるのが恥だと思います。これからは私は私で生きていきます……あとあなた、この男性とは浮気でしょう? 慰謝料の準備をするのはあなたなのでは?」
 負けじと言い返す琉実菜に瀬里香はすばやく唾を飲む。
「い、生き恥の塊の癖に生意気ね! 私は占部瀬里香様よ! 世界一美人の私に逆らうつもり? 私が美人局しろと言ったら大人しくやれよ!」
 瀬里香が琉実菜の足を踏みつけようとした瞬間――。
「いい加減にしてください」
 声の主に視線が集まる。
「ゆあさん――琉実菜さんは琉実菜さんです。彼女は成人してるでしょう! 犯罪者にさせるつもりですか!! 彼女嫌がってたんですよ! だからよろず屋ななつ星に来て全部教えてくれたんです。琉実菜さんは一人の人間であり、あなた達の操り人形ではありません! まだご自分の立場がわかってないんですか!」
いんキャの分際でうざいわ。黙ってくれない? これはセリバーテルの仕事なの。うちの仕事に口出さししないでくれる?」
「仕事? れっきとした犯罪ですよ? しかも組織ぐるみで。人の恋心を悪用して手に入れたお金で遊ぶのはさぞかし楽しいでしょうね。すぐ消えますけど。セリバーテルのサービスを使ってるお客様、美人局の被害に遭った方達に公式で謝罪するのが先でしょう!」
「あーうるさいわねー。陰キャのお説教なんて聞きたくないわ。私こういうやつ嫌いなのよねー、いきり立っててキモいから」
さらに挑発するような物言いをする瀬里香。
「さぁ帰るわよ。罰としてお小遣いとご飯抜きね」
 瀬里香は瑠実菜の腕を引っ張ろうとした瞬間――。
 勢いよく突き放した。瑠実菜が。
「……ちょ、マジ?! なんで私のいうこと聞けないの?! 家族から見捨てられたくせに! 召使いの癖に!」
 取り乱している瀬里香に対して「私は帰るつもりありません」
 瑠実菜の低みのある声で突き放された瀬里香は「う、嘘でしょ? め、召使いの癖に!」とさらに喚く。
「あんた、もしかして、このゆうきというやつが好きなんでしょ? ネットで散々悪口言われてる撮り鉄趣味の陰キャのどこがいいの?! 女っ気なさそうだし、気が利かなさそうだし、すぐ別れるよ」
「こんなダサ男好きなの? 物好きだねー」
 さらに占部夫妻がみみずくを侮辱する。
 みみずくは歯を食いしばり、シャツの袖をひっぱる。
 なんでここまで初対面の人間に言われないといけないんだ。
 撮り鉄が今までやったことで世間様のイメージが悪いのは分かっている。
 
 ――過去の行いは入れ墨のように消えない。

 いくら自分がマナーよくしても、悪い印象が強すぎる。自浄作用を求めても、逆ギレや暴力や奇声が返ってくる。
 自分が思い描く構図の為なら、桜だろう雑草だろうがノコギリや鎌で斬るし、周りの人や交通に影響でるのは仕方ないが蔓延ってる。むしろ撮影の邪魔となるものは全部敵。
 近隣住民も普通に電車使ってる人も、マナーを注意する撮り鉄の人も敵。
 そんな考えがまかり通っている。
 だから電車はサブで他のものを撮る人が増えてる。
 趣味じゃない人からするとそんなの知ったこっちゃない話であるが。
 ただ、人格否定の材料として趣味を引き合いにされるのはたまったもんじゃない。
「――これ以上ゆうきさんを悪く言うのやめて頂けますか? あなた達が思うほどダサい人間ではありません。少なくとも他人を侮辱するような、人を召使いにするような方ではありません。私の存在を歓迎してくれました。私はあなた達といるより遥かにゆうきさんと一緒にいる方が心地いいんです」
 琉実菜の「心地いい」の発言にみみずくの耳元が赤くなる。
「はぁ? コイツマジ?」と呆然する瀬里香の顔が引きつる。
「僕は瑠実菜さんはあんた達より百億倍素敵だと思います真面目ですし、優しいですし、頑張り屋さんですし……一緒にいたいです」

 無邪気な笑顔も、少し妖艶な感じも、彼女の礼儀正しさも全てひっくるめて、素敵な人なんだ。
 周りが釣り合わないだなんだいわれようとも、彼女は気にしないと言ってくれた。
「……確かにね、彼はパッと見冴えないですよ。女性への接し方や機微きびに慣れてないのは事実です。……でも、彼は琉実菜さんと一緒にいてから、少し変わりました。気が利くようになったというのかな。服装や身なりにかなり気を使うようになりました。女性のトレンドを私達に聞いたり、ネットで調べたり、デートに繋げるように……全ては琉実菜さんを喜んでる姿を見たい、笑顔がみたいからです。私はこの二人が幸せになってる姿をずっと見ていたいんです。行末を見届けたいんです。ねっ、所長」
「そうね。瑠実菜さんは”美人局御殿”であなた達にこき使われるよりは、彼と一緒にいたほうが幸せだと思いますけどねー」
 すずらんと大屋の朗々とした話し方に全員が聞き入っていた。
 二人が今後どうなるか野次馬根性を抜きにして見たいと思ったのは事実だ。
すずらんは意地悪な笑みを浮かべながら「ということで、これ以上私達の邪魔をされると警察呼びますゆえ。因果応報たっぷり味わって下さいな」と占部夫妻の肩を叩いた。
 浩平は話題をそらすように「……どうも会社から鬼着信とメッセージ来てるね。どうも会社に警察が来たみたいだ。一旦帰ろう」
 浩平は肩が震えている瀬里香を引き連れる。
 瀬里香は息巻くかのように瑠実菜を睨みつけた。
「占部瀬里香が一瞬琉実菜ちゃん睨んでたけどなんなのかね?」
「さあ? 嫉妬じゃないですかね?」
「これから、修羅場が来るでしょうね。面白そうで」
 すずらんは顔をニンマリと大屋に向ける。
「そうだ、いいこと考えた!」
 大屋はスマホを取り出して『よろず屋ななつ星です。いつもお世話になってますー。セリバーテルの二人がですね……』
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