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5章

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「はい、申し訳ございません! 占部はただいま不在でして……」
 たちばなをはじめ他のスタッフ達が、セリバーテル宛にクレーム対応や誹謗中傷、嫌がらせの電話やメール対応に追われていた。
 内容は占部を出せとか、警察に通報しましたとか、謝罪しろとか、詐欺会社潰れろ! などなど罵声が来る。
 しかもどこの誰だかわからないから余計怖い。
「頼むから帰ってきてくれー……」
 橘は何度も占部夫妻に電話やメッセージを送っているが全く来ない。他のスタッフも同様だ。
「出社してくれ……せめて連絡ぐらいは……」
 社会人としてまして会社のトップとしてどうなんだと。
 占部浩平の普段の勤務態度からして疑問符がつくことが多い。
 始業時間に来てる姿を見たことがない。
 だいたい昼間か早くて十時だ。しかも占部瀬里香という女性を連れてだ。
 出社しても偉そうに命令するだけで、キツい仕事は全てスタッフに押し付ける。
 来てもあの女性といちゃついてる。しかもひどい時は致してるから余計タチ悪い。
 一回とか二回じゃなくてしょっちゅうだ。多分ここにいるスタッフ達みんな一回は見てる。
 社長が連れてきてる女性は、妻じゃない。
 いつだったか、社長の本妻と名乗る女性が乗り込んできたことがある。
 橘としてはどっちが妻だろうと、仕事を真面目にやらないトップにうんざりしていた。
 元々占部が関わってる婚活事業のグループ会社働いていたが、一ヶ月前の異動によりセリバーテル来た。
 以前から占部のことは「女好き」や「性格悪い」とチラホラ聞いていたが、実際に一緒に働いてたら、想像を越えるものだった。
 美味しいとこだけ取って、不味いとこはスタッフに押し付けるのが占部浩平だ。
「一体あの二人はどこへいったんだ……」
 家に電話しても出てこない。
 連絡があっても「普段どおりに働いて」「新卒向けの説明会するから準備して」と一方的に言って、どこにいるか教えてくれない。
 こんな状況でよく新卒向けの企業説明会を開こうとする社長に、文字通り口を開けたままになった。
 橘は他のスタッフに社長の方針を話すと「嘘だろ」「また炎上の火種を……」「ここつぶれるんじゃない?」と最悪なシナリオになるような言葉しかでてこなかった。
 多分まともな人は来ないと思う。まして炎上中の会社の説明会に来るとしたら、十中八九冷やかしだろう。
ネットでセリバーテルが組織ぐるみで美人局してるとか、占部浩平と瀬里香は不倫してると炎上している。
美人局をしているのは事実だ。
 女性スタッフ使って、自社のアプリを使って男性を騙しまくる。脅し役の男性もここのスタッフだ。
 社長である占部浩平主導で。
 いい感じになった頃に、女性の夫と名乗る男性スタッフが出てきて、ターゲットに慰謝料請求をする。または、女性が未成年であることを告げて、警察にしょっ引かれるか、お金払えと請求する。
 未成年と付き合うと男性側が捕まってしまうから。
 ターゲットとなる男性は、もちろん女性が未成年じゃないとしんじている。
 セリバーテルは十八歳以上じゃないと登録出来ないからだ。
 実際は本物のJKもいれば、見た目が幼くて未成年に間違えられる女性もいる。
 女性スタッフの確保は占部瀬里香がしている。または本人がしている。
 橘は完全に裏方なので関わってないが、嫌悪感しかない。
 意見するにもできない。パワハラされるからだ。
 最近占部夫妻の動画がネットにアップされていた。
 わざわざ家に突撃して、不倫してるがどうのこうのや美人局がどうのこうのと聞いていた。
 二人は開き直っていた。挙句の果てには騙される方が悪いだ、全世界にいかにラブラブかアピールしていて、血の気が引いた。
 スタッフ達もないわーと話していた。
 不倫の件はやっぱりかの感想しかなかった。
 瀬里香がSNSでバンバン浩平との写真を上げてたからだ。

 ――もしかして、あの二人逃げてるのか?!

 あの社長ならさもありなん。
 社長が義理の妹と連絡してつかないと焦っていたが、それで探しに行ってるのか。
 どちらにせよ社会人の基本中の基本である「報連相ほうれんそう」をしない社長にこの会社が安泰あんたいになる未来が見えない。
 橘は両手で頭を抱えて「頼む、あの二人、ちゃんと説明を……」と弱い声でつぶやく。
 ここ数日、セリバーテル関係の対応で橘はめまいや頭痛、心拍が遅くなったような感覚に陥っている。
 妻に「異動してから顔色わるいし、元気ないし、ろくに休んでないでしょ? 怪我が増えてるし一体どうしたの?」と心配の種をいてしまっている。早く摘まねければ。
 ここの部署にきてから一週間近く休んでないし、社長や社長の妻とにたたかれたり暴言を吐かれている。しかも社長はニコニコしながらやるから怖い。サイコパス入ってそう。
 有給を取りたくてもとらせてくれない。
『まだ異動してたいして仕事ができてないのに、休みをとろうなんて君は随分度胸があるね』と嫌味を社長から言われた。
 前の部署ではきちんと有給も他の休みもきちんと取れていたのに。
 あの社長は自分以外は替えの効く傀儡かいらいしかおもってないだろう。社員一人ひとりは手足に過ぎない。
 社長もその妻と名乗っている女性も、二人とも中学か高校時代、いじめっ子ポジションだったと思う。しかも表面化しないように陰湿にやってそう。
 サイコパス入ってるんじゃないかと思う。
「橘さん、来客が……」
 スタッフの一人が「ななぼし警察が来てるんだけど……」と小声で伝える。
「警察?」
 橘は怪訝そうに返すが、とうとうやってきたかと思うと体が軽くなった。

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