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5章

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「瑠実菜は見つかったかい?!」
 セリバーテル社長、占部浩平うらべこうへいはお昼休み中のたちばなに尋ねる。
 橘は目を合わせず「いえ、それは……まだ……」と返す。
 自信なさげな返事に浩平は「もういいや。きみは使えないね」と笑顔で暴言を吐く。
「社長、朝からひっきりなしに電話鳴ってるんです! そろそろなんとかしてください! うちの会社がこれ以上悪いことで有名になってどうするんです?!」
 橘は腕をさすって涙ながら訴えるが、浩平は「そんなのは無視すればいい」と穏やかな声で切り捨てる。
 午前中だけでイタ電、会社のお問い合わせホームや公式のSNSにいたずらや誹謗中傷コメントが来ている。
 電話対応をしているのは他ならぬ橘だ。
「じゃぁ、そのまま頼むよ。瀬里香、一緒に家戻ろう」
 占部夫妻は橘をねぎらうことも対応もすることなく、仕事放棄して車で自宅に向かった。
「……んだこりゃ?!」
 浩平は自宅の玄関を見るなり、郵便物の山に凍りついた。
「なーにー? こーちゃん?」
「とりあえず家に入るよ」
 郵便物の山を抱えて家に入る。
 リビングの机に郵便物を置いて一度ソファーに座る浩平。
「瀬里香。隣においで」
「わーい! こーちゃん大好きぃー!」
 瀬里香は胸を押し付けながら、浩平の腕に絡みつく。
「なんだ……この山は……」
 昨日の段階では郵便物が空だった。
 チラシには『お前ら詐欺師』とか『今夜突撃します』とか悪口が書かれたものが入っていた。
 全く心当たりのないダイレクトメール。
 そして大判の封筒がいくつか入っていた。
 チラシとダイレクトメールは捨てた。
 気になるのが封筒類だ。
「なにー? この封筒? 開けていい?」
 瀬里香は本人の承諾なしに勢いよく封筒を開ける。中身は数枚の書類。
 「……な、なにこれ……?! こ、こーちゃん、見て!」
「あちゃー、ばれたかー! どうしよー。こんなの騙される方が悪いのにねぇー」
 封筒に入っていたのは今までやってきたことの証拠。
 浩平は手のひらで額を抑える。
 なんでバレた? どうやって? 
 橘が言っていた、午前中に知らない連中が会社に来たこと、午前中からひっきりなしにイタ電や誹謗中傷、嫌がらせなどが来ていること。
 そして自宅のポストに入っていた大量の郵便物。
 浩平はスマホで会社の公式SNSを確認する。
 直近の投稿は浩平が行っていた。基本的に会社のSNSで使っているつぶやき用のアカウントは浩平が管理している。
「女性の方必見! セリバーテルで働きませんか? 簡単なお仕事をお任せします」の投稿に百件ぐらいのコメントが来ている。
『美人局してるんでしょ?』
『独身対象じゃなくて既婚者も混じってるんでしょ。ネーミング詐欺w』
そして浩平の個人用のつぶやきアカウント「今回も美人局で儲けたので、嫁と女達でデートしたw」の部分には倍ぐらいのコメントが来ていた。
『詐欺師乙』
『占部浩平と占部瀬里香は犯罪者!』
『通報いたしました!』
『これから家に来るから待ってろ』
 人格否定の言葉がずらりと並んでいる。しかもこの午前中だけでだ。
 実名制のアカウントも確認する。
 直近の投稿にコメントが来ていた。
『被害に遭った人に謝るべきです』
『説明責任を果たすべき』
「私のアカウントにもコメント来てるー」
 瀬里香の実名制SNSのアカウントにも直近の投稿にコメントが来ていた。
 直近の投稿は瀬里香と浩平が一緒にイチャイチャしている写真である。
『相変わらず性格わるいねーw』
『妹ちゃんいじめてたもんねー。因果応報いんがおうほうだよw』
『金持ちの社長と結婚して調子乗っちゃった? あ、愛人なんでしょ? メシウマw』
『掲示板の美人局ガチなんでしょw』
『もう外歩けないね』
「……マジムカつく!」
 瀬里香は勢いよくスマホを投げつけようとするが、浩平に阻止された。
「なんでここまで言われないといけないの?!」
 サウンドバックがいないからだ。
「ねー、あいつはどこなの? 一発殴りたいから早く探そ!」
「そうだね。確かGPSを付けて……」
 美人局をさせる時は専用のスマホを持っている。
 この一台でみんなキャラの違う”ゆあ”を名乗っている。
居場所が分かるようにGPSの設定をしていた。
「……切れてる……」
「えっ、うそ?」
 浩平のスマホでGPSのアプリを開いたが、現在地が分からない。
「これ、最後の居場所分かる?」
「うーん、多分探せば」
 履歴をスクロールしてすぐに場所が分かった。
「何? ここ?」

 ――よろず屋ななつ星。

 浩平と瀬里香は顔を見合わせた。

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