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4章

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瑠実菜るみなはまだ戻って来ない?! 一体何してんだ?」
 セリバーテルの事務所は、朝から社長である占部浩平うらべこうへいの機嫌の悪さに社員達がびくついている。
 部下やその他スタッフに八つ当たりするので、みんな気を遣う。最悪暴力が来る。
 浩平喋り方は穏やかで優しそうだと最初思うが、いざ深く付き合ってみると、ただの性格悪い人である。
 俳優みたいに顔がいいから騙される女性も少なくない。
「こーちゃーん、おこらないのぉー。ほら、お茶飲もー」
 社長の妻である瀬里香せりかが能天気に緑茶を渡す。
「すまんなぁー、瀬里香―。今日も服似合ってるぞー」
 浩平は瀬里香を椅子に寄せて抱きつく。からの口付けだ。
 瀬里香の服は半袖のブラウスに黒ミニスカートにヒョウ柄の黒ストッキング……どう考えてもビジネスに相応ふさわしいとは言えないものである。これは浩平の趣味でもあり、でもある。だから誰も注意しない。
 女性スタッフは浩平の趣味でスタイルいい人やセクシー系が多い。社長の命令として服装も胸やお尻を強調するタイプで膝上までの服を着ている。
 社員達は社長の機嫌が戻ったから良かったと思うと同時に、また始まったかーと冷ややかな目で見る。
 朝から会社のトップが職場でイチャコラしている。
 しかも建物が小さいので嫌でも見える。
社員達は最初は「仲良いですねー」と思っていたが、段々エスカレートして、今では公然の場でイチャコラは日常茶飯事、酷いときは致してる。
 それが原因で社長宛てに用件があっても対応出来ず、後で怒られるのはスタッフ達である。
 瀬里香の服装や社内でのイチャコラもそうだが、社員達は注意したくても出来ない。指摘するとパワハラされてしまうし、辞めさせられる。
 みんな真面目な会社だと思って入ったらそうでもなく、美人局を強いられたり、会社のトップが仕事そっちのけでイチャコラしている。そんな姿を見て、すぐに辞めてしまう。
 今残ってるのは社員歴浅い社員か、もう年齢的に行く場所がない人ばかりだ。
「社長、これ見てください……!」
 浩平の席に一番近いたちばながパソコンを持って見せる。
「いまそんなとこじゃないんだ! 邪魔しないでくれ」
 瀬里香とイチャついてるとこを邪魔された浩平は、橘を冷たくあしらう。
「イチャコラしてる場合じゃないですよ! 社長の家大変なことになってますよ! うちに来るのも時間の問題ですよ!」
「はぁ? 何いってるの?」
「これ、社長の家でしょう? ネットに公開処刑されてますよ」
 橘が見せたのは動画サイトで今朝投稿されたものだ。
『セリバーテルの社長の家に行ってみた《美人局社長に突撃したったwww》』と銘打ったタイトルで、男性二人組がインターホンを鳴らそうとしている。
「この二人に心当たりはありますか?」
「いや、全然……瀬里香は?」
「私もないわ。てか誰?」
 浩平と瀬里香の顔が青ざめる。
 どこのだれだか分からん連中に何故家が分かった?
「俺の家教えてないよね?!」
 浩平は橘の首を掴んで大声で聞く。
 セリバーテルの事務所内に沈黙が落ちた。せっせとパソコン操作したり、雑用やったりと、他人のフリに徹する他のスタッフ。
「し、しゃちょ、やめて、下さい……!」
「一発殴らせろ。お前が見せたから気分悪い」
「こーちゃん、それはやめてー」
 瀬里香に止められた浩平は「まぁいいや」と橘を解放させる。
 首を掴まれた橘はぜーぜほーはーと呼吸を整える。
「琉実菜が帰ってきてないのに……」
「えっ? 琉実菜さん帰って来てないんですか?」
「君には関係ないから黙っててくれないかな」
 浩平の機嫌を損ねた橘に社員達から突き刺さる視線が来る。
「今日の社長いつも以上に機嫌悪いな……」
 橘が席に戻った瞬間、チャイムが鳴った。
「橘くん! 君が出てくれ」
 浩平に名指しされた橘は「はい」と裏返った声で返事する。
 橘が事務所のドアを開けると、ビデオカメラを持った男性二人組がいた。
「あっ、セリバーテルさんですかー? 占部浩平社長と占部瀬里香さんはいらっしゃいますかー?」
「あ、あのしゃちょ……は……た、体調不良で……それにあなた達は……」
 たじろぐ橘をよそに男性二人組はますます追い詰めた。
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