上 下
21 / 45
4章

1

しおりを挟む
「間違いを起こさなかっただけ良かったわ……」
 みみずくは職場であるよろず屋ななつ星に琉実菜と一緒に来た。
「でしょ? 褒めてくださいよー」
「そんなの当たり前でしょう」
 ピシャリと言い放つすずらんにみみずくは「酷いですよー」としょげる。
 隣で琉実菜がさりげなくみみずくの頭を撫でる。
「で、どうするよ? 彼女」
「出来るだけ人目避けた方がいいんじゃない? ここ突き止められる可能性あるんだし」
 GPSは消したとはいえ、ログが残っている可能性がある。そこから場所を突き止めれば、突撃される可能性が十分ある。
「奥の待機室ぐらいだね。あるとしたら」
 待機室は案件が長期化した場合にくつろげる場所としてある。いわば仮眠室に近い。しかもベッドの寝心地はそれなりにいい。
 副所長の大屋健二おおやけんじが「睡眠大事! 仕事のパフォーマンスに影響するから、こだわらなきゃ。しょぼいベッドで寝て腰痛になって動けなくなるぐらいなら、ちゃんとしたものの方がいい。よろず屋ななつ星のうりだ」といつもドヤ顔で語っているぐらいだ。
 そこだとテレビがあるので時間潰しになるだろう。
「……すいません、私だけ動かないのはあれなんで、何かお手伝いすることがありますか?」
「お手伝い?」
 すずらんが目を見てぱちくりして聞き返す。
「あなただいたいお客様でしょう? 素人しろうとが勝手に首突っ込んで掻き回されても困るわ。足でまといヒロインになりたいの?」
「すずらん言い過ぎ」
 すずらんは大屋に嗜められるが「いや、でも……人の仕事に首突っ込まれても迷惑なだけです。素人の存在ほど迷惑なものはありません」と言い返す。
「あのねー、すずらん。素人が迷惑って言うけど、誰だって最初は素人よ。初っ端からプロで完璧な人はいないわ。まずは自分が出来ることを見つけ出したり、教わりながら、出来るようになるの」
「こんな見た目だけしか取り柄なさそうな人に何が出来るんだか」
 すずらんは琉実菜を一瞥して毒づく。
「いい加減なさい! あなた、琉実菜さんのこと気に入らないでしょ?」
 図星ずぼしを突かれ二の句が続かない。
 そうだ気に入らない。正直言って嫌いなタイプだ。
この手の人にロクな人やまともな人がいたためしがない。だいたい人間性になんあり率高い。小学校、中学校の同級生でいたが、わがままで仕切り魔だったので、最終的にみんなから距離を置かれていた。今はななつ星駅の近くの惣菜屋そうざいやで働いているらしいが。
 喋り方、態度、仕草、むしろ嫌われる才能があると褒めたくなる。
 彼女がまだセリバーテルと繋がってる可能性を捨てきれない。
 一度はうちの部下を美人局つつもたせさせようとしていた。たとえそれが誰からの命令だろうと、簡単に信用出来る訳がない。
「彼女はセリバーテルの社長の身内なんですよ?! どこで繋がってるか分からないんですよ。本人が言ったとはいえ、みみずくを騙そうとしてたんですよ? 身の上話も嘘かもしれませんし」
 ここまで来るともはやすごいなーと感心するが。
「こういう女性程疑ってかからないと。純粋の皮被った腹黒女かもしれませんよ?!」
「すずらんさん! これ以上彼女を悪く言うのやめてください!」
「あらー、みみずく、彼女に惚れてるの? 恋は盲目っていうからね……部下が仕事と個人的感情をごっちゃになって情けないわ」
 すずらんはわざとらしくため息をつきながら、みみずくに嫌味をとばす。
「こんな見た目だけ取り柄しかない人なんて、今はちやほやされますけど、あと数年したら捨てられますよ。何も価値がないんですから」
 すずらんは鼻で笑う。
「個人的感情をごっちゃにしてるのはどっちかな? 人の価値を他人であるあなたが値踏みする筋合いなんてない。彼女を見た目だけしか取り柄ないって言うなら、取り柄を増やせばいいのよ」
 大屋に強い口調で言われたすずらんは黙り込む。
 この人はマジギレしてるんだと悟ったからだ。
 普段飄々ひょうひょうとしてる人が怒ると怖いと言うが、大屋はそのタイプだ。
「わ、私、何でもやります。雑用とか掃除とか……」
 おずおずと手を挙げて琉実菜はアピールする。
「えっ? マジで?! やってくれる?」
 大屋の目が輝いた。
「雑用出来る人が一人でもいると助かるわー。ねぇ? すいせん」
「そうですね」 
 みみずくも頷く。
「じゃっ、琉実菜ちゃんにはコーヒーをいれてもらおうかしら。すずらん、コーヒーの入れ方教えてあげて。所長命令よ」
「……はい」
 すずらんはしぶしぶ受け入れた。
 嫉妬と不信感と信じるべきなのか……深く息を吸う。
「よろしくお願いいたします! すずらんさん」
 目を輝かせて頼む琉実菜にすずらんは「わかったから、ついてきて」と琉実菜を給湯室に連れていった。その後、瑠実菜は大屋に呼ばれてどこかへ外出した。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

カフェひなたぼっこ

松田 詩依
キャラ文芸
 関東圏にある小さな町「日和町」  駅を降りると皆、大河川に架かる橋を渡り我が家へと帰ってゆく。そしてそんな彼らが必ず通るのが「ひより商店街」である。   日和町にデパートなくとも、ひより商店街で揃わぬ物はなし。とまで言わしめる程、多種多様な店舗が立ち並び、昼夜問わず人々で賑わっている昔ながらの商店街。  その中に、ひっそりと佇む十坪にも満たない小さな小さなカフェ「ひなたぼっこ」  店内は六つのカウンター席のみ。狭い店内には日中その名を表すように、ぽかぽかとした心地よい陽気が差し込む。  店先に置かれた小さな座布団の近くには「看板猫 虎次郎」と書かれた手作り感溢れる看板が置かれている。だが、その者が仕事を勤めているかはその日の気分次第。  「おまかせランチ」と「おまかせスイーツ」のたった二つのメニューを下げたその店を一人で営むのは--泣く子も黙る、般若のような強面を下げた男、瀬野弘太郎である。 ※2020.4.12 新装開店致しました 不定期更新※

骨董品鑑定士ハリエットと「呪い」の指環

雲井咲穂(くもいさほ)
キャラ文芸
家族と共に小さな骨董品店を営むハリエット・マルグレーンの元に、「霊媒師」を自称する青年アルフレッドが訪れる。彼はハリエットの「とある能力」を見込んで一つの依頼を持ち掛けた。伯爵家の「ガーネットの指環」にかけられた「呪い」の正体を暴き出し、隠された真実を見つけ出して欲しいということなのだが…。 胡散臭い厄介ごとに関わりたくないと一度は断るものの、差し迫った事情――トラブルメーカーな兄が作った多額の「賠償金」の肩代わりを条件に、ハリエットはしぶしぶアルフレッドに協力することになるのだが…。次から次に押し寄せる、「不可解な現象」から逃げ出さず、依頼を完遂することはできるのだろうか――?

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

炎華繚乱 ~偽妃は後宮に咲く~

悠井すみれ
キャラ文芸
昊耀国は、天より賜った《力》を持つ者たちが統べる国。後宮である天遊林では名家から選りすぐった姫たちが競い合い、皇子に選ばれるのを待っている。 強い《遠見》の力を持つ朱華は、とある家の姫の身代わりとして天遊林に入る。そしてめでたく第四皇子・炎俊の妃に選ばれるが、皇子は彼女が偽物だと見抜いていた。しかし炎俊は咎めることなく、自身の秘密を打ち明けてきた。「皇子」を名乗って帝位を狙う「彼」は、実は「女」なのだと。 お互いに秘密を握り合う仮初の「夫婦」は、次第に信頼を深めながら陰謀渦巻く後宮を生き抜いていく。 表紙は同人誌表紙メーカーで作成しました。 第6回キャラ文芸大賞応募作品です。

JOLENEジョリーン・鬼屋は人を許さない 『こわい』です。気を緩めると巻き込まれます。

尾駮アスマ(オブチアスマ おぶちあすま)
キャラ文芸
ホラー・ミステリー+ファンタジー作品です。残酷描写ありです。苦手な方は御注意ください。 完全フィクション作品です。 実在する個人・団体等とは一切関係ありません。 あらすじ 趣味で怪談を集めていた主人公は、ある取材で怪しい物件での出来事を知る。 そして、その建物について探り始める。 ほんの些細な調査のはずが大事件へと繋がってしまう・・・ やがて街を揺るがすほどの事件に主人公は巻き込まれ 特命・国家公務員たちと運命の「祭り」へと進み悪魔たちと対決することになる。 もう逃げ道は無い・・・・ 読みやすいように、わざと行間を開けて執筆しています。 もしよければお気に入り登録・イイネ・感想など、よろしくお願いいたします。 大変励みになります。 ありがとうございます。

ゆうべには白骨となる

戸村井 美夜
キャラ文芸
誰も知らない「お葬式の裏側」と「日常の謎」を題材とした推理小説の二本立て。 どちらからお読み頂いても大丈夫です。 【ゆうべには白骨となる】(長編) 宮田誠人が血相を変えて事務所に飛び込んできたのは、暖かい春の陽射しが眠気を誘う昼下がりの午後のことであった(本文より)――とある葬儀社の新入社員が霊安室で目撃した衝撃の光景とは? 【陽だまりを抱いて眠る】(短編) ある日突然、私のもとに掛かってきた一本の電話――その「報せ」は、代わり映えのない私の日常を、一変させるものだった。 誰にでも起こりうるのに、それでいて、人生で何度と経験しない稀有な出来事。戸惑う私の胸中には、母への複雑な想いと、とある思惑が絶え間なく渦巻いていた―― ご感想などお聞かせ頂ければ幸いです。 どうぞお気軽にお声かけくださいませ。

皇太后(おかあ)様におまかせ!〜皇帝陛下の純愛探し〜

菰野るり
キャラ文芸
皇帝陛下はお年頃。 まわりは縁談を持ってくるが、どんな美人にもなびかない。 なんでも、3年前に一度だけ出逢った忘れられない女性がいるのだとか。手がかりはなし。そんな中、皇太后は自ら街に出て息子の嫁探しをすることに! この物語の皇太后の名は雲泪(ユンレイ)、皇帝の名は堯舜(ヤオシュン)です。つまり【後宮物語〜身代わり宮女は皇帝陛下に溺愛されます⁉︎〜】の続編です。しかし、こちらから読んでも楽しめます‼︎どちらから読んでも違う感覚で楽しめる⁉︎こちらはポジティブなラブコメです。

100回目の螺旋階段

森羅秋
ファンタジー
現在更新停止中です。 表現もう少しマイルドにするために修正しています。 時は総ヲ時代のはじめ。異能力を持つ者はイギョウモノとよばれソラギワ国に消費される時代であった。 一般市民の琴葉岬眞白は、『何でも屋の陸侑』にフールティバの撲滅の依頼をする。 フールティバは疫病の新薬として使われているが、その実態は舘上狗(たてがみいぬ)が作った薬物ドラックだ。 仲の良い同僚の死を目の当たりにした眞白はこれ以上犠牲者が増えないようにと願い出る。 陸侑はその依頼を請け負い、フールティバの撲滅を開始した。 裏社会がソラギワを牛耳りイギョウモノを不当に扱っていた時代に、彼らを守る志を掲げた二人が出会いはじまる物語である。 推理というよりも小賢しいと感じるような内容になってます。 中編ほどの長さです。

処理中です...