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5章

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 田丸健史様及びご家族様へ
 ご無沙汰しています。

 あなたの息子に突き落とされた同級生の家族です。
 皆様が息災でなによりです。
 ところで藤ノ宮女子高校の件が話題になってますね。
 そちらの生徒さんがあなたの過失によって亡くなられたとか。
 しかも救急車を呼ばず、保健室の先生を呼ぶふりをして、佐久間校長と逢瀬を重ねてるそうですね。
 いずれネットであなたの息子がしたことそして藤ノ宮の件が広まることでしょう。
 あなたの息子によって人生台無しにされたので、今度はこちらであなた達の人生を潰します。
 ゆっくり因果応報を味わってくださいな。
 佐久間倫子校長と田丸俊治の制裁を開始します。証拠は全て揃ってますゆえ。ではよろしく。

 「これが証拠ですよ」
 学園長が見せたのは十数年前の写真。
 当時の状況を記録した書類、被害者の血が頭部から血が流れている様子、同級生達の証言などなど。
 「被害者の家族がどのような思いでこれを送ってきたのでしょう? 見させて頂きましたが、田丸先生同様癇癪を起こして同級生を突き落として亡くなったにも関わらず、お咎めなしになってますね――もうこの情報世間に出回ってますよ」
 学園長が見せる証拠に俊治は「ふ、ふざけんな、息子は関係ないだろ。しかも、も、もう終わったことだろ? 何で蒸し返す?」と威嚇をするように貧乏ゆすり、タバコを吸い始める。
「田丸先生、校内禁煙ですよ」
「校内って別に校長室ぐらいいいだろ。いつも倫子はいいと言ってるからよ」
「たった今から禁煙です。ここも」
 学園長に注意されしぶしぶタバコの火を消す。しかも床で。
 全員「ありえないわー」と言わんばかりの顔だ。
 しかし態度が悪いので、言ったところでなにも変わらないので何も言わない。
 「話戻ります。神原千夏さんが喘息の発作の際に、お二人は保健室の高山先生を呼ぶふりをして、そのまま車で逃げられたそうですね。それがばれたら、都合悪いもんねぇー」
「校長は何事もなかったかのように説明会を開いた。警備員の石綿さんに責任をなすりつけるように、解雇させることを保護者の前で発表した。後日、一年二組の担任の佐田先生を解雇、そして現場に居合わせて尽力してくれた志村真凛さんと和田紬さんに停学処分をした――全ては自分たちの過失と関係が表沙汰になったらまずいから」
「ち、ち、違うわよ! け、警備員の人が、か、勝手に騒いだだけよ! あれはうちの生徒じゃないですわ! よそ者です!」
「そ、そうだ! 俺たちは何も関係ない! 事実無根だ! お前ら土に埋めるぞ! 失せろ! それか指詰めたろか!」
 俊治は腕を組んで足で机を叩いて恫喝どうかつした。
 しかし学園長、顕信、加奈子の三人は妙に冷静だった。
 「学園長、猿が騒いでますね」
「そうですね。何を言ってるのでしょう? これだけ証拠が揃ってるのにねぇー」
「お、お前ら、ちょ、調子にノリやがって・・・・・・!」
 俊治は立ち上がり、学園長の後ろに回って首を掴んだ。
「これ以上、神原の件をもみ消さないと殺す。過去のこともな。倫子と俺の邪魔するな。お前は教頭か学園長の座を俺に譲れ。これからは俺と倫子の時代だ」
 ニンマリと耳元で囁く。
 学園長の顔が段々青白くなっていく。
「やめなさい」と顕信と加奈子が止める一方で、倫子は「頑張ってーやっちゃえー」と応援していた。 
「あんたもあんたよ!! 生徒が死んでるのに・・・・・・本当高校の時から変わらないよね! 何かあったら人のせいにするとこ。高校の時は私のせい、今度は警備員と生徒達」
「あなたのとこは息子が同級生突き落としたじゃない。人殺し一家って後ろ指さされたくなかったら隠蔽して。私と俊治さんの件含めて」
 倫子が鼻で笑うように加奈子を挑発する。
「いい加減やめんか! 田丸先生、学園長から離れなさい!」
 顕信の鋭い声が校長室に響く。
「お前もされたいのか?」と今度は顕信へターゲットを変えた。
「い、いた、い・・・・・・やめてくれ!!」
「あとはお前とあの老害ろうがい学園長がいなくなれば用済みだ。とっとと死ねば?」
 顕信の顔が強張ってきている。必死に抵抗しようとしている。
 俊治は引き離さないように顕信の腕を力づくでねじ込む。
「・・・・・・お願いします」
 学園長がスマホ片手に誰かを呼んでる。
「これから警察来ますよ。田丸先生。それでもいいですか! 席に戻りなさい!」
 俊治は舌打ちして席にもどる。
「学園長大丈夫ですか?」
「ああ。君こそ大丈夫か?」
「ええ、なんとか」
 学園長と顕信は互いの様子に異常ないか確認して、再度話に戻る。一方俊治は「こんなんでいちいち騒ぐのうぜーな。弱っちいやつだ」とぶつくさ呟く。
 もう何時間経つだろうか、日が高くなってきてるのは確実だ。
「田丸先生、佐久間校長、神原さんの件の日どこにいらっしゃいましたか?」
 学園長の質問に答えず黙り込む二人。
「・・・・・・ほ、保健室の高山をよ、呼ぼうと・・・・・・」
「なぜ、佐久間校長が一緒に着いてきてるんですか? せめて大人一人残った方がよかったのでは?」
「田丸先生はここに来たばっかなので、案内しようかと思いまして・・・・・・」
「それなら、佐久間校長が行けば良かった話では? そもそも何故あなたが田丸先生の授業に一緒にいたのですか?」
「たまには新入生の授業を見学しようと思いまして」
「今まで全然見向きもしなかったあなたが?」
「そ、それは・・・・・・特に理由はないですが」
 倫子の口調が歯切れ悪い。
「ああ、そうですか。体育の授業――田丸先生だけ見学されてるそうですが一体どういうことでしょう? 他の体育の先生は見学されてないみたいですが」
 学園長からの質問に倫子は焦りを感じ始めた。
「神原さんの件の発言を聞いているとお互いがまるで庇うような感じですね。特別な感情があるからですか?」
 倫子は無意識に俊治の手を握る。
「だって俊治さん何でも私庇ってくれますもの。だから今回の件を庇ってるだけ。女としての価値がなくなったあんたよりよっぽどあるわ」 
 ねちっこく喋りながら俊治を触る倫子。もう完全に開き直っている。
 加奈子は下に俯いて感情を堪えている。
「だから田丸先生が神原千夏さんが喘息で苦しんでも、無理やり走らせたのも止めなかったと」
「ええそうよ。俊治さんが生徒に嫌がらせしながら授業してる姿見るの楽しいもの。あの時生き生きしてたわー」
倫子の顔が赤くなっていく。恋する乙女だった。
 学園長と顕信は呆れていた。
 顔に出さないように学園長は質問を続ける。
「それで、神原千夏さんが倒れた時に二人して保健室行くふりして、しらさぎに消えたと」
「保健室にいったっつーの! ガタガタうるせーなージジイ! もう過ぎたことだろ神原の件は。蒸し返すんじゃねー!」
 俊治は足で机を蹴り恫喝する。
「黙らっしゃい! 今あなたではなく、佐久間校長に質問してるんです! 少し黙ってください」
 学園長が鋭い目つきで俊治を制する。
「きゃーっ、俊治さんかっこいいわー」
 倫子は睨みつけるように顕信に視線を一瞬うつした。
 まるでいかに自分が俊治にぞっこんかアピールする倫子。
「少々席外します。学園長質問続けてください」
 顕信がしばし席を外す。何かを思い出したかのよう。
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