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 私は神崎優斗。最近大学2年生になった天才イラストレーターだ。

 そして私はただ天才イラストレーターではなく、他の全てにおいても優れた至高の天才である。

 まさに神が作りし最高傑作。それが私である。


「おはよう、優斗君」

 そんな私に背後から近づき、脇から抱え上げてきたのが幼馴染の春乃次葉。同じく天才イラストレーターだ。つい先日ツリッターのフォロワー数が100万人を突破した、今一番勢いのある絵師だ。

「おはよう、次葉。相変わらずイケメンだな」

 振り返って見ると今日も次葉のファッションは綺麗に決まっており、男女問わず周囲の目線を釘付けにしている。幼馴染として非常に誇らしい。

「優斗君も相変わらず小さいね。簡単に持ち上げられるよ」

 私が素直な感想を述べると、次葉も同じように素直な感想を述べてきた。

 一応説明しておくと、次葉の身長は178㎝で私の身長は150㎝である。

「私は全てにおいて完璧だからな。こういう代償があってしかるべきだろう」

 でなければ余りにも不公平すぎる。まあ、身長以外の全てを持ちすぎているのでこれでも足りないのだが。

「そうだね。可愛くて良かった」

 私を地面に降ろした次葉は私の頭をわしゃわしゃと撫でた。

「その代償も次葉に喜んでもらえるのなら天の恵みなのかもな」

 身長が低いということで次葉が喜ぶのならそれで十分満たされているからな。

「はは、そうかもね。ところで優斗君」

「どうした?突然真剣な顔して」

「女の子にイケメンは褒め言葉じゃないと思うんだけど」

「今ほじくり返すか?」

 せめてイケメンだと言われた瞬間にその文句を言って欲しい。

「優斗君を可愛がる方が優先度高かったから」

「優先度の問題か?」

「うん」

「まあ次葉が言うならそういうものか」

 こういうのは本人の感情の問題だからな。

「そういうことです」

「なあ次葉。いつも言っている事だが、女性に言うイケメンは紛れもない褒め言葉だぞ」

「そう?」

「男のイケメンと違って、女性に対するイケメンには美人や可愛いといった評価も内包されているからだ」

「そんなものかな?」

「ああ。イケメンは美人だし、可愛いんだ。だから今日も次葉は美人だし可愛いんだ」

「優斗君が言うのならそういうことなのかな」

「そういうことだ」

「分かった」

 私の説明に納得した次葉は嬉しそうにしていた。

「で、今日は何故ここに私を呼んだんだ?」

 今回私が呼ばれたのはお互いの家ではなく、そこから二駅ほど離れた場所。

 私たちの家は徒歩数分で通える距離なのでいつもはどちらかの家が集合場所になるはずだが。

「今日優斗君にやってもらいたいことがあってね」

「やってもらいたいこと?」

「優斗君、歌ってみたをやらないかい?」

「歌ってみた?」

 突然どうしたんだ?私はあくまでプロのイラストレーターであり、歌い手になりたいと思っているわけではないんだが。

「うん。歌ってみたをやってみて欲しいんだ」

「どうしてそんな事を?」

「今優斗君ってイラストレーターとしての人気はそこまでないよね?」

「ああ、残念なことにな」

「その原因って、人に見られる機会が少ないからだと思うんだ。もっと多くの人が見てくれれば一気にファンを獲得できるはずだよ」

「なるほど、歌ってみたを投稿して知名度をまずは上げようってわけか」

「そういうこと」

 確かに私は天才だからな。上質な歌ってみたを出来る自信は十二分にある。

「だが、私は歌ってみた用の機材なんて一切持っていないぞ?」

 歌の道に進もうと考えた事は一度も無いので、収録用のマイクどころか防音室すら持っていない。

 流石の天才でも道具が足りなければ才能を発揮するのは難しいぞ。

「うんうん、そういうわけで今日は収録からMIXまで出来る場所に行こうってことでここ集合にしたんだよ」

「何故ここなんだ?私たちの最寄りの方が色々無いか?」

 私たちが住んでいる地域は街として結構栄えているのだが、二駅離れたここは見える商業施設がコンビニとスーパーしかないレベルの田舎である。

 恐らく収録スタジオを借りるのだろうが、この近辺にあるとは到底思えないのだが。

「まあまあ、安心して。ちゃんとあるから」

 そう言って次葉は事前に呼んでいたらしいタクシーを引き留め、中に入った。
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