俺の彼女はいつも可愛い

僧侶A

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9話

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 その後もストーカーの正体が分かることは無く、何の進展も無かった。

 強いて言えば杉野が少し涼野に詳しくなったくらいか。

 それ以降の会話では、好きな男性の芸能人、女性の芸能人や、よく読んでいる雑誌、テニス以外の休日の過ごし方等の話をした。

 まだ涼野と話すという段階に達することが出来てはいなかったが、もう俺からの情報提供が無くても会話は可能だと思う。

 杉野も同様の意見だったようで、昨日電話で、これだけあれば大丈夫だからもうこの会議は終了しようという話になった。

 今後の捜索方針を決定するために誰も居ない屋上で話し合うことにした。

「これ以上やったとしても犯人を捕まえることは不可能じゃないか?」

 大は両手を上げ、お手上げだとジェスチャーをする。

「確かに、牽制とか罠とか仕掛けたけど一切引っ掛かるそぶりを見せなかったのよね」

 涼野の言う通り、俺たちは色々な手段を講じた。

 大と一緒に帰らせることで彼氏がいると思わせようとしたり、あえて無防備に一人で帰らせることで誘き寄せようとしたりしたが、一切引っ掛からなかった。

 というかどこか遠くからつけているという状態を一切崩すことが無かったのだ。

「犯人は直接涼野に何かしようとしているわけじゃあないのかもね」

 俺はこれまでの経緯からでた可能性を話す。

「うーん……よく分からない!とりあえず頑張ろう!」

 結局何も分かっていないため、京の一言でこの話し合いは終了となった。

 本当に何もなければ良いのだが……

 そして放課後。

 今日は涼野の通っているテニスクラブがコーチの都合で早まったらしく、学校から直接行くことになっていた。

 ということで俺と京はギリギリまで送り届けた後帰宅することになった。

「誰かつけている人がいるな」

 俺は二人にしか聞こえないように話す。

「そうね。でも普通に捕まえようとしても逃げ出すからいつも通りにね」

 相手の正体がはっきりと分かっているわけではないので、確保の際には大がいる時に限定することにしていた。

 そこまで身長が高いわけではなく、170前後のため俺でもどうにか出来る可能性はあるが、そいつが武道経験者等で戦闘力が高かった場合に最悪の状況に陥りかねない。

 だから俺らの中の最高戦力である大が確保役となっている。

「コーチの都合って実際にはどんな感じなの?」

 いつも通りに戻すために京が涼野にそう聞いた。

「詳しいところは確定してないからって教えてもらえなかったけど、テレビに出るんだって」

「本当に凄いな」

「でしょ」

 引退してからもちょくちょくテレビに出られるスポーツ選手なんてほんの一握りだ。

 そんな選手が身近な人間を教えているんだから凄い話だ。

「ま、そこまで有名なせいで唐突に時間変更させられることがあるのがあの人のダメなところだよ」

 涼野は軽く笑いながら言った。

「まあ、自分のコーチが広く知られるのは良いことじゃない?人増えるし」

「それは京の言う通りなんだけど、その出方がね……」

「おバカ系だからな」

 引退した後もテレビに出ることのできる選手というのは基本的に伝説的な選手であり、涼野のコーチもその例外ではない。
 しかし、テレビはそれだけで出られるほど甘い世界ではなく、本人のそれ以外の能力や個性が追加で必要になってくるわけで。

「四則演算が怪しいのは流石にね……」

 かつて出たクイズ番組にて筆算が出来ないことが判明し、晴れておバカキャラの仲間入りを果たしていた。それによって定期的にテレビに出演する売れっ子である。

 子ではないけど。

「テニスになると急に頭良くなるのにね」

 フォローするようにそう口を挟む。

 日本でテニスの大型大会が開かれた際に解説として呼ばれたことがあったのだが、非常に説明が分かりやすく、初心者の俺でもプレイのどこが凄いか理解できるくらいだった。

「現役時代はテニスに生きるって感じだったらしいからね。だからああいう姿で認識されるのは少しね……」

 そんな話をしていると駅に着いた。

「ここまでで大丈夫だよ。ありがとう」

「オッケー。じゃあ明日ね!」

「じゃあな」

 俺たちはそのまま帰宅するために来た道を戻ることにした。

 しかし、そこにすれ違う怪しい学生が一人。

 普通この駅を使うウチの高校生は誰もいないはず。

 俺はその学生をストーカーだと確信し、咄嗟に振り返り捕まえようとした。

 が、何故か別の学生によって倒されていた。

 その際にカバンが地面に勢いよく落ち、盛大に音が鳴っていた為涼野も気付いたようで、二人の元に近づいていった。

「いたた……」

 その二人とは、俺のよく知るイケメンと、見知らぬ女子だった。
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