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56話

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「こっちに来い!」

 俺は正面から飛んでくる攻撃を避けながら徐々に民家の方に近づき、タイミングを見計らって民家の屋根に飛び移った。

「よし、大丈夫みたいだ」

 俺を追うのを諦めて杏奈さんの方に向かう人が居るんじゃないかという危惧もあったが、杞憂だったらしく、7人中7人がちゃんと俺の方に向かってきていた。

 俺は屋根と屋根の間を飛び回っていると、敵は先ほどまでの統率の取れた攻撃を止め、たどり着いた人から攻撃するという形に変わってくれた。

 いくら身体能力が高いとは言っても、実際に筋肉を強くしたわけではなくてレベルで補正をしただけなので、屋根を飛び回るような若干の繊細さが求められる行動には得意と苦手が出ると予想していたが大正解だった。

 一度に攻撃してくる人数が減ればこちらの圧倒的パワーですべてを誤魔化せるからね。同時に5人を超えることが無い今のうちに片付けないと。

「ふんっ!!!!」

 俺は標的以外の向かってくる敵を軽い攻撃で別の屋根まで吹き飛ばしつつ、本命である剣を使う教徒を攻撃してくる剣ごと全力でぶん殴る。

 打撃に関してはかなりの耐性があるけれど、まだ切断系の攻撃には耐性が無いからね。折れた骨は元に戻るけど、取れた腕は元に戻ってはくれないのだ。

「よし!」

 全力で殴ってはみたものの、流石はAランクの探索者だった。

 剣がへし折れて使い物にならなくなっただけで探索者自身は戦闘不能にはならず、武器を持たない俺と同様に体術での攻撃を仕掛けてきた。

 素手になった教徒は柔道の経験者らしく、俺のように殴ったり蹴ったりするのではなく防具を掴んで投げようとしてきた。

「確かに剛の者には柔術で戦うのがセオリーだけど、」

 俺は一番殴ったり蹴ったりするのが早いから選んでいただけで、別にそちらが専門では無いのだ。ちゃんと柔術系のスキルも取得している。

 というわけで投げようとしてきた教徒をそのまま掴み返し、先手を取って投げた。

「うわっ!!!」

 柔術なので投げるのは地面に向けてなのだが、完全にここが屋根の上だということを失念していた。

 投げで叩きつけた部分の屋根が破壊され、教徒は部屋へと落ちていった。流石に不味いかもしれないとざっと確認した感じでは誰か人に被害が出ているわけでは無かったのでラッキーだ。

「何はともあれ、1人は戦闘不能だ。あと6人」

 1人を無事に倒すことが出来たことで、心に若干の余裕が出来てきた。

 これなら時間を稼ぎ続けて誰かが助けに来るまで粘り続けることが出来るかもしれない。いや、それどころか一人で7人全員倒すことだって出来るかも。


「焦るな、相手の思う壺だ」

 しかし、流石にそうは上手くいかないらしい。教徒が一人倒されたことを見て、最初に戦っていた時と同じように足並みを揃え始めてしまった。

 現状、一人ならともかく全員同時に襲い掛かってくる互角に近い相手を倒す方法は無い。

 仕方がないので一旦敵を倒すことを諦め、誰かしらが助けに来ることだけを期待することにした


 そんな形で連れてきた教徒を倒すことを諦め、防御と逃げに徹していると、遠くから何者かが近づいてきている様子が確認できた。

「よし!俺たちの勝ちだ!」

 後はほんの少し待つだけで味方が来てくれて戦闘は終了。無事にゆっくりできるんだ。



 俺はそう信じ、いつにもまして強い力で敵を殴って待っていたのだが、

「加勢に来た、これが我々の真の敵か」

「パット見では分からないが、我々の活動に一切協力せずここまで抵抗した大罪人なのか。愚かな」

「そんな馬鹿な……」

 先ほどから遠目で見えていた人影の正体は役所や警察のような味方ではなく、地神教の追加人員20名だったのだ。

「我々も先行して戦っていた仲間たちと同じくらい強い。だから我々を倒しきるには我々が来るまでに今残っている皆を倒しきる実力が必要だった。しかし、お前にはそんな実力は無かった。残念だったな」

「これは不味い……」

「行くぞ!!」

「「「はい!!!」」」


 危機感を覚えて先ほどまでよりも更に受けの思考に寄ってしまった俺は、もはや半分くらい逃走をしながら戦闘を行っていた。
 恐らく良い戦法ではなく、もっと考えればより良い戦い方があったのだろうが、少なくとも正面から突っ込むよりは理想的で素晴らしい戦法だった。

 というのも、結果的に戦闘不能になることなく30分以上耐えることが可能だったことに加え、俺に襲い掛かっていた27人の教徒の内、8人までは戦闘不能に追いやることが出来たのだ。

「ここまでやられてしまったが、結局はお前の負けだ。正義は必ず勝つんだよ」

 教徒は疲労と傷で動けなくなっている俺に対して勝ち誇りながら拘束を始めようとしていた。

「くそっ!誰か!!!」

 もうここまで来てしまったら万事休すだ。助けを呼ぼうにもここに飛んでくる集団は見当たらない。となると助かる方法は……

「ぐはっ!!!」

 今置かれている状況を冷静に考えて、全てを諦めかけていたその時、俺の体の拘束を行っていた教徒の頭に何かが直撃して吹き飛ばされた。

「誰かがこちらを狙っている!!」

「私と安城で拘束は引き続き行う、だから他の——」
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