上 下
5 / 27

3話

しおりを挟む
 部屋に取り残されたのは俺だけではなく、メイドのリシュリューもである。

「そうですね。とりあえずマヤ様の言う通り、戻ってくるまで待機していただきたいですね」

「一応俺は勉強しないといけないんだけど」

 いくらマリアが遊びに来たといっても、貴族としての本分は果たさなければならない。

「それに関しては問題ありません。事前にマヤ様が今日の分はキャンセルだと伝えておりますので」

「マヤ……」

 そこまでして俺とマリアを引き離したいのか……

「時間を潰すための道具はこの部屋にいくらでもありますので、それで遊びましょう」

「そうだね」

 マヤの部屋には何故か棚に大量の遊び道具が完備されていた。

 前来た時は大量の本とぬいぐるみでいっぱいの部屋だった筈なんだけど、ぬいぐるみの方は数が減っていたし、本に至っては全て消えて無くなっていた。

 本なんて読まず俺はリシュリューと遊べってことなのだろうか。

「とりあえずこれでもしましょうか」

 リシュリューが選び机の上に置いたのは囲碁並みに升目が多いチェス盤と、チェスの駒に近い何かだった。

「これは?」

「リェスです」

 チェスじゃないんだ。

「ルール分かんないから教えてくれる?」

「はい」

 それからリシュリューにルールを説明してもらった。

「ありがとう。大体分かったよ」

 基本ルールはチェスと同じだったが、駒の挙動だけが思いっきり違った。

 ポーンがクイーンみたいに移動したり、クイーンは自分の駒を全部貫通して攻撃が出来る等、全体的にアグレッシブなものになっていた。

「では始めましょうか」

「うん」


 それから20分後、

「これで詰みです」

「え、いつの間に!?」

「ほら、どこに逃がしても取られますよね?」

「うわっほんとだ……」

 結果は惨敗だった。一応チェスも将棋も遊んだことあるので、初見でもどうにかなるだろうと思っていたのだけど、そんなことは無かった。

 全ての駒が四方八方に動いてくるので、考えることがあまりにも多すぎるのだ。

 せっかく二人になったので何か雑談でもしようかとか考えていたが、今目の前にあるゲームをどうにかすることで精一杯だった。

「これは俺には難しすぎたみたいだ。他のゲームで良い?」

 何とも申し訳ない話だが、このまま続けるのもリシュリューには悪い。

「そうですね。では……」

 それからしばらく、マヤが用意していたゲームでリシュリューと遊んだのだが、先程のリェスと同様に地球に存在するゲームをダイナミックにしたものばかりだった。

 どの世界に住んでいようと考えることは同じだが、好みは違うということだろうか。

「また負けちゃったよ…… 強いねリシュリュー」

「エリック様が弱いだけです」

 どのゲームも何が正しい行動なのかが分からないままリシュリューにボコボコにされ続けていた。

「ごめんね」

 こっちは強敵に挑めて非常に楽しかったが、雑魚を相手にさせられていたリシュリューは張り合いがなくてつまらなかっただろう。

「表情を変えながら悩む姿が見ていて面白かったので別に何とも思ってませんよ」

「そんな表情に出てた?」

「はい、ばっちりと」

 確かに難しすぎて悩んでいたのは事実だが、そんな滑稽だったかな。

「とりあえず次だ!」

 次こそは勝ってやろうと意気込みつつ、今度は俺がゲームを選ぶため棚に向かう。

 これはどうだろうか。すごろくみたいなゲーム。運要素が結構強いはずだから良い勝負が出来るはず。

「これとかどうかな?」

「エリック様!!!!!!」

 隣にきたリシュリューに次のゲームを見せようとしたタイミングで、マリアが勢いよく扉を開けて部屋に入り、勢いよく俺に抱き着いた。

「マリア!?どうしてここに?」

 ここはマヤの部屋だ。普通ここに俺が居るなんて分かるはずが無いんだけど。

「マヤさんが考えそうなこと位分かりますよ。だって将来の妹なんですから!」

 いや、その理屈はおかしい。

「マリア様。ここはマヤ様の部屋ですので勝手に入られると困ります」

 リシュリューはマヤの言いつけを守る為なのか、淡々とマリアを俺から引き剝がし、部屋の外へ連れ出そうとしている。

「あらかじめお義母さまの許可を得ているので大丈夫ですよ」

 なんで?流石に用意周到すぎませんかね。

「そうですか。しかしマヤ様が嫌がるので控えていただけると助かります」

「マヤさんは照れ隠しをしているだけですって。ほらほら、ここにあるゲームでもしましょうよ」

「マヤ様にマリア様がゲームで遊ぼうとしたら是が非でも止めるようにと言われておりますので駄目です」

 強引に3人で遊ぶ方向に持って行きたいマリアと、マヤのためにどうしても阻止したいリシュリューの静かな争いが繰り広げられていた。

「ではそれなしで遊べばいいのですね。というわけで王様ゲームをやりましょうか!」

 そう言ってマリアは胸元から三本の木の棒を取り出した。

「どこから出してるの!」

「おっぱいからですが。棒を収納する場所といえばここ以外ありえないじゃないですか。まさか……」

 マリアは顔を赤らめながら下半身のどこかを両手で押さえた。

「違うから!」

 まったく何を考えてるんだこの子は。

「とりあえず、王様ゲームのルールは分かりますね?この赤いマークがついた棒を取った人が王様として残りの二人に命令ができるんですけど、」「やらないよ!?!?」

 こんなゲームに参加したら何を要求されるか分かったもんじゃない。

「しかし、これは平民の方々が互いの親睦を高めあう際に重宝されている定番のゲームなんですよ?私、リシュリューさんと仲良くなりたいのです」

 言い方だけだと健全に聞こえるけど、騙されないからね。

「ありがたい申し出なのですが、流石にマヤ様の部屋でやるのは問題かと。せめてエリック様の部屋か外なら良いのですが」

 えっとリシュリューさん、どんなゲームか分かって話してる?

「では明日にでも3人で。あ、そうだ!ライラさんもお誘いしましょう!きっと喜びますよ!」

「だからやらないよ!?何言ってるの!?」

 もしそんなゲームに参加した次の日には俺が牢屋に閉じ込められてるよ。

 そして『公爵家跡継ぎ候補、ゲームと称して使用人や婚約者に猥褻な行為を強要したとのことで逮捕』みたいな新聞が国中に回るだろう。

「あら、残念です。4人でのプレイが出来ると思っていましたのに」

「やめてくれ……」

 俺単体にセクハラをする分にはまだいいが他の人を巻き込まないでくれ。

「ではどうしましょうか、他に出来ることはありませんし……」

「おにいちゃん!お待たせ!あそぼーーー!!!!って何で!?!?!?!?!?」

 そんな中、丁度一日の勉強が終わって部屋に戻ってきたマヤがマリアの存在に気付き絶叫した。

「申し訳ありません。お母様の許可があると言われ断ることが出来ませんでした」

 部屋を守り切れなかったことに対し平謝りするリシュリュー。

「そっか。なら仕方ないね。この女がずるい手を使ったんだもんね」

 リシュリューを許したマヤはマリアに対して憎悪の視線をぶつける。

 およそ8歳がしていい表情じゃないぞそれ。

「お義母さまの許可を得ることの何が卑怯なんでしょうか」

「ぐうう……」

 マリアの正論に何も言い返すことの出来ないマヤは悔しそうに地団太をする。

「では、4人で遊びましょうか。ね、エリック様?」

 マヤの怒りを完全にスルーしているマリアは机に座り、俺たちを遊びに誘う。

「おにいちゃん?」

 それを聞いたマヤが当然マリアとは遊ばないよね?と無言で訴えてくる。

 何が正解か分からない俺はリシュリューに助けてくれと視線を向けた。

「そうですね、とりあえずエリック様はそこに座ってください」

 意を汲んでくれたのか、リシュリューは俺にマリアの正面に座るように促した。

「分かった」

 何を意図しているのかは分からないが、とりあえず従うことにしよう。

「リシュリューちゃん!?!?」

「安心してください」

 マリアの正面に座らせた事に文句を言うマヤをリシュリューは持ち上げ、俺の膝の上に乗せた。

「ふふーん」

 膝に座らせているため表情は見えないが、多分マリアに対してどや顔をしていると思う。

「そんな、私も座りたいです!」

「やめてください。椅子が壊れます」

「あっ……」

 マリアが羨ましそうに訴えたが、リシュリューがバッサリと切った。

「これならマヤ様も文句は無いですよね?」

「うん!」

 一応これで丸く収まったのは良いけど、マリアを膝に乗せられない程に俺の体重が重いという事実を突きつけられて少しだけ悲しくなった。

 これでも少しくらいは痩せたんだけどなあ……

 ほら、この椅子俺が座っても音なんて鳴ってないよ。

 その後は4人で仲良くゲームをした後、夕食を食べた後に風呂に入ってから就寝した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺だけステータスが見える件~ゴミスキル【開く】持ちの俺はダンジョンに捨てられたが、【開く】はステータスオープンできるチートスキルでした~

平山和人
ファンタジー
平凡な高校生の新城直人はクラスメイトたちと異世界へ召喚されてしまう。 異世界より召喚された者は神からスキルを授かるが、直人のスキルは『物を開け閉めする』だけのゴミスキルだと判明し、ダンジョンに廃棄されることになった。 途方にくれる直人は偶然、このゴミスキルの真の力に気づく。それは自分や他者のステータスを数値化して表示できるというものだった。 しかもそれだけでなくステータスを再分配することで無限に強くなることが可能で、更にはスキルまで再分配できる能力だと判明する。 その力を使い、ダンジョンから脱出した直人は、自分をバカにした連中を徹底的に蹂躙していくのであった。

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

上流階級はダンジョンマスター!?そんな世界で僕は下克上なんて求めません!!

まったりー
ファンタジー
転生した主人公は、平民でありながらダンジョンを作る力を持って生まれ、その力を持った者の定めとなる貴族入りが確定します。 ですが主人公は、普通の暮らしを目指し目立たない様振る舞いますが、ダンジョンを作る事しか出来ない能力な為、奮闘してしまいます。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

異世界の約束:追放者の再興〜外れギフト【光】を授り侯爵家を追い出されたけど本当はチート持ちなので幸せに生きて見返してやります!〜

KeyBow
ファンタジー
 主人公の井野口 孝志は交通事故により死亡し、異世界へ転生した。  そこは剣と魔法の王道的なファンタジー世界。  転生した先は侯爵家の子息。  妾の子として家督相続とは無縁のはずだったが、兄の全てが事故により死亡し嫡男に。  女神により魔王討伐を受ける者は記憶を持ったまま転生させる事が出来ると言われ、主人公はゲームで遊んだ世界に転生した。  ゲームと言ってもその世界を模したゲームで、手を打たなければこうなる【if】の世界だった。  理不尽な死を迎えるモブ以下のヒロインを救いたく、転生した先で14歳の時にギフトを得られる信託の儀の後に追放されるが、その時に備えストーリーを変えてしまう。  メイヤと言うゲームでは犯され、絶望から自殺した少女をそのルートから外す事を幼少期より決めていた。  しかしそう簡単な話ではない。  女神の意図とは違う生き様と、ゲームで救えなかった少女を救う。  2人で逃げて何処かで畑でも耕しながら生きようとしていたが、計画が狂い何故か闘技場でハッスルする未来が待ち受けているとは物語がスタートした時はまだ知らない・・・  多くの者と出会い、誤解されたり頼られたり、理不尽な目に遭ったりと、平穏な生活を求める主人公の思いとは裏腹に波乱万丈な未来が待ち受けている。  しかし、主人公補正からかメインストリートから逃げられない予感。  信託の儀の後に侯爵家から追放されるところから物語はスタートする。  いつしか追放した侯爵家にザマアをし、経済的にも見返し謝罪させる事を当面の目標とする事へと、物語の早々に変化していく。  孤児達と出会い自活と脱却を手伝ったりお人好しだ。  また、貴族ではあるが、多くの貴族が好んでするが自分は奴隷を性的に抱かないとのポリシーが行動に規制を掛ける。  果たして幸せを掴む事が出来るのか?魔王討伐から逃げられるのか?・・・

チートがん積みで転生したけど、英雄とか興味ないので異世界をゆるっと旅行して楽しみます!~ところで《放浪の勇者》って誰のことですか?~

メルメア
ファンタジー
チートがん積みで異世界に転生した元社畜のクロは、冒険者協会で働くエリスと出会う。 元の世界では叶えられなかった世界を旅してまわるという夢をエリスに語ったクロは、ちょうど各地の冒険者協会を視察しに行こうとしていたエリスの旅に用心棒として同行することに。 いろいろな観光名所を楽しんだり、その土地のグルメを楽しんだり、正体を隠して各地の問題をチート活かし解決したり……。 遊び半分、仕事半分の旅を楽しみながら、2人の関係もどんどん深まっていく。 そしていつしか、ピンチの時に現れるチート級に強い《放浪の勇者》がいるなんて噂が出始めて……? でも英雄とか興味ないです。有名になっちゃったら、落ち着いて旅ができないから。 そんなマインドでクロは、エリスと一緒に異世界をゆるっと旅してまわるのだった。

処理中です...